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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

18.フレポジ男と紅薔薇

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 ケヴィンが見世物として招待客に囲まれていると、しばらくしてようやくコーデリアが現れた。
ざわざわとしていた会場から拍手を以て迎えられるコーデリアとコルディーニのみ、他の皇族たちの姿はなかった。
コーデリアは、皇族席から招待客へ向かって挨拶を始めた。

「今宵は私の成人の誕生日を祝うパーティーにお越し下さりありがとうございます。
皇帝陛下と皇太子殿下は皇太后殿下のお見舞いに行かれておりますので到着が遅れます」

この言葉に会場がどよめきをあげるが、あくまで冷静に続けるコーデリア。

「ああ、お見舞いとは言っても少々体調を崩されたというだけの事で大事を取って休んで頂いただけです。
昨日は新作の物語本の発売日でもありましたし…本は逃げないと言っても聞かないんですよ?」

ああ…と会場から笑いが起きる。
皇太后が最近若者が読むような物語本にハマっているというのは有名な話なのだ。
ジョークを交えた挨拶も終わるとコーデリアが兄のコルディーニとファーストダンスを踊りそれを夜会の開始の合図とした。

―――――――――――――――――――――――


「コーデリア様のドレスとても素敵ですね」
「ああ、そう言えばエルシャとお揃いなんだっけ?」
「え、ええそうでしたね…」
「…どうかしたか?」
「いえ、何でもございません」
「体調悪いなら早めに帰ってもいいんだからな?」
「そんなにせっかちにならなくても大丈夫ですよ…せっかくのケヴィン様との夜です、楽しみましょう?
二人きりになるのはまた後でゆっくり…」
「お、おう…」

 言って美しいドレスに身を包んだその体を押し付けて来るエルシャ。
何やら今日のエルシャはやたらと色気があるな…などと感じ鼻の下が伸びてしまうケヴィン。
そんなケヴィンの下にニヤニヤと嫌らしい顔を浮かべた女が近づいて来た。

「よぉ~ケ~ヴィ~ン」
「げぇ…姐さん達」

そして、その後ろからもぞろぞろとついて来た三人の女性たちも…

「やっほーケヴィンの脳みそイカれたって聞いたけど治療いる?」
「ケヴィンが結婚っていくらで買ったんだ?」
「あれ、美人じゃん…はいウソでした~!私の勝ちぃ」
「おい、まだ決まってねーだろ!」
「姐さんが大穴狙いすぎなんすよ…」

 高貴な人間達が集まる夜会だというのに思い思いにケヴィンに失礼な言葉を浴びせ続けるガラの悪い女たち。
だが、決してケヴィンはこれに言い返す事など出来ない。
何しろ彼女達こそケヴィンの冒険者として最初に入団したクラン旧"紅薔薇"のメンバーなのだ。

 入団させてもらうために土下座した頭を理由を聞く前に何の躊躇もなく踏み抜き、真っ裸でスライムの群れにツッコんで来たら仲間にしてやると言われ実行したら爆笑され…
酒のつまみが無いからとギルドの中心で出会って間もない彼女たちの良い所百個を叫ばされ…
オークの群れの釣り餌にされ糞尿まき散らし逃げ回り、水浴びを覗こうとして全員から股間を蹴られ…
今日中に女ひっかけて来なきゃクビと街に放り出され娼婦のお姉さんの慈悲に助けられる…
ケヴィンの恥辱の日々を全て知っている御姉様方…頭があがろうはずがない。

 地獄の鬼のような"紅薔薇"の女たちを経験すれば他の女たちなど全てが天使でしかない。
女だけの冒険者クラン…当たり前である。
ギルドの酒場のテーブルの真ん中で裸で酒を一気飲みさせられるケヴィンを見て他の男が入団を希望するわけもない。

 間違いなく美人集団であり、外面は良かったので世間一般的な評価では女冒険者として成功した誇り高き女性たちであった。
しかし、実力がありAランクでもおかしくなかった彼女たちがBランククランであった理由…
それは女がどうとかは関係なく単にギルドでの素行が悪すぎただけだからであった。

ケヴィンだって本当は辛かった…だけどおっぱいがあったから耐えられた。
おっぱいが無かったら耐えられなかった。

よく同期の新人冒険者達から何故あんな過酷な場所へ身を置くのかと聞かれる事があったが、ケヴィンの答えはシンプルだ。

『たまにおっぱい揉めるんだよ!鼻は折られるけどちゃんと回復してくれるし!』
『全然羨ましそうに聞こえないぞ?』

ちなみに回復は靴裏ヒールという高等技術を見ることが出来る貴重な体験だ。
他にも騎乗位で拳と共に施術を行ってくれたりと、証拠隠…性癖改…いや…あの…とにかくすごいのだ。
一応回復してくれる辺りがパーティーの良心である。

