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第4話「帰還」
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ユードルとプリシラは派手な馬車に乗り王都にある王城に向かっていた。
ここのところガラム家の成長は著しい。
ユードルはプリシラとの結婚を機に当主となり、伯爵の地位も継いだ。
そして領主亡きララディール家を相続してララディール領はガラム領に併合された。
その影響もあり領内の景気は上向き飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
「急に王城にお呼び出しなんて中央政府もどうしたのかしら」
「わからないのかプリシラ? これは大臣就任への勅(ちょく)だよ」
「大臣⁉︎ さすがユードル様、宮中でお働きになるのですね」
「ここまで成長したガラム家を中央政府は見過ごせまい」
「素敵です。ユードル様」
「これもプリシラと結婚したおかげだ。君と一緒になってからは万事上向きだよ」
「いやん」
「先日の接待も良かった」
「腕によりをかけて振る舞いましたわ」
「ガラム領の発展ぶりに随分と驚きになっていたな。これは公爵にしてもらわないと釣り合わないな」
「公爵! なんという素敵な響き」
「国王との謁見が楽しみだな」
***
王城 謁見の間
ユードル、プリシラ夫妻が入っていくと王国に仕える貴族たちが集まっていて
赤絨毯を挟んで整列していた。
「壮観だ」
この光景にユードルは感激した。
まるで貴族たちがユードル夫妻の到着を待っていたかのようだ。
ユードルはプリシラと腕を組み正面にある玉座に向かって赤絨毯の上を歩み出す。
するとーー
近衛兵たちがやってきて『こちらにお並びください』と端っこの方へ案内する。
「どういうことなのユードル様?」
「さ、さぁ。とりあえず任官式は国王陛下が入って来てからってことなんだろ」
『敬礼!』と、近衛兵が叫んだ瞬間、謁見の間の扉が開かれた。
そして光の向こうに立つふたつの人影⋯⋯
「⁉︎」
プリシラは驚く。
「ミティーナ⋯⋯」
「なぜここに」
入ってきた人物はふたりがよく知る顔。
卑しい身分であるはずの義姉がどうして貴族に拍手を送られながら
赤絨毯の上を歩いているのか?
信じられない出来事に我が目を疑うプリシラとユードル。
***
(どうしてこんなことになったのかしら⋯⋯)
(ここどこ? どうして貴族の人たちがこんなに集まっているの?
どうして俺たちに拍手するの)
(お腹を壊したおじいさまにおうちでお礼がしたいと言われて連れてこられましたが
どう見てもここは⋯⋯お城)
(何者なんだあのおじいさん)
ふたりが戸惑っていると先日介抱した老人が入ってきて玉座に座る。
『先王様の御成である』
貴族たちが一斉に老人へと体をむける。
((せ、先王様⁉︎))
「ご両人。驚いただろ。先日、無様にもお腹を痛めて世話をしてもらったおいぼれジジイだ。
さてその正体は先(さき)の国王。隠居の身になって少々からというものハメを外しすぎた。
迷惑をかけたのう」
「い、いえ⋯⋯先様だったとは」
レノックスは声を振るわせた。
「こちらこそ先様とはつゆ知らずご無礼をいたしました」
「ミティーナさん?」
「物怖じしないとはご夫人はさすがだな。ララディール家の令嬢だけある。ご主人は気にやむことではない。
そなたが普通の反応だ」
「あ、ありがたき幸せ」
「礼というのはほかならない。レノックス・カルケイン。そなたに辺境伯の爵位を与える。
皆のもの喜べ新しい仲間だ」
場内からは一斉に拍手が沸き起こる。
「へ、辺境伯⁉︎ 俺が?貴族?」
「おめでとうございます。レノックス様」
「ミティーナさん畏まらないでよ」
***
突然の出来事に狼狽するプリシラ。
「ど、どういうこと? あの男とミティーナはどういう関係?
