親友の彼氏と、一つ屋根の下。

第3章「早速だけど家出がしたい」

泊めてほしい。

公ちゃんはあたしの顔を覗き込むと、心配そうな顔をする。
やっぱり公ちゃんは優しいなぁ。でも、

『本気でそう思ってんの？』
『やめとけよ。無理だよ、幼なじみと恋愛なんて』
『どうしたって、アイツは瀬川さんには振り向かない。さっさと諦めなよ』

その瞬間、今朝水野くんに言われたショックな言葉たちが脳裏を過った。

「…公ちゃんっ、」
「！」

するとあたしは、その水野くんの言葉を信じたくなくて、思わず公ちゃんに腕を回して抱き付く。

「…真希、」

公ちゃんはため息交じりにあたしの名前を呟くけど、あたしだってこう見えて辛いんだよ。
どうしたら振り向いてくれるの？
あたしがそう思っている間にも、公ちゃんは自身からあたしを離す。
また嫌な顔をされるかと思ったけど、公ちゃんは意外にも心配そうにあたしに問いかけてきた。

「…アイツと、」
「？」
「水野と、何かあった？」
「！」

そう問いかけて、あたしの頭にぽん、と手を遣る。
…何かあったってモンじゃない。
もうあの家には帰りたくない。
あたしはそう思うと、公ちゃんに言った。

「…水野くんが、」
「うん、」
「…いや、そうじゃなくて」
「？」
「……あたし水野くんに襲われた」
「っ、はぁ！？」

そう言って、また公ちゃんに抱き付く。
…言葉的にはちょっと大げさに聞こえるかもしれないけど、2回もキスされてるし間違ってはいないはず。
だけどその言葉に公ちゃんはびっくりしたような様子で、自身からあたしを離した。

「お、前…それっ……まじで言ってる？」

公ちゃんはあたしの言葉に戸惑っているようだけど、こういう言い方をすればさすがに今日泊めてもらえるかな？
その問いかけにもあたしが何も言わずに黙ってうつ向いていたら、やがて公ちゃんが観念したように言った。

「……わかった。いんじゃね？」
「え、」
「俺ん家来れば？」

そのあり得ない言葉に、一瞬思考回路が停止する。
公ちゃんは、あたしが水野くんに襲われたっていうのをきっと信じたわけではないはず。
さすがに嘘って、バレたかな。
公ちゃんの言葉にしばらくはただ目をぱちくりさせているだけだったけど、あたしはやがて満面の笑顔で頷いた。

「うん、行く！」

…………

そして、あたしは今日も公ちゃんと一緒に帰る約束をして、玄関で公ちゃんを待った。
でも何もすることが無くてヒマだったから、とりあえず水野くんに「今日は帰らない」ことだけをラインで伝える。
送信したあと、柱に寄り掛かってため息を吐いた。
バスケの練習でも見に行こうかな…。
そう思っていると…

「！」

水野くんにラインを送ってしばらくすると、スマホが一件のラインを受信した。
…水野くんからだ。
あたしはラインのトーク画面を開くと、早速それに目を通す。

『今どこ？』

どこ？って…

『生徒玄関』

あたしはそう打つと、またスマホを閉じた。
しかし、そのままスマホでゲームをしていると…

「おいコラ」
「！」