追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

16.フレポジ夫人と皇都の朝

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 言いたい事は山ほどあれどここはハーケーン。
今後の対応をどこに耳があるかもわからないこの場所で話し合いなど出来るわけもない。
言葉をグッと飲み込み夫を祈りの間へと引きずって行く。

 祈りの間に向かう途中、館の警備員数人がケヴィンに朝稽古を誘いに来た。
チラチラとエルシャの方に確認の目を向ける夫、エルシャも夫の付き合いの邪魔をするつもりはない。

「貴族の義務ですから…簡単でもいいのでお祈りはしていただきます」
「わ、わかったよ…」

 すぐ終わらせていいと言っているのに何故少し恨めしそうなのだ?
警備員もその二人のやり取りを見て笑いながら「ケヴィンさんには丁度いい奥様ですね」などと言ってくる。
エルシャとて自分の性質くらいわかっている…
そんな自分が妻で丁度いいと言われる夫…やはり矯正が必要のようだ。

―――――――――――――――――――――――

 ケヴィンを早めに解放した後、夫の分までじっくりと祈りを行う。
そして、エルシャも祈りの間から出て来るがケヴィンは当然まだ鍛錬中。
夫を差し置いて先に朝食を取るつもりもないので、エルシャはこの館の書架を見せてもらった。

 書架に揃っている本はやはりというか、エルシャが読んだことのない本ばかり。
館の客人向けなのだろう、学術書の類は少ないがその分観光に役立ちそうな本やハーケーンの属国の旅行記なども豊富だった。
王都の見慣れたラインナップとは全く違う世界に思わず目を輝かせてしまう。

「凄い!聞いた事もない国の旅行記ですよ!こっちはハーケーンの聖堂の紹介ですか!」

 興味に導かれるまま物色を始めると、気になった本を手に取りキープするために傍について来た侍女に手渡すを繰り返していく。
次々に侍女の手の中に本を積み上げて行くエルシャ。
侍女の顔が引きつって行くのには全く気が付いていなかった。

「ムフフゥ~こんな所に隠れても無駄ですよぉ~。ハーケーンの歴史書みつけましたぁ~。
あら、怪盗特集?面白そう…!」
「あ、あの…奥様?そろそろこれくらいにされては…」
(…おや?)

 侍女の提案にふと我に返って振り向くと…
そこには本を積み上げられてプルプルして顔をひきつらせた侍女…

「もう持ちきれません…お部屋にお持ちいたしますので…そちらでお読みになっては…いかがでしょうか?」
「は…はい…」

………

 本を部屋へと運び込んでおくよう頼むと、ちょうどケヴィンが鍛錬から戻ってきていた。
普段朝の鍛錬は別人のように真面目に取り組む夫。
エルシャもそれが分かってからはなるべく邪魔をしないようにと心掛けている。
たまにコッソリ遠くから見学させてもらうが…大体気づかれてしまう。
なので、鍛錬を早く切り上げるのは何かあった証拠だろう。

「あら?早かったのですね…」
「あー、客が来たみたいだからな。」
「おはろ~エルシャ」
「コーデリア様…」

―――――――――――――――――――――――

 朝食がまだだったという理由からコーデリアを交えた食卓。

「皇女殿下が突然現れたら使用人達も対応に困ります…事前に仰ってくださいませ」
「は~い!」

以前王都の案内をしたこともあるエルシャにはその変わらぬ自由な振る舞いに小言を言いつつも笑ってしまう。
本当に自由な皇女様である、そしてそこが彼女の魅力なのだろう。

「そういうわけで、エルシャを借りたいんだけどいいわよね?」
「ダメだ、エルシャは俺とデートの予定だからな。ちなみに明日も明後日もずっとだ」
「お兄様がケヴィンさんと話があるんですって、だから私がその間の案内役を任されてるんだけど…?」
「うげぇ…だから俺は聞きたくないって「よろこんで」…えぇ」

 駄々を捏ねる夫を遮ってエルシャが了承する。
皇子が妹に伝言を頼んだ上に埋め合わせで皇女を使うような依頼を無視するにはそれ相応の理由が必要だ。
そして、妻とのデートが相応の理由とはならないだろう。
夫がいかにコーデリアと仲が良くとも王国貴族としての他国の皇族に対する礼儀を忘れてもらっては困る。
しかも今回はエルシャ自身を理由にしようとしているのだ、言語道断である。

「じゃあよろしくねエルシャ、皇都のおすすめのお店連れて行ってあげるから」
「楽しみです」
「あ、そうだ…後コレも忘れないうちに渡しておくわ」

そう言って取り出したのはパーティーの招待状であった。
使用人がトレイに乗せてエルシャの下へと持ってくると中身を確認する。

「コーデリア様の誕生パーティーですか…明後日!?」
「ええ、本当は以前からケヴィンさんには渡してはいたんだけど…パートナーが変わってしまったしねぇ~」
「バックレるつもりだったのに…」

 ブスッとした顔の夫にコーデリアは苦笑い。
以前のパートナーというのは前に話を聞いた逃げられた婚約者という方だろう。
皇女殿下直々の招待を断ろうとしていた夫に呆れてしまう…

「お話はありがたいのですが、明後日となると流石にドレスの用意が出来ません…」
「ええ、なのでこれから私と選びに行きましょう?」

 なるほど…出来合いの物であっても皇女自らが選んだ一品と言えば体裁は保てるというわけか。
そう言う事であればエルシャとしても断る理由はない。
例のトンネルの事もある…皇族との関係構築は急務だ。
エルシャには例え知らなかったとしても夫のしでかした事の責任がある。

「そういうことなら…ケヴィン様、よろしいですね?」

ちなみにこれを訊ねたのはイエスかノーかを聞いているのではない。
返答はイエスしかありえないのだ。

「………はい」
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