夫人って言っていた嘘でしょ⋯⋯ミティーナの旦那の方が私の旦那より爵位が上? うそよ」
「なにがなんだか⋯⋯」
「ちょっとしっかりしなさいよ! 大臣は、公爵はどうしたのよあなた」
『ユードル・ガラムだな』
「⁉︎ 国王様」
「先日、父が世話になったな」
「はッ!」
「父がそなたのことを伯爵の器ではないとたいそう不機嫌でな。
ララディール家の財産と領地を没収し、爵位を剥奪せよとおっしゃっててな」
顔を青くするプリシラ。
「は、剥奪⋯⋯」
「とりなして準男爵でとめおいた。ただし、ララディール家の所有物はすべて父の恩人に返してもらうぞ」
「ミティーナに全財産が⋯⋯うそでしょ」
「準⋯⋯男爵⋯⋯ あ、ああ⋯⋯」
その場に崩れ落ちるユードル。
「ユ、ユードル様⁉︎ ユードル様!」
ヘタレ込むユードルの姿にプリシラも脱力してその場に倒れる。
***
「そなたたち結婚式を挙げてないんだろ?」
「そ、それは」
顔を紅くして慌てるレノックスとミティーナ。
「ならここで挙げていけば良い」
「皆のもの結婚式の準備だ!」
***
1ヶ月後
カルケイン家の隣に新しい建物が建築されている真っ只中だった。
「レノックス様、もうじき完成ですね」
「ミティーナ。本当に良かったのか? 実家の財産をすべてレストランをつくるの費用に使ってしまって」
「もちろんですよ。レストランはレノックス様と私の夢なんですから」
「畑の方はプリシラさんと義母も手伝ってくれてるし、レストランにかまけて安心か」
「まぁプリシラは相変わらずカエルを見て泣いてばかりですけどね」
***
プリシラは『嫌だぁこんな生活』と、嘆きながら草むしりと格闘していた。
そして貧乏準男爵となったユードルはシャーレのいる冒険者ギルドに登録して冒険者として
素材集めとモンスター退治に励む日々となった。
***
「完成が楽しみですねレノックス様」
「そうだねミティーナ」
「レノックス様見てください。メニュー考えたんですよ」
「どれどれ」
ふたりの幸せなスローライフはこれからはじまる。
おわり
ここのところガラム家の成長は著しい。
ユードルはプリシラとの結婚を機に当主となり、伯爵の地位も継いだ。
そして領主亡きララディール家を相続してララディール領はガラム領に併合された。
その影響もあり領内の景気は上向き飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
「急に王城にお呼び出しなんて中央政府もどうしたのかしら」
「わからないのかプリシラ? これは大臣就任への勅(ちょく)だよ」
「大臣⁉︎ さすがユードル様、宮中でお働きになるのですね」
「ここまで成長したガラム家を中央政府は見過ごせまい」
「素敵です。ユードル様」
「これもプリシラと結婚したおかげだ。君と一緒になってからは万事上向きだよ」
「いやん」
「先日の接待も良かった」
「腕によりをかけて振る舞いましたわ」
「ガラム領の発展ぶりに随分と驚きになっていたな。これは公爵にしてもらわないと釣り合わないな」
「公爵! なんという素敵な響き」
「国王との謁見が楽しみだな」
***
王城 謁見の間
ユードル、プリシラ夫妻が入っていくと王国に仕える貴族たちが集まっていて
赤絨毯を挟んで整列していた。
「壮観だ」
この光景にユードルは感激した。
まるで貴族たちがユードル夫妻の到着を待っていたかのようだ。
ユードルはプリシラと腕を組み正面にある玉座に向かって赤絨毯の上を歩み出す。
するとーー
近衛兵たちがやってきて『こちらにお並びください』と端っこの方へ案内する。
「どういうことなのユードル様?」
「さ、さぁ。とりあえず任官式は国王陛下が入って来てからってことなんだろ」
『敬礼!』と、近衛兵が叫んだ瞬間、謁見の間の扉が開かれた。
そして光の向こうに立つふたつの人影⋯⋯
「⁉︎」
プリシラは驚く。
「ミティーナ⋯⋯」
「なぜここに」
入ってきた人物はふたりがよく知る顔。
卑しい身分であるはずの義姉がどうして貴族に拍手を送られながら
赤絨毯の上を歩いているのか?
