追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

6.フレポジ夫人と竜殺し

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 流石に鎧を着たままでいられないので着替えて温泉を頭からかぶって汗を流してからエルシャ達の話を聞く事にした。
その結果…

「つまり、エルシャの妹のミィルフィアって子との結婚話だったのがいつの間にかエルシャにすり替わっていて、俺がそれに気が付かずに煽られるまま結婚してしまったと…」
「そうなります…」
「だけど侯爵様からの指示だったんだろ?」
「手紙ではそのように書かれておりましたが…」

 だがしかし、王都で身柄を拘束されていた時の話であり当然手紙などは検閲をされていたのだ。
侯爵としては王都からその身柄を移させるためにはそう書かざる負えなかったとも言えるが…

「勿論、この家にご迷惑が掛かるようなことが無いよう実家には私から説明いたします」
「ハッハッハッ、まあそう気にする事もないんじゃないのかな?何しろあの侯爵様のなさる事だ…
あの方はまるで千里眼を持っているかのように色々な事を成功させる方だからな~
実を言うと私と妻の間を取り持ってくれたのも侯爵様なんだよ?」
「そう言えばそんな事もあったわねぇ~」
「まあ、そうだったのですか?」

 こんな所に自分の父との縁があるとは奇妙な物だ…
そして、エルシャが感心している所に義母が聞いて来た。

「それでエルシャちゃんは侯爵様から戻ってくるように言われたらケヴィンとは離縁するの?」

 のほほんとした雰囲気から投げかけられた突然の"離縁"という言葉にドキリとしてしまうエルシャ。
勿論そんな事微塵も考えていなかったが、しかしいざ目の前に"離縁"という言葉を突きつけられると途端に不安がエルシャの心を支配する…
そんな不安を覆い隠すように誓いの言葉を持ち出して否定した。

「経緯がどうあれ私が女神に誓った事実は変わりません。そしてこの結婚を覆す事は例え父であっても許しません」
「エルシャはこの結婚に後悔はないのか?」
「後悔?いえ、ありませんが…???」

 夫は自分がそんな風に見えたのであろうか…?
それとも、夫自身が自分と結婚して後悔しているのだろうか…?
もしそうなら…辛い…

「まあまあ…エルシャちゃんはケヴィンが相手でもいいと思っているのね?」
「はい、この領には価値があるように思えますし何よりケヴィン様は尊敬に値する方です」
「エルシャ~っ!!!」

 バッと手を開いて抱き着いて来ようとするケヴィンの顔を手で押さえてステイをかけるエルシャ…
なんとなくだが扱い方が分かってきた気がする。
ハグを阻止されガッカリするケヴィンであったが、気を取り直して考える。

 当たり前だがエルシャを手放すなんて発想はあり得ない。
正直言うとケヴィンとしては言われた通りの行動しかしていないのだ。
プレゼントされたお菓子を「折角侯爵様から頂いたものなのだから残すわけにはいかない」と奇麗に食べた後にやっぱり返してくれと言われても困る…
もう胃袋の中なのだ、返されても侯爵様の方が困るだろう…

「もういっその事、開き直って"私達結婚しました、とっても幸せです!!"とか書いた手紙でも送ってしまえばいいんじゃないのか?」
「………………………………それしかないですかねぇ」

 ついでに絵師でも連れて来て二人でピースしてる所の絵でも描かせようか…
なんて事考えてみたがエルシャがそんなアホなポーズを取っていたら血相変えてうちに突撃してきそうなので止めた。

 エルシャにしても今更帰って来いと言われたところで、頭の先から爪の先までケヴィンに愛された後なのだ。
侯爵家の令嬢としての価値など既にない。
仮に女神の誓いが無く離縁となったとしてもケヴィン以外の男の下へと嫁ぐなど考えたくもない。
とすれば、出来る事などハーケーン教国にでも行って祈りに人生を捧げるくらいなもの…

 そう考えると…この話は考えるだけ無駄という結論に至ってしまう。
…どうやら自分もこの領のゆるい空気に毒されてきたようだ。


―――――――――――――――――――――――

 話し合いも今更どうしようもないという結論に至った所で、ケヴィンが見せたいものがあると下心しか読み取れない顔でエルシャを誘った。
ちなみに子爵は領主として避難民の様子を確認しに行き、夫人は久々の温泉へ向かった。

 エルシャの傍には専属侍女がついているが、彼女は欠伸を噛み殺していた。
昨晩はケヴィンもいなかったため、寝る前に少々小言を言ったのだが…
「姫様もうちのゆるさに慣れてくださいよ~」とか返ってきたので一時間程お説教時間が伸びたのが原因だろう。

 それにしても敬われない次期当主である…
王都では多くの次期当主と呼ばれる人間達と挨拶する機会があったがダントツで扱いが軽い。
距離が近いと言えば長所なのだろうが、貴族は舐められたらお終いという所もあるので不安だ。
能力はあるはずなのに何故こうも人からの評価が低いのだろうか…?

