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1章:オラガ村にやってきた侯爵令嬢
15.追放令嬢の過去
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ケヴィンは三杯目に入ったところで切り出すことにした。
酒がまずくなることは確実だろうが聞かないわけにもいかない。
「聞いてもいいか?」
一呼吸の後、苦々しいという表情で言葉を返す。
「殿下との事…ですね?」
ケヴィンとしても聞きづらい事ではあったがエルシャは察してくれた。
"聞いてもいいか?"と尋ねたが、意味合いとしては"教えてくれなくては困る"だ。
「なんだか順番が逆な気がするのですが…」
困った風に続けるエルシャ。
本来は状況を知ってから婚姻を結ぶのが筋ではあるが、だからと言って今更神前で誓った婚姻を破棄などできない。
「美人に弱いから安心してくれ。」
ケヴィンは気休めを言うことにした。
まあ、エルシャほどの美人であれば余程のことが無い限りひいき目で見てしまうのは確実なのだが…
美人と言われ動揺するエルシャにおや?と思う。
「そ、それから…その…少し近いような…」
気が付いたらエルシャの肩に手を回し引き寄せていた…
「この後の事を考えると少しは慣れてもらわなきゃならないからな…」
ケヴィンが自画自賛したくなるほどの完璧な言い訳を言い放った。
うん、決して酒でいい気分になってうっかりスケベ心が出てしまったからではない。
「!!………はぃ」
顔を耳まで真っ赤にさせて俯いてしまうエルシャ。
(不貞を繰り返した…ねぇ)
この初心な反応を見るに、仮にこれが演技で本当に不貞を繰り返していたのであったとしても、ケヴィンにはそれを見破る事など一生かかっても無理だろう…
一生かかっても無理なのだからもはやそれはやってないのと同義…
むしろ、このめちゃくちゃ可愛い演技ができるのであれば今後の夫婦生活で大いに活かしてほしい!
…とよくわからないことを考えていると、エルシャの自分語りが始まった。
―――――――――――――――
サレツィホール侯爵家の長女、名はエルシャルフィール・フェルエール・フォン・サレツィホール。
家族は父の侯爵とエルシャを産んだ母、上に腹違いの兄、下に同腹の妹。
侯爵の前妻は兄が幼い頃に病気で死別しており、後妻としてエルシャの母が嫁いできた。
後妻が自分の子を跡取りにするために前妻の子を家から遠ざけようとするというのは貴族家ではよくあることだが、幸い兄と母の関係は良好である。
どうやら前妻は母親と親友同士だったらしく、先が短いと知った前妻が侯爵との仲を取り持ったのだという。
母も戦で婚約者を亡くしたばかりで悲しみに暮れていた時だったのだとか。
そして、妻を亡くした侯爵はそれから一年後に前妻との約束を果たす形で母と結婚をしたのだ。
そんな経緯があるため母親を失ったばかりの兄に対してはその母親の代わりとして、そして同時に侯爵家の跡取りとして厳しく接していったのだ。
そんな母であったが、出自は現国王の弟の娘…つまりは王家であった。
エルシャの名のフェルエールというのは母が降家した際に現国王より与えられた名であり、その娘であるエルシャにも受け継がれたのだ。
この王家の血筋が理由に母が身ごもった時、国王が子に恵まれなかったこともありその子を次期国王に据えるという案も出た事もあったのだとか。
しかし、その話も直後に国王の妻の一人が身ごもったことと、母から産まれたが女子…エルシャだったことでその話は立ち消えになった。
ただ、度重なる戦で財政がひっ迫していた王家を支えていた侯爵家、その後ろ盾が手放せない現国王たっての願いでエルシャと王子の婚約がまだ赤ん坊であった時分に決まったのだった。
