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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
5.謎の令嬢と服飾店
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「んでこれからどうすればいいんだ?」
「少々向かう所がございますので、それまではボディーガードをお願いします」
「ヘイヘイわかりましたよ」
「言葉使いはそれが限界ですか?」
「なんかおかしかったか?」
「…であれば、次に行く場所では何があっても口を開かないようお願いいたします。
会話は私がしますのでボディーガードに徹して下さい」
「命が危なくならない限りお守りいたしますよ、お姫様」
「…時間がありません、行きましょう」
………
……
…
「ここが目的地か?」
「いえ、礼拝堂を見つけたので寄って行こうかと…朝のお祈りがまだだったので」
「時間が無いとか言ってなかったか?」
「時間が無くともお祈りの時間は作る物です」
「お前何言ってんの???」
エルシャ達が付いた先…というよりは目についたので寄り道したのは小さな礼拝堂であった。
今朝はとんでもない場所で目覚めたのでお祈りがまだだった…それだけの理由で立ち寄ったのだ。
当然モブールとしては意味不明である。
(こいつ実はバカなんじゃ…?)
疑惑の目でエルシャの後ろ姿を見つめるモブール。
エルシャはそんなモブールを連れて礼拝堂へと入っていく。
銀貨二枚を礼拝堂のシスターに喜捨して祈り始めようとするのだが…
『お、おい…賽銭で銀貨なんて出す奴初めて見たぞ?』
「………???」
何を言っているのかが分からず困惑するエルシャ。
『いいから貴方も祈りなさい』
『…どうすりゃいいんだっけ?』
『ロアリス様に日々の糧の感謝を伝えればよいだけです』
『カテ???』
『…見守って下さりありがとうございますとだけ言っておきなさい』
『お、おう…』
頭が痛くなってくるのを抑えながらも子供にお祈りの仕方を教える気持ちで無心になるエルシャであった。
………
……
…
いつもよりもかなり早くお祈りを済ませ、礼拝堂から出て行くエルシャ達。
何だかんだ言ってモブールも孤児院の頃以来のお祈りで楽しそうにしていた。
「ケケケッ銀貨分元を取るためにケヴィンの野郎に天罰が下るようお願いしといてやったぜ」
(………私の夫なのだが???)
―――――――――――――――――――――――
礼拝堂からでた後は寄り道をせずに目的地へと向かった二人。
向かった先は商業地にある服飾店であった。
「服でも買うのか?」
「ええ、この格好だと何もすることが出来ませんから」
言っている意味が全く理解の出来ないモブールは無視して店に入っていくエルシャ。
入るなり店員を捉まえて服を頼む。
「この店で一番仕立ての良い女物の服を見せて頂戴」
「え?…は、はい、かしこまりました」
突然の要求に一瞬驚く店員であったが、エルシャの毅然とした立ち居振る舞いに加え後ろにボディーガードらしき人間を侍らせている。
何処かの商人の娘だと判断し慌てて要求された商品を用意した。
「こちらになります」
「そう、着てみるわ」
「はい、こちらへどうぞ…」
少々エルシャの趣味には合っていないが今はそんな事を気にしている場合でもない。
仕立てがそこそこの物であれば取り合ずは良しとして、持ってきた服をそのまま試着してみるエルシャであった。
結果、胸が少々苦しい事を除いて下級貴族の私服としては問題なさそうであった。
元々の服の下取りと会計を済ませ店を出る二人。
「やっと終わったか…んで、次は何処に行くんだ?」
「はい、次は別の服飾店へ向かいます」
「………なんだって?いやいや、お姫様や…アンタ今服を買ったばっかだろ?」
「ええ、これは服を買いに行くための服です」
「お前何言ってんの???」
「………???」
何って、貴族街の服飾店に平民の服で入れるわけもない…
当たり前の話なのだが、何を悩んでいるのだろうか?
