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京都旅行がタノシスギル件−悲−
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朝。
目が覚めると、何故か隣でもう既に出掛ける準備万端の早月くんが寝ていた。
「…」
京都に旅行に来て、今日で二日目。
ガラス張りのドアから射し込む朝の光が凄く眩しい。
…というか、何で早月くんは準備が出来ているのに寝ているんだろう。
二度寝しちゃったのかな。
あたしはそう思いながら、ふあ、と欠伸をして、スマホの時計を見る。
…今の時間、7時半。
確か朝ご飯は8時から…だったはず。
んん…起きれて良かったな。
あたしはまだ眠たいなか布団から上半身を起こすと、また一つ欠伸をした。
とりあえず先に顔を洗って来ようと布団から立ち上がって、寝ているうちに乱れてしまったらしい浴衣を整えて寝室から出る。
朝風呂に入りたかったけど、もうそんな時間はなさそうだな。
洗面室に行って洗顔をして、ちょっとすっきりしたところで、また寝室に戻って今度は鞄から着替えを取り出す。
別の部屋で着替えようかと思ったけれど……早月くんは寝てるんだし、別にいっか。
それでももしも突然起きた時のために、被っていた掛け布団で一応早月くんの顔を覆うようにかける。
すると早月くんは眠りが浅かったようで、眠そうな声で「…なに」と呟いた。
「あ、ごめん起こしちゃった?着替えるからちょっとそのままでいて」
「…なるほど」
あたしがそう言ってしばらくすると、また早月くんの方から小さな寝息が聞こえてくる。
多分早月くんは早く起きちゃって、あたしが寝ているうちに準備をして、支度が整ったあと、とりあえずあたしの寝顔を見ていたら自分もいつのまにか寝てしまった…という感じなんだろう。
あたしは着替えて軽くメイクを済ませると、まだ気持ち良く二度寝中の早月くんの掛け布団を取った。
「おはよ、早月くん」
「…ん」
…………
朝ご飯を食べてまた軽く支度をした後は、ようやく部屋を出て健や玲香ちゃんと合流した。
今日は4人で色んな場所を観光する予定だ。
そして何より、着物!今日は着物を着る日。
玲香ちゃんと早月くんが着物のレンタルのお店の詳細をスマホで見ている間。
その後ろで、ふいに健があたしに聞いてきた。
「…世奈お前昨日の夜のこと覚えてる?」
「え…お、覚えてるよ。ちょっと嫌なこともあったけど、お土産屋さん楽しかったね」
「…途中でいきなり寝落ちしたしな」
「ごめんって。だって…健といたら何か安心しちゃって。でも、確かにその後の記憶は全然無いわ」
「…」
「あ…健が、あたしを部屋まで運んでくれたんでしょ?ありがとね」
あたしはそう言うと、ふいに健から離れて玲香ちゃんと早月くんの話に入る。
何気に楽しみにしてたんだ、今日の着物。
だけどあたしの言葉を聞いたあと、一方の健はちょっと複雑そうにそっぽを向いた。
“健があたしを部屋まで……”
「…ちげーよ」
あの時…休憩所で世奈にキスしたあと、もう一回もう一回って止まらなくなってたら、世奈を探してた早月が通りかかったんだよ。
キスは多分バレなかったけど、早月が「世奈ちゃんは部屋に連れてくね」なんて言ってお姫様抱っこで連れてくから…完全に俺じゃない。
「…、」
「ね、こっちの店の方が種類豊富そうじゃない?」
「ほんとだ!じゃあこっちにする?」
「うん、それにちょっと安いしね」
しかしそんなこととは知らず、あたしはやがて二人とお店のいく先を決めた。
……本当に…知ら、ず…?
「…~っ、」
…………
その後、ようやくそのお店に到着して、あたしと玲香ちゃんは早速着物を着させて貰った。
玲香ちゃんは赤色の着物。
あたしはオレンジ色の着物で。
だけど早月くんと健は着物を着ないらしく、今は二人で時間を潰している頃だと思う。
そして、着物を着させてもらって、髪もまとめてもらった後。
玲香ちゃんと二人きりになった時、ふいに玲香ちゃんがあたしに言った。
「…世奈ちゃん」
「うん?あ、早月くん達に連絡入れないとね」
「その前に、ちょっと話があるんだけど」
「…え?」
「健くんのことで」
玲香ちゃんはそう言うと、いつになく真剣な表情をあたしに向ける。
健のことで、話?
