あたし、ブサ男に恋してます。

みららぐ

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9:愛理さんと…デート?

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******

月曜日。
いつも通りの、学校。
…でも俺は先週ずっと休んじゃってたから、ちょっと久々の登校。
俺が教室に入ると、皆が心配してくれた。

「おーハル!久しぶりじゃん!」
「ハルくん、大丈夫?風邪でも引いてたの?」
「ん?う、うん。まぁ…」

……いや、ほんとは仮病だったんだけど。
俺は皆からの言葉を適当に交わすと、いつもの自分の席へと足を運ぶ。
…美希ちゃんはまだ来ていない。
そして、何気なく前の席の持田くんを見遣ると…持田くんも、まだ来ていなかった。

あれ?持田くんがまだなんて珍しいな。
いつもはもう来てるのに。
そう思いながら、俺が席をつくと…

「ハルー」
「!」

その時ふいに、由乃ちゃんが話しかけてきた。

「あ、おはよ由乃ちゃん」
「おはよ。ね、美希どうなってんの?」
「…え?」

由乃ちゃんはいきなり俺にそう言うと、美希ちゃんの席に腰を下ろす。
どうなってんのって?

「…どういうこと?」

その言葉に俺が首を傾げたら、また由乃ちゃんが言った。

「美希って、ブサ男のこと好きなんでしょ?」
「えっ!?」
「…あれ、ハル知らないの?」
「いや、知ってるけどっ…!」

何でいきなりその話!?
もうそれ出来れば聞きたくないよ!
…だけど、由乃ちゃんの話は止まらない。

「いや、あんたが休んでる時、美希がちょっとヤバイことになってさー」
「え、」
「この前、ブサ男と美希が二人で一緒にいたところを誰かが目撃したらしいの。で、美希にほんとかどうか聞いたら…」
「…聞いたら?」
「…うん。何か…認めた上に、なんかブサ男に惚れてるみたいな言い方したんだよねー」
「……」
「で、やっぱ惚れてるんだよね?」

その問いかけと視線に、俺は一瞬黙り込む。

でも…

「…そうなんじゃ、ないの?」

俺はやがて呟くようにそう言うと、由乃ちゃんから気まずく視線を逸らした。

すると…

「…あ、美希」
「!」

その時、ようやく美希ちゃんが登校してきて…
そんな由乃ちゃんの言葉に教室の入口を見遣ると、そこには美希ちゃんが入ってくるのが見えた。

……あ。
今、なんか、目が合った気が…。
……すぐに逸らされたけど。

美希ちゃんが近くに来ると、由乃ちゃんが、座っていた美希ちゃんの椅子から立ち上がる。
そこに寄ってきて、すぐに座る美希ちゃん。
…横目で美希ちゃんを見遣る俺。

ドキドキ ドキドキ

もう何年傍にいても、大好きな美希ちゃんを前にして少し緊張してしまうのは、変わらない。
美希ちゃんは至って普通にしてるけど…
そう思いながら静かに美希ちゃんの様子を見ていたら…

「…ねぇハル」
「!!あ、は、はいっ」

突如美希ちゃんが俺に声をかけてきて、言った。

「後でちょっと話したいことがあるの」
「!」
「昼休み、時間があったらちょっとだけ話聴いて」

美希ちゃんは俺を見ずにそう言うと、少しビックリする俺の返事を待つ。
その言葉に俺は「わかった」って返事をするけど…何の話だろう。今すぐ聞きたい。
俺が独りモヤモヤしていると、由乃ちゃんがさりげなく言った。

「…ブサ男、まだ来てないっぽいね」

そう言って、チラリと持田くんの席に目を遣る。
…え、それわざと?わざと言ってんの?
でもその言葉を無視するわけにもいかなくて、俺は引きつった笑顔で言った。

「そ、そうだね~…」
「…」

…由乃ちゃん、そういうのヤメテ。ほんとに。
俺の被害妄想なのかもしれないけど、美希ちゃん、怒ってる気が…。
しかし、そう思っていると…

「!」

その時突然、勢いよく教室のドアが開いた。
その音にビックリして、一斉に入り口に目を遣ると…そこには、慌てて来たのか息を切らした持田くんの姿があって…。

「…あ、持田くん。おは、」

おはよう。
俺がそう言おうとしたら、持田くんは真っ直ぐに美希ちゃんの元へと向かって来て、言った。

「みっ…菅谷さん!」
「!」

「俺…今度、デビュー出来ることになった!」

…!?

