幼馴染が冷たすぎる件

みららぐ

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小学校の思い出

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あれは確か、あたしと健が小学校二年生くらいになった頃の話。
まだあたしは健に冷たい態度をとられるようなことはなく、学校でも外でも夕方までいつも一緒にいた。
あたしは健のことがとにかく大好きだった。
学校にいる男の子は意地悪ばかりするけれど、健は他の男の子たちとは違っていつも優しかったから。
好きなお菓子も分けてくれるし、他の子からいじめられたら守ってくれるし、あたしが元気無かったら笑わせてくれるし、今思えばそれが初恋だったのかもしれないと思うほど大好きだった。
…が。その想いはある日健によって無残に打ち砕かれることになる…。

「健くん、今日あそぼ!」
「いいよ。何する?」

全ての授業が終わろうとしていた4時間目開始前の休み時間。
他の男の子たちと遊ぶ健に、とある一人の女の子が話しかけてきた。
彼女は当時同じクラスだった美貴ちゃん。
美貴ちゃんはクラスでとってもかわいい女の子だ。
美貴ちゃんが健を誘うと、当の本人である健は快く頷いた。
健は、この頃すでに女の子たちにすっごくモテていたから、あたし以外の女の子にそうやって誘われるのは別に珍しいことではなかった。
だけど、当時のあたしにはそれが全然面白くなくて…。

「だめ!」
「!」
「健くんは世奈のなの!世奈とずっと一緒にいるんだもん!」

なんて、あたしは事あるごとにそう言っては、健に言い寄ってくる女の子たちを追い払っていた。
だけどそれも、回数を重ねるといつまでも通るわけにはいかなくなる。
あたしがそう言って健の左腕にしがみつくと、その向かいで美貴ちゃんが言った。

「っ、なんでよ!健くんがいいって言ったんだからいいでしょ!」
「だめなの!健くんは今日世奈と一緒に遊ぶ約束してるの!」
「う、嘘!」
「ほんとだもん!」

あたしはそう言うと、「ね、健くん!」と健に同意を求める。
…一緒に遊ぶ約束なんてしてないけど。
だけどこの頃は、約束をしなくても一緒にいるくらい仲がよかったから、あながち嘘でもない。
あたしの言葉に少し困った様子の健は、少し考えたあと、言った。

「え、えっと…あ、じゃあ3人で遊ぶ?公園に、」

しかし、その健の提案を許さない美貴ちゃんが、すぐさま健に言う。

「だめ!世奈ちゃんもじゃなくて、健くんと2人で遊びたいの!」
「で、でも…」
「健くんは、あたしと世奈ちゃんどっちが好きなの?」
「!」

美貴ちゃんがそう言って健を問い詰めると、一方の健は返答に困ったように後ずさる。

「どっちが好きって…別にどっちかを嫌いなわけじゃ、」
「そういうことじゃなくて、今ここで世奈ちゃんとあたし、どっちかを選んでほしいの!」
「ええ~…」
「健くんはどっちと一緒にいたいの?」
「…」

美貴ちゃんがそう言うと、やがて健は後ずさる足を止めて、即答した。

「世奈ちゃんかな」

その直後、健は美貴ちゃんから平手打ちを喰らった。

…………

「健くん、大丈夫?」

そして、放課後。
一緒に教室を出た健に、あたしはそう問いかけた。
健は美貴ちゃんに平手打ちを喰らったあと、あたしと一緒に保健室に行ったから、右頬にはガーゼが当てられている。
あのあと美貴ちゃんは担任の先生に怒られていたけれど、特に謝って来なかったから反省はしていないようだ。
あたしが心配をすると、健は首を横に振って言った。

「ううん、平気。先生がね、きっとすぐ治るって」
「痛かった?」
「痛かったけど、でも世奈ちゃんのことは守ったよ」
「…」

…当時、幼いころから健は自身の両親から常々言われていたことがあった。
家庭環境がちょっと複雑なあたしがいつも隣にいたからか、健の両親が健に「世奈ちゃんのことをちゃんと守ってあげるんだよ」「健は男の子なんだから」と言われていたらしい。
そのためか両親の言うことをちゃんと守って、健はあたしのことを守ってくれていたのだ。
あたしはそんな健に「ありがとう」と笑顔を浮かべると、ふと良いことを思いついた。

