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第6章……復讐の勇者編

147話……異世界婚姻事情

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 国境を見つからないように超えてしばらく、ようやく教国に辿り着いた。

【万能感知】と【傲慢なる者の瞳】を併用するウルトに任せていたので危なげなく教国領に入ることが出来た。

『あと3時間ほどで到着します』
「了解、引き続きよろしく頼む」

 あと3時間ほどか……1人で過ごすには長いな。

 そうだ、【思念共有】を使ってソフィアとアンナ、あとはアンドレイさんに戻ることを伝えておこうか。

「クリード、ちょっと来てくれる?」
「ん?  なに?」

 シートを倒してウトウトしようかと悩んでいるとリンに呼ばれたので起き上がって後ろに移動する。

「どしたの?」

 近寄っていくとベラとイリアーナが神妙な顔つきで俺を待っていた。

「勇者様……お願いします。あたしをお傍に置いてください」

 ベラは深く頭を下げて懇願してくる。

 いよいよ来たか、俺の答えは……

「それなんだけどさ、俺じゃないとダメなの?  王国からの干渉は俺が跳ね除けるから自分で相手を見つけるとかじゃダメなのかな?」
「それは……」

 結婚したとしてもやることは変わらないなら結婚せずにやっても変わらないだろう。

「結婚するなら気に入った人がいいんじゃない?  それまでは俺が守るよ」

 どうせ結婚するなら俺みたいにぽっと出みたいな人間とせずにキチンと見極めた方が幸せになれるでしょ。

「クリード、それはちょっと違うわよ」
「違う?  なんで?」

 なにが違うの?

「自分の価値を分かってないのね……まずは勇者という立場。これだけで結婚したいと思う女性は多いのよ」
「立場……ねぇ……」

 ほかの勇者は全員俺が殺したから俺しか残ってないのもあるのかな?

「それにその力。女は強い男に惹かれるものよ」
「それは聞いたことはあるけども」

 なんか本能とかそんな話だよね。

「立場も力もあるクリードは世の中の女性からすると最高の相手なのよ。あたしはそんなことより貴方の性格が好きだけど」
「んあ、はい……」

 不意打ちはずるい……顔が熱くなってしまう。

「それに前も言ったでしょ?  あなたのような人は複数の妻を持つことは義務みたいなものだって」
「覚えてますはい……」

 だからリン、ソフィア、アンナの3人と、サーシャが了承すれば4人……十分だろ!?

「でもリンたちはその、なんというか……独占したいとかは思わないのか?」
「そりゃしたい気持ちはあるわよ。でもあたしとクリードじゃあ釣り合わない。だから数を揃えるのよ」
「なんじゃそら……」

 どんな計算なんだよ……

「ホントかどうか知らないけど大昔の勇者は20人の妻を迎えたとかなんとか聞いたことあるわよ?」
「にじゅ……」

 石油王かよ……いやこの世界では勇者の方が上……なのか?

「でもなぁ……俺ベラのことなんにも知らないし……」
「貴族なら当たり前よ。まぁ噂くらいは耳にするでしょうけど」

 俺は貴族じゃありません。

「ベラは貴族なのか?」
「あ、はい。地方の小さな男爵家の出身です」

 ベラは三女らしいので本来ならより上位の貴族の後妻、もしくはそれなりの商家に嫁ぐのが普通らしい。
 それが聖女となった事で一変、現状1番可能性が高いのは王族との婚姻らしい。

 それも第一、第二王子などではなく継承権下位の王族で結婚したとしてほぼ軟禁生活なんだとか。
 そうなると一生飼い殺し、そんなのは嫌なんだって。

「まぁそれもある意味では贅沢な悩みなんだけどね」

 俺も見たことあるけど今日のご飯も食べられるか分からない子供たちもいるからね。
 それに比べたら餓死の不安がない分マシかもね。

「分かっています……それでもあたしは誰かのために何かをしたい、聖女となった以上それができる力があるのに飼い殺しにされるのは……それくらいなら【聖女の祈り】を使って世界のために死にたかったです」
「そういうことよ。クリードが死なせなかったんだからその責任を取りなさい」
「えぇ……」

 どういう理論よ……誰か助けて……

 サーシャに助けてもらおうと視線を向けると目が合って頷いた。
 頼むサーシャ……

「クリード様と結婚して蟠りなくたくさんの人を助けることが出来る、これでベラさんは幸せですね」

 聖母のような微笑みでそんなことを宣うサーシャさん、違うのよ……

「それに……こういうのは言っていいのか分からないけど結婚してその……ソウイウコトをしたら聖女の職業を失うんじゃ?」

 そうやって聞いたけど……それじゃ意味無いんじゃ?

「職業と聖女固有のスキルは失われますがほかのスキルは残りますし協会との繋がりもありますのでできることは多くあると思います」

 そういうもんか……

「あたしたちもサポート出来るしね」

 リンたち……まぁもちろん俺もか、俺たちが協力すればだいたいのことは出来るか……

 つまり問題は無いってことね。

「だからクリード、貴方が受け入れられるかどうかよ」
「なるほどねぇ」

 ホントどうしたもんかね……

「あの……勇者様はあたしのことお嫌いですか?」
「いや?  というか好きとか嫌いとかより知らないし」

 好きになる要素も無ければ嫌う要素も無いよ。

「でしたらこれからベラさんのことを知っていけばいいと思いますよ」
「そんなもんよ。腹を括りなさい」
「えぇ……」

 あとは俺の気持ち次第ってことね。

「分かったよ……家族としてやって行ける様努力する。よろしくね」
「勇者様……ありがとうございます!」

 ベラは花が咲いたような笑顔で答えてくれた。
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