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偽りだらけの彼女
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「ずいぶん泣いてたみたいだね?」
その声に、あたしは「まさか」と声がした方を振り向く。
すると、やっぱりマンションの入り口付近には、もうとっくの前に仕事に行ったはずの修史さんが立っていた。
「しゅ、修史、さん…」
「…」
まさか修史さんがマンションの前にいるなんて思ってもみなくて、あたしは思わずその場に固まる。
「ど、どうして…」
そしてあたしが呟くようにそう言うと、修史さんが、寄りかかていた壁から背中を離して言った。
「…黙って出ていくって発想は、さすがに無かったな」
「…」
「この前…このマンションに引っ越してきた日の夜に、俺に“ずっと一緒ね”って言ってくれたのは鏡子じゃん。
でも…偶然部屋でこれを見つけちゃったら、仕事なんて行ってる場合じゃないよね?」
修史さんはそう言いながら、持っていた通勤カバンのポケットから“あるもの”を取り出す。
そしてあたしに見せるようにそれを手に持つから、それを見た瞬間あたしはさらにビックリした。
修史さんがカバンから取り出したものは、さっきまであたしが探し回っていたバスのチケットだった。
「…!!な、これっ…」
しかしあたしがそれを返してもらおうと思わず手を伸ばすと、修史さんがチケットをあたしから遠ざけて、言った。
「返す前に聞いてい?」
「…っ、」
「これは、どういうこと?」
修史さんはあたしにそう問いかけると、またあたしにそのチケットを見せる。
だけどあたしは、今のあたしの全部を修史さんに知られたくなくて、誤魔化すように言った。
「あ…遊びに行くの!」
「…」
「その、バスのチケットに書いてある街にイトコが住んでてね、“遊びにおいでよ”って言うから、今日から数日くらい…」
「でも俺その話知らないけど?」
「い…言うの忘れちゃって」
「俺が今朝部屋出た直後結構長い時間泣いてたよね?」
「!」
…そっか。それを聞かれていたのか…。
あたしはそれに気が付くと、もう言い訳ができなくなって、思わず修史さんから目を背ける。
でもすぐに、修史さんに言った。
「…本当は、あたし修史さんと別れたいの」
「…」
「他に好きな人ができたの。ごめんなさい。だから出て行こうと思ったの。修史さん、直接話しても受け入れてくれなさそうだし。だから黙って出ていきたかったの」
「…」
そう言いながら泣きそうになって、また誤魔化すように修史さんから顔を背ける。
でも矛盾だらけのあたしの言葉を、修史さんはなかなか信じてくれない。
「…本当は?」
「だ、だから別れたいからだって…!」
「黙って出て行こうとするほど別れたいのに独りの時あんなに泣くんだ?」
なんとかして誤魔化したいのに、誤魔化しきれない。
修史さんはそう言うと、何も言えなくなったあたしをしばらく見つめて、今度は自身のスーツのポケットから何かを取り出した。
「…!」
…たばこ。
修史さんはたばこを1本取り出して口に加えると、その先にライターで火をつけようとする。
火をつけようとする、から…。
「っ…待って!」
「…」
あたしはそんな修史さんの手を、思わず手で掴んで止めた。
「…」
「…い、いま…話し中だか」
「妊娠してんだろ」
「!!」
掴んで、また何か言い訳をして誤魔化そうとしたら、修史さんがそう言ってあたしの言葉を遮る。
その瞬間至近距離で目が合って、正直「妊娠している」ことが図星なあたしは、修史さんから数歩離れた。
…だめ。もう誤魔化しきれない。
あたしがそう思っていると、修史さんが言葉を続けて言う。
「…エリナちゃんが言ってた。鏡子は妊娠してるんじゃないかって」
「…っ」
だめ。
そしてまだ言葉を続けようとするから、あたしは修史さんの言葉を遮るように言った。
「ごめん!」
「…」
「…修史さんには言いたくなかったの。ほんとは今でも言いたくない」
「…」
「あたし…広喜くんとの子供を妊娠してるみたいなの」
あたしは修史さんにそう言うと、でも修史さんの目を見て話す勇気はなくて、顔をうつ向かせたまま言葉を続ける。
「引っ越す前に、自分のマンションに帰ったら、合鍵を使って広喜くんがいたの。
修史さんに話した通り、あたし、広喜くんに抱かれたの。
全然抵抗できなくて、逃げても追いかけられて、あれから心配してたらやっぱりって」
そう言って、再度「ごめんなさい」と修史さんに謝る。
でもどうしよう…顔を見れない。
けど…あたしが黙っている間、修史さんがあたしの目の前まで来るのがわかる。
少しの沈黙が、あたしには耐えられない。
「こんな状態で、一緒になんていられるわけないじゃない。あたしは広喜くんの子を妊娠してるのに…」
…しかしあたしがそう言うと、やがて修史さんの手が何故か、あたしの頭に優しく乗っかる。
乗っかって、言った。
「そうだな。それは、正直に言えないな」
「…修史さん」
「……わかった。俺鏡子と別れるよ」
そう言って、あたしの頭からその手を退ける。
…信じて、くれた?信じてくれたんだ…。
しかし。その言葉にあたしが顔を上げて再び目が合うと、不意に修史さんが言った。
「…なんて」
「?」
「言うと思ったか」
「え、」
…修史、さん…?
