追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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1章:オラガ村にやってきた侯爵令嬢

17.追放令嬢の罪

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 殿下はパーティーがお好きではないようなので出なければならないパーティー以外は出ない。
人には得手不得手がある、王太子がパーティーが苦手であるならば、なおさら婚約者が穴埋めをしなければならない。
パーティーとは人と人とを繋ぐ政治的に重要な役割を果たす場所なのだ。
たとえ、エルシャが婚約者ではなく父や兄などと出席したとしても王家の婚約者としての責務は果たさなければならない。
それが例え王太子との仲が上手くいっていないと言われようとも…


 そしてその時が訪れたのだった。
それは学園の卒業パーティーの中での出来事であった。
その日も殿下はエルシャをパーティーに同伴する事はなかった。
これにはエルシャもいつもの事と当たり前のように出席したのだが…

 殿下はその日、例の男爵令嬢をパートナーとして会場に訪れた。
いや、パートナーと言う言葉が正しいのかは少々不安である。
なにせ、その令嬢は数人の男達に囲まれながら現れたのだから。

一体何事かと思っていると、殿下はエルシャの下へと詰め寄ってきた。
 
「エルシャルフィール!よくもおめおめとこの場に訪れることが出来たものだ…
今日この場で貴様の数々の悪行を白日の下にさらしてやる!」

 この言葉を聞いた時の感想は"何か余興をしようとしているのだろう…"である。
ただ、その内容がイマイチピンと来ていなかったため、エルシャにできる事と言えばいつもの笑顔のまま聞くしかなかった。

「悪行…ですか?」
「知らないとは言わせないぞ」

(そもそも打ち合わせしていないのだから知らないのですが…)

 誰かからの連絡が抜けたのか?とも思ったのだが…
どうやら、殿下の目がそうは言っていなかった。
それはまるで本当にエルシャの事を軽蔑しているかのような見下す目…
ドキリとエルシャの中に不安がよぎった。

「貴様…ティセが他の男と遊びまわっているという嘘を吹聴しているだろう!」
「???」

 ただの噂話レベルなのだが…それが悪行…?
確かにその噂は聞いたことがある。
しかし、接触を禁止されているエルシャ自身はそれについて確認した事はない。
そして、殿下がこの場で言った事に対してエルシャが何かコメントできるものでもなかった。

 「吹聴などしていない」と言えばそのような噂が存在する事を証明してしまう。
このような地位の高い人間達が集まるパーティで王太子の婚約者であるエルシャそれをすれば、男爵令嬢である彼女にとって取り返しのつかない致命的な汚点となってしまう。
相当実家と縁を結ぶことに魅力がないと結婚話はまず回ってこないだろう…
そして、彼女の実家の状況については既に調査は済んでおり、言ったら悪いがとても醜聞に目をつぶってまで婚姻関係を結ぶべき家とは言えなかった。

 そして、「そんな噂知らない」と言えばそれは明らかな嘘である。
この御令嬢が色々な男性と交流があるというのは"見ればわかる"というレベルの周知の事実であるのだから…

 それ故にエルシャは言葉に詰まった…
明らかにこのような公然とした場所でする話ではないのだ。
彼女を側室に迎え入れようとしているはずの殿下がその彼女を追い詰めるような事を言う意図が分からなかった。

「言い返せないとは、罪を認めたような物だな」
「一体何を仰っているのですか…?
殿下、申し訳ありませんが発言の意図をお聞かせ願いたいのですが…」
「白々しい…ティセが男と遊んでいると嘘を広めながら、実際に男漁りをしているのは自分自身ではないか!」
「なっ!…殿下、聞き間違いとは思いますが発言の撤回を要求いたします」

 流石にこの発言は余興では済まされない。
明らかに捏造された醜聞を王太子自らが広めているのだ。
後で正式に王家への抗議をしなければならないがそれよりも先にこの場で発言は撤回してもらわねばならない。

「撤回?何故そんな必要がある。実際に毎晩毎晩遊び歩いているだろう。
婚約者も連れずにパーティーに出席するなど他にどんな理由があるというのだ」
「毎晩ではありませんし、婚約者を連れていなかったのは殿下が欠席されたからです。
そして私がパーティに出席したのはそれが上位貴族としての義務だからです」
「義務?…あんなものが義務なものか!!
国民の生活が困窮しているという時にその税を使い貴様らは贅沢三昧、吐き気がする!
パーティなどという無駄な出費は減らせといくら言っても聞かぬ」

