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第20話 不毛すぎる、アタシの一日

迫る危機感

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 日曜の朝、ゆるやかなまどろみが突然破られる。
 大声が響いてきた。何層にも重なって。

 まずはうらしまの例のやつ。

「あふんっ!」
「あっふぅん!」
「あぁっふぅっっんん!」

 夢の中でお姉に虐められて喜んでいるのだろう。

 小人の声も微かに聞こえる。
 誰のか分からないイビキも。

 その中で一際激しく叫んでいるのはかぐやちゃんの声だ。
 たまに朝早いねん、あの人。

「シーアイエスモデル40ジーエルグレネード・ランチャー! シーアイエスモデル40エージーエルオートマチック・グレネード・ランチャーッ! シーアイエスモデルエスエルダブルエージーエルオートマチック・グレネード・ランチャーッッ!」

 ……うわぁ、今朝はグレネード・ランチャー編や。
 大声で銃器の名前をひたすら、ただひたすら叫び続ける、
 ものすごく近所迷惑な人。
 一体何の訓練やねん。

 それでもゴロゴロまどろみ続けるアタシ。

 午前10時。ようやく目覚める。
 ああ、今日もいい天気や。

 30分ほど布団の中でゴロゴロ。
 横目で見ると部屋の隅に座り込んで桃太郎、寝ぼけ眼でパンかじってる。

 先程の騒音が嘘のようにアパート中がシン……と静まり返っていて、何だか心地いい。

 ああ、日曜って素晴らしい!

 尤も学校に行くワンちゃんと、サラリーマンのうらしまを除けば、このアパートは平日でも極端に朝が遅い。

 ゲーマーの性(サガ)でお姉は夜が遅く、従って朝はグーグー寝てる。
 かぐやちゃんも夜中に違法放置家電ゴミを漁るので、眠りにつくのは夜明けらしい。
 オキナもダラダラ暮らしている。この人、何で生計立ててるんやろ。

 カメさん来ない日は完全に寝静まっている午前のオールド・ストーリーJ館。

「アカンやん、アタシらっ!」

 こうやってみると、散々バカにし、蔑んできたうらしまを、逆に尊敬する思いや。

「リカ殿、ご飯を食べたら見回り隊の時間ぞ?」

「あぁ、もうそんな時間?」

 そこでアタシはようやくムクリと起き上がる。

 12時前。テレビを見ながら朝・昼食を食べ、ついついテレビを見すぎてしまう。

 2時前。ようやくアタシらは重い腰をあげた。

 アパート一周、街一周。
 桃太郎の世直しの旅(日帰り)や。

 近所の見回りといって良い。
 的確な表現をすればただの散歩だ。
 まぁ運動にもなるし、買い物がてらアタシも付いていくのが日課なのだ。

 4時くらいまで商店街をウロウロする。
 変な格好で、時に変な歌を口ずさみながら。

 完全に不審者や。しかも名物や。

 時々アタシと桃太郎は揉める。
 アタシが信号無視すると奴は怒るのだ。

「そちは屑人間か。社会の規範を守れい!」

「うるさいわ! アタシかて周りは見てるで。でも車通ってへんやん。そんな時は渡って当然やろ! 関西人はみんなそうしてんで!」

「おのれ、御奉行様の前に引っ立ててやるぞ!」

「お、御奉行様って警察のこと? も、もうイヤや。警察はカンベンして!」

 ダラダラと言い合いを続け、疲れてきたら近くの川原に向かう。
 散歩中の犬の相手をし「本物のワンちゃん」と名付けたりする。

 それからアパートに帰ると、うらしまが風呂場の屋根から声をかけてきた。

「おかえり。リカちゃん、桃太郎くん」

「ただいまぁ。修理か? ご苦労さん」

 そう、宇宙からのオレンジの光は隕石だったのだ。

 直径5ミリ弱の小さな物だったが、アパート風呂場の屋根は大破した。
 これだけの被害で済んだのは、むしろ奇跡的だったという。
 新聞にも小さく載ったし、近所の噂もものすごい。
 見物人が押し寄せる始末。

 アタシ的には感電少女の家だとバレないか冷や冷やものだ。
 だって何だか恥ずかしい。

 壊れた屋根は業者に頼むこともせず、うらしまが毎日コツコツ修理させられている。
 奴はご主人様(お姉)の役に立てると心底喜んでいるらしいから、アタシは何も口出ししてないけど……何か不憫な男やで?

 お姉と言えば、かぐやちゃんとのデートにさすがに懲りたらしい。

「あの方とのデートは、また別の機会に敢行するわ」と力なく言っていた。

 かぐやちゃん騒動が一段落し、アタシは久々に自室で穏やかな時間を過ごしていた。

「はぁ、せっかくトーキョー来たんやし、国技館で相撲見たいわ。そろそろ五月場所が始まるやん。アタシ、大阪では毎年行ってて、けっこう詳しいねん。なぁ桃太郎、聞いてる?」

 後ろを向いたら桃太郎、鏡を前にブラシで頭──特に頭頂らへんをペチペチ叩いている。
 頭皮を刺激しているようだ。
 真剣な表情で、アタシの話なんて聞いちゃいない。

「ももた……?」

 見ちゃいけないものを見てしまったようで、声をかけるタイミングを失ってしまった。

 ──コイツ、一体何歳なんやろ?
 ──ほんま、謎多き桃太郎やわ!
 ……このナゾはアレやな。解明するかせんか言うたら、どっちでもいい系やな。
 ……ほんま、もぅどうでもいいし何もかもどうでも……ふぁぁ、眠い……。

「ってアタシ、何やってんの! こんなんしてたらアカン!」

 ようやく気付いた。

 アタシ、駄目な暮らししてる。
 どんどん駄目な人間になっていく!

 アカン!
 アカンやん!


「21.さんすうのべんきょうからはじめよう!~アタシの脳ミソ→不毛?」につづく
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