追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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1章:オラガ村にやってきた侯爵令嬢

8.フレポジ男と過ぎ去りしロマンス

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 準備を早々に終わらせたケヴィンが庭で一息入れていると、礼拝堂に到着したシスティーナが挨拶に来た。

「ティナが来てくれたのか、助かる」
「いえいえ、ケヴィン様はお得意様ですからね、このくらいのサービスなんでもありませんよ?
…あら?結婚式用の服買い替えました?」

 会って早々毒を吐かれ苦々しい顔になるケヴィン。
先ほどとは違い結婚式用の正装であるため帯剣をしており、着替えたその服は確かに新しいものであった。

「ああ…前回のは汚れちまったからな…」
「殴りかかってきましたからね~あそこで反撃せずに盛大に殴られてあげたのはカッコいいと思いますよ?」

 商会長の爺、美人の孫娘を紹介するとか景気のいい事言っておきながら、その孫娘の方は既に彼氏持ちだったとか酷すぎる…
そしてその彼氏が商会長にビビって孫娘の婚約話に待ったをかけれないとその孫娘の方から相談を受けたケヴィン。
…涙ちょちょぎれそうだった。

「あ、そうそう、実は結婚式はついでで本命はこっちなんですけど…はい、お手紙ですよ?」

差出人の名前を見て察するケヴィン
封を開けて手紙を読む。

「…幸せそうで何より」

そういって手紙をビリビリ破き処分は風に任せにする。

「あら…よかったんですか?」
「縦読みもしたし、俺がすることは何もないみたいだからな」

 もしその彼氏が来なければ彼女を幸せにするのは俺だと宣言し、見事に敗北したケヴィン。
彼女が幸せなのであれば未練などない。
風に乗って旅に出る紙切れ達を眺めながらしみじみと言うシスティーナ。

「駆け落ち…懐かしいですね?」

その言葉でげんなりとしてしまうケヴィン。

「ああ…駆け落ち先での結婚式の当日に花嫁が指輪とドレス持って逃げなければいい思い出だったのにな…」

 セイルーン教国は昔とある邪教に陰から支配されている時期があった。
システィーナは持ち前の癒しの魔法が抜きんでていたことが災いしその邪教徒の目に留まってしまったのだ。
邪教の儀式にて邪神に捧げるための生贄にシスティーナが選ばれた事を偶然知ってしまい、幼い頃から育った教会を抜け出す決心をした。

 初めて街…そこで偶然出会ったのがケヴィンだったのだ。
キョロキョロと辺りを見ながら歩くシスティーナはケヴィンにぶつかり倒れてしまう。
それを起こそうと手を伸ばしたケヴィンは…そのままシスティーナに求婚した。

 突然の事で混乱するシスティーナだったが、ケヴィンの食事をご馳走してくれるという提案に乗ってついて行ってしまった。
永遠と口説いてきて軽薄な男だとは思ったがこの状況が利用できることに気が付いた。
ケヴィンの口説き文句に本気になったように見せティナという偽名を教えこの街から一緒に逃げてほしいと提案してみたのだ。
流石に絶対無理だろうと思っていたのだがまさかのOK。
ケヴィンは仲間に置手紙を残しそのまま二人で街を後にしたのだった。

"俺は愛のために旅立つ、探さないでくれ"

この手紙を見た仲間たちはさぞかし頭を抱えただろう…

 世間知らず14歳のシスティーナにとって冒険者をやっていたケヴィンは学ぶべき事の多い存在であった。
旅での生活方法、ヒーラーの役割と立ち回り、自衛の手段、町に寄ってからは買い物の方法、物の価値、世間の常識まで様々なことを全てケヴィンに教わったと言っても過言ではなかった。

 最初はシスティーナもこの人に穢されるのだろうなと思いながら、それでも邪教の儀式で心臓を抉られるよりまだまし、とついてきたはずだった。
だが、ケヴィンはやるとしたら着替えを覗こうとするくらいで馬鹿みたいに誠実に接してきたのだ。
顔だちも鼻の下が常に伸びているくらいで他の男と比べると整った顔立ちに見えたのもあり、隣にいることがまんざらではなくなっていた。

 だからというわけでもないが、何度目かの求婚にイエスと答えた…
恋や愛ではなく、この人が本気で自分の事を幸せにしようと考えているのがわかるから。
名を変え、結婚して、ほとぼりが冷めたころにこの人の故郷だという田舎で暮らし、そこで骨をうずめる…
自分が散々治療してきた…涙を浮かべながら神と自分に感謝を伝えてきた少女たち…
それが邪神の贄とし凌辱され殺してくれと懇願しながら生きたまま心臓を抉られていた。
その事を知った自分に与えられるとしたら十分すぎる幸せだろう…

 そして、二人でコッソリと挙げようとしていた結婚式を迎えるある日…
邪神教の魔の手がその教会にも伸びていることを知ってしまったのだった。

「逃げるのに利用したのは悪いと思いますが、夜逃げはケヴィン様を邪教信者の手から守るためですからね?
あと、財布も盗みましたしマジックバックに関してはいまだに借りパクしてますからね?
3日ほど神に許しを乞うためにお祈りもしたんですよ?」
「日数は聞きたくなかったよ…」

あっけらかんと言い放つシスティーナに呆れるケヴィン。

三日、正確には三日三晩…

 暗い森の中で一人、食事も水も喉を通らずひたすら泣きながら懺悔を繰り返したシスティーナ。
この森で自分は朽ち果てるのだろうとそう思っていたシスティーナを助けたのは、皮肉にも騙したはずのケヴィンから教わった知識だった。
森の中を狩りや採取で生き延び強引に突っ切り、ようやく見つけた町で名前を変えて冒険者となり、他のパーティーに寄生して生きた。
自分の立ち回りに文句を言ってくるパーティーや、しつこく言い寄ってくる男のいるパーティはすぐに乗り換え、人々を救済する修行の旅という名目で各地を転々とする生活をしていたのだ。

 次に会ったときに、システィーナは自分を邪教の魔の手から救ってくれた人に恋をし…
ケヴィンには婚約者がいた…

ただそれだけの話だ…

 自分が恋した相手とケヴィンが親友だったことには焦ったが、金目のものを持って逃げ出したシスティーナに対してもう婚約者がいるからと鼻の下をのばして自慢してくるケヴィン。
システィーナにはそれが救いだった。

 その後、結婚式はぎっくり腰で来れなくなった司祭の代わりにシスティーナが執り行ったが…
式の途中で乱入してきた男と婚約者が真実の愛を求めて逃げ出した時、思わず吹き出ししこたま怒られたのはいい思い出だろう。

「なあティナ、やっぱり俺と結婚したいって言うんだったら今が最後のチャンスだぜ?」

毎回結婚式の前に聞いてくる決まり文句、この最後のチャンスは一体何回めぐってくるのだろうと思いつつ回答は決まっている。

「想い人がいるので申し訳ありませんがお断りいたします」
「それは残念…」
「ケヴィン様…毎回それが失敗する原因なのでは?」
「…そうかもしれん」

 システィーナは何故だか今回の結婚はうまくいくという予感があった。
愛されるという事を教えてくれた人…
本当に最後かもしれないその人の求婚を胸を張って断ることが出来た。
自分にそれだけの想いを抱ける人を持つことが出来たことを誇りに思うシスティーナであった。

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