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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)
10.フレポジ夫人と検問所
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エルシャは言葉を失ったままケヴィンの操る馬車に揺られ皇都メルシュトゥームへと近づいて行った。
皇都近郊は農地が広がっていて、皇都までの道のりはその農園の風景を眺めながらとなった。
メルシュトゥームは西海に面した海洋都市である。
西海においてハーケーンの制海権は数百年破られる事無く、シュナール王国ともロアヌ山脈に守られ北部はロアリス教の聖地セイルーン教国。
隣国といえど戦が出来る立地ではなく、双方ともそれが分かっているが故の友好関係が築かれていた。
そのため皇都メルシュトゥームは外敵に晒される事無く脈々と受け継がれてきた歴史を残す大国となったのである。
今エルシャが通っているこの農園の道もその長い歴史で守られた平和の象徴なのだろう。
ただ、畑を荒らす魔物などはよく出没するようなのでその場合は新人冒険者が活躍するらしい。
ケヴィンもハーケーンに来たばかりの頃はこの農園を一日中魔物を追って駆け釣りまわっていたそうだ。
時折、それらしき若い冒険者の一団に出くわすことがある。
「新人はここで体力と魔物に気付かれずに近づく方法を身に着けるんだ」
「騎士団はひたすら訓練をして技量を磨くと聞きましたが、冒険者はそうではないのですね」
「教えたって自分の得にはならないからな、実力主義の基本独学だよ。
ちなみに俺は三日で飽きて、先輩の女冒険者グループに土下座して荷物持ちさせてもらって見て盗んだ」
「………感心して損をした気分です」
いやある意味尊敬はするが…
そしてケヴィンはそこで鼻の下を伸ばしながら(※想像です)学園入学まで学費を稼いていたのだが、そのパーティは次々に仲間が結婚して冒険者を引退して行ったため解散。
その後は、友人と姉に泣きつき冒険者パーティを作り活動する事になったのだとか。
何というか…個人主義、実力主義の冒険者という場所で人を巻き込もうとする行動力が凄い。
一方、他者から与えられた十分な教育環境で特別な存在にならなくてはならない故に個を磨がいてきたのがエルシャというのが皮肉な話である。
「そうだ、こいつを渡しとくから見えるように腰に差しておけ」
「短剣ですか?」
「隠蔽はしているが、一応魔法剣の類だから気を付けろよ。
神聖力に呼応して力が増すらしい」
「らしい…?当然ケヴィン様も貴族であるからには使いこなせるのですよね?」
「………………………………トウゼンダロ?」
目を泳がせる軽薄男…
最近、祈りの時間から逃げ出す方法とか早く終わらせる方法とかを考えている節がある。
エルシャは警戒を強める必要を感じた。
言われた通りに腰に短剣を差すエルシャ。
短剣の使い方は母に教わった事がある。
主に敵を打倒すためというよりは貴族の女としての覚悟のためではあるが…
………
夫との会話を楽しんでいる内に馬車は遂に皇都の城壁までたどり着いた。
「検問やってるみたいだな…時間かかりそうだ」
城門には人や馬車が列をなしていた。
城壁の中に入るにも住民でないならば税がかかるし、商人達の物品持ち込みにも税はかかるため基本時間はかかる。
だが、今日はそれに加えて少々入念に検問を敷いているようで列は長く続いていた。
諦めて列に並ぶことにした二人…
しばらく順番が来るのを待っていたのだが、警備のために巡回に来た衛兵がケヴィンを見た途端声をかけて来た。
「おや?ケヴィンさんじゃないですか、順番待ちですか?」
「おお、久しぶり…なんだか大変そうだな、まあのんびり待つよ」
「でしたら、今貴族用の通路がすいてますからそちらをお使いください」
「いいのか?」
衛兵が頷くとそのまま案内をしてくれ貴族用の通路へと向かった。
衛兵と話をしていると、周りの人々からから「ケヴィン?」「ケヴィンがいるのか?」というひそひそ声が聞こえて来た。
一瞬で注目を浴びる夫…どうやら有名人らしい。
そう言えば冒険者の活動で勲章を貰ったと言っていた…
王国で聞いたことはなかったが、ハーケーンでは有名人なのだろうか?
