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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

16.フレポジ男のエスコート

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「本当にやるつもりか?『エルシャルフィール』…」
「ええ、我々の計画にケヴィンはどうしても邪魔でしょう」

馬車の中でジェジルとエルシャルフィールはこれから向かうパーティーに関しての打ち合わせをしていた。

「それはそうだが…エルシャルフィール自体も王国側が欲しがっている貴重な素体だ」
「…それは王国側の問題、理由も教えられずに欲しいと言われてもね。
コッチはコッチで重要な計画なはず」
「それは確かにそうだが…」
「彼らは留守、この体ならケヴィンを容易に抑えることが出来る…こんなチャンス滅多にないでしょ」

確かにソレはそうだとジェジルは唸る。
一方、エルシャルフィールの方は終始淡々としていた。

「いいだろう…だが女用の腕輪はそれが最後だという事も忘れないでくれ」
「これが最後?」
「ああ、オリジナルがケヴィンに汚染された」

これに眉をひそめるエルシャルフィール。

「………汚染って何?」
「オリジナルがケヴィンに接触したら使い物にならなくなったんだ。
それでオリジナルは処分されている。お前もケヴィンには充分注意しろ。」
「そ、そう…わかったわ」
「オリジナルになれる素質があるのは稀有だというのに…本当に厄介な奴だ」

そしてジェジルはうんざりと大きなため息をついてしまう。
馬車が目的地に着くとジェジルが組織の人間からとある物を受け取った。
そして再び動き出す馬車の中でエルシャルフィールにソレを渡した。

「これがそうなの?」
「ああ、使用人達と貴族には既に別の協力者が配布済みだ」
「…それはすばらしいわね」

実際に手に取って物を確かめるエルシャルフィール。
『薔薇』と呼ばれるブローチで、ハマっているのはルビー。
しかし、エルシャルフィールの目でじっくり観察すると、その奥には宝石のカットで巧妙に隠された黒い宝石がはめ込まれていた。

「見事な細工ね…」
「コレをどうにかケヴィンに身に着けさせてくれ」
「そうすれば彼をこちらが手に入れることが出来ると…」
「出来そうか?」
「ええ勿論、パーティーを楽しんで来るわ」


―――――――――――――――――――――――

「ケヴィンさん…こんな所で本気で待つつもりですか?」
「勿論だ、パートナー無しでパーティー会場に入場させるのは忍びないからな」
「はあ…」
「あ、もしエルシャが先に中に入っちゃってたら呼んでくれる?」
「良いっすけど…」

日も落ちて来てそろそろパーティー客が到着する頃。
城門前で仁王立ちしているケヴィン…
一緒に来た騎士がやめさせようとしたのだが…

(ま、ケヴィンさんだったら見世物として成立するからいいか…)

チラホラやってきたパーティー客達がケヴィンの姿を見ると手を振ってきていた。
それに律義に手を振り返すケヴィン。
皆喜んでいるからそれでヨシと放置を決めるのであった。

………

しばらく城門前で待っていると、思ったよりも早く目的の馬車が到着した。
ほとんどの人間が初見で麦穂と言ってくるが断じて稲穂である紋章を掲げた馬車。
『黄金の稲穂』の馬車である。
ケヴィンが手を振りその馬車を呼び止める。
すると扉が開き中から美しい女性が出て来るので慌ててその手を引いた。

「ケヴィン様!」
「エルシャ、一人にさせてすまなかったな…奇麗なドレスじゃないか。
女神をエスコートできるなんて、まるで俺の天界での階位があがってしまった気分だ」
「フフ、ありがとうございます…皇女殿下から贈られたドレスなんですよ?」

そう言ってクルリと回って見せるエルシャにケヴィンは思わずホゥと驚いてしまう。
若干はしゃいだ風のエルシャが意外だったからだ。
エルシャであればパーティーは「女の戦場」…くらい言いそうなものだと思っていたのだ。
相手を楽しませる事に全力しそうな妻をどうやって楽しませるか…そんな事を考えていたのだが杞憂だったようだ。

「今夜は存分に楽しも…」

それが言い終わる前にケヴィンの唇がエルシャによって盗まれていた…
エルシャの突然の大胆な行動に一瞬硬直してしまうケヴィン。
だが、珍しいエルシャからのキスにそっと腰に手を回ししたいようにさせる。
数秒そうしているとスッと唇を離すエルシャ。

「本当に寂しかったんですよ?」
「…ああ、本当にすまなかった」

ふと違和感を感じ胸元を見てみると、そこにはメルキスが身に着けていた宝石に似たようなブローチが着けてあった。

「これは…?」
「貴方様を独占するためのプレゼントです」
「俺の心はエルシャ一筋だってのに信じられないのか?」
「ええ、勿論!」

そう言ってイタズラを成功させたように笑うエルシャ。
エルシャの意外な早業に驚きつつも、そんな彼女に手を差し出した。

「行こうか」
「はい、旦那様」

そう言ってケヴィンの腕を取るエルシャ。
さりげなく押し付けられた胸でケヴィンの鼻がうんと伸びる。
寂しくさせてしまった分、今晩はうんとサービスしようと固く誓ったのだった。

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