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1章:オラガ村にやってきた侯爵令嬢
28.フレポジ男と狂犬
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「いつまで待たせる気だ!」
そう怒鳴ってくる騎士。
それは一旦無視して荷馬車の方へ注意を向ける。
なにせ今はエルシャが初めての操車をしている真っ最中なのだ。
「エルシャ、周りがやかましくても馬から注意を逸らすな」
「は、はい!」
そして、停車の手順をもう一度教えながらエルシャに停車をさせる。
「そーだそーだ。やっぱりエルシャは物覚えがいいな…これならすぐに馬車は使えるようになるぞ」
「ふー…緊張しました。本当に一人で乗れるかは不安です」
「ハハハッ、慣れたと思うまでいつでも付き合うよ、乗馬の訓練もしなければならないしな」
「お願いいたしますね」
そう言ってケヴィンはエルシャの手を引いて下車するのだが…
その間プルプルと顔を真っ赤にさせている騎士。
「無視をするんじゃない!」
「いや、してないから馬車止めたんだろ。素人に教えてる最中だったんだからよそ見したら危ないのくらい知ってるだろ?」
「な…何故そんな女に教えてるんだ?」
「日常生活のためだが?」
何をそんな当たり前の事を、と思いつつも周りの状況を確認すると…
玄関前にエルシャを運んだ馬車が止めてあり、アネス、システィーナ、ケイトが外に出てきていた。
そしてそこに騎士と侍女が詰め寄っていたという所であろうか…
「んで、何か用があったのか?てっきりもうすでに帰ったかと思ってたんだが」
「これから帰ろうって時にロクな挨拶もなし、しかも帰りの食料も渡さないとは何事だ!」
挨拶は別にいいとして…おや?と思いケイトの方を見るが…
「ちゃんとお米渡しましたよ~」
それを聞いた騎士が再び怒鳴る。
「あんなマズい物食えるか!食事で出て来たあのマズい粥だろ!?」
「時間なかったんだからしょうがないじゃないですか~
ちゃんと漬物付けてあげたんですから感謝してくださいよ」
ブブ漬け旨いだろ…と藪蛇な事は言わない。
所で何故か侍女の方と温度差が違うような…昨日は仲良く怒鳴っていたのに?
そう思って見てみると、何故だか気まずそうに目を逸らしている。
…これはケイトがやりやがったんだろう。
部屋を別々にして、侍女の方にはまともな食事と騎士の方には適当な食事…
よくよく見れば侍女の方は風呂に入った後の様にも見える。
片やまともに歓迎してもらえず、片や歓迎はされずとも一応の用意はしてもらえた。
これが二人の温度差に如実に表れてしまったのだ…つまり侍女の方がちょっと気まずい。
結果、騎士の方が空回りしている様にしか見えなくなっていた…
…うん、よくやった。
ふと、他の二人を見てみると…
アネスが物凄い不機嫌な顔でイライラしており、今にもこの騎士を消し炭にしそうな勢いである。
そしてシスティーナは…ジト目でケヴィンを睨んでいた…
(ほんとゴメンて…)
ともかく、この状況は何とかせねばなるまい…
そう思い騎士を静止させる。
「つまり、パンを貰えればさっさと帰るって事だろ?余ってないのか?」
「ないですよ~先に行ってくれれば余分に作っておきますけど…村ではあまり食べないですし」
「というわけで、米で我慢してくれ…隣の領に行けばもしかしたら融通してもらえるとは思うが…」
「パンを食べないとはなんと野蛮な…」
イラァ…
米の方が土地に合ってたんだからしょうがないだろう。
ただここで反論した所で話になるとは思えないので言わない。
横でコレを連れてきてしまったエルシャが頭を抱えている。
そんなエルシャを見かねてケヴィンが「気にするな…」と声をかけた…
するとその姿に騎士が噛みついて来た。
「その阿婆擦れに篭絡されたか、こんな辺境だと女日照りが激しくて相手を選べないと見える」
「………」
その言葉を聞いた瞬間、ケヴィンは一瞬考えこむ…
そして突然荷馬車に向かうとガサゴソと荷物を漁るとソレを見つけて戻ってきた。
一同が何をしているんだと注目する中、戻ってくるなりソレをポイっと騎士に放り投げたのだ…
思わず受け取る騎士、そしてその手に受け取ったものは…
作業用の手袋…
「これは…何の真似だ?」
「何って、見ての通りだが?…もしかして王都ではこんな慣習はないのか?」
「いや…この行為に該当する意味を一つだけ知ってはいるが…」
「んじゃ、サッサ用意しなこっちはいつでもいいから」
頬をヒクヒクさせ、気持ちを抑えるように再度質問を投げかける騎士。
「わからんなぁ…貴様は丸腰、こちらはこの殿下から授かった魔法剣を携えている。
そしてだ…お前が今行った行為は私の知る限り"決闘"の申し込みだったはずだが?」
「だから最初からそのつもりだっての、お前如き丸腰で十分って意味だよ」
ケヴィンの煽りに遂に騎士が怒鳴り声をあげた。
「この私が王都で名を轟かせる"狂犬ヤレーラ・ボルフック"と知ってのことか!?」
「あん?知っての通りここは辺境の地なんだわ…
ここでデカい顔したいんだったら"辺境までその名を轟かせる"くらいになってからにしな」
王都でしか広まっていないものを王都に行った事もないケヴィンが知るはずもない。
だが、王都民であったエルシャは違った。
慌ててケヴィンを止めようとするが…
「"狂犬ヤレーラ・ボルフック"………ケヴィン様いけません!あの騎士は本当に強い騎士なのです。
私の事でこれ以上ご迷惑をおかけするなど…」
「エルシャルフィールはもう王太子の婚約者などではない、このケヴィン・フレポジェルヌの妻だ!