その突然の持田くんの言葉に、それを聞いていた皆が一斉にざわつき始める。
一方、それを聞いた俺は一瞬にして固まって…
最初は、持田くんが何を言ってるのかがわからなかった。

…デビュー…?
って…あの“デビュー”!?
え、何それ!!

「…う、うそ……本当!?」
「うん!昨日、あのあとライブしてたら男の人に名刺渡されて───…」
「…、」

持田くんの言葉に美希ちゃんもそう言ってビックリしてるけど、でもその話を聞いてる由乃ちゃんとか他のみんなは?状態。
って、当たり前だよね。
持田くんが歌手を目指してストリートミュージシャンやってることは、基本内緒だったんだから。

でも…何その突然の朗報。
いきなりすぎて俺も頭がついていけない。

「よかったじゃん!」

美希ちゃんはそう言って喜んでるけど…

「うん。いや、ほんと…よかった、」

なんか…持田くんは……あんまり嬉しくなさそう?に見える。
…俺の考えすぎかな。
俺がそう思って持田くんを見ていると、その時話を聞いていた由乃ちゃんが持田くんと美希ちゃんに言った。

「…ちょっと、二人でわけわかんない話進めないで。デビューってどういうこと?」

そう言って、眉間にシワを寄せて二人を見遣る。
そんな由乃ちゃんの言葉に、同じく話を聞いていたクラスメイト達もザワザワと集まってきて…

「そうだよ、なんだよデビューって」
「もしやブサ男が歌手デビュー?いや、キモすぎだから」
「ってかブサ男がそういうことすんの意外」
「ねーえー、デビューってどういうこと?詳しく聞かせて!」

口々にそう言って、持田くんに問い詰めてきた。
ああ…そんなこと教室で言っちゃうから…。
そして俺が助け船を出そうとしたら、その時持田くんが皆に言った。

「…ま、まだ先の話です。実は俺、少し前からストリートミュージシャンやってて…」
「え、マジ!?そしたらスカウトされたんだ!?」
「はい、」
「スゲー!!」

皆は持田くんの言葉に興奮気味に騒ぐと、一気に持田くんを囲み始める。
…あ、なんか、持田くんが一気に人気者になっちゃった。。。
そう思って今度は美希ちゃんに目を遣ると、やっぱり美希ちゃんは複雑そうな顔をしていた…。

…………

「すっかり人気者だね、持田くん」
「…うん」

その後、昼休みになると俺は美希ちゃんと二人で廊下に並んで、教室で尚も囲まれている持田くんを見てそう言った。
ついこの前まではこの昼休みとかだったら、持田くんは自分の席で静かに読書をしていたのに、今日はその隙さえみんなは与えてくれない。

「…なんか、立場が逆になっちゃった」

そんな持田くんを見て美希ちゃんはそう言って笑うけど…凄く悲しい顔してる。
俺は美希ちゃんのそんな悲しい顔を遮るように、今日もまた二人で生徒会室に向かいながら、言った。

「あ、そう言えば美希ちゃん、今朝言ってた話って何?」
「…ああ、」

美希ちゃんは俺の言葉を聞くと、階段をゆっくり下りながら話し出す。

「…昨日、久々にお父さんから電話がかかってきてさ、」
「うん、」
「お父さんね、来年に今の社長が定年退職したら、次の社長になるんだって」
「へぇ、凄いじゃん!」
「…うん、まぁそれは確かに凄いんだけど」

美希ちゃんのその話に俺は「すげー」を繰り返すけど、一方の美希ちゃんは不満そう。

…あ、そうだよね。
美希ちゃんは嬉しいわけないか。
お父さんが社長になったって、逢えないことに変わりはないんだから。
ってか、むしろもう本当に逢えなくなっちゃうだろうし。

俺がそう思っていると、美希ちゃんが言葉を続ける。

「…で、ここからが本題なんだけどね、」
「うん」
「お父さんとお母さんは、あたしに同じ会社に入社してほしいんだって」
「え、」
「だから…あたしももう三年だし、そろそろ就職とか進学活動とか…だし。その時になったら、同じ会社で働こうって」

