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第25話 パンツを盗まれた!

桃太郎が指揮る不毛捜査(1)

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「早く……早く出てぇ~!」

 漏れる~ぅ、というセリフをかろうじて飲み込んだ時だ。
 2回連続して水を流す音が聞こえた。
 ようやくトイレットの扉が開く。

 アパートに2つしかない共同トイレットだから、時として(いや、かなり頻繁に)こういう事態は起こるのだ。

 悠々と出てきたのはかぐやちゃんだ。
 少し微笑んでアタシを見る──いや、アタシを通り越してすごい遠くを見詰めている。

「聞け。昨日久々にお腹いっぱい食べたからか、かつてない大きさのウンPがでた」

 すごく満足そうだ。

「そ、そうなん? よかったな…」

「ウム」

 頷いてかぐやちゃん、鼻歌口ずさみつつ庭に帰っていく。

 ……アタシ、今更ながらガッカリした。
 あの人、黙ってたらホンマに格好いいのに。残念すぎる。

 窓を全開にして用を足している最中だ。

「早くッ! 早くッ!」

 ドアがドンドン叩かれる。

「あぁぁ、ちょっと待ってぇ」

「待てないぃぃぃ! 早く出てぇぇぇ!」

「ひぇぇ、ごめん! すぐ出るから待ってぇな!」

 かぐやちゃんの堂々としたマイペースっぷりを見習いたいわ。
 あの人、どんだけ順番待ちしてても優雅にゆったりとウンPできる人やもん。

 小心なアタシはそういうわけにもいかず、慌てて出た。
 待っていたオキナに舌打ちと共に睨まれ、不満に思ったものの「ごめんなさい。お先でした」と頭を下げる。
 扉を閉めてからオキナの悲鳴があがった。

「臭ッ! あの女、ウンPしたな!」

 違う!

「違う。アタシ違う(ちゃう)のに……」

 何だか涙が出て、アタシはその場に力なく座りこんだ。
 程なくして出てきたオキナがアタシに躓く。
「ギャッ!」と悲鳴をあげて数歩よろめいてから、側に座り込んだ。

「ご、ごめんってば。さっきはボクもちょっと焦ってたからさ」

「アタシ違う(ちゃう)ねん…」

「分かったって。ね、昨日は大丈夫だった? やっぱりショックだったよね。今はどうしてるの? やっぱりノーパン? 仕方ないよね。パンツないんだもん……プッ! ど、どんな形であれ……ブフッ! ノーパン仲間が増えてボクとしては嬉しい限りだよ?」

「ち、違うわ。今ちゃんとはいてる。笑うな! それにアンタも最近は水色パンツはくようになったんやろ?」

「んー……? やっぱり締め付け感? 締め付けられ感? が許せなくて、気付けばパンツを脱いでたよ」

「そ、そうなんや。気付けば脱いでたんや……」

「残念。この機会にキミも目覚めたら良かったのに。ボクと同じノーパン主義に♪」

 目覚めてたまるか!

 昨日はホンマに散々やった。

 外れた肩は夜通し痛む。
 更に自転車から落ちた時に右足も傷めたらしい。
 足の甲にズキズキと激痛が走り、かるく腫れてる感もある。

 不安になって夜中に桃太郎を起こすも、きびだんごを一つ貰って慰められただけ。
 人ん家(ち)でグーグー気楽に寝ている桃太郎の寝顔を見ると、腹立ってしょうがない。

 何せパンツがないのが痛い。
 自転車遊びから帰ったらアタシのパンツ、全部盗まれた。
 昨日穿いてたやつ1枚しか残ってない。

 精神的疲労が激しく……しかもモヤモヤした思いが渦巻いて、昨夜はロクに眠ることもできなかった。

「お願い。パンツ貸して。洗って返すから」

 とりあえず夕べお風呂に入る時、お姉に頼んだ。
 すると姉は露骨に顔を顰めたものだ。

「貸してあげるわ。でも、返してくれなくて結構よ」

 気持ちは分かるけど、傷付く言い方やわ……。

 そして桃太郎の指揮下に捜査本部が(なぜかアタシの部屋に)置かれたのが、今朝のことだ。
 関係者一同、外出を禁じられる。
 有無を言わさず捜査本部の一員や。
 何でや。アタシは朝イチでパンツ買いに行こうと思ってたのに。

「皆の衆!」

 張り切って立ち上がった桃太郎。
 スーツ(上だけ)にメガネ、短パン姿は捜査指揮官としては滑稽な感じや。

「皆の衆に集まってもらったのは他でもない。知っての通り、昨日リカ殿の黄ばんだパンツが盗まれたのじゃ。一枚残らず持っていかれたのじゃ」

「き、黄ばんでへんわ! 真っ白や! アンタな、何回も言うけどアタシは16歳の乙女やで。失礼にも程があるわ!」

 押し殺した低い笑い声が地味に響く。
 オキナとうらしま、お姉が笑っているのだ。
 ひどい人たちや。

 ウケた、という思い。
 それが桃太郎を更に調子付かせた。

「容疑者はアパートの中の八人+αじゃ! 余が思うに、犯人はこの中におるやもしれぬ~!」

 中途半端なキメ台詞と共に、奴はアタシらを見回した。

 事件って言うな! これは楽しいイベント違うねん。

「まずは聞き込みを行うが良い、リカ殿」

「行うが良いって、人にさせる気か! 桃太郎、アンタいいかげんにして。人の非常事態を利用して遊ぶな!」

「ほ? そちも、こういうことが好きではなかったか?」

「む……」

 桃太郎とワンちゃんのデート(?)の際に尾行を楽しんだのは確かや。
 空想の中で刑事ごっこしてた。
 カメさんがうんうんと頷く。
 アタシが睨むとシュンとしたけど。

「良いではないか。余に任せよ。ともかく、事件の前後の状況を考えてみよう。リカ殿に恨みを抱く存在がおるやも知れぬのぅ。数多く……それはもう、数多くおるように思うぞよ」

「そ、そうやろか……」

 自信が揺らいでくる。
 桃太郎の言う通りかもしれん。

 アタシ、みんなに恨まれてたんかなぁ。
 大雑把な性格やし。
 人に迷惑かけても気付かないとこ、あるんかもしれへんなぁ。
 パンツを盗まれても仕方がない人間なんやろか。
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