追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(前編)

26.フレポジ夫人と娼婦

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 煽情的なドレスに身を包んだ"アイリーン"と呼ばれる女性。
その後ろには複数の女性を連れており、皆同様に露出が高めの服装だ。
そして、全員が豊満な肉体をしている…

 ケヴィンがその女性たちを目にした時、苦々しい顔を浮かべてはいるがその目が一瞬女性たちの胸に注目した事をエルシャは見逃さなかった。
この女性たちが夫とどのような関係なのか…
夫と出会い成長をしたエルシャには何となくであるがそれを理解できた。

「全く…帰ってたんだったら連絡くらいよこしなよ」
「俺の故郷はフレポジェルヌだって言ってるだろ?」
「何言ってんだい、もうここはあんたの故郷みたいなもんだろさ」

 確かにそうなんだが…とその言葉に何も言えなくなってしまうケヴィン。
それを見たエルシャは勿論面白くない。
自分がカヤの外で自分の夫を分かった風に言われるのだから。

すぐに後ろの女たちもキャッキャとケヴィンにちょっかいをかけ始め、その間にアイリーンはエルシャの方に気を向けた。

「それにしても見ない顔だね…」

そう言って今度はエルシャの顔をジロジロと覗きこんできたのだ。
無礼な…そう思いつつも声をかける事もなく夫の対応を待った。

「おい…止めないか」
「つれないね~別にいいじゃないか。
ったく新しい娼婦に乗り換えたかったんだったらわざわざ手切れ金なんて用意しないでサッサと言ってくれればよかったのに…」

………

………

………しょう…ふ…???

 ケヴィンはヒュッと息を吸い込み反射的に警戒した…ピリピリと感じるその殺気に…
武術を何も学んだ事が無いというのになぜこれほどまでの殺気を???
そんな疑問が湧いてくるがとりあえず落ち着かせる方が先だ。
「エルシャ…取り合えずおち…」といい終える前に、バーン!!とテーブルを叩く音が鳴り響く。
そして他の客達の注目を集める中、エルシャの怒りが堰を切ったように流れ出した。

「娼婦!???事もあろうにこのエルシャルフィールを娼婦と言いましたね!?
サレツィホール侯爵の娘でありフレポジェルヌ子爵家嫡男の妻であるこのエルシャルフィールを娼婦と!!!
貴族の体は髪の毛一本、血の一滴であっても、家、国、誇り、そして民のために捧げるための物であって決して金に換えるための物ではありません!
このような侮辱が他にありましょうか!?
そこに直りなさい!二度と口がきけないようこの手で引導を渡してやります!!」

 エルシャは腰の短剣を怒りのまま引き抜いてアイリーンに向ける。
それに恐れたアイリーンは咄嗟にケヴィンの後ろへと周り盾にするが、それすらもエルシャを煽っている様にしか見えない。

「え”…こう…しゃく?それって………マジ?」
「王国貴族ではありますが貴族を騙れば極刑です。皇国では違うと?」

 アイリーンとて貴族の女に対しての娼婦呼ばわりがどれほどNG行為なのかは理解している。
それは、血を流してでも汚名を拭わなければならない程だという事も…

 完全に殺意をまき散らした状態のエルシャに慌ててなだめにかかるケヴィン。
確かに初めて会った人間に突然娼婦呼ばわりは失礼が過ぎる。
アイリーンの事だからケヴィンの友人なら冗談で終わるとでも思ったのかもしれないが…

「お、おい!ちょっと待てちょっと待て、ただの冗談だから…な?」
「冗談であっても許されないことがあります。ケヴィン様もこの私が不貞を働くような人間だと見えると言うのですか!?
もしそうであればこの場で自刃いたします」
「見えない!見えないし覚悟もありすぎだから!!アイリーン!お前もさっさと謝罪しろ!!!」
「悪い!!申し訳ございませんでした。
ケヴィンの隣にいたからつい間違えてしまっただけで悪意はございません!!」

 言って慌てて頭を下げるアイリーンであったが、咄嗟の事でいつものように悪いのは全部ケヴィンという言葉になってしまっている。
しかしその場にいた全員その事には気づかず店内の人間全員が当たり前だよな?とウンウンと頷いてしまっていた。

 内容はどうあれ夫が謝罪を促し、その通りに謝罪した相手…
怒りがそれで収まるわけもないが…しかし夫の顔を立てなければならないというのも事実。

「場を乱して申し訳ありません…失礼いたします」

そう言ってケヴィンも置いて店を出るエルシャ。

………
……


 暗い夜の街を一人歩く…などという事も出来ず、店の前で夫が出てくるのを待っていたエルシャ。
すぐにケヴィンも店から出て来るが…エルシャが店の前で待っていたのは少し意外だったのか焦っていた。

「一人で出歩いてなくてよかった」
「………」

 暗い夜の街など女の身一つで出歩けるわけもない、それが異国の地であれば猶更。
夫が駆け付けてくれたことにホッとする…
そして、そんな事すら情けなく感じてしまう。

 自分の言葉に嘘があったわけではない…だがその言葉全てが本心であったわけでもない。
アイリーンとケヴィンは確かに娼婦と客という線引きをした関係だったのだろう。
だが、だからと言ってその間に全く何の感情が無かったとも思わない。

 ケヴィンという人間を知っている。
それは、初めて会ったエルシャを最大限に愛そうとしてくれた事で身に染みている。
娼婦と客という関係であっても、きっと愛情を持って接していたはずなのだ。
そして、彼女を見たケヴィンの眼差しがふと優し気に見えてしまったから…
エルシャの心に渦巻く醜い心…

エルシャはアイリーンという女に"ケヴィンを想う女"として敗北したのだ…

 そして蔑むべきはそこに貴族の誇りを持ちだしたことだ。
本能的に悟ってしまったのだ、女としての戦いをして彼女と戦うためには自分は遥かに無知であると。
だから、土俵を自分の理解の範囲に移し戦いの場から去ったのだ。

これを卑怯と呼ばず何と呼ぶのだろう…
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