【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて

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目下に鎮座する帝都。

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難攻不落であった砦から逃げ出したエセ総司令たちは、帝都に逃げ帰った。

「砦が落ちただと!! 」
激しく第二皇子だった皇太子が叫んだ。

「馬鹿なそんな筈はない。」
何時も兵士の兵糧を食い潰させるだけの兵法をしてきた、姑息なソルトルアー国の辺境伯。攻めることはなく、逃げることもない。ただ時間をかけて、帝国の兵糧を食い潰させて引かせる臆病な者。それが第二皇子の心象だった。そんな臆病な辺境伯に勝てず、何時も兵糧を食い潰して引き上げる元帥は無能者と思っていた。

『本気の彼らには、勝てない。』
元帥の言葉が浮かび上がる。

(まさか、そんな……。兄上の方が正しかったと言うのか。)
既に元皇太子と元帥は帝都を離れている。

(私は貧乏くじを引いたのか? )
皇太子は手を握りしめ震えた。

「奴らは姑息な手で、攻めてきまして!! 」
「夜に、忍び込むように!! 」
「正々堂々と戦の宣言もなく!! 」
エセ総司令たちは、相手が姑息で卑怯だったと言い張る。

(戦に卑怯もクソもあるものか。勝てばいいのだ、勝てば。)

争いを反対する兄とは違い、第二皇子たちは、脅し騙し罠に嵌め人質を取っては勝ってきた。どんな手を使っても、勝ち進んできた。

(兄上を追い落とし、やっと皇帝の座に近づいたと言うのに。)

ソルトルアー国の辺境伯の実力を見誤ったと、感じ取った。

(このままでは不味い。)

復讐に燃える辺境伯への、弱点など思い浮かばない。ゆいつの弱点の娘は既にこの世にいない。言わば手負いの獣だ。

(私ほどの者がこんな処で終る訳にはいかない。)

策略も陰謀もなく、ただ帝国へと進む道すがらにある者を刈り取り続ける。他者を寄せ付けない圧倒的な力。情けも容赦もない、ただ命を刈るだけに進むリフターに話が通じるはずはなかった。

「おのれ、今までその力を隠していたか。」
ダン!! 机に拳を叩きつけた。ビクリと、逃げ帰ってきた貴族たちは体を震わせた。

「父上に。皇帝陛下に報告を申し上げろ。陛下へ謁見を申し出て手続きをしろ。」
「で、殿下は? 」
「私は、まだやることがある。先に行き、控えの間で待ってろ。」
何かしら考えながら、逃げ帰ってきた貴族たちを部屋から追い出す。

(こうしてはいられない。)
周りの物を、金目の物を袋に詰めだす。服も派手ではなく、動きやすいのに着替える。

(私はこんな処で終わるわけにはいかないのだ。)

そっと窓を開け、外に出る。そのまま馬小屋家と走り出した。

(皇帝陛下を倒せば、いくらなんでも辺境伯の復讐の熱も冷めるだろう。それまでは……。)

皇太子は、馬に乗り城を後にする。兄たちの向かった方角へと馬を走らせる。

(それでも話にならないなら、帝都を襲った後に食らいつけば。)
そのためには兄たちが連れている公爵の軍人たちが必要となってくる。皇太子は、兄たちに追いつくために馬を走らせた。



リフターたちはゆっくりと帝国と近づいていた。強い帝国を信じて、帝都に残っている者は何も知らずに生を謳歌していた。


「ああ……、愛しい愛しい、娘リフィル。」
愛する娘を護れなかった自分を責める。なぜ、愛しい娘を人の手に預けてしまったか。なぜ、戯言を信じてしまったか。

愛した人の妹と言うだけで。

「ああ……リフィル、愛しい娘。リフィルを虐め蔑む者はもういない。だから安心して欲しい。」
リフターは微笑む。

「ああ……、リフィルとの語らいを邪魔する者も、無くしておかないとな。」
リフターは小高い丘から目下に広がる草原の中に鎮座する帝国の帝都を琥珀色の瞳が見据える。
 
「ああ……リフィル、愛しい娘。すぐに、邪魔する者もいなくなる。」
リフターは、そこに愛しい娘がいるように語りかける。優しい声と優しい微笑みで。爽やかな風が、リフターの黒髪を揺らす。


もうすぐ、帝都は命を刈られる狩り場となる。

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