 そんなわけで、ケヴィンの頭は地中深くに入念に打ちこまれているのだった。
見れば、彼女たちの後ろでエスコートをしていた旦那さん衆がケヴィンにすまなそうな顔を向けていた。
しかし、彼等には何の罪もない、むしろ彼らはこの悪魔の様な先輩方を妻に迎え子供まで産ませた英雄なのだ。
派閥の枠を超えて育まれる友情…その会合にはケヴィンもたまに呼ばれ、妻達の対処法を聞かれる事がある。
まあ、残念ながら「逆らわなければ命まではとらない、ヤレるだけマシ」が答えなのだが…

「コレがそうなの?…ふーん」
「えと、あの、ケヴィン様?」
「ああ、悪い…この人たちが俺が冒険者として最初に入団したクラン"紅薔薇"のメンバーなんだ」
「そうでしたか、エルシャルフィールと申します。どうぞお見知りおきを…」

 エルシャルフィールをジロジロと覗き込む無敵の人…元"紅薔薇"団長リディス。
元々貴族令嬢であった団長…だが、手を付けられなくなった父親から現実を知れと冒険者の中に放り込まれた。
本当であればプライドをズタズタに折られて帰ってくる事を期待していた父親。
だが、この団長は残念ながら"ろくでなしの収容所"である冒険者に天職と言っていい程の適性があったのだ。
他の団員達も大体が似たような境遇厄介払いである。

 まあ、女冒険者というのはこれくらい精神ねじ曲がってるくらいでなければやってられないだろう。
耳障りの良い英雄譚に騙され、憧れで冒険者になった女が取り返しのつかない事になるなんてよくある話。
そして再起不能になって娼婦に堕とされるのもよくある話なのだ。
冒険者の中で女の地位は低い?当たり前だ、女が冒険者になどなって欲しくなどないのだから。
だからこそケヴィンは女冒険者を見れば徹底的に口説き、自分が男に狙われる存在である事を自覚させるのだ…
そう、ソレはケヴィンに与えられた使命とも言える。


「私らが結婚式出てない時に本当に結婚しましたってか?いい度胸じゃないか」
「いや、訳ありだったんですよ。それに姐さん達最近出席してなかったじゃないですか」
「ったりめーだろ、何度も何度も天丼繰り返しやがって」
「そうそう、最近マンネリ化してたから」
「ケヴィン、ちょっと離婚してからもう一回結婚してよ」
「「「おっ!それいい!!」」」
「無理っす、アホですか?」

もはやただのチンピラである…
何とか話題を逸らさねば、そう思い材料を光速で探すケヴィン。
ふと彼女たちの胸元に特徴的な物を発見した。

「そのブローチ、そんなカッコいいデザインのもあるんですね」
「あーアレ、ダサかったんで私達のは自分達でデザインしたオーダーメイドだよ」
「ホントホント、旦那が騙されて買わされたんだけどさ」
「とりま、忠誠を示すためってんなら自分達で作って悪いわきゃないわな」
「ほんとせっこい商売してるわよねぇ~」
(っぶねっ!褒めてよかった褒めてよかった!!)

 彼女達との会話は綱渡り…選択肢を間違えた瞬間 Dead End である。
そして、肩身が狭いのが自分達のプレゼントをボロクソ言われている旦那衆。
そんな旦那様達の胸に付いているブローチには妻達から強制的につけられたであろう物。
妻の瞳の色の石が着けられたそれは"愛情"ともとれるが…
知っている人間からすると"見ているぞ"とか"忠誠を誓うのは妻"とも取れる。

…合掌。

(ってゆうか何気にそのブローチを着けてる自分もディスられてるな…)

まあ、全方位に爆撃するのが彼女たちの日常なのでこれしきの事屁でもない。
隣で顔を引きつらせてるエルシャには後でフォローを入れようと思う。
そんなケヴィンの心労をよそにリディアは話を進めていく。

「おいケヴィン、景気づけに私ら全員でダンスでも披露するぞ…そっちの手癖の悪い女もいいな?」
「姐さん…俺の嫁さん捕まえて手癖が悪いは無いでしょうが…」
「呆れた、あんたはそんなんだからすぐ女に騙されるんだよ」
「エルシャは別に騙したりしませんよ」
「エルシャねぇ…いいだろ?」
「ええ構いませんよ」

そして、会場中の拍手の中ケヴィン達のダンスが始まるのであった…

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