そんなこんなで、エルシャは物心ついたときには既に次期王妃としての教育が始まっていたのだ。
自分がどうしたいかではない、王国のために全てを捧げる事が自分が女神から与えられた運命。
もし仮にそれに背いてしまった場合、それは自身だけでなく王国民全てに災いが降りかかる事を意味しているのである。
だからこそエルシャはその道に全てを捧げてきたのだ。
十歳の時、侯爵領で育ったエルシャは殿下の立太子の儀に参加するために王都へ訪れた。
殿下と初めて会ったのはその立太子の儀の後だった。
儀式の際に遠目からは見えたが、それが初めての顔合わせであった。
両親に連れられ国王陛下と第三王妃殿下、そして王太子殿下との面会をした。
国王、王妃とそれぞれ言葉を貰い、名を名乗ることを許される。
頭を下げ、自己紹介、立太子の祝辞、初めてお会い出来た事への喜びの言葉贈る…
殿下は「そうか」と一言だけ…その後沈黙が訪れ、国王陛下から頭を上げるよう言われるとそこには既に殿下はいなかった。
「私、何か失礼な事言ってしまったのでしょうか?」
そう、付添に来ていた両親に問いかけてみると返ってきた言葉は
「お前は失礼なことはしていない…」と返ってくるだけだった。
エルシャは同年代の男の子というのはほとんど未知であった。
次期国王の婚約者という重責があるため、王太子と会うまではほとんど近づけさせなかったからである。
なのでエルシャにとって男性と接した機会というのは常に年上であった。
唯一話す機会のあった騎士見習いの男の子も年上で、尚且つエルシャに対してとても紳士的であった。
だからだろう、あのような対応をされるとは夢にも思わなかったのだ。
王太子のその態度に周りは不安を覚えたのだろう。
面会の機会を増やすためにエルシャはそのまま王都の侯爵邸に住むこととなった。
庭園でお茶会などの場を設けて話をした時の印象は寡黙な方だった。
どんな本を読んでいるのかとかどんな先生に師事しているのかなどこちらから聞き出してようやく、退屈そうに話してくれるくらいだったのだ。
だがそんな殿下でも、会うたびに花を贈ってくれそれは嬉しいことだった…
―――本当に嬉しかったのだ…
………
……
…
酒がまずくなることは確実だろうが聞かないわけにもいかない。
「聞いてもいいか?」
一呼吸の後、苦々しいという表情で言葉を返す。
「殿下との事…ですね?」
ケヴィンとしても聞きづらい事ではあったがエルシャは察してくれた。
"聞いてもいいか?"と尋ねたが、意味合いとしては"教えてくれなくては困る"だ。
「なんだか順番が逆な気がするのですが…」
困った風に続けるエルシャ。
本来は状況を知ってから婚姻を結ぶのが筋ではあるが、だからと言って今更神前で誓った婚姻を破棄などできない。
「美人に弱いから安心してくれ。」
ケヴィンは気休めを言うことにした。
まあ、エルシャほどの美人であれば余程のことが無い限りひいき目で見てしまうのは確実なのだが…
美人と言われ動揺するエルシャにおや?と思う。
「そ、それから…その…少し近いような…」
気が付いたらエルシャの肩に手を回し引き寄せていた…
「この後の事を考えると少しは慣れてもらわなきゃならないからな…」
ケヴィンが自画自賛したくなるほどの完璧な言い訳を言い放った。
うん、決して酒でいい気分になってうっかりスケベ心が出てしまったからではない。
「!!………はぃ」
顔を耳まで真っ赤にさせて俯いてしまうエルシャ。
(不貞を繰り返した…ねぇ)
この初心な反応を見るに、仮にこれが演技で本当に不貞を繰り返していたのであったとしても、ケヴィンにはそれを見破る事など一生かかっても無理だろう…
一生かかっても無理なのだからもはやそれはやってないのと同義…
むしろ、このめちゃくちゃ可愛い演技ができるのであれば今後の夫婦生活で大いに活かしてほしい!
