7 / 21
九月 策戦。
しおりを挟む
ガタガタと馬車は進む。
イリギス国へと、馬車は進む。
渓谷に陣取っていたイリギス国の兵士達を制圧し、クラウス達は進んでいた。
主人の亡骸の囲い、騎士達は項垂れていた。敬愛する主人だった。まさか、若輩者の王子に殺られるとは、思わなかった。主人を失った騎士達は、途方に暮れていた。
愛する主人、愛するお嬢様を殺した王子クラウス。
だが、女神像を見詰めて立ち尽くしている姿は、御館様の様で彼等は何も言えなかった。
『お前は、生きろ。生きて苦しめ。』
御館様の最後の言葉。
そして、その言葉に従おうとする王子。ならば自分達は、彼がどう生き続けるか見届けようと思う。
「許してくれ、アンジェリカ。君の父君は、私をアンジェリカに逢わせたく無いようだ。」
女神像に、アンジェリカを重ねてクラウスは話す。
「まだ、君に逢いに行けない。生きて、苦しめと言われた。」
クラウスは、微かに笑った。
「ベクトル候の言う通りだ。簡単に君に、逢うわけにはいかない。殺されるまで、生き続ける。」
微笑む女神像に、アンジェリカの微笑みを思い浮かべる。最後に見た、あの美しい微笑みを。
「この世で苦しみ抜いたらベクトル候は、君に逢うことを許してくれるかな。」
この無虚な、世界を。
「アンジェリカ。君は、私を許してくれるかい。」
地獄に落ちる前に、一度だけ。 神よ、アンジェリカに逢わせて下さい。
「ただ、一度。君に、逢いたい。」
ただ、一度だけ。
女神像を見詰めて立ち尽くしているクラウスは、一枚の絵の様に美しかった。
「クラウス様。私はクリス・クーパーは、御館様との約束に従い。この戦を治め、クラウス様に従います。」
クリスは、恭しくクラウスの前に片膝を付く。
「クリス総長!! 」
「これは、御館様の意志だ。」
驚愕する部下達に、総長は静かに応えた。
「御館様は、クラウス様に生きろと言われた。私は、クラウス様の生き様を見届ける。」
総長の言葉に、次々と部下達はクラウスの前に片膝を付く。其れは、自分達も従うと言う意思表示だった。
「クラウス様、戦を終わらす指示を示し下さい。」
クラウスは、名残惜しそうに女神像から目を離す。
「イリギス国と繋がる貴族を捕縛。他国の者は、打て。」
「はっ。」
クラウスは騎士団達に、指示を出す。
「ダイクン候には、現状況維持を。イリギス国の隙を付く。イリギス国王には、この戦から退場して貰う。」
「それは、どう言う…。」
「首を取る。」
冷めた表情で、クラウスは言う。
「我が国を狙うなら、自分の首も取られる事も承諾しているだろう。」
「ですが、どうやって首を。」
途方もしれない事を簡単に言うクラウスに、戸惑う。
「私が、貢ぎ物として国王に会う。」
「それは、出来ません。御館様は、生きろと言われた。」
クラウスが会おうものなら、確実に首を取られる。彼等には、自殺願望の様にしか思えなかった。
「会うのはクラウスではない、私の母 王妃クラリス。」
「「「 !? 」」」
「私が母の代わりとして、クラリスとしてイリギス国王に会う。国王は、必ず私に会ってくれるだろう。」
クラウスは確信を持って言った。イリギス国王がベルハルト国の王妃クラリスに執着しているのは、周知の事実だった。王妃クラリスなら、国王は喜んで寝屋にまで招き入れるであろう。
母親似のクラウスにしか出来ない、作戦であった。
「ベクトル候。戦が終わったら、アンジェリカの元に案内します。」
静かに膝を折り、祈りを捧げる。
クラウスは立ち上がり、踵を返した。その顔に表情は無い、氷の瞳だけが妖しく光っていた。
「川が、凪む前に事を終わらす。」
「「「「はっ。」」」」
クラウスの指示に、何人かの騎士達はその場を離れていく。自らの隊に戻り、部下達と共に任務を遂行するために。
残ったのは、総長と呼ばれたクリス。クラウスは足早に歩き始めた。その後を、総長は従う。
「私に、ドレスの用意を。」
闇夜に、月が輝いていた。昼間の雨が嘘の様に、空は晴れていた。
イリギス国へと、馬車は進む。
渓谷に陣取っていたイリギス国の兵士達を制圧し、クラウス達は進んでいた。
主人の亡骸の囲い、騎士達は項垂れていた。敬愛する主人だった。まさか、若輩者の王子に殺られるとは、思わなかった。主人を失った騎士達は、途方に暮れていた。