 パーティーとは人と人を繋げるため、そして情報収集に必要なツール。
特に下級貴族などにとっては人脈や情報を得る大きなチャンスとなる。
家臣に言えば人に直接会う事も情報を得る事もすぐに可能である王家や上位貴族などとは違うのだから。
そして、その下級貴族達にまんべんなくチャンスを巡らせるためにはそれなりに回数が増えてしまうもの…
一回一回のパーティに意味があり、参加者は関係を結ばせたい家を入念に調査し剪定している。
仮に経費削減のためにパーティーを減らせというのであれば代替案を出してもらわねば困る。
そしてそもそもの話だ…

「私が出席するパーティーには侯爵家から資金が出ているものばかりです」

 エルシャが出席しているパーティーに王都民は全く関係ない…
そしてパーティーを開く事により平民たちにも雇用が生まれる。
侯爵家のお金で王都民に雇用を生み出す…
むしろお金を落として経済を回している立場なのだ。

「ふん!どうやら貴様には自分の領民すら見えていないようだな。
その金は貴様の家の領民の血税であり、それを支払うために民が飢えているという事を知らんのか!」

「侯爵領は王都とは違います!」…という言葉が出そうになり慌ててそれを飲み込んだ。
国王陛下のお膝元である王都に対してこれは明らかに不敬な発言であったからだ。
だが、この殿下の発言は一体何なのだ?
理解が出来ない…王都と侯爵領では民衆の経済格差は明確なはずだ。
そして侯爵家は王国の安定のためにその経済格差の是正に尽力し支援をし続けている…
それを知らないわけがないだろうに。

「暗殺者まで送っておいて!」
「襲われたのですか!?」
「しらばっくれるな、貴様がやった事だろう!正妻になれなければティセを殺すと私を脅してきた事忘れたとは言わせないぞ!」
「…殺す?殿下…一体何を言っているのですか…?」

 殿下の暗殺の話をしていたら突然男爵令嬢の話が出て来る。
まるで話がかみ合わない…
何なのだろうか、この違和感は…
本当にこれは殿下の言葉なのだろうか?
殿下はこれほどまでに愚かな言葉を並べるような人間だっただろうか?

違う…

殿下は寡黙ではあったがその言葉は慎重であったはず…

かみ合わない言葉たち…

意識が朦朧としてくるエルシャ…

「正妻の座に固執するあまり、心優しきティセを貶めるなど言語道断だ!
今日この場を持ってエルシャルフィール、貴様との婚約は破棄する!」

………何を言っているのだろうか?

「真実の愛など理解の出来ない悪魔のような女には国母として不適格だ!
正妻には私が真に愛する心優しき清らかな女性、ティセシャリーナこそふさわしい!」

 その男爵令嬢を愛しているというのであれば側室に迎えればよいではないか…
侯爵家と王家の関係を引き裂いてまで正室に迎える意味とは何なのだ?
愛を示す事は国よりも…愛すべき民達よりも大事な事なのか?
そんな子供が読むおとぎ話のような話が王家と侯爵家の政略において通用すると本気で思っているのだろうか?

…いや、そんなはずがない。

「今ここで罪を認めるのであれば貴様一人の罪として侯爵家には手を出さないでいてやろう」

罪を認めなければ王家が侯爵家と戦をする…?
どこからその自信が出てくるのだ?
殿下とて王家において自分と同等…いやそれ以上の教育を受けているはず。
こんな理屈が通るわけがないと理解しているはずなのだ。

…そうでなければエルシャ自身が理解が出来ない。

朦朧とする意識の中…

「エルシャルフィール!」

殿下の口からこの残酷な一言が告げられるのであった…




  ――""だ、貴様の罪を認めろ――




 なぜよりにもよってこんなタイミング?
どう考えてもあり得ない。
卒業パーティーには各国の要人も参加していたのだ。
ここでエルシャが認めず侯爵家と王家が断絶するようなことがあれば…

 その隙を突いて戦を仕掛けられるに決まっている。
娘に汚名を着せ一方的に婚約を破棄し、戦を仕掛けられたからと言って派兵を求めてくる…
そんな身勝手、いくら王家だとはいえ侯爵家ともなれば誇りを守るために拒絶しなければならなくなる。

エルシャは選択を迫られた。

国を焼くか…

エルシャ自身を切り捨てるか…


 きっとこれには深い考えがあるはず…でなければ命令だなんて…
これは王家の…忠誠を誓った殿下の命令である。
婚約者であるエルシャには…エルシャだからこそ、断ることが出来なかった。

「…認め…ます」

こうしてエルシャの婚約者としての…

いや…エルシャルフィールの18年という人生は終わりを迎えたのだ。

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