昨日、電話でそう言われた。
美希ちゃんはそう言うと、何故か、ため息を吐いた。

…え、何そのため息。
それ、俺には良い話に聞こえるんだけど。

「っ、それ良いじゃん!だって、ずっとほったらかしだった美希ちゃんに、両親が一緒に働こうって言ってくれてるんだよ!?」
「…うん」
「そしたらずっと一緒にいられるし…なんだ、美希ちゃんのお父さんとお母さんは、まだ美希ちゃんのことを気にかけてくれてたんじゃん!」

俺はそう言うと、「良かったね、美希ちゃん!」って笑いかける。
でも美希ちゃんは笑うことなく、未だ不満そうに言った。

「いや…確かに、あたしも最初は嬉しかったよ。絶対二人と一緒に働こうって思ってた」
「じゃあ、」
「でも考えてみて。ずっとまともに会話すらしてなかった二人と、今更一緒に働いてあたしに何の得があるの?」
「!」
「何のメリットがある?ただでさえ二人がいる会社はすっごく忙しいじゃない。そこにあたしも行くの?お父さんやお母さんとうまくやっていけるかだって、そんなことわからないのに」

だったらあたしは…素直に心から働きたい会社に働きたい。
美希ちゃんはそう言うと、ようやく到着した生徒会室に入る。
そしてその言葉に、何も言えなくなる俺。

確かに…そう言われてみれば、そうかもしれない。
俺だってずっと美希ちゃんが寂しい思いをしてるのを見てきた。

でも…寂しかったぶん、二人と一緒にいてみるのもアリ…なんじゃないかな。
そういうわけにはいかないのかなぁ。
俺が美希ちゃんだったら、一緒に働きそうだけど…。
俺はそう思うと、美希ちゃんに言った。

「でも、他の会社に行ったって、上手くやっていけるかっていう不安は消えない。同じだよ」
「…」
「だったら…両親がいる会社の方が、少しは、安心して…働けると思うけど」

俺がそう言うと、美希ちゃんはまた独り、ソファーに座って考え込んだ…。

******

そして、それから約一週間後の週末。

今日は、愛理さんと会う約束をしている日。
近くの駅前で待ち合わせをして、俺が待ち合わせ時間5分前くらいにそこに到着したら、
そこにはもう既に愛理さんが来ていた。

「あ、ごめん待った?」
「…別に」
「今日どこ行く?」
「…どこでも」
「…」

愛理さんはスマホを片手にやっぱり無愛想にそう言うと、ふあ…と欠伸をしだす。
そんな愛理さんを前に、ちょっと疑う俺。

この人…ほんとに先週俺に「逢いたい」って言った愛理さんなのかな?
俺はそう思いながら、愛理さんに言った。

「じゃ、じゃあ…動物園とか行く?」

俺がそう言うと、愛理さんは黙って頷いた。
…か、絡みづらい!

…………

電車に乗って動物園に到着すると、そこは予想以上に混んでいた。
デート中のカップル、子供連れの家族、友達同士で来ているグループ…。
中には、手を繋いでイチャイチャしてて、動物を見ていないカップルも居て。

俺はそんなカップルから目を背けると、愛理さんに言う。

「な、何の動物から見ようか」
「…何でも」
「あ、じゃあ…馬ね」

俺は目の前に居る馬を指差してそう言うと、愛理さんより前を歩いてそこに足を運ばせる。
ああ…何話したらいいのかな。
ってか愛理さん、何も話してくんないし。
…あ、ってか、もしかしたら何も話さない空間の方が好きなのかな…。

俺はそう思うと、今度は何も言わないで黙ったまま馬を見つめてみる。
柵の向こうでは、馬が人参を食べてる。
隅っこには、寝てる馬も居て…。

ふいに愛理さんを見遣ったら、愛理さんはまたスマホを見ていて馬には興味無さげだった。

…次、行くか。
俺はそう思うと、今度は近くにいるシマウマに近づく。
俺の後ろには、黙ってついて来る愛理さん。
けど……シマウマにも興味無さげだ。
だけどずっと黙ったままなのも耐えきれなくて、俺は愛理さんにまた話しかけてみた。

