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第5話 不毛な新キャラ登場

今度は小人だ!

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「……和菓子と洋菓子、どちらが良いか聞かなければなりません……はっ、余は何を?」

 ようやく桃太郎は目を覚ました。

「何ちゅう寝ぼけ方やねん! 夢にしたってどういう状況やねん! 何で敬語やねん! いいから桃太郎、早く起きて!」

 アタシはちょっと取り乱していた。
 階下のSM戦争を子守唄に眠りについて──朝起きたらこのザマだ。

「見て、コレ! ヒドイやん!」

 気が付いたら、アタシの髪は耳の辺りでバッサリ切られていた。
 背中まであったから、20センチくらい持っていかれたことになる。

「寝てる間に女の髪切るなんて信じられへん! 最悪や、アンタ!」

「ま、待て。余は知らぬ」

 桃太郎、ようやく寝ぼけ状態から覚醒したようだ。

「シラ切る気? アンタ以外に犯人はおらん! それともアタシが他に恨み買ってるって言うん?」

「し、しかし余は……」

 アタシのあまりの剣幕に、桃太郎の顔は蒼白になっていた。

「アタシはなぁ、このまま警察駆け込んでも構わへんねん!」

 叫んだ時だ。扉をドンドン叩く音が。

「リカ? うるさいわよ。黙りなさい!」

 それは怒声だったが、アタシは姉の声を聞いて涙が零れるのを自覚した。
 ドアを開けて廊下へ転がり出る。

「お、お姉っ!」

「あら、随分サッパリ……」

 アタシはお姉の胸にしがみ付いて泣きじゃくった。

「どうしたんだい、リカちゃん。ネズミが出たのかい?」

 ボケたことを言いながら横から覗き込んでくるうらしまの顔面に、お姉の拳が打ち込まれる。


   ※  ※  ※

 階下の姉の部屋に行ってゴミの中で髪を整えてもらい、ようやくアタシは落ち着きを取り戻した。
 別に長い髪に執着はないけど、さすがにショックで涙出た。
 何せ寝てる間に髪を切られたわけだから、事態は深刻だ。

 桃太郎は頑として違うと言い張る。
 嘘は付いてない様子に、アタシ達は戸惑った。

「まぁ、落ち着いて。甘いものでも食べて」

 尻をボリボリ掻いた手でうらしまがお菓子を取ってくれる。

「あ、ありが……」

「あなたのその汚い手から食べ物は受け取りたくないわ」

 代わりにお姉が言ってくれた。
 それにしても辛辣だ、この人。

 うらしまはお姉にそう言われ、嬉しそうに「あふんっ」と叫んでる。
 こっちはこっちで、相変わらずのヘンタイやな。

「リカ、すぐに警察に行きましょう」

 姉の提案に、しかしアタシは首を横に振った。
 昨日そこから帰ってきたばかりなのに、また舞い戻りたくない。

「感電少女、髪抜ける、とか言われたら嫌やもん」

「ブフウッッ!」
 慰めてくれたらいいのに、お姉はそこで笑いをかみ殺した。
「そ、そうね。じゃあ、今日にでも住人にそれとなく聞いてみるわ。不審人物を見なかったかって」

 不審人物なら多すぎや。
 アタシは桃太郎とうらしまを横目で睨んだ。

 それにしてもこのボロアパートに住む人ってどんな奴なのか、ちょっと興味を引かれる。
 せっかくなので姉に聞いてみた。

「ここは1階2階、各4部屋ずつ。合計8部屋あるわ。1ー1はわたしの部屋。1ー2は男性が住んでるけど、ほとんど出てこないわね。1ー3は空き家で、1ー4は気持ち悪い系の男。それから……」

 2ー1はアタシの部屋で、隣りの2ー2には専門学校に通う女の子が住んでいるらしい。

「あっ、その子見たわ。引っ越してきた日にチラッと。ああ、早く挨拶に行かんと」

 2ー3も空き家で、2ー4は引きこもりらしい。

 部屋番号が学校みたいで面白いけど、それにしてもこのアパート、引きこもり多いな!

