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鏡子の心理とウワサ①
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そもそも事の発端は、広喜くんがあたしのマンションに勝手に侵入していたあの日から始まった。
「鏡子に今すぐ俺のとこに来てほしい」
だけどその言葉に絶対に頷きたくなかったあたしは、なんとかして広喜くんから逃げるタイミングを見計らっていた。
見計らって、ついに広喜くんの手に思い切り噛みついて逃げようとした…その時。
広喜くんがあたしを呼び止めるかのように、言ったのだ。
「っ…あいつと一緒になったら不幸になるぞ!」
「…は、」
「柳瀬っつったっけ。お前まだあいつのウワサ知らねぇんだろ」
広喜くんの言葉に、無視してそのまま逃げればいいのに、あたしは逃げる足を止めて広喜くんの方を振り向く。
そして、思わず聞いてしまった。
「…ウワサ、って?」
「こっちはその噂も承知の上で来てやってんのにさ」
「ちょ、ウワサって何」
「教えてもいいけど、お前俺から聞いたなんてあいつに言うんじゃねぇぞ」
あの日、広喜くんとそういう約束で、あたしは修史さんのウワサを聞くことになった。
なんでも広喜くんのバイト先に、修史さんと同級生の女のコや学年が一つ下の男の後輩がいたらしく、広喜くんの口から「柳瀬」という名字を耳にしただけでも二人は真っ青になったらしい。
二人は修史さんの話をしたくないらしく、聞いてもなかなか教えてくれなかったそうだけど、広喜くんがしつこく聞き出そうとすると、やがて二人は観念したように口を開いた。
「…ここから先は、その二人から聞いた話。一言で言うと、あいつ、柳瀬修史って男は誰もが認めるほどの悪魔だ」
「!」
『彼は悪魔そのものだったの』
「…、」
「いや、悪魔って言葉だけで留めておいていいのかすらわからない。
当時は、そいつのせいで学校生活をまともに送れなかった奴らがほとんどだったって。
同学年の奴はもちろん、上の学年の先輩からもカツアゲしたり、授業中は教室で野球にサッカーとかして授業潰して、いやそれだけならまだいい。まだ当時若かった女教師の授業中に男子生徒みんなで手出したり、…もう、犯罪が多かったって」
「…」
「けど一番残酷なのは、柳瀬本人は絶対に手を出さなかったことらしい」
「え、」
「仲間に指示するだけの柳瀬本人は、ずっと教室の後ろで黙って見てたって。荒れた教室で、泣き叫ぶ先生や生徒の姿を。だから、柳瀬が直接授業壊したりしないし、周りに手出させるのが柳瀬のやり方だから、ウワサばかりが行き交うだけで本人は特に学校で処分も何もなかったって」
広喜くんの話を聞きながら、予想以上の地獄のような話に、あたしは思わず背中がゾクリとする。
でも…なんか、なんかそれって…。
「それでも顔良しのスタイル良し、成績優秀にスポーツ万能、実家も金持ちだから女子生徒にはモテて、言い寄って来る女に片っ端から手出してたらしい。
もう何人妊娠させて中絶させてるかわからないって。鏡子お前その話知ってた?」
「っ…」
その話って、前にアユミさんが言ってたあの「彼の話」に似てるような…。
『彼はモテるから一人に絞らず色んな子に次々と手を出す』
『でも、それだけならまだいい方。昔は犯罪に手を出すような道具としても使われた』
…もしかして、「同一人物」じゃ…ないよね?
なんか、やだ。もう聞きたくない。
「…も、やめて。聞きたくない」
「あの二人から聞いてこんな話が出てくるってことは、本当はもっといっぱい色々あんだろうな。
っつか、あいつが想像以上に残酷な男で俺でもビックリしたわ」
お前もう逃げたほうが良くね?
広喜くんは、その悪魔と現在お付き合いをしているあたしにそう言うけれど、もしもそれが本当の話だったら別れたほうがいいに決まってる。
だって、信じたくはないけど…この話、アユミさんも同じようなことを言ってたわけだし。
…でも。
『普段から色んな噂立てられたりするんでしょ?』
『…あることないこと言われたりしたかな』
あたしは修史さんが当時から周りに色んなウワサを立てられたりしたことも修史さんから聞いて知ってるし、広喜くんの話を安易に受け入れることもしない。
「…勝手なこと言わないで」
あたしはそう言うと、自身のマンションを後にして修史さんのところに向かった。
…………
出来れば修史さんを信じたい。
だけど信じることにも限界を感じていたあたしは、あれからしばらく独り葛藤していた。
この際だから聞いてみようかな。
でも、もしもウワサが全部本当だったら…あたし、修史さんと一緒にいられる自信、ないな。
そしてそういうタイミングで…
「おめでとうございます。妊娠してますよ」
「…えっ」
なんとなく体調不良で病院に行ったら、検査の結果「妊娠5週目」と診断された。
その子はどう考えても、完全に、修史さんとの子供だった。
大好きな人との間にできた子供だから嬉しいのはもちろん、でもなんとなく修史さんには言えなかった。
『もう何人妊娠させて中絶させてるかわからないって。鏡子お前その話知ってた?』
その話を広喜くんから聞いた後なのに、言えるわけがなかった。
だけどそんな時、修史さんが北海道に出張に行っている頃…。
「あれ?鏡子ちゃん?」