だが、今はそんな疑問を解消している余裕もないためすぐに次の目的地へと向かったのだった。
―――――――――――――――――――――――
貴族街…皇都の一等地でもあるこの場所に小庶民であるモブールのような人間が来た事などあるはずもなく。
歩くだけで捕まってしまうのではないかとびくびくしながらエルシャの後をついて行く。
「もう少し堂々と歩けないのですか?」
「いや、こんな場所来た事ねーし」
「貴方はボディーガードとして私を守るだけです。
問題が起こっても私が対処いたします。堂々としていなさい」
「お、おう」
さっきまで貧民街でビクビクしてたくせに…などとは間違っても口には出さないモブール。
こんな場所で一人で放り出されたらあっという間に捕まってしまうのだ、貧民街などよりも恐ろしい。
大人しく言われた通りにエルシャの後について行く。
………
……
…
「いらっしゃいませ、本日はどの様な物をお求めでございましょう?」
到着した店に入ると店員がすぐにエルシャの下へと駆け寄って挨拶しに来る。
「とある高級貴族の屋敷で働く事になったの。それに見合う服を探しているのだけれど…」
「お嬢様が…ですか?」
「ええそうよ…なにか?」
店員が驚くのも無理はなかった。
この店は貴族街にあるとは言っても、それほど有名な店ではなく知り合いの伝手を頼って何とかやって言っているような弱小店である。
そんな店にどこからどう見ても高級貴族の立ち居振る舞いをしているお嬢様が使用人としての服を注文しているのだ。
正直言って意味不明である。
「あ、いえ、ではサンプルをいくつかお持ちいたしますので…」
「ああ、ごめんなさい。言い忘れてたのだけれど、すぐに必要なの。
予定してた店がパーティーの衣装の為に遅れてしまったらしくてね。
これから使えるように出来合いの物をお願いできるかしら?」
「只今お持ちいたしますので少々お待ちください」
………
そして店員は店長の下へと全力で走っていくのだが…
「てんちょ!?やべぇのがきたっと!!!」
「ちょっと、言葉が出てるわよ…やべぇの?」
「あれはやべぇです!なんかこう…オーラ的な物がやべぇです」
「一体何を言って…」
とは言いつつも、ここまで焦って自分を呼びに来るのだから何かあるのだろうと渋々挨拶に行くのだが…
「なんあれ、やっばぁ!!!」
「いったべぇ!?」
再び奥に戻り店員と二人で焦りまくる事になったのであった…
「んで、てんちょどうすっぺ?」
「とりあえず言葉を戻しなさい…」
そして考える。
一体何なのだあの違和感の塊は…?
店長も昔は一流店で修業をし今の個人店舗を持つまでになりあがった人間である。
上流階級という人間達などごまんと見て来た経歴がある。
そんな自分であってもほとんど見たことが無いレベルの洗練された立ち居振る舞い。
…王族。
頭によぎったのはその言葉であった。
皇族であれば職業柄、顔と名前は全て把握している。
だが他国の王族であればその限りではない。
そして、アレはそれに類するものである可能性が非常に高いのだ。
なのにソレが下級貴族が着るような服に身を包み、そしてさらに貴族家に奉公するための服を所望する。
何の冗談なのだ…?
