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旅するとみぃ

42話。エフリ到着

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 俺が【クリエイトトラック】でシルフィエッタを怖がらせてしまってから一週間ほど、ようやくエフリの首都、チューブへとたどり着いた。

 道中立ち寄った村や街でボッター氏が仕入れや販売を行っていたので俺が想像していたより多くの日数がかかってしまったのだ。

 魔物の襲撃に関しては【クリエイトトラック】するほどの群れは現れなかったので、練習のために俺とアイリスの光属性魔法で対応した。

 エリオットたちが進んでドロップ品の回収をしてくれたのでとても楽だった。
 回収してもらったドロップ品の一割程を報酬として渡しておいたので、少しでも違約金の支払いの足しにでもして欲しい。

「ここまでの護衛お疲れ様でした。スポンサー契約の詳しいお話もしたいので、当商会まで御足労頂いてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」

 冒険者組合でエリオットたちの依頼失敗の手続きを終えて外に出た所でお誘いを受けたので、ついて行くことにする。

 チューブは三重の防壁に囲まれた人口約10万人の大都市であり、当然ファトスやセドカンなどと比べると遥かに大きい。

 一番外側の第三防壁の門の近くにある冒険者組合から二番目の防壁の内側にあるボッター商会の本店までは思った以上に距離があった。

 気軽について行くことを了承したことを若干後悔してしまったほどである。

「さて、それでは正式に契約を交わすとしましょうか」

 ボッター商会の本店へと移動した俺たちはボッター氏の執務室のような部屋へと案内され、そこで正式に契約を結ぶこととなった。

「ではこちらを」

 ボッター氏の差し出してくる契約書を受け取り、アイリスと一緒に中身を確認。

 ふむふむ、見る限りではエフリに到着するまでに話していた内容と相違は無い。

 装備品や必要となる金銭の提供、人材の派遣、さらには拠点となる家も用意してもらえるらしい。

 至れり尽くせりすぎて怖い。

 アイリスが言うには世界を救う希望に対しての援助なのでこのくらいは当然らしいのだが、そんなものなのだろうか?

「もちろん屋敷にも人を派遣しますよ。シルフィエッタは屋敷に残り我々の派遣した者から教育を受ければよろしいかと」
「ふむ……」

 もう一度契約書を読み直す。
 何度読み返してもこれが妥当なのかは俺にはわからない。

「アイリス」
「問題無いと思いますわ」

 アイリスに確認を取ると、頷いてくれる。
 アイリスが問題無いと言うのであれば問題無いのだろう。

「分かりました」
「ではこちらにサインをお願いします」

 示された位置に自分の名前を書き込む。
 この世界の文字は日本語を読むようにして読めるし、日本語を書いている感じで書けば自動的にこの世界の文字に変換されるのでとても便利である。

 多分女神エルリア様からのサポートなのだろう。

「はい。確認しました。これで『デーモンバスターズ』は我々ボッター商会からの支援を受け取ることが可能となります」
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ受けて頂けてありがたい限りです」

 ボッター氏は契約書を丁寧にファイルに仕舞い、まずは屋敷に案内しますと言って立ち上がった。


 ◇◆


 ボッター商会所有の馬車に揺られて30分程、たどり着いたのは俺たち三人で暮らすには十分な大きさのある二階建ての家の前だった。

「ここでしたら冒険者組合も近いですし、我がボッター商会の支店もすぐそこにございますので便利かと思います」

 ボッター氏は簡易な地図を取り出し……て冒険者組合やボッター商会の支店の位置を指し示す。

「なにか困ったことがあればこちらの支店にお声掛けください。すぐに対応致します」
「何から何までありがとうございます」

 俺が礼を述べると、ボッター氏はいえいえと首を横に振った。

「デーモンバスターズのお二方には確実に悪魔を討伐して頂かなければ困りますからね。私もまだ死にたくありませんので」
「頑張ります」
「こちらも全力でサポート致しますので、よろしくお願いします」

 派遣してくれる新しい仲間の紹介と装備品の打ち合わせはまた明日ということになり、ボッター氏を見送ってから俺たちら間取りを確認するために家の中へと入ってみた。

「広いな」

 玄関を入ってすぐ右手に階段、正面にリビングがあり、リビングは俺の実家のボロアパートのリビングより遥かに広い。

 確か実家のリビングが11帖だったかな?
 余裕でその倍くらいは広い。

 他にも一階には8帖程の個室が2部屋にキッチン、トイレ、浴室があり、二階にも3つの個室とトイレがある5LDK物件だ。
 三人で暮らすには広すぎるくらいだね。

「じゃあアイリスとシルフィエッタはどの部屋を使うか決めてね」
「分かりましたわ」
「え……私もいいんですか?」

 ダメなわけないでしょう。

「俺もアイリスもシルフィエッタを奴隷として扱うつもりは無いからね。先に言っておくけど、食事も一緒に席に着いて同じもの食べてもらうからね?」

 エフリにたどり着くまでもそうしていたが、その度に恐縮してたからね、改めて言っておいた方がいいだろう。

 最初は一緒の席に着こうとしないで
 立っていたし、座って食べようと誘ったら地べたに座ろうとしてたからね。
 アレには焦った。

「でも……」
「いいから。それと旦那様って呼ぶ必要も無いからね」
「わたくしもご主人様は嫌ですわ」

 俺の話に、アイリスも乗っかってきた。

 確かにアイリスはご主人様って感じじゃないもんな。
 どっちかというと女王様だ。

「じゃあ……なんとお呼びすれば?」
「敬語もいらないんだけどな……名前でもなんでも好きに呼んでくれて構わないよ」

 こんなちいさな女の子に敬語使われたり旦那様って呼ばれたりする趣味は俺には無いしね。

「わたくしは『お姉ちゃん』がいいですわ」
「おねえ……ちゃん?」
  「はいですわ!」

 お姉ちゃんと呼ばれたアイリスは満面の笑みを浮かべてシルフィエッタを抱き締める。
 いきなり抱きしめられたシルフィエッタも満更でもなさそうだ。

「じゃあ俺は……」

 俺の今の外見的におじさんはダメかな?
 アイリスはお姉ちゃんだし、俺はお兄ちゃんがいいかな。

「トミーのことはトミーでいいですわ」
「トミー……様」
「お兄ちゃんがいいです」

 俺、兄弟居なかったからお兄ちゃんって呼ばれたこと無いんです。
 だからお兄ちゃんって呼んで欲しいです。

「お兄ちゃん……でいいんですか?」
「いいよ。敬語は徐々に減らす感じで」
「お兄ちゃん……」

 キュンとした。

 シルフィエッタのことは娘じゃなくて妹として大切にしてやろうと心に決めた瞬間であった。
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