【完結】氷の王、クラウス。

❄️冬は つとめて

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 八月 一騎打ち。

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学園内の庭のベンチに座り、ジェームズは自分を責めていた。
「私が、クラウス様を止められなかった所為で。戦が起こってしまった。私の所為で……。」
「違いますわ、ジェームズ様。」
女性は、優しく囁く。

「これは、神の試練。クラウス様をより高い場所へと誘う試練なのです。」
「神の試練、より高い場所。」
女性は、ジェームズを後から抱きしめた。そして、囁く。

「ジェームズ様は、クラウス様をより高い場所へと導く使徒なのです。」
「私が、クラウス様を。」
ジェームズの目に、何かが宿る。

「気高く美しい、クラウス様。クラウス様こそ、この世の信奉。この世界の戒律。クラウス様こそが、総て……」
「そうですわ、ジェームズ様。」
微笑む女性の栗毛色の髪が、風に流れた。


戦場が、停まった。
もう1週間もの間、豪雨が降り注いでいる。反乱軍と国軍は、うねる川を挟んで英気を休める。


「所々で、見知らぬ兵士が見え隠れするな。」
「イリギス国の紋章を付けた騎士がいた。」
クラウスは、淡々と話す。

「まさか、彼奴がイリギス国と連むとは思わなかったな。」
「それ程、私が憎いのであろう。」
淡々と話すクラウスを、エドガーは見る。クラウスが此処まで剣を振るえるとは、エドガーは思ってもいなかった。何より、人の命を奪うのは初めてな筈なのに。クラウスは、なんの感情も無く殺し続けている。
『氷の王子』と、揶揄される程。

「イリギス国は、渓谷を越えてきているのか。」
「ならば私が、渓谷を超えベクトル候を撃つ。」
これ以上戦が長引けば、イリギス国の軍兵が増える。その前に内乱を納め、イリギス国に対抗できる構えを施さなくてはならない。

「正門から渓谷に行って見る。橋が有るなら、その橋を使いベクトル候を撃つ。」
強い目でクラウスは、軍事指揮を見た。止める事の出来ない程の強い意志。エドガーは、頷いた。

「一騎打ちを申し込め。彼奴は、アルベルトならば、受け入れるだろう。」
エドガーは、クラウスに助言をする。自分の剣を差し出した。

「必ず、勝て。」
で、無ければこの戦は終わらない。そうしなければ、ベルハルト国はイリギス国に蹂躙される。

「どんな事をしてでも。」
「王太子としての義務と、この内乱を引き起こした責任は取る。」
クラウスは、剣を受け取った。
外套を被り、クラウスは雨の中を馬に股がり出て行った。
渓谷へと向かうために。

渓谷には、馬が一頭渡れるだけの吊り橋が架けられていた。雨が酷いため周りには、誰もいなかった。クラウスは、其れを利用してベクトル領に入った。



「ベクトル候? 」
「アルベルト様なら、教会だろう。」

「もう直ぐ川も、凪むだろう。」
「戦か、早く終わってくれ。」
「イリギス国の兵士が入って来ているのを見たか。」
「この国はどうなるんだ? 」


ベクトル辺境領に、大きな教会があった。広いホールの先に、女神像が飾られている。今そのホールで、二人の男が死闘を繰り広げていた。それを、何人かの騎士が固唾を呑んで見守っていた。一人はベクトル領、領主アルベルト。もう一人はベルハルト国、王太子クラウス。

「ベクトル候。この内乱を納めるために、私の首と強硬派の貴族の首を 啓に渡す。鉾を納めて、くれないか。」
クラウスは、外套を外しアルベルトに顔をさらす。

「はっ!! 一人で来たか。たいした者だ『氷の王子』よ。」
「私の首を差し出す。どうか、イリギス国との同盟を辞めて貰えないか。」
アルベルトは、笑った。

「あははっ、気付いていたか。どうやら、彼奴ら入り込んでいる様だな。」
「啓は、知らぬ事なのか。」
淡々とクラウスは、話す。

「知らぬ。いや、どうでもいい。俺は、お前らさえ殺せればどうでもいい。」
「王都には、啓の率いる貴族の子息達もいる。」
クラウスは、鞘に納めたい剣を手に持ったまま立ち尽くした姿で語る。その言葉にアルベルトは、声を出して笑った。

