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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
17.助っ人メイドと不安
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ジェジルはエルシャルフィールを送り届けた後、とある人物に会いに行っていた。
パーティー客から離れ待っていたのはロ―マック伯爵。
そして、会うなり口に出した言葉は抗議の言葉であった。
「どういう事だ、使用人も護衛兵も誰一人として『薔薇』をつけていないではないか!」
「落ち着け…直前になって皇女から命令が下ったのだ。一体何処から情報が漏れたのやら…」
「これでは、多くの別部隊や腕輪を囮に使った意味が無い…どうする?」
「幸い招待客については命令が出ていない。見た所、招待客の多くが『薔薇』を着けている。
なんたって今日は皇族の誕生パーティーなのだからな。
最悪、皇太子だけでも何とか出来ればそれで問題ない」
「第二皇子派のパーティーで起こった暗殺で第二皇子が信任を失い、残った第三皇子は病弱。
第四皇子派が力を持つというわけか」
「そちらの準備は良いのか?」
「ああ、後は例の物だけだが…」
ロ―マック伯爵はそのジェジルの要求に応え、箱を差し出した。
渡された箱を開いて確認するとすぐに満足するジェジル。
そこにあったのは黒く大輪の『薔薇』を形どった宝石であった。
「献上品として持ち込むために制作だけで三人も犠牲になった代物だ…」
「素晴らしい…これで女神にこの身を捧げることが出来る」
「人の命を代わりに捧げる事が信仰か…」
「自身が使命を全うする様を見ることが出来るのだ、美しいだろ!」
「ああ、そうだな…オリジナルもこの会場で見ているのか?」
「残念だがそこまでのリスクは取れないな」
「そうか…」
二人は会話を終え、ジェジルはそこから立ち去った。
その後姿を眺めロ―マックは呟くのだ。
「ふん…下種が」
―――――――――――――――――――――――
パーティー会場に着いた途端に注目の的となるケヴィン達。
パーティー客のみならず使用人たちまでもついついとケヴィンに注目してしまっていた。
(有名人は辛いぜ…)
などと思いつつも取り合えず近くにいた紳士に声をかけてみる。
「失礼、コーデリア殿下はまだ?」
「おや、ケヴィン殿お久しぶりですなぁ。
ええ、殿下はまだいらっしゃっておりませんよ」
「そうでしたか、なら遅刻で嫌味を言われる事はなさそうですね…(誰だっけ?)」
ケヴィンの冗談にハハハッと笑う紳士。
それに気が付いたのが傍に知り合いと話をしていた奥様らしき女性。
彼女たちは笑いながら連れだってケヴィンに挨拶に来た。
(あ、奥さんで思い出した。どっかの商会で会った事のある子爵のおっさんだ)
「ああ、お久しぶりですカッテーナ夫人、相変わらず花びらが舞うかのような登場ですね。
それに、これはまた一段と華やかな方々をお連れだ…」
「あらまぁ」と上品に笑うご婦人達。
その中の一人がケヴィンの隣にいる人物に目を付けた。
「ケヴィン様、そちらは?」
ケヴィンのエスコート相手に興味津々といった風に注目してくる。
恰好の話題なのだからしょうがない。
それに対してケヴィンはドヤ顔で堂々と言い切るのだ。
「妻です!結婚しました!」
「妻のエルシャルフィールです」
ケヴィンの結婚宣言。
そしてその妻と言われた女性の方もそれを否定しないというあり得ない状況に傍にいた客達のみならず使用人に至るまで、動揺が会場を駆け巡った。
ドヨドヨと混乱が広がる会場。
「なんだって?」
「ケヴィンが結婚したと聞こえたが…」
「そんなまさか…」
「え、ウソ、ケヴィン様が?」
「隣の方とても奇麗…」
「どれどれ…まあ、ほんと…」
たった一言で、会場中がケヴィンの結婚という珍報道に踊らされ全ての人間の注目を誘った。
その後すぐにケヴィン達は取り囲まれ絶え間なく人が声をかけに来るのであったが…
………
「皆の衆、ちゃんとパートナー連れて行かれよ!ケヴィン殿は男の顔忘れているぞ!」
誰かがそんな声をあげると会場中がドッと笑いに包まれた。
(うっさいよ!!…助かるけど)
―――――――――――――――――――――――
「ケヴィン様がご結婚って本当だったんですね!」
「………」
ミケーネがエメルに向かって驚きの声をあげる。
そしてライムもケヴィンの存在に喜んだ。
「ケヴィン様がいらっしゃったんだったらこのパーティーも安泰ですよ」
それはそうなのだろう。
招待客の様子を見ればあのケヴィンと話せただけでいいパーティーだったと言えるような表情をしている。
もしエメルが主催者だとしたらケヴィンの様なそこにいるだけで人を喜ばせるような人間は毎回だって招待リストに入れたくなるだろう。
今も皇女殿下が現れるまでの間を完全に埋めてくれていた。
…だが今のエメルはそれどころではない。
「あの…エメルさん?顔が青いですけど大丈夫ですか?」
「え…?あ、ああ…大丈夫よ…ちょっと緊張してしまっただけだから」
そうは言いつつもエメルの動揺はこれまで経験した事が無い程の物である。
心臓がバクバクと鳴って背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
念願の夫の姿が見れたのだ、本来ならばすぐにでも駆け寄って抱きしめてもらいたい…
だが何故…?