「あ…愛理さんって、好きな動物とかいるの?」
「…」
「俺はねー、ペンギン好きなんだ。なんか、ペタペタ歩く姿が可愛くてさー」

俺がそう言うと、愛理さんはふとスマホから目を逸らし、俺を見上げて言う。

「…あたしも」
「え、」
「あたしも、ペンギン好き」

呟くようにそう言って、またスマホに目を戻す。
は…初めてまともに答えてくれた!
俺はそんな愛理さんに嬉しく思いながら、愛理さんに言った。

「あ、ほんと!?じゃあ、ペンギン見に行く!?」
「…ん」
「ここからだとちょっと歩くけど…せっかくだし見に行こうよ!」

俺がそう言ってペンギンがいるところへと歩き出すと、愛理さんが頷いてついてくる。
でも…やっと会話が成立したけど、やっぱりなんだか居心地が良くない。
相手が美希ちゃんだったら平気だけど、愛理さんにこんなに気を遣わなきゃいけないなんて…。
……もう少しくらい、何か話してくれたっていいのに。

そう思いながら二人で移動すると、やっとペンギンがいるスペースまで来た。
ペンギン達はやっぱりその独特な歩き方でペタペタ歩いていて、ほんとにカワイイ。
そして俺がペンギンからそっと愛理さんの方を見遣ると、愛理さんは今度はスマホは見ずにペンギンを見つめていて。

「可愛いね」って指を差して俺がそう言うと、愛理さんは少しだけ微笑んで「うん」と頷いた。
そうやって笑っていたら愛理さんも可愛いのにな。
俺がそう思っていたら、愛理さんが言った。

「…写真撮って」
「え、」
「ペンギンと写真撮りたい」
「ああ、いいよ」

愛理さんはそう言うと、手に持っていたスマホを俺に渡して、ペンギンの水槽に近づく。
俺はそんな愛理さんにカメラを起動すると、愛理さんに向かってカメラを向けた。

…でも。

「…あの、」
「何。早くして」
「もうちょっとくらい、笑ったら?」
「!」

俺はそう言うと、スマホの画面から愛理さんに視線を移す。
だって愛理さん、せっかく写真撮るのに全然笑わないしピースすらしないんだもん。

だけど俺がそう言うと、愛理さんが不機嫌そうに言う。

「別にいいでしょ。早く撮ってよ」
「…あい」

愛理さんのその言葉を聞くと、俺はため息交じりにシャッターを押した。

…………


その後も色んな動物を見て回って、それなりに楽しい時間を過ごした。
愛理さんは相変わらずずっと黙ったままだったけど…まぁ動物が可愛かったからよしとする。
そして動物園を出たあとは近くのファミレスで、二人で夕ご飯を食べた。
俺はハンバーグ。愛理さんは和風パスタ。

しばらくはお互いに黙って食べていたけれど、やがて珍しく愛理さんが口を開いて言った。

「…あの、あのさ」
「うん?」

ハンバーグを食べるのに夢中になっていたけど、俺はその声で顔を上げて愛理さんを見る。
目の前には、少し気まずそう?な愛理さんの顔。

「何?」

そんな愛理さんに俺が首を傾げたら、愛理さんが言葉を続けて言った。

「今日は…あ、ありがと」
「!」
「あんた…あ、いや、ハル君のおかげで、ちょっとは楽しめたよ」

愛理さんは珍しく素直にそう言うと、照れくさいのか、顔を赤くする。
…けど、“ちょっと”かよ。
でも俺はそう思いながらも、ハンバーグを食べる手を一旦止めて、言った。

「…うん。俺も、楽しかったよ。こっちこそありがとう」
「!」
「まぁ…慎也がいないから、どうなることかと思ったけどねぇ」

俺は冗談交じりにそう言うと、少し苦笑いを浮かべてまたハンバーグに手をつける。
うーん、絶品!
もういっこ同じの頼みたい。
そう思って今度は水を飲んでいると、愛理さんがまた口を開いて言う。

「ほ、ほんと?」
「?」
「ハル君も、楽しかった?」

愛理さんはそう問いかけると、少し前のめりになって俺を見つめる。
わ、近いっ。
俺はそう思いながらも、その問いに答えた。

「う、うん!楽しかった!また…来るのもアリなんじゃない?」
「!」

…ほんとはそんなこと思ってもないくせに、思わず口がそう滑ってしまう。
言った後には、時もう既に遅し。
あーあー、何で俺ってこういうことすぐ言っちゃうかなー。
俺はそう思うと、慌てて言った。