そしてあいつはその妻を侮辱した、夫である俺には妻の名誉を守る義務がある、それ故の決闘だ!」
その言葉でエルシャはケヴィンを止める術を失ってしまう。
エルシャ自身が未だ慣れない自分の立ち位置…それを突きつけられたからだ。
それ以上に…不覚にもケヴィンが自分を守る姿をたくましいと思ってしまったのだ。
自分への侮辱など夫を危険に晒すほどの事ではない…
そう言わなければならないはずなのに…
何故だか思ってしまうのだ…彼の横に立っていたいと。
ふぅ…と息を吐くエルシャ、そして決意した。
「わかりました。ケヴィン様が決めた事であれば妻である私もお付き合いします」
ケヴィンとエルシャが決闘の意思を見せる。
それに対してヤレーラはやれやれと思いながら受けて立つことにした。
「その決闘受けてやろう…俺が勝利したら貴様とその女と二人、這いつくばって許しを乞う事で許してやる」
「んじゃこっちが勝ったらアンタ一生"騎士"を名乗る事を禁止って事で…全く似合わん」
「ハハハッ良いだろう…万に一つも有りはしないがな!」
エルシャをダシに勝手に二人で話を進めてしまう…
本当であれば文句の一つも言いたい所だが既に決闘は決まってしまったのだ。
エルシャはもしケヴィンが負けてしまったのならば甘んじてその要求を受け入れるという覚悟をした。
「ティナ、決闘の立会人を頼む!」
司教である彼女ならば女神の下での決闘の立ち合いも可能であり、その誓いの下での決闘の拘束力は強い。
その誓いを破ったら女神教徒として破門もあり得る…
それだけ神の下での決闘というのは神聖なものなのだ。
そして、これにシスティーナも同意はするが…
「それはいいですけど………ケヴィン様、一つ言っておきますが私は便利アイテムではありませんからね?」
「………」
(だから、ほんとゴメンて…)
そう怒鳴ってくる騎士。
それは一旦無視して荷馬車の方へ注意を向ける。
なにせ今はエルシャが初めての操車をしている真っ最中なのだ。
「エルシャ、周りがやかましくても馬から注意を逸らすな」
「は、はい!」
そして、停車の手順をもう一度教えながらエルシャに停車をさせる。
「そーだそーだ。やっぱりエルシャは物覚えがいいな…これならすぐに馬車は使えるようになるぞ」
「ふー…緊張しました。本当に一人で乗れるかは不安です」
「ハハハッ、慣れたと思うまでいつでも付き合うよ、乗馬の訓練もしなければならないしな」
「お願いいたしますね」
そう言ってケヴィンはエルシャの手を引いて下車するのだが…
その間プルプルと顔を真っ赤にさせている騎士。
「無視をするんじゃない!」
「いや、してないから馬車止めたんだろ。素人に教えてる最中だったんだからよそ見したら危ないのくらい知ってるだろ?」
「な…何故そんな女に教えてるんだ?」
「日常生活のためだが?」
何をそんな当たり前の事を、と思いつつも周りの状況を確認すると…
玄関前にエルシャを運んだ馬車が止めてあり、アネス、システィーナ、ケイトが外に出てきていた。
そしてそこに騎士と侍女が詰め寄っていたという所であろうか…
「んで、何か用があったのか?てっきりもうすでに帰ったかと思ってたんだが」
「これから帰ろうって時にロクな挨拶もなし、しかも帰りの食料も渡さないとは何事だ!」
挨拶は別にいいとして…おや?と思いケイトの方を見るが…
「ちゃんとお米渡しましたよ~」
それを聞いた騎士が再び怒鳴る。
「あんなマズい物食えるか!食事で出て来たあのマズい粥だろ!?」
「時間なかったんだからしょうがないじゃないですか~
ちゃんと漬物付けてあげたんですから感謝してくださいよ」
ブブ漬け旨いだろ…と藪蛇な事は言わない。
所で何故か侍女の方と温度差が違うような…昨日は仲良く怒鳴っていたのに?
