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第3話「出会い」

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ミティーナがカルケイン家の農村にやって来て1ヶ月が過ぎようとしていた。

「ミティーナさんもすっかりひとりで任せられるようになったわねぇ」

「芽かきも的確だし、もう一人前だよ」

「最初、土に触れるのも恐がっているのを見たときはどうなるかと思ったけど」

「そんなこともあったなぁ」

「兄貴はミティーナさんのこと見過ぎ」

「な、何を言うんだ⁉︎ サリー」

「もうじきに秋だよ。うかうかしてたらミティーナさん帰っちゃうよぉ」

「お、お兄ちゃんをからかうな!」

***

慣れた手つきでトマトを角切りにするミティーナ。

「レノックスさん、このくらいでいいかしら?」

「うん。ありがとう。次はきゅうりをお願い」

「はい」

レノックスは湯がいたパスタをザルに移して、氷水で一気にしめる。

そしてミティーナがカットした野菜を盛りつけ、オリーブオイルと胡椒をまぶす。

「では」

「「「いただきます」」」

「うん。冷えてて美味しい」

「暑さが厳しい日には兄貴の冷製パスタがいちばん」

「こんなに暑いのに氷があることにびっくりしました」

「冬に湖にはった氷を切り出して洞窟に保管してあるんだ」

「夏の暑いときはその氷のおかげでしのげるわぁ」

「今日は特に暑いから母さんは日陰で休んでろよ」

「はいはい。若いふたりのそばにいたら余計に暑いですからね。
離れておりますよ」

「母さんもか」

「この暑さも過ぎれば一気に秋よ。野菜の収穫も落ち着くわね」

そう言ってレノックスにチラッと目をやるサリー。

「秋になったら今度は稲刈りがあるだろ」

「こいつ⋯⋯」

口パクでへ・タ・レというサリー。

「このビィシソワーズもとてもおいしかったですわ。
レノックスさんはどうしてこんなに料理がお得意なのですか?」

「趣味っていうか畑のこと以外に夢中になれるんだよ。
ほら、せっかく美味しく育てた野菜を美味しく調理できなかったらもったいないだろ」

「シェフになりたかったんだよね兄貴」

「お店も出したいなんて言ってたわね。お父さんがはやくに亡くならなければそれも叶っていたかもね」

「せっかくシャリーちゃんのところの冒険者ギルドに料理人として雇ってもらえることが決まっていたのに」

「過ぎたことはいいだろ。俺は長男だ。畑やっている方が性に合っているんだよ」

「お父様⋯⋯」

ふと寂しそうな顔をするミティーナを気にかけるサリー。

「どうかしたの? ミティーナさん」

「いいえ。ちょっと私のお父様のことを思い出してしまいました」

「あらまぁ。ミティーナさんもお父さんいなかったのよねぇ」

ミティーナは教会の焼け跡から拾い上げてくれた父に今日ほど感謝した日はなかった。


***


畑の土手でひとり月を眺めているレノックス。

「レノックスさん、お待たせしました。私に見せたいというのは⋯⋯」

「こんな時間にごめんね。今日は星がきれいに見えるから見せたくて」

ミティーナが夜空を見上げると同時にそよ風が吹く。

「この時間になると風が涼しくて気持ちいいですね」

「ああ。秋の気配だよ」

「秋?」

「もうじき野菜の収穫が落ち着く⋯⋯」

「はい⋯⋯」

「ミティーナさんは秋になったらどうするんだ? よかったら⋯⋯」

「レストランをレストランをやりたいです」

「は?」

「レノックスさんの夢を応援したいんです。摘み取る野菜がないのならレノックスさんのお店で働かせてください。
私をレノックスさんのそばに置いてください」

「それって⋯⋯」

「はずかしい⋯⋯勢い余って先の想像を話してしまいました。

手で顔を覆って紅くなった顔を隠すミティーナ。

「ミティーナさん、俺も同じ気持ちだ。俺と子どもつくろう」

「は?」

「ご、ごめん! 俺も順序間違えた。つまりは家族に⋯⋯」

『ぎゃあああ』

薮の向こうから男性の叫び声が響いた。

「あっちの畦道だ!」

レノックスとミティーナが駆けつけると馬車が停車していてその傍らに老人が倒れていて地面にうずくまっている。
そして執事風の格好した紳士がそばで狼狽している。

「どうかしましたか?」

「突然、主人がお腹を抑えて苦しみ出しまして」

「とにかく僕の家に運びましょう」

「はい」

「ミティーナさんも手伝って」

「はい」

***

1時間後

ミティーナの介抱もあって老人は腹の痛みも治りカルケイン家のベッドで安静にしている。

「すまなかった⋯⋯ガラム家の屋敷で鯛の油揚げをご馳走になったのがまずかった」

「そんなに胃に悪いものを」

「伯爵夫人がずいぶんはりきってね。料理を振る舞ってくれたんだけどどうにも油濃くて年寄り向きじゃなかった。
あの若き伯爵も儂を連れ回して領内の自慢ばかりほとほと疲れた⋯⋯おっと。こんなこと農夫の方々に申し上げることではなかったな」

「それはそれはご迷惑をおかけしました」

「はい?」

「もうじきお粥ができあがりますので」

「ミティーナさん。入るよ」

「どうぞ」

「生姜とオクラを入れたお粥です」

「おお! これは美味しそうだ」

老人はスプーンを手に取り、すくったお粥を口に運ぶ。

「うん! 美味しい。こんな美味しいお粥ははじめてだスプーンが止まらない」

「またお腹を壊さないでくださいね」

「ありがとうご夫人。それにご主人」

「夫人だなんて⋯⋯」

照れて顔を紅くするミティーナとレノックス。

「?」と、老人はそんなふたりの様子を不思議に思う。

「おふたりには命を救ってもらったぜひ、お礼をさせていただきたい」

「「お礼?」」

つづく



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