………そこでふと気が付いた。
「もしかして本当に冗談なのかしら?」
「店長…?」
「…ふっふっふっ」
「て、てんちょー???」
「もしかしたらこれはチャンスかもしれないわよ…」
急いでエルシャの要求する服をピックアップし持っていかせる。
すると案の定エルシャが手に取るのはどれも使用人が着る服の中でも皇室に仕えても恥ずかしくないレベルの高級品。
それで店長は確信したのだ。
これは王族か最上級ランクの貴族令嬢による戯れだと…
「服に合う靴も持ってきなさい…!」
店員に慌てて命じる店長。
これに少々困った事になったのはエルシャである。
「ごめんなさい、今日はちょっと持ち合せが少なくて靴までは…」
「そうですか…?お代は後でも結構ですが」
「あら…?それならお願いできますか」
エルシャとしても突然飛び込んだ店でツケ払いが利くとは思わず驚いてしまうが、今はありがたい事である。
素直にその厚意に感謝し甘える事にした。
そして店長の方はと言うと、ドレスを買える金額を少ないと言い後であればいくらでも使って構わないという金銭感覚に確かな手ごたえを感じるのであった…
「少々向かう所がございますので、それまではボディーガードをお願いします」
「ヘイヘイわかりましたよ」
「言葉使いはそれが限界ですか?」
「なんかおかしかったか?」
「…であれば、次に行く場所では何があっても口を開かないようお願いいたします。
会話は私がしますのでボディーガードに徹して下さい」
「命が危なくならない限りお守りいたしますよ、お姫様」
「…時間がありません、行きましょう」
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「時間が無くともお祈りの時間は作る物です」
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エルシャ達が付いた先…というよりは目についたので寄り道したのは小さな礼拝堂であった。
今朝はとんでもない場所で目覚めたのでお祈りがまだだった…それだけの理由で立ち寄ったのだ。
当然モブールとしては意味不明である。
(こいつ実はバカなんじゃ…?)
疑惑の目でエルシャの後ろ姿を見つめるモブール。
エルシャはそんなモブールを連れて礼拝堂へと入っていく。
銀貨二枚を礼拝堂のシスターに喜捨して祈り始めようとするのだが…
『お、おい…賽銭で銀貨なんて出す奴初めて見たぞ?』
「………???」
何を言っているのかが分からず困惑するエルシャ。
『いいから貴方も祈りなさい』
『…どうすりゃいいんだっけ?』
『ロアリス様に日々の糧の感謝を伝えればよいだけです』
『カテ???』
『…見守って下さりありがとうございますとだけ言っておきなさい』
『お、おう…』
頭が痛くなってくるのを抑えながらも子供にお祈りの仕方を教える気持ちで無心になるエルシャであった。
………
……
…
いつもよりもかなり早くお祈りを済ませ、礼拝堂から出て行くエルシャ達。
何だかんだ言ってモブールも孤児院の頃以来のお祈りで楽しそうにしていた。
「ケケケッ銀貨分元を取るためにケヴィンの野郎に天罰が下るようお願いしといてやったぜ」
(………私の夫なのだが???)
―――――――――――――――――――――――
礼拝堂からでた後は寄り道をせずに目的地へと向かった二人。
向かった先は商業地にある服飾店であった。
「服でも買うのか?」
「ええ、この格好だと何もすることが出来ませんから」
言っている意味が全く理解の出来ないモブールは無視して店に入っていくエルシャ。
入るなり店員を捉まえて服を頼む。
「この店で一番仕立ての良い女物の服を見せて頂戴」
「え?…は、はい、かしこまりました」
突然の要求に一瞬驚く店員であったが、エルシャの毅然とした立ち居振る舞いに加え後ろにボディーガードらしき人間を侍らせている。
何処かの商人の娘だと判断し慌てて要求された商品を用意した。
「こちらになります」
「そう、着てみるわ」
「はい、こちらへどうぞ…」
少々エルシャの趣味には合っていないが今はそんな事を気にしている場合でもない。
仕立てがそこそこの物であれば取り合ずは良しとして、持ってきた服をそのまま試着してみるエルシャであった。
結果、胸が少々苦しい事を除いて下級貴族の私服としては問題なさそうであった。
元々の服の下取りと会計を済ませ店を出る二人。
「やっと終わったか…んで、次は何処に行くんだ?」
「はい、次は別の服飾店へ向かいます」
「………なんだって?いやいや、お姫様や…アンタ今服を買ったばっかだろ?」
「ええ、これは服を買いに行くための服です」
「お前何言ってんの???」
「………???」
何って、貴族街の服飾店に平民の服で入れるわけもない…
当たり前の話なのだが、何を悩んでいるのだろうか?