「あ!あー、でも、今度来るんだったら、慎也も呼ぼうよ!」
「…え」
「ほら、それなりの人数がいるとその分楽しさも倍増するし、それに……あ!ほら、ああ見えて慎也、動物園とか遊園地とか…そういう類の場所、好きだしさ(そんなこと聞いたことないけど)」
「…」
「お、俺は…その方がいいと思うな。…えっと、愛理さんと二人でってのも、ほんとに楽しかったけどね」

俺はなんとかそこまで言うと、必死で笑顔を保つ。
…愛理さんと二人で、ってのは正直居心地が悪かった。
ほんとは、もう二人でってのは避けたい。それが本音。

でも、俺がそう思いながら表面上でニコニコしていると、愛理さんが言った。

「…し、慎也くんは…呼ばなくてもいいよ」
「え、」
「あ、あの、あたしは…ハル君…と、二人で来たいなぁ…なんて」

愛理さんは呟くようにそう言うと、よっぽど恥ずかしいのか顔を真っ赤にして俯く。
って、今何て?
愛理さんの言葉に俺が固まっていると、ずっと冷めていた愛理さんが、ようやく本音を口にした。

「あたし…ハル君のこと、少し…ってか、凄く気になってるの」

「!」

「あ、えっと…こんなこと会って二回目で言うのも早い…かもしれないけど、緊張してずっと無愛想でいるのも嫌だから…ハル君にわかってほしくて。
あたし、元から素直じゃない性格だし緊張しいだからさ。ずっとハル君に嫌な思いさせてたかもしれないけど…
とにかく、この前初めて会った時にあたしハル君に一目ぼれしたの!かわいいなぁって!」

「!!」

え…ええっ!?
俺が愛理さんの言葉にビックリしていると、愛理さんが言葉を続けて言う。

「だから、ハル君さえよければ、あたしとまた二人きりで会って!」

そう言って、また顔を上げて俺を見つめた。

「…っ、」

けど……いきなりの展開に、一方の俺は何も言えなくなる。
愛理さんのその言葉を、俺は情けないくらいに口をぽかん、と開けて聞いていたけれど…

「や、やっぱり…ダメかな?」
「!」

そのうちに、そんな愛理さんの言葉に俺ははっと我に返った。

「あ、え、えっと…」
「…」

そして、うつ向く。
俺、女のコにラブレターを貰ったことは何回かあるけれど、こうやって直接面と向かって気持ちを言われたのは初めてだから。
少し迷った末…意を決して、言った。

「…ごめん」
「!」
「俺、他に好きなコがいるから。愛理さんの気持ちには応えられない」

そう言って、また「ごめん」と呟く。
なんだか凄く複雑な気分に襲われながらも俺がそう言うと、少しして愛理さんが言った。

「…ごめん、か」
「…」

呟くようにそう言って、小さくため息をつく。
その時の愛理さんの気持ちを思うと、俺は心が結構痛かった。
俺だって、大好きな美希ちゃんに振られた身だから。

だけど、それでも俺が少しの間黙っていると、やがて愛理さんが言う。

「……ん、わかった」
「…」
「ちょっとショック…だけど、好きなコがいるなら、仕方ないよね」

そう言って、気まずそうにうつ向く愛理さん。
その言葉に、俺は情けないながらも何も言えない。
愛理さんには本当に申し訳ないけれど……もちろん励ます理由もない。

俺が黙ったままでいたら、愛理さんがやがてその場から立ち上がって言った。

「…じゃあ、あたし帰るね」
「!」
「これ、パスタ代。ばいばい、」

愛理さんはそう言うと、逃げるように、店を後にする。
俺はその背中を見つめながら、深く、ため息をついた。
…ってか、あー…俺、また慎也に怒られちゃうな…。

…────でも。

その夜。
俺が寝る前に、ふと愛理さんからラインがきて、その時はっきりと言われた。

“あたし、ハルくんのこと諦めないから!”

思えばそれが、俺にとっての始まりだった。








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