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微笑む。
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「そうよ、わたくしは悪くないわ。わたくしは、騙されたのよ。あの女たちに。」
ぶつぶつとアマージョは呟く。
「だって、あなたも騙されたのでしょう。あの女たちに。」
アマージョは顔をあげて、リフターに振り向いた。
「すべてはあの女たちが悪いのよ。あの女たちが、あなたが娘を疎んじているとわたくしに囁いたの。」
アマージョは目をしばばたせた。
「そうよ、あなたも悪いのよ。あなたが、娘を蔑ろにしていたから。あなたが、あの娘に会いに来なかったから。だから、わたくしあの女たちの言葉を信じてしまったのよ。」
アマージョは、リフターがリフィルに会いに来なかったからあの叔母たちの言葉を信じたと責める。
「そうよ、そうよ!! あなたが悪いのよ。あなたがあの娘に会いに来ていれば、あなたがあの女たちに娘を預けなければ!! あの娘は死ぬことはなかったのよ!! 」
アマージョは自分は悪くないと、悪いのはリフターだと叫ぶ。
「アフォガード様の婚約者にも選ばれず。わたくしが最初から正妃として求められて……あの娘が邪魔になることはなかった!! 」
アマージョは狂気のように、リフターの所為だと責め叫ぶ。
「あなたさえあの娘にちゃんとしていれば、わたくしがあの娘を邪魔に思うことも、消すこともなかったのよ!! 」
自分は悪くないと、滅茶苦茶な言い訳をする。アマージョは眼の前の恐怖を振り払おうとリフターを責め立てる。
「だから、わたくしは悪くない!! 悪くないの!! 悪いのはわたくしを貶しめいたあの女たちよ!! 」
アマージョは血走った目をリフターに向けた、自分は悪くない、自分は騙された。だから悪くないと。
「そうだ、そうだな。」
リフターはアマージョの言葉を肯定した。その言葉にアマージョは目を見開いた。
「あの女たちが、悪い。」
「そうよ、そうですわ。」
アマージョは歓喜に震えだ。
「あの女たちを信じた、俺が愚かだ。」
「そうですわ、あなたが愚かなのですわ。」
アマージョは嬉しそうに、リフターに同意する。床に手をついたまま体をひねらせ、自分は悪くないとリフターが分かってくれたと喜んだ。
「だからと言って、リフィルを殺したことが許されるはずはない。」
リフターは琥珀色の無機質な目を向け、アマージョの右の手の甲を踏みつける。
「いゃああああ!! あ、あ、あ、あ、や、やめて!! 」
ぼきぼきと手の平の砕ける、骨の音がする。アマージョは踏みつけるリフターの右の脚に縋り付いた。リフターは力を込めた、骨は砕け手が潰されていく。
「やめて、やめて、お願い、やめて!! お父様!! アフォガード様、助けて!! 」
痛みにアマージョは泣き叫ぶ。助けを求めた者は既に動ける状態ではない。周りにいたはずの辺境の者たちも既にその場にはいなかった、ここはリフターに任せて城外の者と合流していることだろう。
松明の焚き火が、薄っすらと舞踏会会場の一部分を照らしているだけ。そこに立っているのはリフターのみ、後は血まみれの床に倒れる人間だった者の残骸と、まだ息のある王族だけ。
「なぜ、殺した。」
リフターは何度も何度も同じ質問を問い掛ける、答えが欲しい訳ではなかった。答えたところで、リフィルの死が覆ることはないのだ。
「なぜ、殺した。」
だが、聞き続ける。理不尽に殺された娘を思って。殺す必要があったのかと。なぜ、なぜ、なぜ、と。
縋り付いてくるアマージョの足を踏み潰す。ゆっくりと、力を入れていく。ぶしゅぶしゅと肉の潰れる音がする、ごりごりと骨が擦り潰れる音がする。
「いゃああああ、あ、あ!! やめて、いたい!! いたい!! 助けて!! お父様!! アフォガード様!! だれか、だれか!! 」
自分の足が潰れていくのを感じながらアマージョは助けを求めて泣き叫ぶ。
「殺せ!! ひと思いに殺せ!! 」
床に剣で繋がれたアフォガードが、叫ぶ。まだ息のある王族たちは、今なお苦しみぬいている。
「たのむ……殺してくれ……。」
死ぬのは分かっている、ならばひと思いに。苦しませずに殺してくれと、それがまだ息のある王族たちの思いであった。
「なぜだ? 」
リフターの琥珀色の瞳が、無機質な瞳が細まる。
「リフィルを殺したのに。」
口元が上がる。
「楽にレテの川をくぐらせないと、言ったはずだ。」