(何故あそこに私がいるの?)
夫の隣に立つのは自分と瓜二つの女の姿。
(じゃあ今ここでこうして立っている私は一体誰なの?)
目の前にケヴィンがいるというのに彼との間には招待客による壁が立ちはだかり、更にその向こうには自分自身の姿をしたエルシャルフィールがケヴィンの妻として立っている。
そして、そのケヴィンの胸には見たことが無いブローチが着けられている…
もしかしたら夫は既にケヴィンではなくなっているかもしれないという恐怖。
駆け寄ってそれは別人だと抗議したいと思いつつもエメル自身は足が石になってしまったかのように動けなくなってしまっていた…
家の為、民の為、政略の為に自分はケヴィンの妻でいることが出来た。
しかし今そこに自分はおらず、自分の姿をした誰かが平然と妻を演じている。
そこにエメルを必要とする人間は何処にもいない…
もしかしたら…そう考えてしまう。
もしかしたら、夫はもう自分に愛を囁いてはくれないのかもしれない…と。
パーティー客から離れ待っていたのはロ―マック伯爵。
そして、会うなり口に出した言葉は抗議の言葉であった。
「どういう事だ、使用人も護衛兵も誰一人として『薔薇』をつけていないではないか!」
「落ち着け…直前になって皇女から命令が下ったのだ。一体何処から情報が漏れたのやら…」
「これでは、多くの別部隊や腕輪を囮に使った意味が無い…どうする?」
「幸い招待客については命令が出ていない。見た所、招待客の多くが『薔薇』を着けている。
なんたって今日は皇族の誕生パーティーなのだからな。
最悪、皇太子だけでも何とか出来ればそれで問題ない」
「第二皇子派のパーティーで起こった暗殺で第二皇子が信任を失い、残った第三皇子は病弱。
第四皇子派が力を持つというわけか」
「そちらの準備は良いのか?」
「ああ、後は例の物だけだが…」
ロ―マック伯爵はそのジェジルの要求に応え、箱を差し出した。
渡された箱を開いて確認するとすぐに満足するジェジル。
そこにあったのは黒く大輪の『薔薇』を形どった宝石であった。
「献上品として持ち込むために制作だけで三人も犠牲になった代物だ…」
「素晴らしい…これで女神にこの身を捧げることが出来る」
「人の命を代わりに捧げる事が信仰か…」
「自身が使命を全うする様を見ることが出来るのだ、美しいだろ!」
「ああ、そうだな…オリジナルもこの会場で見ているのか?」
「残念だがそこまでのリスクは取れないな」
「そうか…」
二人は会話を終え、ジェジルはそこから立ち去った。
その後姿を眺めロ―マックは呟くのだ。
「ふん…下種が」
―――――――――――――――――――――――
パーティー会場に着いた途端に注目の的となるケヴィン達。
パーティー客のみならず使用人たちまでもついついとケヴィンに注目してしまっていた。
(有名人は辛いぜ…)
などと思いつつも取り合えず近くにいた紳士に声をかけてみる。
「失礼、コーデリア殿下はまだ?」
「おや、ケヴィン殿お久しぶりですなぁ。
ええ、殿下はまだいらっしゃっておりませんよ」
「そうでしたか、なら遅刻で嫌味を言われる事はなさそうですね…(誰だっけ?)」
ケヴィンの冗談にハハハッと笑う紳士。
それに気が付いたのが傍に知り合いと話をしていた奥様らしき女性。
彼女たちは笑いながら連れだってケヴィンに挨拶に来た。
(あ、奥さんで思い出した。どっかの商会で会った事のある子爵のおっさんだ)
「ああ、お久しぶりですカッテーナ夫人、相変わらず花びらが舞うかのような登場ですね。