だが、今はそんな疑問を解消している余裕もないためすぐに次の目的地へと向かったのだった。
―――――――――――――――――――――――
貴族街…皇都の一等地でもあるこの場所に小庶民であるモブールのような人間が来た事などあるはずもなく。
歩くだけで捕まってしまうのではないかとびくびくしながらエルシャの後をついて行く。
「もう少し堂々と歩けないのですか?」
「いや、こんな場所来た事ねーし」
「貴方はボディーガードとして私を守るだけです。
問題が起こっても私が対処いたします。堂々としていなさい」
「お、おう」
さっきまで貧民街でビクビクしてたくせに…などとは間違っても口には出さないモブール。
こんな場所で一人で放り出されたらあっという間に捕まってしまうのだ、貧民街などよりも恐ろしい。
大人しく言われた通りにエルシャの後について行く。
………
……
…
「いらっしゃいませ、本日はどの様な物をお求めでございましょう?」
到着した店に入ると店員がすぐにエルシャの下へと駆け寄って挨拶しに来る。
「とある高級貴族の屋敷で働く事になったの。それに見合う服を探しているのだけれど…」
「お嬢様が…ですか?」
「ええそうよ…なにか?」
店員が驚くのも無理はなかった。
この店は貴族街にあるとは言っても、それほど有名な店ではなく知り合いの伝手を頼って何とかやって言っているような弱小店である。
そんな店にどこからどう見ても高級貴族の立ち居振る舞いをしているお嬢様が使用人としての服を注文しているのだ。
正直言って意味不明である。
「あ、いえ、ではサンプルをいくつかお持ちいたしますので…」
「ああ、ごめんなさい。言い忘れてたのだけれど、すぐに必要なの。
予定してた店がパーティーの衣装の為に遅れてしまったらしくてね。
これから使えるように出来合いの物をお願いできるかしら?」
「只今お持ちいたしますので少々お待ちください」
………
そして店員は店長の下へと全力で走っていくのだが…
「てんちょ!?やべぇのがきたっと!!!」
「ちょっと、言葉が出てるわよ…やべぇの?」
「あれはやべぇです!なんかこう…オーラ的な物がやべぇです」
「一体何を言って…」
とは言いつつも、ここまで焦って自分を呼びに来るのだから何かあるのだろうと渋々挨拶に行くのだが…
「なんあれ、やっばぁ!!!」
「いったべぇ!?」
再び奥に戻り店員と二人で焦りまくる事になったのであった…
「んで、てんちょどうすっぺ?」
「とりあえず言葉を戻しなさい…」
そして考える。
一体何なのだあの違和感の塊は…?
店長も昔は一流店で修業をし今の個人店舗を持つまでになりあがった人間である。
上流階級という人間達などごまんと見て来た経歴がある。
そんな自分であってもほとんど見たことが無いレベルの洗練された立ち居振る舞い。
…王族。
頭によぎったのはその言葉であった。
皇族であれば職業柄、顔と名前は全て把握している。
だが他国の王族であればその限りではない。
そして、アレはそれに類するものである可能性が非常に高いのだ。
なのにソレが下級貴族が着るような服に身を包み、そしてさらに貴族家に奉公するための服を所望する。
何の冗談なのだ…?
………そこでふと気が付いた。
「もしかして本当に冗談なのかしら?」
「店長…?」
「…ふっふっふっ」
「て、てんちょー???」
「もしかしたらこれはチャンスかもしれないわよ…」
急いでエルシャの要求する服をピックアップし持っていかせる。
すると案の定エルシャが手に取るのはどれも使用人が着る服の中でも皇室に仕えても恥ずかしくないレベルの高級品。
それで店長は確信したのだ。
これは王族か最上級ランクの貴族令嬢による戯れだと…
「服に合う靴も持ってきなさい…!」
店員に慌てて命じる店長。
これに少々困った事になったのはエルシャである。
「ごめんなさい、今日はちょっと持ち合せが少なくて靴までは…」
「そうですか…?お代は後でも結構ですが」
「あら…?それならお願いできますか」
エルシャとしても突然飛び込んだ店でツケ払いが利くとは思わず驚いてしまうが、今はありがたい事である。
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