あたしがほんの少し嫌な予感を覚えていると、修史さんがまた口を開いて言った。
「…正直、俺もずっとその心配をしてた。あの日、広喜くんにどこまでされたか鏡子に聞くのも怖かった」
「…」
「でも、ごめん。鏡子には黙ってたけど、この前広喜くん見つかって、ちゃんと警察に連れて行かれたから」
「…え、」
「広喜くん、言ってたって。確かに鏡子の体を触ったって。でも彼女には不意をつかれて途中で逃げられたって言ってたらしい」
「…っ」
「確かに不思議に思ってた。もし最後までやってたら、そのまますぐに俺のところに、来れるのかなって。だから多分、広喜くんは嘘を吐いてないと思う。まぁ…それ以前はどうなのかさすがに知らないけど」
修史さんはそこまで言うと、見破られた嘘だらけのあたしの目を見て、問いかけてきた。
「妊娠はその日が原因じゃないのは鏡子ももちろん知ってるでしょ。お前何隠してんの」
「~っ、」
「全部、正直に話して?」
その声に、あたしは「まさか」と声がした方を振り向く。
すると、やっぱりマンションの入り口付近には、もうとっくの前に仕事に行ったはずの修史さんが立っていた。
「しゅ、修史、さん…」
「…」
まさか修史さんがマンションの前にいるなんて思ってもみなくて、あたしは思わずその場に固まる。
「ど、どうして…」
そしてあたしが呟くようにそう言うと、修史さんが、寄りかかていた壁から背中を離して言った。
「…黙って出ていくって発想は、さすがに無かったな」
「…」
「この前…このマンションに引っ越してきた日の夜に、俺に“ずっと一緒ね”って言ってくれたのは鏡子じゃん。
でも…偶然部屋でこれを見つけちゃったら、仕事なんて行ってる場合じゃないよね?」
修史さんはそう言いながら、持っていた通勤カバンのポケットから“あるもの”を取り出す。
そしてあたしに見せるようにそれを手に持つから、それを見た瞬間あたしはさらにビックリした。
修史さんがカバンから取り出したものは、さっきまであたしが探し回っていたバスのチケットだった。
「…!!な、これっ…」
しかしあたしがそれを返してもらおうと思わず手を伸ばすと、修史さんがチケットをあたしから遠ざけて、言った。
「返す前に聞いてい?」
「…っ、」
「これは、どういうこと?」
修史さんはあたしにそう問いかけると、またあたしにそのチケットを見せる。
だけどあたしは、今のあたしの全部を修史さんに知られたくなくて、誤魔化すように言った。
「あ…遊びに行くの!」
「…」
「その、バスのチケットに書いてある街にイトコが住んでてね、“遊びにおいでよ”って言うから、今日から数日くらい…」
「でも俺その話知らないけど?」
「い…言うの忘れちゃって」
「俺が今朝部屋出た直後結構長い時間泣いてたよね?」
「!」
…そっか。それを聞かれていたのか…。
あたしはそれに気が付くと、もう言い訳ができなくなって、思わず修史さんから目を背ける。
でもすぐに、修史さんに言った。
「…本当は、あたし修史さんと別れたいの」
「…」
「他に好きな人ができたの。ごめんなさい。だから出て行こうと思ったの。修史さん、直接話しても受け入れてくれなさそうだし。だから黙って出ていきたかったの」
「…」
そう言いながら泣きそうになって、また誤魔化すように修史さんから顔を背ける。
でも矛盾だらけのあたしの言葉を、修史さんはなかなか信じてくれない。
「…本当は?」
「だ、だから別れたいからだって…!」
「黙って出て行こうとするほど別れたいのに独りの時あんなに泣くんだ?」