「…あっ。ねぇねぇ健くん」
「うん?」

あたしはそう言うと、ぐっと口元を健の頬に寄せる。
そして、そのまま優しく…健の頬にキスをした。
した、直後だった。

「あーっ!今、工藤が健にチューしたー!」
「!?」
「!?」

その瞬間、聞きなれた男の子たちの声が廊下に響いた。
その声にあたしと健が後ろを振り向くと、そこには同じクラスの男の子たちがいた。
…最悪だ。もしかして今のを見られちゃったのかな。
コイツらはあたしと健が仲良くしていると、普段からよくからかって冷やかしてくるような奴らだった。
よりによってコイツらに見られてしまうなんて。
思わず2人で固まっていると、目の前の男の子たちが言葉を続ける。

「お前らほんとラブラブだなー」
「もう一回チューしてみろよー!」
「ほら、もっとくっつけ!」
「!?」

そしてあたしがウカウカしていると、そう言われて思い切り背中を押される。
目の前には健がいたから転ばなくて済んだけど、あたしはその反動で健に抱き着く形になってしまった。
しかしそれだけで更に男の子たちはヒューヒュー言い出して、あたしが思わず泣きそうになっていた時、健が言った。

「っ、お前ら世奈ちゃんに何するんだよ!」
「おっと健くん怒りましたー!」
「大事なお嫁さんを守っていまーす!」
「!!」

いつもは一言二言言われて終わるのに、今日はさっきのあのシーンを見られてしまったせいか、冷やかしがなかなか終わらない。
あたしが健に抱き着いてしまった体を少しだけ離すと、その直後にその集団のうちの一人が、健の肩に腕を回して言った。

「お前さ、いっつも俺たちの誘い断るけどまさか工藤と一緒にいるんじゃないよなぁ?」
「え、」
「公園でサッカーするの誘ってもお前いっつも“他のコと遊ぶから”とか言うけど、なんだ女子と2人でいんのかよー」
「いや、そんなんじゃ…」

だっせーなぁ、と。
そう言って、男の子が健のランドセルを後ろから叩くから、あたしは「やめてよ!」とそいつらに言う。
だけど…

「そんなに好きならお前から工藤にチューしてみろよー!」
「!?」

その時、また別の男子が、健にそう言って冷やかした。
そして、その言葉を皮切りに周りの男子たちが冷やかしのコールをしだす。
そんな酷い冷やかしに思わずあたしは泣きそうになって、健の背中に引っ付くようにして隠れる。
しかしその瞬間、いつもは助けてくれるはずの健が、まさかの言葉を口にした。

「す、好きじゃねーよこんな女!」
「…え、」
「こいつがビービー泣くから一緒にいるだけで、俺はこいつの子守りしてやってるだけだって!」

そう言って、「お前いい加減離れろよ!」とあたしを自身から突き放す。
そんな健のまさかの言葉にあたしが硬直していると、そのうちにその男の子たちからサッカーに誘われた健は、簡単にあたしから離れて行ってしまう。

「まっ…待って健くん!待って!」

だけどあたしが必死にそう言って呼び掛けても、もう健はこっちを振り向いてはくれない。
その日から健は、周りを気にしてかあたしにだけ冷たい態度をとるようになってしまった…。

…………

キスをしていた唇を離した時、目の前には再び健の姿が映った。
今はデートの帰り道。アパートの部屋の前まで、健があたしのことを送ってくれている。

「じゃあね、また明日学校で」

そして健はそう言ってその場をあとにしようとするけれど、あたしはなんとなくその後姿を呼び止めた。

「っ…待って!」
「?」

あたしがそう言うと、健がふと立ち止まって振り向く。
…あ。今日はちゃんと反応してくれるんだ。
そんな健に思わずあたしがそう思っていると、健がちょっと不思議そうに言った。

「…どした?」
「あ…」
「?」

…今でもたまに思う。
“あの時”振り向いてくれなかった健があまりにもショックだったから、この人はもしかしたらまたあたしのことなんて気にせずにどこかに行っちゃうんじゃないかって。
過去のシーンを思い出して思わず泣きそうになったとき、ふいに健が言った。

「…やっぱ今日はもう少し一緒にいるか!」
「!」







「…なんかお前泣きそうな顔してない?」
「!?…し、してないよっ」




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