 そう悩むエルシャに対してケヴィンは一つの解答を示した。
ケヴィンがいつも鍛錬を行っている鍛錬場に連れてこられたエルシャ。
そして、少し離れた場所に立たされると、ケヴィンがおもむろにバッグからソレを取り出した。

ドスン!とバックから出て来たのはとても大きな魔物の死体…

「見ろ!これが今回仕留めて来た魔物だぞ!」

 そう言って見せられた魔物に呆然としてしまうエルシャ…
どこからツッコめばいいのだろうか。

 ケヴィンが魔物を取り出したバッグがエルシャの知るマジックバッグと呼ばれる道具の100倍以上の容量がありそうな事…は脇道に逸れすぎるので置いておこう。

 今見せられている倒した魔物というのが、討伐すれば竜殺しと呼ばれる称号を貰うことが出来る"ドラゴン種"であるのはどういう事だろうか…?
あまり使わない魔物に関する記憶を辿ってその特徴から該当するドラゴンの名前を探すとあった。
レッサードラゴンというドラゴンの中では下等種に分類される種類だったはずだ…
しかし、ドラゴンと名のつく魔物はどれも強力でそれを狩れるというだけで一生ものの名誉なはず…

そんなドラゴンの傷跡が眉間に剣を一突きのみで、圧倒的技量で倒されたと推察される…
そして…

「どーだー凄いだろぉ?俺、俺…俺が仕留めた!!(チラッチラッ)」

凄い…凄いはずなのだが…
目の前の夫があたかも小さい手柄をまるで大袈裟に大きい手柄の様に見せている人間に見えてしまう…

「わ、わースゴイデスー」

ドラゴンである…偉業のはずなのであるが…
何故だろう…夫のフィルターを通すと途端にしょうもない話に聞こえてしまうのは…

 本当に凄いのに夫が中身のない凄いを要求してくるものだからエルシャは「スゴーイ」しか言えなくなってしまっていた。
そしてそんなエルシャの中身のない言葉に何故かひたすら鼻が伸びていくケヴィン…
だが、エルシャとしてもこのまま夫に流されたままではいけないと、ケヴィンの偉業を正当に評価しようとするのだが…

「これを見せればケヴィン様は『竜殺しドラゴンスレイヤー』ですね?」

 男爵を証人としてこのドラゴンの首を父に送り竜殺しの称号を正式に受けるべき…という貴族としてごく当たり前の行動を進めようとしたエルシャであったが、それに対して当の本人が待ったをかけた。

「え??…あーいやーそれは…ちとマズいというかー…
ほら、こんな小物でそんな大層な名前名乗っても恥ずかしいだろ???」
「………???」

 何だこの歯切れの悪さは…?
もしかしたら夫は自慢をするために嘘を言っているのか?
だがこの夫は軽薄な人間であり嘘をつくならもっと考え無しの小さい嘘をつく人だ。
わざわざドラゴンの死体を用意するなどという手の込んだ事をするようには見えない…
そんなケヴィンに対してケイトがからかい始めた。

「うわー若様ヘタレ~ほら名乗って見てくださいよ~。よっ!竜殺しのケヴィン!!」
「オイバカヤメロ、ドーラに聞かれたらどうすんだ!?」
「…ドーラ?」

女性の名前だろうか…?
夫の周りからまた女の気配である、何となく身構えてしまうが…

「ドーラさんって言うのは若様のお仲間なんですけどぉ~
竜殺しって聞くとそりゃあもう楽しそうにじゃれついて…」
「ケイト、本当にヤメよ?俺の命がかかってるんだから…」
「ハイハイわかりましたよぉ~ちぇ~」

命がかかる仲間って一体何なのだろうか…?


 その後は村人たちがレッサードラゴンを解体しその肉を食べながらささやかな酒宴が催された。
今回支援に行った独身男性たちと避難民の独身女性たちを引き合わせるのにちょうどいい機会であった。
それをケヴィンに相談をすると「合コンなら俺に任せろ!!」と言って張り切って準備を始めた…

心配しかない…

「あれ?エルシャさん…魔物討伐したの俺なんだが…?」
「ええ、ですからケヴィン様の功績に周りが霞んでしまって結婚相手を見つけ辛くなってしまいます」
「お、おう?」

とりあえず宴の方は子爵の方へお願いして夫は開始後しばらくしたら早々に引き取る事にした。

 なお、ドラゴンという物を始めて食べたが驚くほど美味しいお肉であった…
そして、これ以上に美味しい魔物もいるという話でケヴィンが機会があったら食べさせてくれるという約束をしてくれた。
…女性が絡まなければ素敵な旦那様である。

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