貴族用通路は一般用の隣に設置されており、貴族が来ていない場合は一般人が通されているようだった。
エルシャ達の馬車が到着すると門番が笑顔で声をかけて来た。
「荷の点検だけさせてもらいますね」
「ああどうぞ、米と酒、あとカメル油と美容クリームだよ」
「…ええと、そちらは?」
「妻だ」
ケヴィンが鼻高々で言ったその言葉を聞いた瞬間、今まで友好的であった門番たちの顔が急に不信な顔へと変化していった。
「………失礼ですが身分証の確認をさせていただきますでしょうか?」
「え?…いや、構わないけど」
ケヴィンが冒険者タグを見せるが、門番は首を傾げ隣の仲間と相談を始める。
「おい、本物…だよな?」
「そう見えるが、一応隊長に確認しておいた方がいいんじゃないか?」
「だな…」
「すみませんが少々お時間をください。上司に確認を取りますので」
「かまわねーけどお前ら後で全員謝れよ?」
………
門番達が上司を連れて来るとケヴィンに対して笑顔で挨拶をしてきた。
「お久しぶりですケヴィンさん、前に来たのっていつでしたっけ?」
「まだ雪パラついてたしな…三か月前くらいじゃなかったか?」
それに対して苦笑いしながら答えるケヴィン。
そしてどうやらその言葉に満足いったようだ…
「おい、本物だ。…ご結婚されたというのは本当なんですか?」
「おう!美人だろ?」
「…何かの作戦か?(ボソ)。それはおめでとうございます」
隊長の許可が出たため作業に戻った門番達。
若干呆れながらもケヴィンは彼らの作業を見守った。
「積み荷は贈答用でよろしかったですか?」
「ああ」
「ではこちらに物品と数、贈答先をご記入ください」
エルシャがチラリとケヴィンの記入内容を見ると贈答先がエーデルとなっていた。
皇国の貴族家は名前くらいは憶えていたが見たことが無い名前だ。
侯爵家で手に入れた名簿には載っていなかったか、家名ではないか、もしくは偽名という事も考えられる。
するとケヴィンが冒険者クランの仲間でこれから借りる家のオーナーだと教えてくれた。
「随分丁寧にやってるんだな」
「ええ、しばらく警戒するよう上からの命令でして。以前散々痛い目を見ましたからね」
「あれは辛い事件だったな…」
「何があったのですか?」
ケヴィンの遠い目にキョトンとしてしまうエルシャ。
「とある怪盗事件がありまして、そいつが変装の達人でしてね。
驚いたことに犯人がケヴィンさんの婚約者を装い…」
「おいやめろ。俺…最後まで信じてたんだからな」
「本物の御令嬢が現れるまで…ですね」
「そ、そうですか」
「別にいいんだよ、昔の事は。今はエルシャがいるからな!」
「ハハハ、本当ですね、とても真実とは思えない美しい奥様でいらっしゃる。
皇都は初めてでいらっしゃいますか?」
「ええ、子供の頃に本で見たものをこの目で見る事になって感動しております」
「ああそれは…ぜひ楽しんで行ってください!」
隊長との雑談に花を咲かせていると物品の確認をしていた部下がおやと尋ねてくる。
「すみません、数が一つ合わないようですが…」
それを聞いたケヴィンは「ほれ、差し入れ」と酒の子樽を渡す。
「今晩にでも中身を検分してくれや」
「確かに一致いたしました。どうぞお通り下さい」
敬礼で道を開けてくれる門番たち。
エルシャも軽い笑顔と会釈で礼をすると兵たちも思わずデレッとしてしまう。
「それにしてもあのケヴィンさんが結婚ですか…」
「あほ、んなわけあるか。大方、大貴族か王族の訳あり護衛だろ、あまり広めるんじゃないぞ」
………
……
…
そして、しばらく進んでからケヴィンがあることに気が付いた…
「あいつらに謝らせるの忘れてた…」
皇都近郊は農地が広がっていて、皇都までの道のりはその農園の風景を眺めながらとなった。
