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1章:オラガ村にやってきた侯爵令嬢

22.追放令嬢と村の様子

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 ケヴィンが村を案内するという事なので外出用に着替えをするエルシャ。
ラフな格好と言われたが、荷物の中にケイトがOKを出すラフなものが無かったため、またもや洋服を借りることとなった。
用意された物がシンプルというか地味というか…エルシャがまず着た事がないような服であった。
本当にこれで大丈夫なのかと聞くが多分汚れるからという理由でこれを着ることとなった。
汚れても良い服を選んだつもりだったのだが…

 用意が終わり玄関に行くと既にケヴィンが用意を終わらせ待っていた。
エルシャと同じく地味な服で腰に帯剣もしていない村人スタイルだ。
ケヴィンがエルシャを見て一言呟く。

「上品さがまるで隠れていなくて…なんか追放されたお姫様みたいだな」

実際そうなんですが…?

「馬と馬車どっちがいい?」
「馬は乗れませんので馬車でお願いします」

産まれてこのかた移動方法は全て馬車であったため、それ以外は無理である。
だが、ケヴィンは更なる提案をしてくる。

「馬なら二人乗りでもいいんだぞ?」

 それを聞いた瞬間エルシャは羞恥で顔を真っ赤に染める。
昨日の今日だ、羞恥と…そして恐怖もあった。
自分で頼んだとはいえ抑えつけられて純潔を奪われたのだ。
恐れるなという方が無理だろう。

「ば…馬車で…」

 二人乗りと聞いて馬車を選んでしまったが、よく考えたら馬車の中で二人きりになるのでは?
それならまだ二人乗りの方が外から見える分恐怖がない。
そう思い訂正しようとしたがケヴィンは既に馬車の用意に行ってしまった。



…あ、馬車って箱馬車ではなく荷馬車なんですね。

 ケヴィンに手を引かれ隣に座ったエルシャ。
エルシャにとっては御者席に座るというのは初めての経験だ。
そもそも、荷馬車というのも初めてなのだが…
屋根がないというのはどうにも落ち着かない。

「どうかしたのか?」

物珍しそうにしているとケヴィンからどうしたのか聞かれる。

「いえ、荷馬車に乗るのが初めてだったので」

それを聞いてああそういうものかと納得するケヴィン。
「便利だぞ」と言いながら馬に指示を飛ばし動き出した。

 荷台を見ると1/4くらいのスペースを使って農道具や手袋や帽子、釣竿など色んなものが積まれていた。
ケヴィンの趣味の物なのだろうか?
確かに色々詰め込めて便利なのかもしれない。

「馬に乗れないんだったか。なら、馬を用意するから乗れるように練習した方がいいな。
ここじゃ何をするにも距離があるから歩きだと辛いぞ?」

 もちろん、エルシャが馬に乗れないのには訳がある。
馬車に乗るから馬に乗る必要がないというのも一つの理由ではあるが、練習もしていないというのはエルシャが王太子の婚約者であったことによるものが大きい。
もし仮にエルシャが落馬などでケガをしたとしよう。
…きっと、その場にいた全員が何らかの処罰を受けることになるだろう。
もしかしたら物理的に首が飛ぶかもしれない…エルシャはそういう立場だったのだ。

 だが、既にケヴィンの妻であり生活に必要と言われれば練習しない理由はない。
エルシャは素直に「わかりました」と馬の練習をすることを承諾した。


 箱馬車では周りの景色が見えなかったが、エルシャの目にのどかな田舎の風景が広がっていた。
馬車の揺れには慣れるまでまだ時間がかかりそうだと思いつつ風景を楽しんでいた。
ただ、王都と違って舗装されていない農道で度々唐突にガタゴトと大きく馬車に揺られると、自らの治療魔法で癒したとはいえ、昨日の痛みが揺れで思い起こされてしまい無性に恥ずかしくなる。

…はて?

 昨日は馬車に乗った時はこんなに揺れていなかったような気がするのだが…?
ケヴィンに尋ねると昨日の箱馬車は友人宅から借りてきたもので、揺れないように細工が施してあるのだそうだ。
さすぺんしょん?…とかいう初めて聞く細工であった。

「この荷馬車には付けないのですか?」
「あんなアホみたいな代物、このお手軽な荷馬車には荷が重すぎる」

分かったようなわからないような…とりあえずとても高価なものであることはわかる。

「その御友人という方は?お礼をしなければなりませんね」
「ああ、幼馴染だから別に構わないよ。
ってか姉貴の婚約者だからそのうち嫌でも紹介することになるよ」

 ああ、その人だったのか…とエルシャは納得する。
第一印象が節操なしとなってしまっていたが、アネスとしても幼馴染との結婚であれば相手の人となりを知ったうえでのことなのだろう。


 程なくして昨日訪れた礼拝堂のあったオラガ村まで到着した。
この周辺の畑で働く人々の民家が集まって構成されている村であるが、皆どこの家も小綺麗にしてあり家の前に花を植えている家もあるくらいだ。

「この村は領の中でも裕福な領民が住んでいる地区ですか?」
「んー?いや、別に普通じゃないかな?
ただ、この村の奴らは他と比べて花が好きなのが多いからそう見えるのかもな、養蜂やってるのも多いから。」
「蜜が取れるのですか?」

 これは驚きだ…
蜂蜜など素直に高級品である。
これを輸出すれば…
いや嗜好品のためにこの領まで仕入れに来るとなると高級品がさらに高級になってしまう…
一番いいのが食べにくる…だろうか?
それなら温泉もあるのだからかなり魅力的だろう。
…あの馬車が飛び跳ねる道を通るのでなければだが。

それにしてもだ…

「平民が蜂蜜を楽しんでいるのですか…税として徴収はしていないのですか?」
「いや、平民だって甘いものくらい食べたいだろ。食料の保存にも使えるしな。
隣領あたりなら少量は出荷してるけど贅沢品だからあんまり売れないんだよな…
領内で物々交換して大体終わりかな…」

 王国への税を納めるために輸出することはあるが、王国南西部の小さな領の税はサレツィホールが取りまとめている。
そのため、運び込むのはサレツィホールとなるのだが、養蜂をやっている地域もあるためフレポジェルヌ領からわざわざ高値で買う必要はない。
欲しがるのはフレポジェルヌ領で少量取れるなけなしの小麦だったりする。
ちなみに米はというと…家畜の飼料扱いで捨て値を着けられるので隣領くらいしか買ってくれないらしい。

(私は昨日、家畜の飼料を食べていたんですね…)

「それに巣箱自体は俺も持ってるからそこから取ればいいだけだし。
冬の間の楽しみにしてるものを無意味に徴収してもしょうがないだろ」

 なんとも呑気な話である…
しかし、こののどかな村の様子を見ればそんなものかと思えてくるのが不思議だ。
村に入りしばらくすると一人の男の子がケヴィン達を見つけ寄ってきた。

「あー!ケヴィン兄ちゃんだ!」

するとどこからともなく子供たちが集ってくる。

「わぁ!昨日のお姫様もいるよ!」

 その言葉と共にどこから湧いて出たのか…
子供たちがわらわらと集まりだし、あっという間に二人の馬車は囲まれてしまったのだった。
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