それに、これはまた一段と華やかな方々をお連れだ…」
「あらまぁ」と上品に笑うご婦人達。
その中の一人がケヴィンの隣にいる人物に目を付けた。
「ケヴィン様、そちらは?」
ケヴィンのエスコート相手に興味津々といった風に注目してくる。
恰好の話題なのだからしょうがない。
それに対してケヴィンはドヤ顔で堂々と言い切るのだ。
「妻です!結婚しました!」
「妻のエルシャルフィールです」
ケヴィンの結婚宣言。
そしてその妻と言われた女性の方もそれを否定しないというあり得ない状況に傍にいた客達のみならず使用人に至るまで、動揺が会場を駆け巡った。
ドヨドヨと混乱が広がる会場。
「なんだって?」
「ケヴィンが結婚したと聞こえたが…」
「そんなまさか…」
「え、ウソ、ケヴィン様が?」
「隣の方とても奇麗…」
「どれどれ…まあ、ほんと…」
たった一言で、会場中がケヴィンの結婚という珍報道に踊らされ全ての人間の注目を誘った。
その後すぐにケヴィン達は取り囲まれ絶え間なく人が声をかけに来るのであったが…
………
「皆の衆、ちゃんとパートナー連れて行かれよ!ケヴィン殿は男の顔忘れているぞ!」
誰かがそんな声をあげると会場中がドッと笑いに包まれた。
(うっさいよ!!…助かるけど)
―――――――――――――――――――――――
「ケヴィン様がご結婚って本当だったんですね!」
「………」
ミケーネがエメルに向かって驚きの声をあげる。
そしてライムもケヴィンの存在に喜んだ。
「ケヴィン様がいらっしゃったんだったらこのパーティーも安泰ですよ」
それはそうなのだろう。
招待客の様子を見ればあのケヴィンと話せただけでいいパーティーだったと言えるような表情をしている。
もしエメルが主催者だとしたらケヴィンの様なそこにいるだけで人を喜ばせるような人間は毎回だって招待リストに入れたくなるだろう。
今も皇女殿下が現れるまでの間を完全に埋めてくれていた。
…だが今のエメルはそれどころではない。
「あの…エメルさん?顔が青いですけど大丈夫ですか?」
「え…?あ、ああ…大丈夫よ…ちょっと緊張してしまっただけだから」
そうは言いつつもエメルの動揺はこれまで経験した事が無い程の物である。
心臓がバクバクと鳴って背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
念願の夫の姿が見れたのだ、本来ならばすぐにでも駆け寄って抱きしめてもらいたい…
だが何故…?
(何故あそこに私がいるの?)
夫の隣に立つのは自分と瓜二つの女の姿。
(じゃあ今ここでこうして立っている私は一体誰なの?)
目の前にケヴィンがいるというのに彼との間には招待客による壁が立ちはだかり、更にその向こうには自分自身の姿をしたエルシャルフィールがケヴィンの妻として立っている。
そして、そのケヴィンの胸には見たことが無いブローチが着けられている…
もしかしたら夫は既にケヴィンではなくなっているかもしれないという恐怖。
駆け寄ってそれは別人だと抗議したいと思いつつもエメル自身は足が石になってしまったかのように動けなくなってしまっていた…
家の為、民の為、政略の為に自分はケヴィンの妻でいることが出来た。
しかし今そこに自分はおらず、自分の姿をした誰かが平然と妻を演じている。
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