幼馴染が冷たすぎる件

みららぐ

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新しい家族と幼馴染

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「世奈、新しい家族だよ」

父親にそう言われて紹介されたのは、見知らぬ女の人と小学校高学年くらいのお兄ちゃん。
見慣れた家の中で見慣れない人たちを突然紹介されたあたしは、凄く戸惑って父親の背後に隠れた。

「ははっ。恥ずかしがってるのかな」
「大丈夫やで、世奈ちゃん。私はあなたの母親になるんやから、怖ないよ」

当時のあたしはまだ、近所の幼稚園に通う3歳の女の子。
母親はあたしが生まれてすぐに亡くなって、この新しい家族を紹介されるまではあたしと父親の二人暮らしだった。
その環境が、これから先ずっと続くと思っていた。

…………

新しい家族ができて、約一週間後。
あたしの家には、同じく当時まだ3歳だった健と、健の両親が遊びに来ていた。

「でも、世奈ちゃん良かったね。新しいお母さんが来て。これでもう寂しくないね」
「そうだね。お兄ちゃんもいるんだし」

18帖ほどのリビングで、“新しいお母さん”が作った料理を前に、健のお母さんとお父さんがそう言う。
健のお母さんが、隣に座るあたしの頭を優しく撫でる。
健のお母さんは、新しいお母さんが来るまであたしの母親役だった。
だからあたしは、幼稚園から帰るといつもお父さんが帰るまで健の家に預けられていたのに。
でもそれも、新しい家族が出来てからは無くなっている。

「男手一つで育てていくにはちょっと無理があったからね。良かったよ」
「うちの勇斗も、お父さんおらへんかったら不都合もいっぱいあったし良かったわぁ」
「相沢さんにはいっぱいお世話になって…本当にありがとうございます」
「いえいえ、私のところも同じ年のが一匹いますから、遊び相手がいて助かってましたよ~」

大人たちは食卓を囲んでそう言うと、お酒も交えて楽しく笑いあう。
あたしは健のお母さんの右隣で、新しいお母さんが作ってくれたハンバーグを食べ進める。
ご飯が終わったら健とお絵描きをする約束をしていたから、嫌いなブロッコリーやニンジンも頑張って食べた。

「ど?世奈ちゃん、美味いやろっ?」

そして、だいたい食べ終わった頃に、向かいに座る新しいお母さんがそう聞いてきたけど、あたしは「うん」とだけ言って目も合わせない。
すると代わりにあたしとは少し離れた場所に座っている健が、あたしの新しいお母さんに言った。

「ハンバーグ美味しいよ!」
「そ?良かったわぁ」

健はそう言うと、あたしと違ってニッコリ笑顔を浮かべる。
健は昔からいつも、誰にでも優しい笑顔を向けることが得意なヤツ。
人当たりがいい彼の両親に似たのかもしれない。
やがてハンバーグを食べ終えると、健があたしのところにやってきて言った。

「世奈ちゃん、お絵描きしよー」
「いいよ!」

そして、健には普段通りの笑顔を浮かべることが出来るあたし。
健にそう言われて、食卓から少し離れた同じリビング内のテーブルに二人で移動した。
テーブルの上には、新しいお母さんが用意してくれた画用紙とクレヨンが置いてある。

「世奈ちゃんのクレヨン、新しいクレヨンだね!」
「…うん」
「画用紙も新しいね!良かったね!」
「…うん」

…本当は、あたしの部屋にいつも使ってるのがあるんだけどな。
だけどそれは言わずに、とりあえず用意されたクレヨンを使って、何を描こうかと考える。
するとその隣で、考える暇もなくもうクレヨンを手に持って何かを描いている健。

「健くん何描いてるの?」

思わずそう言って画用紙を覗き込もうとしたら、何故かそれを健に阻止された。

「あっ、世奈ちゃんはまだ見ちゃダメ!」
「?」
「ちょっと待ってて」

健はそう言うと、あたしに見られないように画用紙の中心部を隠しながら何かを描いていく。
…仕方ないなぁ。何を描いたらいいかなぁ。
やがていっぱい考えた末、あたしは幼稚園にいるウサギさんを描くことにした。