…とよくわからないことを考えていると、エルシャの自分語りが始まった。
―――――――――――――――
サレツィホール侯爵家の長女、名はエルシャルフィール・フェルエール・フォン・サレツィホール。
家族は父の侯爵とエルシャを産んだ母、上に腹違いの兄、下に同腹の妹。
侯爵の前妻は兄が幼い頃に病気で死別しており、後妻としてエルシャの母が嫁いできた。
後妻が自分の子を跡取りにするために前妻の子を家から遠ざけようとするというのは貴族家ではよくあることだが、幸い兄と母の関係は良好である。
どうやら前妻は母親と親友同士だったらしく、先が短いと知った前妻が侯爵との仲を取り持ったのだという。
母も戦で婚約者を亡くしたばかりで悲しみに暮れていた時だったのだとか。
そして、妻を亡くした侯爵はそれから一年後に前妻との約束を果たす形で母と結婚をしたのだ。
そんな経緯があるため母親を失ったばかりの兄に対してはその母親の代わりとして、そして同時に侯爵家の跡取りとして厳しく接していったのだ。
そんな母であったが、出自は現国王の弟の娘…つまりは王家であった。
エルシャの名のフェルエールというのは母が降家した際に現国王より与えられた名であり、その娘であるエルシャにも受け継がれたのだ。
この王家の血筋が理由に母が身ごもった時、国王が子に恵まれなかったこともありその子を次期国王に据えるという案も出た事もあったのだとか。
しかし、その話も直後に国王の妻の一人が身ごもったことと、母から産まれたが女子…エルシャだったことでその話は立ち消えになった。
ただ、度重なる戦で財政がひっ迫していた王家を支えていた侯爵家、その後ろ盾が手放せない現国王たっての願いでエルシャと王子の婚約がまだ赤ん坊であった時分に決まったのだった。
そんなこんなで、エルシャは物心ついたときには既に次期王妃としての教育が始まっていたのだ。
自分がどうしたいかではない、王国のために全てを捧げる事が自分が女神から与えられた運命。
もし仮にそれに背いてしまった場合、それは自身だけでなく王国民全てに災いが降りかかる事を意味しているのである。
だからこそエルシャはその道に全てを捧げてきたのだ。
十歳の時、侯爵領で育ったエルシャは殿下の立太子の儀に参加するために王都へ訪れた。
殿下と初めて会ったのはその立太子の儀の後だった。
儀式の際に遠目からは見えたが、それが初めての顔合わせであった。
両親に連れられ国王陛下と第三王妃殿下、そして王太子殿下との面会をした。
国王、王妃とそれぞれ言葉を貰い、名を名乗ることを許される。
頭を下げ、自己紹介、立太子の祝辞、初めてお会い出来た事への喜びの言葉贈る…
殿下は「そうか」と一言だけ…その後沈黙が訪れ、国王陛下から頭を上げるよう言われるとそこには既に殿下はいなかった。
「私、何か失礼な事言ってしまったのでしょうか?」
そう、付添に来ていた両親に問いかけてみると返ってきた言葉は
「お前は失礼なことはしていない…」と返ってくるだけだった。
エルシャは同年代の男の子というのはほとんど未知であった。
次期国王の婚約者という重責があるため、王太子と会うまではほとんど近づけさせなかったからである。
なのでエルシャにとって男性と接した機会というのは常に年上であった。
唯一話す機会のあった騎士見習いの男の子も年上で、尚且つエルシャに対してとても紳士的であった。
だからだろう、あのような対応をされるとは夢にも思わなかったのだ。
王太子のその態度に周りは不安を覚えたのだろう。
面会の機会を増やすためにエルシャはそのまま王都の侯爵邸に住むこととなった。
庭園でお茶会などの場を設けて話をした時の印象は寡黙な方だった。
どんな本を読んでいるのかとかどんな先生に師事しているのかなどこちらから聞き出してようやく、退屈そうに話してくれるくらいだったのだ。
だがそんな殿下でも、会うたびに花を贈ってくれそれは嬉しいことだった…
―――本当に嬉しかったのだ…
………
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