リフターは笑った。その言葉は、まだ生きている者に絶望を与えた。
リフターは微笑む。
彼は既に壊れていた。
ぶつぶつとアマージョは呟く。
「だって、あなたも騙されたのでしょう。あの女たちに。」
アマージョは顔をあげて、リフターに振り向いた。
「すべてはあの女たちが悪いのよ。あの女たちが、あなたが娘を疎んじているとわたくしに囁いたの。」
アマージョは目をしばばたせた。
「そうよ、あなたも悪いのよ。あなたが、娘を蔑ろにしていたから。あなたが、あの娘に会いに来なかったから。だから、わたくしあの女たちの言葉を信じてしまったのよ。」
アマージョは、リフターがリフィルに会いに来なかったからあの叔母たちの言葉を信じたと責める。
「そうよ、そうよ!! あなたが悪いのよ。あなたがあの娘に会いに来ていれば、あなたがあの女たちに娘を預けなければ!! あの娘は死ぬことはなかったのよ!! 」
アマージョは自分は悪くないと、悪いのはリフターだと叫ぶ。
「アフォガード様の婚約者にも選ばれず。わたくしが最初から正妃として求められて……あの娘が邪魔になることはなかった!! 」
アマージョは狂気のように、リフターの所為だと責め叫ぶ。
「あなたさえあの娘にちゃんとしていれば、わたくしがあの娘を邪魔に思うことも、消すこともなかったのよ!! 」
自分は悪くないと、滅茶苦茶な言い訳をする。アマージョは眼の前の恐怖を振り払おうとリフターを責め立てる。
「だから、わたくしは悪くない!! 悪くないの!! 悪いのはわたくしを貶しめいたあの女たちよ!! 」
アマージョは血走った目をリフターに向けた、自分は悪くない、自分は騙された。だから悪くないと。
「そうだ、そうだな。」
リフターはアマージョの言葉を肯定した。その言葉にアマージョは目を見開いた。
「あの女たちが、悪い。」
「そうよ、そうですわ。」
アマージョは歓喜に震えだ。
「あの女たちを信じた、俺が愚かだ。」
「そうですわ、あなたが愚かなのですわ。」
アマージョは嬉しそうに、リフターに同意する。床に手をついたまま体をひねらせ、自分は悪くないとリフターが分かってくれたと喜んだ。
「だからと言って、リフィルを殺したことが許されるはずはない。」
リフターは琥珀色の無機質な目を向け、アマージョの右の手の甲を踏みつける。
「いゃああああ!! あ、あ、あ、あ、や、やめて!! 」
ぼきぼきと手の平の砕ける、骨の音がする。アマージョは踏みつけるリフターの右の脚に縋り付いた。リフターは力を込めた、骨は砕け手が潰されていく。
「やめて、やめて、お願い、やめて!! お父様!! アフォガード様、助けて!! 」
痛みにアマージョは泣き叫ぶ。助けを求めた者は既に動ける状態ではない。周りにいたはずの辺境の者たちも既にその場にはいなかった、ここはリフターに任せて城外の者と合流していることだろう。
松明の焚き火が、薄っすらと舞踏会会場の一部分を照らしているだけ。そこに立っているのはリフターのみ、後は血まみれの床に倒れる人間だった者の残骸と、まだ息のある王族だけ。
「なぜ、殺した。」
リフターは何度も何度も同じ質問を問い掛ける、答えが欲しい訳ではなかった。答えたところで、リフィルの死が覆ることはないのだ。
「なぜ、殺した。」
だが、聞き続ける。理不尽に殺された娘を思って。殺す必要があったのかと。なぜ、なぜ、なぜ、と。
縋り付いてくるアマージョの足を踏み潰す。ゆっくりと、力を入れていく。ぶしゅぶしゅと肉の潰れる音がする、ごりごりと骨が擦り潰れる音がする。
「いゃああああ、あ、あ!! やめて、いたい!! いたい!! 助けて!! お父様!! アフォガード様!! だれか、だれか!! 」
自分の足が潰れていくのを感じながらアマージョは助けを求めて泣き叫ぶ。
「殺せ!! ひと思いに殺せ!! 」
床に剣で繋がれたアフォガードが、叫ぶ。まだ息のある王族たちは、今なお苦しみぬいている。
「たのむ……殺してくれ……。」
死ぬのは分かっている、ならばひと思いに。苦しませずに殺してくれと、それがまだ息のある王族たちの思いであった。
「なぜだ? 」
リフターの琥珀色の瞳が、無機質な瞳が細まる。
「リフィルを殺したのに。」
口元が上がる。
「楽にレテの川をくぐらせないと、言ったはずだ。」
リフターは笑った。その言葉は、まだ生きている者に絶望を与えた。
リフターは微笑む。
彼は既に壊れていた。
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