メルシュトゥームは西海に面した海洋都市である。
西海においてハーケーンの制海権は数百年破られる事無く、シュナール王国ともロアヌ山脈に守られ北部はロアリス教の聖地セイルーン教国。
隣国といえど戦が出来る立地ではなく、双方ともそれが分かっているが故の友好関係が築かれていた。
そのため皇都メルシュトゥームは外敵に晒される事無く脈々と受け継がれてきた歴史を残す大国となったのである。
今エルシャが通っているこの農園の道もその長い歴史で守られた平和の象徴なのだろう。
ただ、畑を荒らす魔物などはよく出没するようなのでその場合は新人冒険者が活躍するらしい。
ケヴィンもハーケーンに来たばかりの頃はこの農園を一日中魔物を追って駆け釣りまわっていたそうだ。
時折、それらしき若い冒険者の一団に出くわすことがある。
「新人はここで体力と魔物に気付かれずに近づく方法を身に着けるんだ」
「騎士団はひたすら訓練をして技量を磨くと聞きましたが、冒険者はそうではないのですね」
「教えたって自分の得にはならないからな、実力主義の基本独学だよ。
ちなみに俺は三日で飽きて、先輩の女冒険者グループに土下座して荷物持ちさせてもらって見て盗んだ」
「………感心して損をした気分です」
いやある意味尊敬はするが…
そしてケヴィンはそこで鼻の下を伸ばしながら(※想像です)学園入学まで学費を稼いていたのだが、そのパーティは次々に仲間が結婚して冒険者を引退して行ったため解散。
その後は、友人と姉に泣きつき冒険者パーティを作り活動する事になったのだとか。
何というか…個人主義、実力主義の冒険者という場所で人を巻き込もうとする行動力が凄い。
一方、他者から与えられた十分な教育環境で特別な存在にならなくてはならない故に個を磨がいてきたのがエルシャというのが皮肉な話である。
「そうだ、こいつを渡しとくから見えるように腰に差しておけ」
「短剣ですか?」
「隠蔽はしているが、一応魔法剣の類だから気を付けろよ。
神聖力に呼応して力が増すらしい」
「らしい…?当然ケヴィン様も貴族であるからには使いこなせるのですよね?」
「………………………………トウゼンダロ?」
目を泳がせる軽薄男…
最近、祈りの時間から逃げ出す方法とか早く終わらせる方法とかを考えている節がある。
エルシャは警戒を強める必要を感じた。
言われた通りに腰に短剣を差すエルシャ。
短剣の使い方は母に教わった事がある。
主に敵を打倒すためというよりは貴族の女としての覚悟のためではあるが…
………
夫との会話を楽しんでいる内に馬車は遂に皇都の城壁までたどり着いた。
「検問やってるみたいだな…時間かかりそうだ」
城門には人や馬車が列をなしていた。
城壁の中に入るにも住民でないならば税がかかるし、商人達の物品持ち込みにも税はかかるため基本時間はかかる。
だが、今日はそれに加えて少々入念に検問を敷いているようで列は長く続いていた。
諦めて列に並ぶことにした二人…
しばらく順番が来るのを待っていたのだが、警備のために巡回に来た衛兵がケヴィンを見た途端声をかけて来た。
「おや?ケヴィンさんじゃないですか、順番待ちですか?」
「おお、久しぶり…なんだか大変そうだな、まあのんびり待つよ」
「でしたら、今貴族用の通路がすいてますからそちらをお使いください」
「いいのか?」
衛兵が頷くとそのまま案内をしてくれ貴族用の通路へと向かった。
衛兵と話をしていると、周りの人々からから「ケヴィン?」「ケヴィンがいるのか?」というひそひそ声が聞こえて来た。
一瞬で注目を浴びる夫…どうやら有名人らしい。
そう言えば冒険者の活動で勲章を貰ったと言っていた…
王国で聞いたことはなかったが、ハーケーンでは有名人なのだろうか?