あたしは内心少し嫌な予感を覚えながら、とりあえず「なに?」と問いかけてみる。
でも、問いかけたあと、玲香ちゃんが言った。
「世奈ちゃんは、早月くんと付き合ってるんじゃないの?」
「…え、」
「…実は、あたし転校してくるちょっと前に、見ちゃったんだ。早月くんと世奈ちゃんが、体育館で何回もキスしてるとこ」
「!!」
「それ見てあたし、“ああ、世奈ちゃんは早月くんと付き合ってるんだ”ってそう思ってた。だったら昔みたいな世奈ちゃんとの張り合いは出来ないなぁって。
…でも、世奈ちゃんと話していくうちに違和感を覚えてったの。世奈ちゃんは、健くんのことも大好きだよね?」
玲香ちゃんはそう言うと、少し悲しい顔をしてあたしを見つめるから。
あたしはそんな玲香ちゃんと真っ直ぐに目を合わせられなくなって、思わず下を向く。
…見られてたんだ。あのキスが。
あたしがそう思っていると、また玲香ちゃんが言う。
「…で、それ、昨日実は健くんに言ってみたの。早月くんと世奈ちゃんのキスのこと」
「!」
「でも、健くん知ってた。“知ってて一緒にいるの?”って聞いたら、“俺は世奈から離れるわけにはいかないから”って。“世奈が悲しむから”って。健くんが悲しい顔してた」
玲香ちゃんはそこまで言うと、泣いているのか、鼻をすする音が聞こえてきた。
すると玲香ちゃんは、あたしの目の前まで足を運んで…
「知ってる?健くんが世奈ちゃんを見てる時の目」
「…?」
「世奈ちゃんは気付いてないかもしれないけど、健くんは世奈ちゃんが例えば早月くんと話してる時、本当に悲しそうな目をしてるの。
きっと健くんは色んな我慢をしてるのね。でも世奈ちゃんが健くんと話してる時、健くんはそれを優しい目に変える」
「!」
「…世奈ちゃん。あたしが、何を言いたいのかがわかる?」
玲香ちゃんがあたしにそう問いかけた時、あたしはやっと玲香ちゃんと視線を合わせる。
でもやっぱり、玲香ちゃんは泣いていて。
目から大粒の涙を溢していた。
「…世奈ちゃんが、早月くんのことが好きなら、それを別に責めたりはしない」
「…、」
「だけどこれ以上、幼なじみだからって健くんに中途半端に近づかないでほしいの。
じゃなきゃこれ以上は見てられない。期待させるだけ散々期待させて、後で突き落とすようなことはもうしないで!」
そして、「世奈ちゃんがそんな人だとは思わなかった」と。
更に泣き崩れる玲香ちゃん。
一方のあたしは、玲香ちゃんのその言葉に、今まで自分が健にしてきたことを思い返した。
『抱いて、健』
『付き合っちゃえばいいのに!』
『あたし、健が…違うとこ行っちゃうの、やだよ』
『寂しすぎるんだもん』
『お願い、行かないで』
『あたし、早月くんと付き合おうかなぁって、思ってるの』
「…!!」
『ごめんって』
『世奈が嫌がるならしない』
…今まで、あたしばっかりが我儘を言ってきて、健にはずっと我慢をしてもらっていた。
それが心のどこかで当たり前みたいに思ってて、喧嘩になったって、健から謝ってもらってばっかり。
あたしがそう思っていると、やがてまた玲香ちゃんが言った。
「…健くんのことは、あたしが幸せにするから。絶対、あたしが笑顔に変えるから」
「!」
「世奈ちゃんはもう、今すぐ早月くんと付き合って、健くんから離れて!」
玲香ちゃんはそう言うと、真剣な眼差しのままあたしを見つめる。
その言葉に、あたしの中でふっと頭に過るのは昨夜に健からされたキスのこと。
あの時完全に“寝てるフリ”をしていたあたしは、そのキスを思い返した。
だって、健に玲香ちゃんのとこに行ってほしくなかった。
『で、世奈はほんまはどっちなん?』
『………兄貴、あたし、やっぱり…早月くんが、好き。
だけど、…健のことは、本当に誰よりも大好きみたい。
だって、ずっとそばにいてほしいし、誰にも奪われたくないの。
だからあたしは、健がいい』
あの時兄貴に言ったのは、早月くんじゃなくて健が大好きだという自分の気持ち。
だから、近いうちに健に伝えたかった。
そしてあたしが昨夜、健に言おうとしたのは…
『あ…あたしね、やっぱり早月くんと…』
“付き合わないことにした”
これが、正解。
そう言ったあとに、自分の気持ちをちゃんと健に伝えるはずだった。