そう思って見てみると、何故だか気まずそうに目を逸らしている。
…これはケイトがやりやがったんだろう。
部屋を別々にして、侍女の方にはまともな食事と騎士の方には適当な食事…
よくよく見れば侍女の方は風呂に入った後の様にも見える。
片やまともに歓迎してもらえず、片や歓迎はされずとも一応の用意はしてもらえた。
これが二人の温度差に如実に表れてしまったのだ…つまり侍女の方がちょっと気まずい。
結果、騎士の方が空回りしている様にしか見えなくなっていた…
…うん、よくやった。
ふと、他の二人を見てみると…
アネスが物凄い不機嫌な顔でイライラしており、今にもこの騎士を消し炭にしそうな勢いである。
そしてシスティーナは…ジト目でケヴィンを睨んでいた…
(ほんとゴメンて…)
ともかく、この状況は何とかせねばなるまい…
そう思い騎士を静止させる。
「つまり、パンを貰えればさっさと帰るって事だろ?余ってないのか?」
「ないですよ~先に行ってくれれば余分に作っておきますけど…村ではあまり食べないですし」
「というわけで、米で我慢してくれ…隣の領に行けばもしかしたら融通してもらえるとは思うが…」
「パンを食べないとはなんと野蛮な…」
イラァ…
米の方が土地に合ってたんだからしょうがないだろう。
ただここで反論した所で話になるとは思えないので言わない。
横でコレを連れてきてしまったエルシャが頭を抱えている。
そんなエルシャを見かねてケヴィンが「気にするな…」と声をかけた…
するとその姿に騎士が噛みついて来た。
「その阿婆擦れに篭絡されたか、こんな辺境だと女日照りが激しくて相手を選べないと見える」
「………」
その言葉を聞いた瞬間、ケヴィンは一瞬考えこむ…
そして突然荷馬車に向かうとガサゴソと荷物を漁るとソレを見つけて戻ってきた。
一同が何をしているんだと注目する中、戻ってくるなりソレをポイっと騎士に放り投げたのだ…
思わず受け取る騎士、そしてその手に受け取ったものは…
作業用の手袋…
「これは…何の真似だ?」
「何って、見ての通りだが?…もしかして王都ではこんな慣習はないのか?」
「いや…この行為に該当する意味を一つだけ知ってはいるが…」
「んじゃ、サッサ用意しなこっちはいつでもいいから」
頬をヒクヒクさせ、気持ちを抑えるように再度質問を投げかける騎士。
「わからんなぁ…貴様は丸腰、こちらはこの殿下から授かった魔法剣を携えている。
そしてだ…お前が今行った行為は私の知る限り"決闘"の申し込みだったはずだが?」
「だから最初からそのつもりだっての、お前如き丸腰で十分って意味だよ」
ケヴィンの煽りに遂に騎士が怒鳴り声をあげた。
「この私が王都で名を轟かせる"狂犬ヤレーラ・ボルフック"と知ってのことか!?」
「あん?知っての通りここは辺境の地なんだわ…
ここでデカい顔したいんだったら"辺境までその名を轟かせる"くらいになってからにしな」
王都でしか広まっていないものを王都に行った事もないケヴィンが知るはずもない。
だが、王都民であったエルシャは違った。
慌ててケヴィンを止めようとするが…
「"狂犬ヤレーラ・ボルフック"………ケヴィン様いけません!あの騎士は本当に強い騎士なのです。
私の事でこれ以上ご迷惑をおかけするなど…」
「エルシャルフィールはもう王太子の婚約者などではない、このケヴィン・フレポジェルヌの妻だ!
そしてあいつはその妻を侮辱した、夫である俺には妻の名誉を守る義務がある、それ故の決闘だ!」
その言葉でエルシャはケヴィンを止める術を失ってしまう。
エルシャ自身が未だ慣れない自分の立ち位置…それを突きつけられたからだ。
それ以上に…不覚にもケヴィンが自分を守る姿をたくましいと思ってしまったのだ。
自分への侮辱など夫を危険に晒すほどの事ではない…
そう言わなければならないはずなのに…
何故だか思ってしまうのだ…彼の横に立っていたいと。
ふぅ…と息を吐くエルシャ、そして決意した。
「わかりました。ケヴィン様が決めた事であれば妻である私もお付き合いします」
ケヴィンとエルシャが決闘の意思を見せる。
それに対してヤレーラはやれやれと思いながら受けて立つことにした。
「その決闘受けてやろう…俺が勝利したら貴様とその女と二人、這いつくばって許しを乞う事で許してやる」
「んじゃこっちが勝ったらアンタ一生"騎士"を名乗る事を禁止って事で…全く似合わん」
「ハハハッ良いだろう…万に一つも有りはしないがな!」
エルシャをダシに勝手に二人で話を進めてしまう…
本当であれば文句の一つも言いたい所だが既に決闘は決まってしまったのだ。
エルシャはもしケヴィンが負けてしまったのならば甘んじてその要求を受け入れるという覚悟をした。
「ティナ、決闘の立会人を頼む!」
司教である彼女ならば女神の下での決闘の立ち合いも可能であり、その誓いの下での決闘の拘束力は強い。
その誓いを破ったら女神教徒として破門もあり得る…
それだけ神の下での決闘というのは神聖なものなのだ。
そして、これにシスティーナも同意はするが…
「それはいいですけど………ケヴィン様、一つ言っておきますが私は便利アイテムではありませんからね?」
「………」
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