…………

「できた!」
「!」

やがて、健がそう言って立ち上がったのは、あたしが好きなアニメのキャラクターを描いている時だった。
健はそう言うと、嬉しそうにあたしにその絵を見せてくれた。

「ね、世奈ちゃんもう見ていいよ!」
「?」

そう言って健に見せられたのは、とある家族の絵…いや、不器用ながらもあたしと新しい家族みんなの絵だった。

「世奈ちゃんの新しい家族の絵だよ!」

そう言って渡された画用紙には、お父さんも新しいお母さんも、新しいお兄ちゃんもあたしもみんなが楽しそうに笑っている。
その絵を見てちょっとビックリするあたしに、健がもう一枚、「見て!」と渡してきた。

「世奈ちゃんにお手紙書いた。読んで!」

そう言われて、真っ白な画用紙に大きなひらがなが並んでいるそれを渡される。

「すごい。健くん字が書けるの?」
「お母さんとよく練習してるの!」
「何て書いてあるの?」

だけどあたしはまだ当時字が読めなくて、健に読んでもらった。

「“せなちゃんへ
あたらしいかぞくができて よかったね
でも ぼくのいえにも いつもあそびにきてね
けんより”」

そう言って手紙を読んだ後、ちょっと照れくさそうに「はい」とあたしに手紙を渡してくれる健。
その瞬間に、健のお陰で何だか新しい家族と問題なく過ごせる気がして、あたしはやっと笑顔を浮かべた。

「あ、世奈ちゃん健くんに何もろたん?」
「えっとね、健くんが書いた絵とお手紙ー!」
「健くん優しいなぁ」

そして、あたしと健の様子を見に来た新しいお母さんにそう聞かれたから、あたしは素直にそれを見せる。
すると向こうの食卓から健のお父さんが「健、ラブレターか」なんて冷やかしたけど、「ラブレター」を知らないあたしと健は首を傾げた。

「らぶれたーって、なに?」

だけど目の前の大人たちは「まだちょっと早いな」なんて言って教えてくれない。

「小さいころから一緒にいる幼馴染か~憧れるねぇ」
「もしかしたら、健と世奈ちゃん将来お付き合いするかもよ?」
「いや、お付き合いどころか結婚とか…」
「ええ?でも大きくなったらお互い喋らなくなるのが現実だろ~」

「?」
「?」

食卓を囲む大人たちは口々にそう言うと、また楽しそうに笑いあう。
だけど当時のあたしと健にはその話の内容がよくわからなくて、二人で首を傾げていた。
でも、傾げていたら隣にいる健があたしに言った。

「世奈ちゃん」
「?」
「元気、でた?」
「え、」
「なんか、世奈ちゃんさっきまでずっと悲しいお顔してたから」

当時の健はまだ幼いながらも、あたしの環境の変化による戸惑いを見抜いていたようだった。

******

「けーん」

あの頃から約14年後。
あの時大人たちが言っていたように、本当に「お付き合い」しているあたしと健は、付き合って1カ月が過ぎた。
土曜日の部活帰りのソイツを呼び止めると、健は仲間たちから離れてあたしのところにやって来る。

「大活躍、お疲れ様!」

しかしあたしがそう言ってスポドリを手渡すと、その前に健が言う。

「あ、わり。さっき同じの貰った」

そう言って、あたしが手に持っているものと全く同じスポドリを鞄から出す。
え、は?マジ?…しかもまだ半分ほどしか飲んでないし。

「信じられない。彼女以外の女の子からプレゼント貰うなんて!」
「いやだってみんなタイミングいいんだよね。欲しい時にくれるっつーかさ」
「せめてあたしから貰うまで我慢とかできないわけ?」
「無理。干からびて死ぬ」

…いや、そりゃあ死なれたら困るけどさ。
あたしは健の言葉を聞くと、そう思いながら軽く口を膨らませる。

「…他に何貰ったの?」
「いや?特に。後は全部断ってきた」
「嘘~」
「ほんとだって」

しかしあたしがそう言って疑うと、健は自身の鞄の中を開いてあたしに見せてくる。
「ほら、何もないよ」って。…うん。どうやらそれは本当らしい。

「あーあ。午後から退屈だから健の家にでも行こうかなー」
「え、来んの?」
「ダメなの?“ぼくのいえにも いつもあそびにきてね”って言ったじゃん」
「それいつの話だよ」

健はあたしの言葉にそう言って顔をしかめるけど、でもあたしはあの時の健にかなり助けられたんだよ。
そんなことあんたは知らないだろうけど、あの時から少しずつ新しい家族を受け入れられていた気がする。

「…じゃあこのまま世奈も俺ん家行こ」
「うんっ」





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