「!」
あたしは偶然、「ある人物」と街で出くわしていた。
そもそも事の発端は、広喜くんがあたしのマンションに勝手に侵入していたあの日から始まった。
「鏡子に今すぐ俺のとこに来てほしい」
だけどその言葉に絶対に頷きたくなかったあたしは、なんとかして広喜くんから逃げるタイミングを見計らっていた。
見計らって、ついに広喜くんの手に思い切り噛みついて逃げようとした…その時。
広喜くんがあたしを呼び止めるかのように、言ったのだ。
「っ…あいつと一緒になったら不幸になるぞ!」
「…は、」
「柳瀬っつったっけ。お前まだあいつのウワサ知らねぇんだろ」
広喜くんの言葉に、無視してそのまま逃げればいいのに、あたしは逃げる足を止めて広喜くんの方を振り向く。
そして、思わず聞いてしまった。
「…ウワサ、って?」
「こっちはその噂も承知の上で来てやってんのにさ」
「ちょ、ウワサって何」
「教えてもいいけど、お前俺から聞いたなんてあいつに言うんじゃねぇぞ」
あの日、広喜くんとそういう約束で、あたしは修史さんのウワサを聞くことになった。
なんでも広喜くんのバイト先に、修史さんと同級生の女のコや学年が一つ下の男の後輩がいたらしく、広喜くんの口から「柳瀬」という名字を耳にしただけでも二人は真っ青になったらしい。
二人は修史さんの話をしたくないらしく、聞いてもなかなか教えてくれなかったそうだけど、広喜くんがしつこく聞き出そうとすると、やがて二人は観念したように口を開いた。
「…ここから先は、その二人から聞いた話。一言で言うと、あいつ、柳瀬修史って男は誰もが認めるほどの悪魔だ」
「!」
『彼は悪魔そのものだったの』
「…、」
「いや、悪魔って言葉だけで留めておいていいのかすらわからない。
当時は、そいつのせいで学校生活をまともに送れなかった奴らがほとんどだったって。
同学年の奴はもちろん、上の学年の先輩からもカツアゲしたり、授業中は教室で野球にサッカーとかして授業潰して、いやそれだけならまだいい。まだ当時若かった女教師の授業中に男子生徒みんなで手出したり、…もう、犯罪が多かったって」
「…」
「けど一番残酷なのは、柳瀬本人は絶対に手を出さなかったことらしい」
「え、」
「仲間に指示するだけの柳瀬本人は、ずっと教室の後ろで黙って見てたって。荒れた教室で、泣き叫ぶ先生や生徒の姿を。だから、柳瀬が直接授業壊したりしないし、周りに手出させるのが柳瀬のやり方だから、ウワサばかりが行き交うだけで本人は特に学校で処分も何もなかったって」
広喜くんの話を聞きながら、予想以上の地獄のような話に、あたしは思わず背中がゾクリとする。
でも…なんか、なんかそれって…。
「それでも顔良しのスタイル良し、成績優秀にスポーツ万能、実家も金持ちだから女子生徒にはモテて、言い寄って来る女に片っ端から手出してたらしい。
もう何人妊娠させて中絶させてるかわからないって。鏡子お前その話知ってた?」
「っ…」
その話って、前にアユミさんが言ってたあの「彼の話」に似てるような…。
『彼はモテるから一人に絞らず色んな子に次々と手を出す』
『でも、それだけならまだいい方。昔は犯罪に手を出すような道具としても使われた』
…もしかして、「同一人物」じゃ…ないよね?
なんか、やだ。もう聞きたくない。
「…も、やめて。聞きたくない」
「あの二人から聞いてこんな話が出てくるってことは、本当はもっといっぱい色々あんだろうな。
っつか、あいつが想像以上に残酷な男で俺でもビックリしたわ」
お前もう逃げたほうが良くね?
広喜くんは、その悪魔と現在お付き合いをしているあたしにそう言うけれど、もしもそれが本当の話だったら別れたほうがいいに決まってる。
だって、信じたくはないけど…この話、アユミさんも同じようなことを言ってたわけだし。
…でも。
『普段から色んな噂立てられたりするんでしょ?』
『…あることないこと言われたりしたかな』
あたしは修史さんが当時から周りに色んなウワサを立てられたりしたことも修史さんから聞いて知ってるし、広喜くんの話を安易に受け入れることもしない。
「…勝手なこと言わないで」
あたしはそう言うと、自身のマンションを後にして修史さんのところに向かった。
…………
出来れば修史さんを信じたい。
だけど信じることにも限界を感じていたあたしは、あれからしばらく独り葛藤していた。
この際だから聞いてみようかな。
でも、もしもウワサが全部本当だったら…あたし、修史さんと一緒にいられる自信、ないな。
そしてそういうタイミングで…
「おめでとうございます。妊娠してますよ」
「…えっ」
なんとなく体調不良で病院に行ったら、検査の結果「妊娠5週目」と診断された。
その子はどう考えても、完全に、修史さんとの子供だった。
大好きな人との間にできた子供だから嬉しいのはもちろん、でもなんとなく修史さんには言えなかった。
『もう何人妊娠させて中絶させてるかわからないって。鏡子お前その話知ってた?』
その話を広喜くんから聞いた後なのに、言えるわけがなかった。
だけどそんな時、修史さんが北海道に出張に行っている頃…。
「あれ?鏡子ちゃん?」
「!」
あたしは偶然、「ある人物」と街で出くわしていた。
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