でも、きっとそんなの今更だ。
いくら何でも虫が良すぎる。
これ以上健を引っ掻き回すわけにはいかない。
やがてあたしは心に決めると、玲香ちゃんの言葉に頷いた。
「……うん」
「…」
「あたし、もう健から離れるよ」
目が覚めると、何故か隣でもう既に出掛ける準備万端の早月くんが寝ていた。
「…」
京都に旅行に来て、今日で二日目。
ガラス張りのドアから射し込む朝の光が凄く眩しい。
…というか、何で早月くんは準備が出来ているのに寝ているんだろう。
二度寝しちゃったのかな。
あたしはそう思いながら、ふあ、と欠伸をして、スマホの時計を見る。
…今の時間、7時半。
確か朝ご飯は8時から…だったはず。
んん…起きれて良かったな。
あたしはまだ眠たいなか布団から上半身を起こすと、また一つ欠伸をした。
とりあえず先に顔を洗って来ようと布団から立ち上がって、寝ているうちに乱れてしまったらしい浴衣を整えて寝室から出る。
朝風呂に入りたかったけど、もうそんな時間はなさそうだな。
洗面室に行って洗顔をして、ちょっとすっきりしたところで、また寝室に戻って今度は鞄から着替えを取り出す。
別の部屋で着替えようかと思ったけれど……早月くんは寝てるんだし、別にいっか。
それでももしも突然起きた時のために、被っていた掛け布団で一応早月くんの顔を覆うようにかける。
すると早月くんは眠りが浅かったようで、眠そうな声で「…なに」と呟いた。
「あ、ごめん起こしちゃった?着替えるからちょっとそのままでいて」
「…なるほど」
あたしがそう言ってしばらくすると、また早月くんの方から小さな寝息が聞こえてくる。
多分早月くんは早く起きちゃって、あたしが寝ているうちに準備をして、支度が整ったあと、とりあえずあたしの寝顔を見ていたら自分もいつのまにか寝てしまった…という感じなんだろう。
あたしは着替えて軽くメイクを済ませると、まだ気持ち良く二度寝中の早月くんの掛け布団を取った。
「おはよ、早月くん」
「…ん」
…………
朝ご飯を食べてまた軽く支度をした後は、ようやく部屋を出て健や玲香ちゃんと合流した。
今日は4人で色んな場所を観光する予定だ。
そして何より、着物!今日は着物を着る日。
玲香ちゃんと早月くんが着物のレンタルのお店の詳細をスマホで見ている間。
その後ろで、ふいに健があたしに聞いてきた。
「…世奈お前昨日の夜のこと覚えてる?」
「え…お、覚えてるよ。ちょっと嫌なこともあったけど、お土産屋さん楽しかったね」
「…途中でいきなり寝落ちしたしな」
「ごめんって。だって…健といたら何か安心しちゃって。でも、確かにその後の記憶は全然無いわ」
「…」
「あ…健が、あたしを部屋まで運んでくれたんでしょ?ありがとね」
あたしはそう言うと、ふいに健から離れて玲香ちゃんと早月くんの話に入る。
何気に楽しみにしてたんだ、今日の着物。
だけどあたしの言葉を聞いたあと、一方の健はちょっと複雑そうにそっぽを向いた。
“健があたしを部屋まで……”
「…ちげーよ」
あの時…休憩所で世奈にキスしたあと、もう一回もう一回って止まらなくなってたら、世奈を探してた早月が通りかかったんだよ。
キスは多分バレなかったけど、早月が「世奈ちゃんは部屋に連れてくね」なんて言ってお姫様抱っこで連れてくから…完全に俺じゃない。
「…、」
「ね、こっちの店の方が種類豊富そうじゃない?」
「ほんとだ!じゃあこっちにする?」
「うん、それにちょっと安いしね」
しかしそんなこととは知らず、あたしはやがて二人とお店のいく先を決めた。
……本当に…知ら、ず…?
「…~っ、」
…………
その後、ようやくそのお店に到着して、あたしと玲香ちゃんは早速着物を着させて貰った。
玲香ちゃんは赤色の着物。
あたしはオレンジ色の着物で。
だけど早月くんと健は着物を着ないらしく、今は二人で時間を潰している頃だと思う。
そして、着物を着させてもらって、髪もまとめてもらった後。
玲香ちゃんと二人きりになった時、ふいに玲香ちゃんがあたしに言った。
「…世奈ちゃん」
「うん?あ、早月くん達に連絡入れないとね」
「その前に、ちょっと話があるんだけど」
「…え?」
「健くんのことで」
玲香ちゃんはそう言うと、いつになく真剣な表情をあたしに向ける。
健のことで、話?
