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第26話 霊感少年G登場

不毛か呪いか、右足は骨折か?(2)

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「ぱたーん?」

 咎めるようにじーっと見られ、アタシは口ごもった。

「い、いや、こっちのことや」

 コイツが噂のヒッキーの1人か。
 むぅ、こんな怖い奴やったとは……。

「れれれ霊道って?」
 ワンちゃんの震える声。

 そうや、その話や!
 突然の霊感少年登場に、アタシはちょっと浮き足立っていた。

「においがしたでしょう」

「は? 臭い?」

「つよいれいはねぇときにきょうれつなにおいをはなつんだよぅ……」

 強い霊は時に強烈な臭いを放つものだと、Gは言う。
 長い年月、同じ所に留まっている霊もまた然りと。

「そういや入った時、この部屋ヘンなの臭いしたな。煙草の匂いみたいな。窓開けたから消えたけど」

 吸わない人間にとって、あれはキツイ臭いや。
 しかしうちのアパートには煙草を吸う人はいない筈。
 意外とみんな健康的やし。

「オキナ、アンタが吸ってんのちゃうん? 隣りの部屋やし、臭いがこもってもおかしくないわ」

「やめてよ。ボクは3ヶ月前に禁煙達成したんだから」

「ホンマか?」

「ホントだよ~」

 怪しい。

「じゃあ、かぐやちゃんは?」

「ワシが煙草を? まさか! 戦場で特有の匂いを残しては命取りに……」

「せんじょう? ああ……分かった。吸ってへんねんな」

 お姉でもうらしまでも、ワンちゃんでもカメさんでもない。
 ということは、この部屋で煙草吸ってたのは誰や?

「ゆゆゆ幽霊ですぅ!」

 ワンちゃんの叫びに、アタシらはざわついた。
 いわくつきのこの部屋、やっぱり出るんや。

 んん? 煙草吸ってるヤンキーの幽霊を想像して、アタシは一瞬混乱した。

「ちょっと待って。オカシイって! 煙草吸ってる幽霊が、アタシのパンツと桃太郎のズボン盗んで部屋に並べとくのか? その幽霊、一体何がしたいの?」

「………………」

 誰も答えられなかった。

 その時、アタシは目撃する。
 アタシらが凝視する中、窓が勝手にソロソロと開いたのだ。

 これこそ心霊現象かと肝を冷やしたものの、窓の外からニョキッと伸びた腕にすぐ気付く。
 「よっ」とかけ声をあげながら、ランドセル背負った男の子が窓枠を越えて入ってきた。
 慣れた様子で靴を脱いで、ランドセルから体操服(使用済)を取り出す。

 更に、次から次へとランドセルの子供が部屋に入ってきた。

「くっせ~~~っっ」

「おれのがくっせ~~~っ」

 汗ビショの体操服を振り回して遊びだした。

 キャハハハと何だか無邪気に笑っている。

 ようやくアタシらに気付いた様子。
 お互い硬直すること数分。

「ヒィー!」

「キェー!」

 思い思いの悲鳴をあげて、子供らは散っていった。

「ま、待てやっ!」
 アタシも窓枠を越えて追いかけようとしたものの、足が引っかかって庭に落ちる。
「あ痛っ! 右足がっ……!」

 騒ぎで舞い上がったパンツが、ヒラヒラとアタシの上に落ちてきた。

 結局パンツ泥棒は近所の悪ガキだと分かった。

 アタシのパンツに興味があったわけではなく、近所のボロアパートでの肝試しの一環だったらしい。
 一人ずつアタシの部屋に忍び込んでパンツを一枚取って、それを1─3に並べて帰るという企画。
 剛の者は、更にその部屋で汗臭い体操服を振り回して遊んだということだ。

 それが最近、この近所の小学生のブームになってたらしい。
 アタシがしたり顔で煙草の匂いとか言ってたのは、小学生の汗の臭いやったんやな。

「訴えてやるわ! うちのアパートを何だと思ってるのよ!」

 お姉はそう言って息巻いて出て行ったが、しばらくしてからグッタリした様子で帰ってきた。
 小学校に怒鳴り込み、校長に直談判。

 すぐに全校集会が開かれたらしい。
 校長が事件のあらましを全校生徒に説明し、そしてみんなが声を合わせて「大家さん、ごめんなさい。妹さんにもごめんなさい」と謝ったということだ。

「それ、晒し者にされただけやんか……!」

 お姉、力なく頷く。

「ハゲの校長が講堂で、大きな声で事件の説明をするのよ。その間中わたしは一人、壇上にパイプ椅子置いて座らされて……。わたしと校長以外、生徒も先生もみんな笑ってるの。特にパンツの件。あれは拷問だわ」

 さすがのお姉もこれはツラそうだ。
 ご主人のテンションに合わせてうらしまも落ち込み、それをカメさんが必死に慰めている。

「それよりリカ殿、足は大事ないか」

「いや、それが……」

 桃太郎に言われるまでもない。
 アタシは右足甲の激痛に耐えていた。
 これは……イッたかもしれんな。折れてるかも?

 騒ぎが収まってから気付いた。
 いつの間にか花阪Gの姿が消えている。
 部屋に戻ったのだろうと2─4の扉をノックするも、返事はない。

 まさかコイツが幽霊だったのか?
 そういうオチなのか?

 まことしやかに囁かれ始めた花阪G怪談説。
 しかし夜遅くに、パチンコの景品を抱えて、Gがのんびり戻ってきた。
 何やねん、このオチは!



「27.花阪G・妖精事件~不毛にツルっツル」につづく
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