追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

7.フレポジ夫人と夜のひととき

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 ここフレポジェルヌ領は南部の大樹海に面している、この大樹海は国境が曖昧な地域でもある。
そしてこの大樹海にはいくつかの部族が住んでおり、その中でも有名なのがエルフだ。
これは王国南部、サレツィホール出身であるエルシャの知る所ではあった。

 だが、このフレポジェルヌ領が古くからエルフとの交流があったというのは先日教えられ初めて知った事だ。
偏屈エルフが王国との交流を断固拒否しているため、フレポジェルヌの人間だけの機密事項になっているらしい。
この家の人間になったエルシャとしても機密と言われれば実家に報告する事はしない。

 王国側に漏れれば間違いなく圧力がかかりソレが原因でエルフとの関係が崩れるという未来は見えるため、隠している事に異論はない。
夫が恐る恐るでも話してくれたことを評価してあげなければならないだろう…(さあもっと話せ?)
結婚式で曲を奏でてくれたエルフ達はたまたま米を手に入れるために立ち寄った者達に声をかけたのだとか。

 このエルフ達との交流は大樹海の魔物を協力して討伐していた事から発生した事らしい。
長寿であり精霊術と弓の名手と聞くエルフ達ではあるが、力自体は人間に劣るという性質を持つ。
それ故にどうしても力を借りたい時があるのだとか…

「ドラゴンがでるんじゃあ、あのエルフ達も手を借りたくなるのね…」

 しかし、ドラゴンが出るような土地だとは思わなかった。
ケヴィンが成長してからは討伐できるようになったのだが、それまでは犠牲を出しながら森へお帰り頂いていたという話を義父である子爵から聞かせてもらった。

「やっぱりケヴィン様の周りからの評価に納得がいかないわ…」

 そう思うと共に、魔物の脅威に対してケヴィン個人の力に頼った守りというのはやはり歪に思える。
ケヴィンが健在な今はよくとも長期的に見れば不安要素は多い。
この地に嫁いで来た人間としてどうにか実家の力も借りれないかと考えてみるが…
サレツィホールとしては助力する程の魅力がこの地にあるか?という所である。

 ふと、部屋に飾ってある絵に目が行く。
夫がサレツィホールの海を思い出せるようにと持っていた絵を贈ってくれたのだ。
最初は何処の海かわからなかったがハーケーンの海なのだとか。
海で散歩をしている際に絵を描いていた画家からその場で買ったのだそうだ。

(ケヴィン様個人には魅力は十分にあるのだけれど…)

 とにかく、一度実家と連絡をしない事には始まらない。
夫がサレツィホールに手紙を送るつもりだと言っていたのでエルシャも家族に手紙を書くつもりだ。
ふと…あのドラゴンの首を妹に贈ってみようかと思い付いた。
もしかしたら欲しがるかもしれない。

 妹のルフィアはエルシャに会いに王都に来るたびに帰りに何故か剣などを欲しがるのだ。
王都旅行で羽目が外れているというのは理解するが、わんぱくが過ぎる妹である…
侯爵令嬢としてもう少し落ち着いて欲しいとは思うが…

 しかしやはり可愛い妹であり、それは父や兄とて同じらしい。
なんだかんだ言って、いい子にしていたら帰りに買ってやると最後には折れるのだ。
始めは木剣、そこから訓練用の剣や最近では本物の剣を買ってもらっていた…
そんな妹だからもしかしたらドラゴンの首のはく製も欲しがるかもしれないと思ったのだ。
立派な首だったので、中々見ごたえある一品になりそうだ。


 鏡台の前で就寝前の準備をしながら考え事をしていたエルシャ。

…結婚してから鏡を見る事が多くなった気がする。
それは、使用人がケイトのみとなった上にこの家は自分の事は自分でやるという家風があるからだ。

だがそれだけではない…

 原因は結婚した自分の夫であるケヴィンという男にある。
あの軽薄男はエルシャと二人きりになるとひたすら口説いてくるのだ。
やれ髪が天使の輪のように輝いているだの、瞳が清らかな水のようだの…
この繊細な指先はきっと全ての物を浄化するだろう…は流石に一目で嘘だとわかったが。

 思い出しただけで顔が火照ってきてしまうような事をペラペラと口に出す…
流石に三日もあの軽薄男と生活すればその言動が下心から来るものだという事は理解できる。
本来ならば不快だからと近づかせないよう手配する所である。

 だが、そんな言葉を吐いている相手はその下心を受け入れるべき夫なのだ…
エルシャにできる事と言えば、その夫の口説き文句を耳から火が出るような思いをしながら受け入れ、せめて夫の言葉が嘘にならないよう身綺麗にするだけだ。

「でも今日はケヴィン様もお疲れでしょうから来ないかもしれないわね…」

 いつもはこの時間になるとエルシャの部屋に来てあの手この手でベッドに連れて行こうとするのだ。
エルシャとしてももう諦めているので好きなようにさせているが…

討伐から帰ってきて疲れているだろうから今日は流石にないだろう。
ここ数日ケヴィンは家を空けており、今日も二人きりで話す時間は殆ど無かった…
なので、少し寂しいと感じてしまうのだ…

「あら…雨かしら?」

 窓の傍に寄ってカーテンを少し開いて外を確認してみるも…
雨が窓に張り付いているのは確認できるが外は雨雲で月が隠れている。
夜の闇はエルシャにとって不可侵の拒絶。
見えるのは窓に写った自分の顔と部屋の扉だけであった…

 もしかしたら、自分は夫に飽きられてしまったのではないか?そんな不安が頭をよぎる。
愛の言葉を貰い続けているエルシャは、未だ夫に愛の言葉を一言も言っていないのだ…
だが、どう言えばいいのかがわからない…
家族になら何度だって言える言葉が彼を目の前にして言葉にできない。

考えても見て欲しい、彼と出会ってから両の手で数えられる程しか日数がたっていないのだ。
愛していないかと言われればノーと答える事が出来ても、愛しているかと言われるとわからないと答えてしまう。
そんなグラグラとした感情…

愛を言葉にするなら彼を愛しているという確証が欲しい…
そんな卑怯な思いに苛まれてしまう。

………不安をかき消すようにカーテンを閉め直す。
直後に扉をノックする音が聞えた。

トクンとエルシャの心臓が跳ね上がる。

「は、はい!」

こんな時間にエルシャの部屋に来る人間など一人だけだ。
扉に小走りで駆け寄ってしまい慌てて取り繕うと部屋に訪れた訪問者を出迎えた。

「ケヴィン様…討伐の任お疲れさまでした。本日は………っ!!」

 部屋に訪れた夫は入って来るなりエルシャを抱きしめその唇を塞いだ。
突然の事で頭が真っ白になる。
「んぅっ」と身を捩らせて咄嗟にケヴィンを引きはがそうとするが…
相手はドラゴンをも屠る肉体を持った勇者、か細いエルシャにそれをどうにかできようはずもない。
いつもの軽薄だけれども言葉を投げかけエルシャを労わる夫の姿は無く、ただただ欲望のみをさらけ出すその姿に本当にケヴィンなのかと疑ってしまう…

 夫から香るどうしようもないオスの匂い…
エルシャの悩みや不安などオスの本能ねじ伏せあっけなくベッドへと押し倒される…
いつもの愛の言葉もなしの、まるで戦で手柄をあげたのだからエルシャを抱けるのは当然と言わんばかりの行為。
戦いで火照った体を冷ますためにひたすらエルシャの体を貪っていく男に抵抗出来る事は何もなかった…
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