愛する主人、愛するお嬢様を殺した王子クラウス。
だが、女神像を見詰めて立ち尽くしている姿は、御館様の様で彼等は何も言えなかった。
『お前は、生きろ。生きて苦しめ。』
御館様の最後の言葉。
そして、その言葉に従おうとする王子。ならば自分達は、彼がどう生き続けるか見届けようと思う。
「許してくれ、アンジェリカ。君の父君は、私をアンジェリカに逢わせたく無いようだ。」
女神像に、アンジェリカを重ねてクラウスは話す。
「まだ、君に逢いに行けない。生きて、苦しめと言われた。」
クラウスは、微かに笑った。
「ベクトル候の言う通りだ。簡単に君に、逢うわけにはいかない。殺されるまで、生き続ける。」
微笑む女神像に、アンジェリカの微笑みを思い浮かべる。最後に見た、あの美しい微笑みを。
「この世で苦しみ抜いたらベクトル候は、君に逢うことを許してくれるかな。」
この無虚な、世界を。
「アンジェリカ。君は、私を許してくれるかい。」
地獄に落ちる前に、一度だけ。 神よ、アンジェリカに逢わせて下さい。
「ただ、一度。君に、逢いたい。」
ただ、一度だけ。
女神像を見詰めて立ち尽くしているクラウスは、一枚の絵の様に美しかった。
「クラウス様。私はクリス・クーパーは、御館様との約束に従い。この戦を治め、クラウス様に従います。」
クリスは、恭しくクラウスの前に片膝を付く。
「クリス総長!! 」
「これは、御館様の意志だ。」
驚愕する部下達に、総長は静かに応えた。
「御館様は、クラウス様に生きろと言われた。私は、クラウス様の生き様を見届ける。」
総長の言葉に、次々と部下達はクラウスの前に片膝を付く。其れは、自分達も従うと言う意思表示だった。
「クラウス様、戦を終わらす指示を示し下さい。」
クラウスは、名残惜しそうに女神像から目を離す。
「イリギス国と繋がる貴族を捕縛。他国の者は、打て。」
「はっ。」
クラウスは騎士団達に、指示を出す。
「ダイクン候には、現状況維持を。イリギス国の隙を付く。イリギス国王には、この戦から退場して貰う。」
「それは、どう言う…。」
「首を取る。」
冷めた表情で、クラウスは言う。
「我が国を狙うなら、自分の首も取られる事も承諾しているだろう。」
「ですが、どうやって首を。」
途方もしれない事を簡単に言うクラウスに、戸惑う。
「私が、貢ぎ物として国王に会う。」
「それは、出来ません。御館様は、生きろと言われた。」
クラウスが会おうものなら、確実に首を取られる。彼等には、自殺願望の様にしか思えなかった。
「会うのはクラウスではない、私の母 王妃クラリス。」
「「「 !? 」」」
「私が母の代わりとして、クラリスとしてイリギス国王に会う。国王は、必ず私に会ってくれるだろう。」
クラウスは確信を持って言った。イリギス国王がベルハルト国の王妃クラリスに執着しているのは、周知の事実だった。王妃クラリスなら、国王は喜んで寝屋にまで招き入れるであろう。
母親似のクラウスにしか出来ない、作戦であった。
「ベクトル候。戦が終わったら、アンジェリカの元に案内します。」
静かに膝を折り、祈りを捧げる。
クラウスは立ち上がり、踵を返した。その顔に表情は無い、氷の瞳だけが妖しく光っていた。
「川が、凪む前に事を終わらす。」
「「「「はっ。」」」」
クラウスの指示に、何人かの騎士達はその場を離れていく。自らの隊に戻り、部下達と共に任務を遂行するために。
残ったのは、総長と呼ばれたクリス。クラウスは足早に歩き始めた。その後を、総長は従う。
「私に、ドレスの用意を。」
闇夜に、月が輝いていた。昼間の雨が嘘の様に、空は晴れていた。
3
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
真実の愛のおつりたち
毒島醜女
ファンタジー
ある公国。
不幸な身の上の平民女に恋をした公子は彼女を虐げた公爵令嬢を婚約破棄する。
その騒動は大きな波を起こし、大勢の人間を巻き込んでいった。
真実の愛に踊らされるのは当人だけではない。
そんな群像劇。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる