兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ

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夜のデートが切なすぎる件②

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待ち合わせは夕方の17時。
早月くんと待ち合わせているのは、水族館前にある広い公園の時計下。
そこに向かうと早月くんは既に到着していて、あたしは声をかける前にもう一度自分の顔を鏡でチェックした。

髪が乱れていないか。
軽くしてきたメイクが落ちていないか。
……って、何でさっきからこんなに入念にチェックしてるんだろ。
あたしは鏡を鞄に戻すと、早速早月くんに声をかける。

「早月くん!」
「!」

あたしが声をかけると、早月くんはすぐに振り向いて、「あ、世奈ちゃん」といつもの笑顔を浮かべた。
思えばお互いに私服姿でこうやって会うのは初めてだし、何だかちょっと照れくさい。
この前夕方に偶然出会した時はかわいらしいパーカーを着ていた早月くんだったけど、今日は白いTシャツの上に、上から下にかけて青いグラデーションになっているシャツを羽織っている。
 
あたしが早月くんの側まで足を運ぶと、早月くんがあたしの姿を見て、言った。

「…そう言えば、世奈ちゃんの私服姿見るのって今日が初めてだよね」
「あ、そうだね。どう?」
「うん。凄い可愛い!」

早月くんはそう言うと、「せっかくだから写真撮っていい?」なんて聞きながら早速スマホを構える。
別にいいっちゃいいけど、何だか恥ずかしいな。
今日あたしが着てきたのは、お気に入りの白いワンピースに、カーキのカーディガン。
…過去、元カレ達とのデートの時に結構褒められたワンピースだから、もうあたしの中ではこのワンピースは定番になっていたりする。
早月くんはあたしの姿を撮ると、やがて言った。

「じゃあ、行こ!…あ、ところで世奈ちゃん今日何時まで平気なの?」
「んー…今日は、別にわりと遅くなっても平気かなぁ。親(兄貴)が仕事で遅いから」
「…そうなんだ」

ちなみに兄貴には、今日は「美桜と夜の水族館に行く」と言ってある。
そして偶然にも兄貴は今日は遅番で、マンションに帰ってくるのは23時。
昼間のデートなら許してくれるけど、さすがに夜のデートは許してくれないから、誤魔化すしかなくて。
だけど今日は、ゆっくり出来る!
それにずっと行ってみたかった、夜の水族館だし!

でもあたしはふとあることに気がつくと、早月くんに言った。

「あ、ねぇ、水族館のチケットいくらだった?」

あたしが鞄から財布を取り出しながらそう聞くと、早月くんが言った。

「え、いやいいよ。お金いらない。これは僕が誘ったんだし」
「でも、水族館の入場料って結構高くなかった?確か普段でも二千円とか…」

…だった気がする。
動物園ならわりと安いのにな。
それに、この限定チケットだったらもっと高そう。
だけどあたしがそう思って気にしていても、早月くんは頑なに受け取ってくれない。
「奢らせてよ」なんて言うから、あたしはやがてその言葉に「そっか」と頷いて財布を鞄の中に戻した。
…確かに、前に元カレにもそう言われて、奢ってもらったこと、いっぱいあったな。

その後はようやく水族館の中に入って、2人で並んで館内の奥に進んだ。

…………

水族館の中は、いつも通り薄暗かった。
だけどその分水槽がライトアップされていて、綺麗で、まるで深海にいるみたい。
だいたい予想はしていたけど、水族館に来ているお客さんもカップルばかりで、なんだか雰囲気がどこにいてもそれっぽい。
…予想していたよりもはるかにロマンチックだな。

この水族館は超巨大な水槽が有名で、そこまでたどり着くと、その迫力に思わず声が出た。

「きれー…」
「海底から見上げてるみたいじゃない?」
「うん。それに、やっぱり昼間と違うね。魚が皆んな活発に見える!」

あたしはそう言うと、スマホでその巨大な水槽を撮る。
するとふいに視界の端にカップルが入って、なんとなくそこに目を遣ると…

「…!!」

大人のカップルが、一目も気にせずに大胆にキスをしていたから。
その光景に気がついて、思わず恥ずかしくなってしまったあたしは、慌てて目を逸らした。

「…っ、」

…やっぱり、油断しちゃうと、すぐ雰囲気持っていかれそう。
そう思っていると…

「…僕らもする?」
「!…え、」

その時。
ふいに隣からそんな声が聞こえてきて、そこを振り向けば。
いつのまにか、あたしの顔を覗き込んでいた早月くんの顔があって。
その言葉にもっと恥ずかしくなってしまったあたしは、赤くなっているかもしれない顔を隠すように目を背けて言う。

「あ…あたし達は、ほら…まだ恋人じゃないから」
「恋人じゃなくても、僕は世奈ちゃんが好きだよ」
「!」

そう言って、わざとなのか。
あたしと目を合わせようと、顔を覗き込んでくる早月くん。
よくそんな、恥ずかしいことをサラッと言えるよね。
だけどその瞬間、あたしは数日前に偶然聞いてしまった女子達の嫌な会話を思い出した。