 別に変な人はいないと言う(姉目線で、ってところがポイントやけど)。
 アタシもどうでも良くなってきた。
 何やらどっと疲れが……。

「アタシ、ちょっと休むわ。とにかく犯人見付かるまで、桃太郎は部屋に入らんといて!」

「そんな! では余はどこで寝ればいいのじゃ」

 桃太郎がお姉に泣きつく。

「そんなこと言ったら可哀相でしょ、リカ」

「な、何の関係もないねんで、アタシとコイツの間には! アタシが面倒見る筋合いはないわ! お姉が世話したらいいやん!」

「お断わりよ。嫌に決まってるじゃない」

「あぐっ……!」

 桃太郎が呻く。

 すごい理不尽な思いをしながら、アタシは部屋に戻った。
 きちんと鍵をかけて、窓の戸締りも確認する。

「ああ疲れた、疲れた。ホンマにヒドイ目にあったわ」

 フトンに入ろうとした時だ──カリカリカリ。
 妙な音に気付いた。

「なに?」

 うらしまが言ったようにネズミが住んでるのかもしれない。
 何せ古い家だから。

 断続的に続くカリカリ音。
 押入れから聞こえてくる。

 そーっと押入れを開け、アタシはそこに信じられないモノを見た!

 桃太郎の勝訴ノボリが広げられ、その上に黒い糸みたいなのが大量に敷き詰められている。
 アタシの髪だということはすぐに分かった。

 それを絨毯代わりにして立つ──ソレ。

 人間の手の平サイズの小さな人。
 血色の良い頬に糸のような細い目。
 じーっとアタシを見詰めている。

「こっ……!」

 小人やーッ!
 小人に遭遇してしもたーッ!

 ちょっとドキドキしながらも、アタシはソイツに手をのばした。
 捕まえようとしたところでガブリと指を噛まれる。

「痛たたたッ! ゴメン。ゴメンって! 放して」

 すると小人はアタシの指から牙を抜いて、軽やかに床に降り立った。
 どうやらこちらの言うことは分かるらしい。

「ア、ア、アタシの髪切ったん、もしかしてアンタ……?」

 すると小人、クルリとこちらを向く。

「拙者、一寸法師でゴザル。そちら様は?」

 うわ、喋った!
 しかも声がえらくシブい。
 セッシャ? イッスンボウシ? ゴザル?

「──ちょっと待って。アタシの脳、許容範囲越えたわ」

 深呼吸してみる。
 スーハースーハー。よし、落ち着いた。

「アタシは多部リカ。アンタは一体? その、一体……?」

 とても一寸法師には見えない(いや、一寸法師を見たことはないけど)。

 小人は童話の中の西洋人のパジャマのようなワンピースを着ていた。
 緑色のフワフワの生地で、胸元にはリボンが付いている。

「拙者は一寸法師。言わば福の神でゴザル。誰にも言ってはならぬ。リカ氏(うじ)よ、そなただけの福の神でゴザル」

「ア、アタシだけの福の神……?」

 頭がボーっとしてきた。
 こ、これは希少価値の座敷童みたいなものかもしれない。

「リカ殿っ、今悲鳴が聞こえたぞよ。無事であるか?」

 扉を叩く音。桃太郎だ。
 怪しまれたらアカン──とっさにアタシはそう思った。

「な、何でもない。帰って、桃太郎」

「リカ殿、余には帰る所はない。ここしかないのじゃ」

 絶対ドアは開けない。
 固く誓ってアタシ。再び押入れを覗き込む。

 アタシだけの福の神。
 アタシだけの福の小人……。

 それからアタシは自分で言うのも何だけど、ちょっとおかしな行動を取るようになってしまった。



「6.不毛な信念 ~人類の2分の1は既に宇宙人だという強烈な確信」につづく
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