あたしは内心少し嫌な予感を覚えながら、とりあえず「なに?」と問いかけてみる。
でも、問いかけたあと、玲香ちゃんが言った。
「世奈ちゃんは、早月くんと付き合ってるんじゃないの?」
「…え、」
「…実は、あたし転校してくるちょっと前に、見ちゃったんだ。早月くんと世奈ちゃんが、体育館で何回もキスしてるとこ」
「!!」
「それ見てあたし、“ああ、世奈ちゃんは早月くんと付き合ってるんだ”ってそう思ってた。だったら昔みたいな世奈ちゃんとの張り合いは出来ないなぁって。
…でも、世奈ちゃんと話していくうちに違和感を覚えてったの。世奈ちゃんは、健くんのことも大好きだよね?」
玲香ちゃんはそう言うと、少し悲しい顔をしてあたしを見つめるから。
あたしはそんな玲香ちゃんと真っ直ぐに目を合わせられなくなって、思わず下を向く。
…見られてたんだ。あのキスが。
あたしがそう思っていると、また玲香ちゃんが言う。
「…で、それ、昨日実は健くんに言ってみたの。早月くんと世奈ちゃんのキスのこと」
「!」
「でも、健くん知ってた。“知ってて一緒にいるの?”って聞いたら、“俺は世奈から離れるわけにはいかないから”って。“世奈が悲しむから”って。健くんが悲しい顔してた」
玲香ちゃんはそこまで言うと、泣いているのか、鼻をすする音が聞こえてきた。
すると玲香ちゃんは、あたしの目の前まで足を運んで…
「知ってる?健くんが世奈ちゃんを見てる時の目」
「…?」
「世奈ちゃんは気付いてないかもしれないけど、健くんは世奈ちゃんが例えば早月くんと話してる時、本当に悲しそうな目をしてるの。
きっと健くんは色んな我慢をしてるのね。でも世奈ちゃんが健くんと話してる時、健くんはそれを優しい目に変える」
「!」
「…世奈ちゃん。あたしが、何を言いたいのかがわかる?」
玲香ちゃんがあたしにそう問いかけた時、あたしはやっと玲香ちゃんと視線を合わせる。
でもやっぱり、玲香ちゃんは泣いていて。
目から大粒の涙を溢していた。
「…世奈ちゃんが、早月くんのことが好きなら、それを別に責めたりはしない」
「…、」
「だけどこれ以上、幼なじみだからって健くんに中途半端に近づかないでほしいの。
じゃなきゃこれ以上は見てられない。期待させるだけ散々期待させて、後で突き落とすようなことはもうしないで!」
そして、「世奈ちゃんがそんな人だとは思わなかった」と。
更に泣き崩れる玲香ちゃん。
一方のあたしは、玲香ちゃんのその言葉に、今まで自分が健にしてきたことを思い返した。
『抱いて、健』
『付き合っちゃえばいいのに!』
『あたし、健が…違うとこ行っちゃうの、やだよ』
『寂しすぎるんだもん』
『お願い、行かないで』
『あたし、早月くんと付き合おうかなぁって、思ってるの』
「…!!」
『ごめんって』
『世奈が嫌がるならしない』
…今まで、あたしばっかりが我儘を言ってきて、健にはずっと我慢をしてもらっていた。
それが心のどこかで当たり前みたいに思ってて、喧嘩になったって、健から謝ってもらってばっかり。
あたしがそう思っていると、やがてまた玲香ちゃんが言った。
「…健くんのことは、あたしが幸せにするから。絶対、あたしが笑顔に変えるから」
「!」
「世奈ちゃんはもう、今すぐ早月くんと付き合って、健くんから離れて!」
玲香ちゃんはそう言うと、真剣な眼差しのままあたしを見つめる。
その言葉に、あたしの中でふっと頭に過るのは昨夜に健からされたキスのこと。
あの時完全に“寝てるフリ”をしていたあたしは、そのキスを思い返した。
だって、健に玲香ちゃんのとこに行ってほしくなかった。
『で、世奈はほんまはどっちなん?』
『………兄貴、あたし、やっぱり…早月くんが、好き。
だけど、…健のことは、本当に誰よりも大好きみたい。
だって、ずっとそばにいてほしいし、誰にも奪われたくないの。
だからあたしは、健がいい』
あの時兄貴に言ったのは、早月くんじゃなくて健が大好きだという自分の気持ち。
だから、近いうちに健に伝えたかった。
そしてあたしが昨夜、健に言おうとしたのは…
『あ…あたしね、やっぱり早月くんと…』
“付き合わないことにした”
これが、正解。
そう言ったあとに、自分の気持ちをちゃんと健に伝えるはずだった。
でも、きっとそんなの今更だ。
いくら何でも虫が良すぎる。
これ以上健を引っ掻き回すわけにはいかない。
やがてあたしは心に決めると、玲香ちゃんの言葉に頷いた。
「……うん」
「…」
「あたし、もう健から離れるよ」
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