『翔太くんが好き好き言ってる工藤さん?だっけ。その子のこと、翔太くん本気なのかな』
『まさか~。どーせいつもの気まぐれでしょ。翔太くんいっつもそういうこと繰り返してるみたいだし』
『翔太くんが好き好き言って一生懸命アピールするのは最初だけ。飽きたらポイなんだから。その気まぐれに泣かされた女の子、わんさかいるらしいし』

「…、」

『好きになったら終わりじゃん』

…その言葉を思い出して、何故かまた、胸がぎゅうっと締め付けられて苦しくなる。
早月くんがそう言ってくれるのは、今だけ…?
そう思ったら凄く気になってきて、あたしはこの際だから聞いてしまおうと口を開いた。

「あの、早月くんっ…」

しかし…

「あれ、翔太くん!?」
「!!」

その時、不意に聞き覚えのある声にそれを邪魔されて、話を遮られた。
…この声、どこかで…
その声に早月くんと一緒にその方向に目を遣ると、そこにいたのは同じ学年の女子達で。
その子達は早月くんの名前を呼ぶと、すぐに側まで駆け寄ってきた。

「え、偶然!早月くんもこの夜の水族館に遊びに来たの!?」
「あ、うん。まあ…」
「こんなところで会えるなんて嬉しい!せっかくだから一緒に回ろっ?」

その子はそう言うと、まるであたしなんかこの場にいないかのように早月くんの腕に自身の腕を絡める。
そして本気で連れて行こうとするから、早月くんが慌ててその子達に言った。

「あっ、ご、ごめん!今日は一緒に回れないんだ!」
「え、どうして?せっかくこんなロマンチックな場所で出会えたのに」
「今日は、僕世奈ちゃんとデートだから!」

早月くんははっきりそう言うと、あたしの手を握って、「だから、ごめんね」とその子達に言う。
…なんかちょっと優越感。
早月くんに断られたその子達は、一瞬驚いて悔しそうな顔をしたけれど、すぐに笑って言った。

「あ、なぁんだ~。ごめんね、翔太くん!」
「いや、わかってくれればそれで…」
「ってか工藤さんいたの?地味すぎて全然わかんなかった、」

そう言っておかしそうに笑うと、ふいに1人の女子が早月くんに近寄る。
そして何をするのかと思えば、わざとなのか、あたしの目の前でその子がはっきりと早月くんに言った。

「…じゃあ今度、またあたしのことも誘ってね」
「え、」
「だってこの前のデート凄く楽しかったんだもん。あ、それと、翔太くんの家にもまた行きたいな」

そう言って、「約束ね」と親しげに微笑みかけるから。
その直後にあたしを見て静かにほくそ笑むと、女子達がその場を後にしていく。

…“また”…?
…“この前のデート”…?
…“家”…?
………何それ。
ってか、早月くん、全然否定しない。
そうかと思えば、女子達がいなくなったあと、早月くんが言った。

「…酷いこと言うね。地味すぎてわかんなかったって」
「……」
「あ、世奈ちゃん気にしなくていいよ!あの子達より、世奈ちゃんの方が何百倍も可愛いから!」

早月くんはそう言うと、下を向いているあたしを励ます。
…だけど。

「…うそ」
「え、」
「嘘ばっかり」

あたしは思わずそんな言葉を口にすると、目の前の早月くんを見遣る。
一方、あたしのそんな言葉を聞いた早月くんは、キョトンとした顔。
全然、わかってないみたい。

「今のでよくわかった。早月くんって、色んな女の子に似たようなこといっぱい言ってるんだね。あたしだけじゃない」
「…世奈ちゃん?何言って…」
「好きだとか惚れたとかも全部デタラメ。全部嘘じゃん。全部、テキトー」
「っ…それは違う!僕が世奈ちゃんに惚れてるのはほんとだよ!テキトーに言ってるわけじゃない!」

あたしの言葉に、早月くんが真剣にあたしにそう言う。
だけど、それでも信じられなくなったあたしは、更に早月くんに言った。

「っ、じゃあ何で!?何で全然否定してくれないの!?」
「!」
「他の女の子とデートしたこととか、家に招き入れたこととか…あたしが目の前で聞いてるじゃん!せめて言い訳くらいしてよ!」

あたしがそう言うと、一方の早月くんはそんなあたしの言葉にちょっとびっくりした顔をする。
それに、さっきあたしが地味だって言われたのだってそう。
その場で助けてもくれなかった。
トイレで聞いたあの女子達の会話は、あながち嘘じゃないのかもしれない。
やがてあたしはもういたたまれなくなると、早月くんから離れて、走ってその場を後にした。

「!…世奈ちゃんっ…」

…………

そのまま走って逃げてきた場所は、さっきの場所から少し離れたところに位置するトイレだった。
普段は「使用禁止」になっているはずが、その看板を隠されていたことにも気づかずに、まんまと次の罠にも、あたしはハマって…。
個室に入るわけでもなく、トイレの隅の方で泣いていると、その時入口でさっきと同じ声が聞こえてきた。

「あ、意外と早かったね?」
「…!?」

その声に、慌てて顔を上げると、そこにいたのは…
さっき別れたばかりの、女子達だった…。









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