【完結】氷の王、クラウス。

❄️冬は つとめて

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 九月 策戦。

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ガタガタと馬車は進む。
イリギス国へと、馬車は進む。
渓谷に陣取っていたイリギス国の兵士達を制圧し、クラウス達は進んでいた。


主人の亡骸の囲い、騎士達は項垂れていた。敬愛する主人だった。まさか、若輩者の王子に殺られるとは、思わなかった。主人を失った騎士達は、途方に暮れていた。
愛する主人、愛するお嬢様を殺した王子クラウス。
だが、女神像を見詰めて立ち尽くしている姿は、御館様の様で彼等は何も言えなかった。

『お前は、生きろ。生きて苦しめ。』
御館様の最後の言葉。
そして、その言葉に従おうとする王子。ならば自分達は、彼がどう生き続けるか見届けようと思う。


「許してくれ、アンジェリカ。君の父君は、私をアンジェリカに逢わせたく無いようだ。」
女神像に、アンジェリカを重ねてクラウスは話す。

「まだ、君に逢いに行けない。生きて、苦しめと言われた。」
クラウスは、微かに笑った。

「ベクトル候の言う通りだ。簡単に君に、逢うわけにはいかない。殺されるまで、生き続ける。」
微笑む女神像に、アンジェリカの微笑みを思い浮かべる。最後に見た、あの美しい微笑みを。

「この世で苦しみ抜いたらベクトル候は、君に逢うことを許してくれるかな。」

この無虚な、世界を。

「アンジェリカ。君は、私を許してくれるかい。」

地獄に落ちる前に、一度だけ。 神よ、アンジェリカに逢わせて下さい。

「ただ、一度。君に、逢いたい。」

ただ、一度だけ。

女神像を見詰めて立ち尽くしているクラウスは、一枚の絵の様に美しかった。


「クラウス様。私はクリス・クーパーは、御館様との約束に従い。この戦を治め、クラウス様に従います。」
クリスは、恭しくクラウスの前に片膝を付く。

「クリス総長!! 」
「これは、御館様の意志だ。」
驚愕する部下達に、総長は静かに応えた。

「御館様は、クラウス様に生きろと言われた。私は、クラウス様の生き様を見届ける。」
総長の言葉に、次々と部下達はクラウスの前に片膝を付く。其れは、自分達も従うと言う意思表示だった。

「クラウス様、戦を終わらす指示を示し下さい。」
クラウスは、名残惜しそうに女神像から目を離す。

「イリギス国と繋がる貴族を捕縛。他国の者は、打て。」
「はっ。」
クラウスは騎士団達に、指示を出す。

「ダイクン候には、現状況維持を。イリギス国の隙を付く。イリギス国王には、この戦から退場して貰う。」
「それは、どう言う…。」
「首を取る。」
冷めた表情で、クラウスは言う。

「我が国を狙うなら、自分の首も取られる事も承諾しているだろう。」
「ですが、どうやって首を。」
途方もしれない事を簡単に言うクラウスに、戸惑う。

「私が、貢ぎ物として国王に会う。」
「それは、出来ません。御館様は、生きろと言われた。」
クラウスが会おうものなら、確実に首を取られる。彼等には、自殺願望の様にしか思えなかった。

「会うのはクラウスではない、私の母 王妃クラリス。」

「「「 !? 」」」

「私が母の代わりとして、クラリスとしてイリギス国王に会う。国王は、必ず私に会ってくれるだろう。」
クラウスは確信を持って言った。イリギス国王がベルハルト国の王妃クラリスに執着しているのは、周知の事実だった。王妃クラリスなら、国王は喜んで寝屋にまで招き入れるであろう。
母親似のクラウスにしか出来ない、作戦であった。

「ベクトル候。戦が終わったら、アンジェリカの元に案内します。」
静かに膝を折り、祈りを捧げる。

クラウスは立ち上がり、踵を返した。その顔に表情は無い、氷の瞳だけが妖しく光っていた。

「川が、凪む前に事を終わらす。」
「「「「はっ。」」」」
クラウスの指示に、何人かの騎士達はその場を離れていく。自らの隊に戻り、部下達と共に任務を遂行するために。

残ったのは、総長と呼ばれたクリス。クラウスは足早に歩き始めた。その後を、総長は従う。

「私に、ドレスの用意を。」


闇夜に、月が輝いていた。昼間の雨が嘘の様に、空は晴れていた。

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