追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

14.フレポジ夫人と皇女

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「ケヴィン…皇子に向かって罰ゲームは酷いんじゃないのか?」
「お兄様不敬ですよ不敬…処します?」
「いやだって、いっつも面倒な仕事押し付けようとしてくるじゃないですか」

 エルシャの体が次第にプルプルし始めて来る。
勿論これは体勢がきついからなどではない、ハーケーンの皇族を前にすれば1時間や2時間この体制を維持するなど造作もない。
エルシャが震えあがるのは夫の皇族に対する態度である。
何故この軽薄男は堂々と目の前の人間に向かってタメ口がきけるのか…
本来ならば夫をたしなめたい所ではあるのだが、今は口を利く事を許されてはいない…故に何も言えないのだ。

「うん?…エルシャなにやってんの?」

貴賓席から客席に蹴り落しても構わないだろうか…?

「そちらの御令嬢は?」
「ああ!聞いて驚いてください、この世界一の美女であるエルシャこそ、私の妻となった天使ですよ!!」
「え…誤報じゃなかったの?」

コルディーニ皇子も目を丸くしつつも発言が真実かを確認する事にした。

「………直接聞いてみた方が良いな、直答を許すエルシャと呼ばれた其方はケヴィンの妻で間違いないか?」
「コルディーニ皇子殿下並びにコーデリア皇女殿下、ご機嫌麗しゅう存じます。
私がケヴィンの妻、シュナール王国サレツィホール侯爵家からフレポジェルヌ家嫁いでまいりました。
エルシャルフィール・フェルエール・フレポジェルヌと申します。
本日はお会いできたこと大変光栄にございます」
「ふむ…面をあげよ」

言われてようやっとエルシャは目の前の二人の顔を拝むことを許されたのだ。

「今まで婚約者と呼ばれた者達とは会った事はあったが本当に結婚したというのは初めてだな。
そして、こうして堂々と名乗られたのも初めてだ」
「コルディーニ様が威圧するから何人か俺の下から逃げたんですけどねぇ?ほんとロクでもねぇ」
「私は何も言っていないぞ?単に政治的価値があるのかを考えていただけで…」
「それがプレッシャーだって言うんですよ、なに人の女…「ハイハイ、男たちはそっちで仲良くやってて!」

不敬にも皇子に文句を言うケヴィンと兄を押しのけエルシャの手を取り自分の席の隣へと案内するコーデリア。

「さ、エルシャ様…こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」

女二人がさっさと話し込む準備をしていたのでケヴィンも仕方なく皇子様の隣へと座る事にした。
ほんとなら両手に華で話した方が絶対楽しいに決まっているのだが、折角エルシャと同年代、しかも育った立場が近しい者どうしで友人になれるチャンスなのだ、邪魔するわけにはいかない。

(それにしても、皇女様ぐらいじゃないと立場が近しい者になれないってホントエルシャって高嶺の花だったんだな…)


――――――――――――――――――――――

「エルシャ様、ケヴィン様とのご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます。突然の結婚で驚かせてしまった事お詫びいたします」
「卒業パーティーでの件は聞いております。大変お辛らかったでしょう?」
「ご心配おかけいたしました」 
「それにしても、話は聞きましたが随分一方的な言い分だったらしいですね?
それを聞いた時私も腹を立ててしまいましたわ。
エルシャ様…私は貴方の味方ですからね!」

言ってエルシャの手を握るコーデリア。
エルシャは考える…この皇女の意図を…

(………)

「…あの場で不快にさせてしまった方々にはお詫びのしようもありません。
皇女殿下のお気持ちも大変ありがたく存じます…ですが」
「………」
「ですが、王太子殿下との婚約は政略結婚であり、それを破棄されたのは殿下とその周りの人間を御しきれなかった私共の政治的な敗北以外何物でもございません」
「そんな…エルシャ様の想いを踏みにじっただけでございましょう!
そんな人間に周りがついて行きますでしょうか!?」
「問題ございません、私と殿下の婚約などたかだか十八年程度の事。
それが破棄されたからと言って遥か昔より脈々と受け継いで来た侯爵家の王家への忠誠が揺らぐ事などあり得ません」
「………」

