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旅するとみぃ
43話。新しい生活
しおりを挟む「それでは部屋割りを決めましょう」
パンパンと手を打ち鳴らしながらアイリスが告げる。
そうだった、今はほっこりする場面じゃなかった。
「わたくしは二階の奥の部屋がいいですわ」
アイリスは奥の部屋か、それなら俺は適当に……
って今思い出したけど、アイリスって高位の貴族令嬢だよね?
今更ながらそんなアイリスと同じ屋根の下で生活するって……不味くない?
「シルフィはどの部屋がいいんですの?」
「えっと、お兄ちゃんが決めてからで……」
「トミーは最後でいいんですの」
「ええ……」
ふむ、アイリス自身は気にしていないようだし、大丈夫なのかな?
「決められないのならわたくしが決めますわ! シルフィはわたくしの部屋の隣で決まりですの!」
「わ、わかりましたぁ」
うん、大丈夫ということにしておこう。
それよりシルフィエッタの部屋も決まったようだし、俺も早く決めないとな。
「それで、トミーはどこにしますの? 二階に一部屋空いていますわよ?」
「んー……そうだなぁ、俺は一階の奥にするよ」
アイリスは気にしていないし、問題無さそうなのだが、一応抵抗としてアイリスの部屋から一番遠い部屋を選んでおく。
日当たりはいいけど少し狭いのもポイントだ。
両親が亡くなってから俺が住んでいたのは6帖1間の築50年ボロアパートだったからね。
普段はトラックで寝泊まりすることも多いから狭い部屋の方が落ち着くのだ。
「わかりましたわ。それでは各々部屋の確認を終えたらリビングに集合しましょう」
「はい!」
「了解」
アイリスとシルフィエッタはそれぞれ自分の部屋へと入っていく。
俺もここに居ても仕方ないので、一階に降りて自分の部屋へと入り改めて中を確認する。
部屋の中にはベッドに机、タンスが備え付けられており、特に何かを買い足さなくてもこのまま生活出来そうだ。
「トミー、何か必要なものはありますの?」
タンスを開けてみたり、ベッドの下を覗き込んだりしていると、急に扉が開いてアイリスとシルフィエッタが部屋に入ってきた。
毎回思うのだけど、そろそろアイリスにはノックをするという文化を教えた方がいい気がする。
「俺は特に無いかな? アイリスとシルフィエッタはなにかある?」
「わたくしたちは服を買いに行きますわ。いつまでもシルフィにこんなボロを着させておくのは嫌ですもの」
ふむ、服か……
そういえば俺って全くと言っていいほど服持ってないな。
この作業服やシャツ、下着に至るまで魔力を流すだけで新品同様に戻るからといって、これから先ここで生活するならほかの服も必要となってくるだろう。
「俺も買おうかな……」
「そうですわね。トミーは毎日それですもの。他にありませんの?」
「ありませんの」
そういうアイリスだって毎日乗馬服のような服を着ているのだから俺のことは言えないと思う。
「仕方ありませんわね。わたくしが選んであげますから一緒に行きますわよ!」
「マジで?」
なんとなくイメージだけど、アイリスって買い物めっちゃ長そうだからご遠慮願いたいんだけど。
「その顔はなんですの? 嫌ですの?」
「別に嫌と言うわけでは……」
どうやら顔に出てしまったらしい。
これは参った。どうにか上手い言い訳を考えなければ……
必死に言い訳をひねり出そうと頭を回転させていると、クイクイと服の裾を引っ張られた。
これ、ちょっと前にもあったな。
「お兄ちゃん……行こう?」
「よし行こうか! お兄ちゃんが何でも買ってあげるからね!」
懐には余裕があるからね! シルフィエッタに似合いそうな服は片っ端から購入するよ!
「トミー? わたくしの時とは態度が全然違うようですけれど?」
「ちょっと何言ってるか分からない」
アイリスからの口撃を回避しながら三人揃って家を出る。
時間も時間なので、ボッター商会支店に向かうまでの間に売っていた焼き鳥やなにかの肉串を適当に購入して昼食代わりに食べる。
一本銅貨5枚程度だったので、銀貨で買えるだけ買ってやった。
余ったら俺の聖竜さん印のマジックバックに入れておけば何時でも食べられるので問題ない。
「お肉……美味しい」
ハムハムと美味しそうに肉串を頬張るシルフィエッタが大変に可愛らしい。
俺たちに同行するようになってすぐに聞いたのだが、シルフィエッタの実家はとても貧しかったらしく、肉はほとんど食べられなかったそうだ。
それを聞いた俺やアイリスが率先してシルフィエッタに肉を食べさせ続けたので、最近では肉の美味しさを覚えたようだ。
「おなかいっぱいになったか? 食べられるならまだまだあるぞ」
「もうおなかいっぱいです」
シルフィエッタのおなかがいっぱいになったようなので食事を切りあげ残った肉串をマジックバックに入れておく。
小腹が空いた時にでも食べよう。
食事を終えたのでボッター商会へと歩いて移動する。
キョロキョロと街を見ながら歩く俺とシルフィエッタを見てアイリスは苦笑していた。
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