貴族用通路は一般用の隣に設置されており、貴族が来ていない場合は一般人が通されているようだった。
エルシャ達の馬車が到着すると門番が笑顔で声をかけて来た。
「荷の点検だけさせてもらいますね」
「ああどうぞ、米と酒、あとカメル油と美容クリームだよ」
「…ええと、そちらは?」
「妻だ」
ケヴィンが鼻高々で言ったその言葉を聞いた瞬間、今まで友好的であった門番たちの顔が急に不信な顔へと変化していった。
「………失礼ですが身分証の確認をさせていただきますでしょうか?」
「え?…いや、構わないけど」
ケヴィンが冒険者タグを見せるが、門番は首を傾げ隣の仲間と相談を始める。
「おい、本物…だよな?」
「そう見えるが、一応隊長に確認しておいた方がいいんじゃないか?」
「だな…」
「すみませんが少々お時間をください。上司に確認を取りますので」
「かまわねーけどお前ら後で全員謝れよ?」
………
門番達が上司を連れて来るとケヴィンに対して笑顔で挨拶をしてきた。
「お久しぶりですケヴィンさん、前に来たのっていつでしたっけ?」
「まだ雪パラついてたしな…三か月前くらいじゃなかったか?」
それに対して苦笑いしながら答えるケヴィン。
そしてどうやらその言葉に満足いったようだ…
「おい、本物だ。…ご結婚されたというのは本当なんですか?」
「おう!美人だろ?」
「…何かの作戦か?(ボソ)。それはおめでとうございます」
隊長の許可が出たため作業に戻った門番達。
若干呆れながらもケヴィンは彼らの作業を見守った。
「積み荷は贈答用でよろしかったですか?」
「ああ」
「ではこちらに物品と数、贈答先をご記入ください」
エルシャがチラリとケヴィンの記入内容を見ると贈答先がエーデルとなっていた。
皇国の貴族家は名前くらいは憶えていたが見たことが無い名前だ。
侯爵家で手に入れた名簿には載っていなかったか、家名ではないか、もしくは偽名という事も考えられる。
するとケヴィンが冒険者クランの仲間でこれから借りる家のオーナーだと教えてくれた。
「随分丁寧にやってるんだな」
「ええ、しばらく警戒するよう上からの命令でして。以前散々痛い目を見ましたからね」
「あれは辛い事件だったな…」
「何があったのですか?」
ケヴィンの遠い目にキョトンとしてしまうエルシャ。
「とある怪盗事件がありまして、そいつが変装の達人でしてね。
驚いたことに犯人がケヴィンさんの婚約者を装い…」
「おいやめろ。俺…最後まで信じてたんだからな」
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「そ、そうですか」
「別にいいんだよ、昔の事は。今はエルシャがいるからな!」
「ハハハ、本当ですね、とても真実とは思えない美しい奥様でいらっしゃる。
皇都は初めてでいらっしゃいますか?」
「ええ、子供の頃に本で見たものをこの目で見る事になって感動しております」
「ああそれは…ぜひ楽しんで行ってください!」
隊長との雑談に花を咲かせていると物品の確認をしていた部下がおやと尋ねてくる。
「すみません、数が一つ合わないようですが…」
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エルシャも軽い笑顔と会釈で礼をすると兵たちも思わずデレッとしてしまう。
「それにしてもあのケヴィンさんが結婚ですか…」
「あほ、んなわけあるか。大方、大貴族か王族の訳あり護衛だろ、あまり広めるんじゃないぞ」
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