追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

15.フレポジ男と仕事終わり

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「ふひぃ~」「はぁ~」

 風呂上がりの火照った体を団扇で扇ぎながら脱力しているケヴィンとメルキス。
地下迷宮のアジトを片っ端から捜査しさっきやっと地上に出てこれたため騎士団の風呂で体を休めていたのだ。

 地下迷宮は下水と繋がっている…そのため非常に匂う。
冒険者としてやってきたケヴィンとそれと共に行動する事が多かったメルキスはその匂いにも慣れてはいる。
だが、地上に出て来て道行く人から顔をしかめられるのは割と堪えるのだ。

 騎士団の風呂を借りてひたすら洗って匂いを消したつもりなのだが…

「クンクン…匂い残ってるかな?」
「どうでしょう…クンクン…大丈夫じゃないですか?」
「うーん、二人とも下水で鼻がバカになってる上に同じ騎士団の備品の石鹸使ってるからなぁ」

 お互い湯上りの薄着で匂いを嗅ぎ合っている…
傍から見ればただならぬ関係に見えただろうが、長年訓練や仕事を共にしてきた間柄の二人にとっては別に特別なイベントでは無かったりする。

 互いに剣を撃ち合い汗の流し合えばご飯が美味しいメルキスにとっては風呂上りは賢者モードの時間である。
そして薄着の女ならばすぐに飛びつきそうなケヴィンにとっては、訓練で入念にプライドをへし折られ続けた相手…
心の虚勢手術を受けているようなもので、メルキスに対してピクリとも反応しない時間になっていた。
いつもなら娼婦さんのおっぱいに癒してもらうしかない位凹んでいるのだ。

「ま、石鹸で誤魔化されてるならいいか」

そう言って立ち上がりパーティー用の衣装をマジックバックから取り出すケヴィン。

「今日のパーティーに出席するんでしたね」
「メルキスは本当に出ないのか?」
「ええ、城周辺の警備にあたろうかと。城は父上が担当しますので」
「いや、出席って警備の話じゃなくてメルキスが招待客として出ないのかって聞いたんだが?」
「ハハハッ、パートナーが…いません…よ」

ずどーん…と聞こえて来そうなほど落ち込むメルキス。
見ていられずに咄嗟に他の騎士達に目を向けるが…

「じ、自分はフィアンセがおりますので…」
「私も…」

どうやら職場の男どもはモテるようだ。
…近衛騎士というトップクラスの人間が集まる職場なのだから当たり前と言えば当たり前だ。

 ちなみにどうしても出席しなければならないパーティーという事でケヴィンがパートナーを務めたことは何度かある。
しかし、それ以上の関係になる事はなかったし今やケヴィンも既婚者なのでどうしてやることも出来ない。
王国も皇国も貴族が妻を複数娶る事は認められているが、流石に新婚でパーティーに他の女を連れて行くと後ろ指差されるだろう。
そしてなにより貴族が側室を取る際は正妻の許可が必要という暗黙の了解もあったりするのだ。

それ故に、貴族の女が正妻であるかは敏感になる所であり当然あの妻がそれを気にしないわけもないのだ。
申し訳ないが、メルキスの事は放っておいて自分の準備をするませる事にしたのだった。

………

 着替えを終えたケヴィンが更衣室から出て来ると、ほとんど同時にメルキスも着替えを終えて来た。
女の準備は長いと言うが、近衛騎士として軍で長く生きて来たメルキスは準備も早い。
女性用の近衛騎士の制服に身を包んだメルキスにケヴィンは謝った。

「手伝えなくて悪いな、大事な約束してるからすっぽかせないんだ」
「え、ええ…勿論、最初からその約束でしたから問題ありません」

 パーティーにおいて、警護を担当する騎士達の姿というのは皇室の威光を示すという点で一つのイベントだったりする。
そしてその中で近衛騎士の一部隊を指揮する女性騎士というのは注目されるし特にメルキスは女性人気もなかなかのものなのだ。

「…ん?」

ふと、メルキスの服を見ていて気になる事があった…

「どうかされましたか?」
「いや、メルキスが装飾品を着けるなんて珍しいなと思ってな」

そう言って指さしたのはメルキスの胸に着けている勲章ではないブローチのような物。

「ああ、これは貴族や使用人達が皇族に対して忠誠のあかしとして身に着けている物なのですよ。
最近になってパーティーなどの式典で流行らせようとしているようです。
発起人は…たしかロ―マック伯爵だったかな?
父が頼み込まれてしまい妥協という事で私が身に着けさせられているのです」
「ああ…」

 昔、何度かメルキスに装飾品の類をプレゼントした事があったのだが「大事にする」と言った割に一度も身に着けている所を見たことが無かったりするのだ。
興味が無いだけなのかと思っていたので、メルキスが装飾品を身に着けていた事が若干ショックだったりしたのだが…
忠誠の証であれば折れるのがメルキスらしいと思える。
勿論、メルキスの方としてはプレゼントはちゃんと保存魔法をかけた上で大事に保管してあるだけなのだが。

「のけ者かよと思ったけど忠誠の証なら俺が着けちゃマズいわな」
「ああ、そう言えば王国貴族でしたね」
「最近よく間違えられるけどな、王国貴族らしくしないとエルシャに睨まれそうだから領の仕事に精を出すつもりなんだがな」

 ちなみに今日の衣装も実は王国のパーティーに出席する時の為に用意した物だったりする。
エルシャのパートナーを務めるなら王国風の服装がしっくりくるだろうと考えたのだ。
だがそれを見たメルキスはふとケヴィンが遠くなったように感じてしまう。

「それは寂しいですね…」
「ま、たまに来るけどな」
「皇国はケヴィン殿をいつでも歓迎しますよ」
「メルキスもたまには休み取ってうちの温泉にも来いよ?」
「…奥様がいらっしゃるのでしょう…大丈夫なのですか?」
「へ、なんで?…大丈夫に決まってるだろ水臭い」
「………そう…ですね…大丈夫…デスヨネー」

遠くなったケヴィンを遠い目で見るしかなかったメルキスであった。
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