信じられない出来事に我が目を疑うプリシラとユードル。
***
(どうしてこんなことになったのかしら⋯⋯)
(ここどこ? どうして貴族の人たちがこんなに集まっているの?
どうして俺たちに拍手するの)
(お腹を壊したおじいさまにおうちでお礼がしたいと言われて連れてこられましたが
どう見てもここは⋯⋯お城)
(何者なんだあのおじいさん)
ふたりが戸惑っていると先日介抱した老人が入ってきて玉座に座る。
『先王様の御成である』
貴族たちが一斉に老人へと体をむける。
((せ、先王様⁉︎))
「ご両人。驚いただろ。先日、無様にもお腹を痛めて世話をしてもらったおいぼれジジイだ。
さてその正体は先(さき)の国王。隠居の身になって少々からというものハメを外しすぎた。
迷惑をかけたのう」
「い、いえ⋯⋯先様だったとは」
レノックスは声を振るわせた。
「こちらこそ先様とはつゆ知らずご無礼をいたしました」
「ミティーナさん?」
「物怖じしないとはご夫人はさすがだな。ララディール家の令嬢だけある。ご主人は気にやむことではない。
そなたが普通の反応だ」
「あ、ありがたき幸せ」
「礼というのはほかならない。レノックス・カルケイン。そなたに辺境伯の爵位を与える。
皆のもの喜べ新しい仲間だ」
場内からは一斉に拍手が沸き起こる。
「へ、辺境伯⁉︎ 俺が?貴族?」
「おめでとうございます。レノックス様」
「ミティーナさん畏まらないでよ」
***
突然の出来事に狼狽するプリシラ。
「ど、どういうこと? あの男とミティーナはどういう関係?
夫人って言っていた嘘でしょ⋯⋯ミティーナの旦那の方が私の旦那より爵位が上? うそよ」
「なにがなんだか⋯⋯」
「ちょっとしっかりしなさいよ! 大臣は、公爵はどうしたのよあなた」
『ユードル・ガラムだな』
「⁉︎ 国王様」
「先日、父が世話になったな」
「はッ!」
「父がそなたのことを伯爵の器ではないとたいそう不機嫌でな。
ララディール家の財産と領地を没収し、爵位を剥奪せよとおっしゃっててな」
顔を青くするプリシラ。
「は、剥奪⋯⋯」
「とりなして準男爵でとめおいた。ただし、ララディール家の所有物はすべて父の恩人に返してもらうぞ」
「ミティーナに全財産が⋯⋯うそでしょ」
「準⋯⋯男爵⋯⋯ あ、ああ⋯⋯」
その場に崩れ落ちるユードル。
「ユ、ユードル様⁉︎ ユードル様!」
ヘタレ込むユードルの姿にプリシラも脱力してその場に倒れる。
***
「そなたたち結婚式を挙げてないんだろ?」
「そ、それは」
顔を紅くして慌てるレノックスとミティーナ。
「ならここで挙げていけば良い」
「皆のもの結婚式の準備だ!」
***
1ヶ月後
カルケイン家の隣に新しい建物が建築されている真っ只中だった。
「レノックス様、もうじき完成ですね」
「ミティーナ。本当に良かったのか? 実家の財産をすべてレストランをつくるの費用に使ってしまって」
「もちろんですよ。レストランはレノックス様と私の夢なんですから」
「畑の方はプリシラさんと義母も手伝ってくれてるし、レストランにかまけて安心か」
「まぁプリシラは相変わらずカエルを見て泣いてばかりですけどね」
***
プリシラは『嫌だぁこんな生活』と、嘆きながら草むしりと格闘していた。
そして貧乏準男爵となったユードルはシャーレのいる冒険者ギルドに登録して冒険者として
素材集めとモンスター退治に励む日々となった。
***
「完成が楽しみですねレノックス様」
「そうだねミティーナ」
「レノックス様見てください。メニュー考えたんですよ」
「どれどれ」
ふたりの幸せなスローライフはこれからはじまる。
おわり
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