なんとかして誤魔化したいのに、誤魔化しきれない。
修史さんはそう言うと、何も言えなくなったあたしをしばらく見つめて、今度は自身のスーツのポケットから何かを取り出した。
「…!」
…たばこ。
修史さんはたばこを1本取り出して口に加えると、その先にライターで火をつけようとする。
火をつけようとする、から…。
「っ…待って!」
「…」
あたしはそんな修史さんの手を、思わず手で掴んで止めた。
「…」
「…い、いま…話し中だか」
「妊娠してんだろ」
「!!」
掴んで、また何か言い訳をして誤魔化そうとしたら、修史さんがそう言ってあたしの言葉を遮る。
その瞬間至近距離で目が合って、正直「妊娠している」ことが図星なあたしは、修史さんから数歩離れた。
…だめ。もう誤魔化しきれない。
あたしがそう思っていると、修史さんが言葉を続けて言う。
「…エリナちゃんが言ってた。鏡子は妊娠してるんじゃないかって」
「…っ」
だめ。
そしてまだ言葉を続けようとするから、あたしは修史さんの言葉を遮るように言った。
「ごめん!」
「…」
「…修史さんには言いたくなかったの。ほんとは今でも言いたくない」
「…」
「あたし…広喜くんとの子供を妊娠してるみたいなの」
あたしは修史さんにそう言うと、でも修史さんの目を見て話す勇気はなくて、顔をうつ向かせたまま言葉を続ける。
「引っ越す前に、自分のマンションに帰ったら、合鍵を使って広喜くんがいたの。
修史さんに話した通り、あたし、広喜くんに抱かれたの。
全然抵抗できなくて、逃げても追いかけられて、あれから心配してたらやっぱりって」
そう言って、再度「ごめんなさい」と修史さんに謝る。
でもどうしよう…顔を見れない。
けど…あたしが黙っている間、修史さんがあたしの目の前まで来るのがわかる。
少しの沈黙が、あたしには耐えられない。
「こんな状態で、一緒になんていられるわけないじゃない。あたしは広喜くんの子を妊娠してるのに…」
…しかしあたしがそう言うと、やがて修史さんの手が何故か、あたしの頭に優しく乗っかる。
乗っかって、言った。
「そうだな。それは、正直に言えないな」
「…修史さん」
「……わかった。俺鏡子と別れるよ」
そう言って、あたしの頭からその手を退ける。
…信じて、くれた?信じてくれたんだ…。
しかし。その言葉にあたしが顔を上げて再び目が合うと、不意に修史さんが言った。
「…なんて」
「?」
「言うと思ったか」
「え、」
…修史、さん…?
あたしがほんの少し嫌な予感を覚えていると、修史さんがまた口を開いて言った。
「…正直、俺もずっとその心配をしてた。あの日、広喜くんにどこまでされたか鏡子に聞くのも怖かった」
「…」
「でも、ごめん。鏡子には黙ってたけど、この前広喜くん見つかって、ちゃんと警察に連れて行かれたから」
「…え、」
「広喜くん、言ってたって。確かに鏡子の体を触ったって。でも彼女には不意をつかれて途中で逃げられたって言ってたらしい」
「…っ」
「確かに不思議に思ってた。もし最後までやってたら、そのまますぐに俺のところに、来れるのかなって。だから多分、広喜くんは嘘を吐いてないと思う。まぁ…それ以前はどうなのかさすがに知らないけど」
修史さんはそこまで言うと、見破られた嘘だらけのあたしの目を見て、問いかけてきた。
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「全部、正直に話して?」
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