「アンジェリカを、見殺しにした奴等など知った事か。」
「そうか、解った。」
クラウスは、手に持った剣を目の前に差し出した。

「私、クラウスは王太子としての義務とこの内乱を引き起こした責任を取るため。」
強い目で、アルベルトは見据える。

「ベクトル候に、一騎打ちを申し込む。」

「あははっ、お前が? 」
アルベルトは、見下した声を出す。

「俺に、敵うと思っているのか? 餓鬼が。」
アルベルトは狂気の目で、クラウスを見る。愛する娘の仇の姿を。

「いいだろう、嬲り殺してやる。」
「私が、勝ったら戦は収めて貰う。共に、イリギス国に対抗して貰う。」
「勝てねぇよ!! 」
アルベルトは、剣をクラウスに振り下ろした。クラウスは、其れを鞘に入った剣で受け止める。鞘にひびが入る。辛うじて、クラウスは持ちこたえる。

「約束して貰う、ベクトル候。」
「いいだろう。勝ったらな。」
再び、剣を叩きつけさせる。

「その言葉、受け取った。」
クラウスは、弾き飛ばれながらひび割れた鞘から剣を抜きだした。


金属音が、広いホールに響いていた。圧倒的に剣術も腕力もアルベルト候が、クラウスに優っていた。クラウスは防戦一方だった、紙一重で何度も剣を避ける。時には転げ回り、不様としか言えない程の立ち回りだった。アルベルトは、直ぐに殺せるものを殺さず王子を甚振っている様であった。

「どうした、戦を止めたいんだろ。なら、俺を殺せ。」
「言われず、とも。」
クラウスは、立ち上がりアルベルトへ挑み掛かる。
アルベルトは片手で、クラウスの剣を弾き飛ばした。クラウスは、その剣の軌道を読み眼線だけを動かす。
アルベルトは、クラウスの腹に空いた左拳を叩き込ませた。クラウスは、その拳の衝撃を和らげる様に下がる。しかし、拳の力に弾き飛ばされ床に転がった。

「此処まで持ったことは、褒めてやろう。」
上から見下ろしながら、アルベルトはクラウスに近付く。そして、一度二度と腹に蹴りを入れる。

「その首を、アンジェリカの墓の前に曝してやろう。」
冷ややかな目で、アルベルトはクラウスを見据える。

「アンジェリカも、きっと喜んでくれるだろう。」
アルベルトは、転がるクラウスに近付き膝を突く。
右手の剣を床に刺し、左手でクラウスの白金の髪を掴み顔を上げさせる。それと同時にアルベルトの胸に、衝撃が走った。
アルベルトはクラウスを見る、彼の汚れた顔は哀しみに溢れていた。クラウスはわざと拳を受け、剣のある方へ転がっていたのだ。その剣が今、アルベルトの胸を貫いていた。
アルベルトの口元から、血が伝った。

「やられたな、敗因はお前を侮ったからか。」
次の瞬間、アルベルトは大量の血を吐き出した。

「「「御館様!! 」」」

まさか、御館様が負けるとは微塵も思っていなかった家臣達は剣を抜きクラウスを囲った。

「狼狽えるな!! 」
慌てる騎士達を、アルベルトは叱咤する。彼は自分の右手の剣とクラウスによって支えられていた。

「最後に、聴かせろ。お前は アンジェリカを どう思って いた。」
話すたびに、アルベルトの口から血が吹き出す。その血を浴びながら、クラウスは応えた。

「私は、アンジェリカを愛している。」
その応えを聴いた途端、アルベルトは血を吹き出しながら笑った。そして、

「クラウス。お前は、生きろ。生きて、苦しめ。」
「はい。」
クラウスは目を閉じ、アルベルトの胸から剣を引き抜いた。

『クラウス お前は、生きろ。生きて、苦しめ。』

其れは、呪いの言葉。愛する者を失った苦しみを知るアルベルトのクラウスに対する呪いの言葉。
生き続けて、無虚の世界を彷徨えと 苦しめと。

「はい。」

クラウスは、其れに従った。





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