それを聞いたコーデリアはしばしエルシャの目を見つめ続けたが…
「はぁ~」とため息をついた。

「ほーんと、エルシャったら変わりないんだから…呆れちゃうわ」
「コーデリア様もお変わりないようで良かったです」
「コーディでいいって言ったわよね?」
「その時も立場をお考え下さいと申し上げました」
「ハイハイわかりました~…五年ぶりくらいかしらね?」
「ええ、お久しぶりでございます」

 エルシャとコーデリアは初対面ではなく、その出会いは王都での事。
コーデリアがひと月だけ王都に遊学に来た際案内役を務めたのがエルシャだったのだ。
寝食を共にし友人と呼べるようになり離れた後も年に数回の手紙をやり取りする間柄。
まさかこのような再開になるなど誰が思うだろうか…?
 
「驚きよ…まさかエルシャがケヴィンさんの奥さんになるなんて…
本当、人生ってわからないものよね~」
「私もビックリです、まさかケヴィン様がコーデリア様のお知り合いだなんてどうして思いましょうか?」
「そーよね~なんたって王国辺境のド田舎子爵家だもん。
ちなみに私はケヴィンさんの冒険者クランの仲間って事での繋がりだからね」
「コーデリア様が冒険者なのですか!?」

突然の話にビックリして詰め寄ってしまうエルシャ。
そんなエルシャの思いもよらない反応にクスリと笑い答える。

「ああ、ちょっと違うかな。流石に私が冒険に出たりはしてないから。
事務方のトップって事でクランの副団長の立場を貰ってるだけ」
「………申し訳ありません、冒険者の事に関しては全くの無知と言っていいので」
「『黄金の稲穂』って冒険者クランの事なら王国でも聞いた事くらいあるんじゃない?」
「『黄金の稲穂』ですか………『黄金の麦穂』なら噂だけは聞いたことがあるのですが。
確かセイルーン教国の事件の解決に一役買ったと言われてる冒険者だったはずです…」
「あれは大変だったらしいわね…よく間違われるけど『黄金の稲穂』が正式名称でその事件の解決にはケヴィンさんも協力してくれてたわよ」
「ハァぁぁ!?」
「ちなみにクランの副団長は元々アネス姉様だったんだけど、後から入団した私が立ち場を譲ってもらった形ね。
ケヴィンさんはとばっちりで副団長代理補佐になったけどバリバリの創設メンバーで団長でもおかしくない程よ」

 実は夫は軽薄男の皮を被った超有能な人物という事実を突きつけられて口を開けて固まってしまうエルシャ。
いや、別に夫が無能だと思っていたわけではない。
村にいた時も、王国の辺境にこんな素晴らしい人材が隠れていたのかと感心していたのだ。
そして、軽薄男である事もまた疑う事の出来ない事実ではある。

 だが、どうしてハーケーン皇女が副団長を務めるほどの冒険者クランの創設メンバーであり、歴史的大事件の解決に一役買った人物だという事が周りの扱いから想像できたであろうか。
むしろ、どうしてそんな人間が今まで結婚したくても出来なかったのだ??
エルシャの頭の中に「???」が乱舞する…

 そんなエルシャの気も知らないで、劇場に調律の音が鳴り響いた…
劇場がこれから演劇が始まるというムードに染まって行く。

「そう言えば、よくケヴィンさんがこの演目に連れて来たわね」
「………???」
「ああ、ジェジルの差し金か…きっとエルシャも気に入ると思うわよ」
「ええ、楽しみにしております」

コーデリアのその不敵な笑みにエルシャも首を傾げつつも、憧れの地で見る演劇に期待する。
そして、舞台の幕が上がるのだった…
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