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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
10.皇女様とメイド長
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パーティーの準備をしていたコーデリアの居室の扉が開きメイド長が入ってきた。
この時間だとパーティーの設営をしているはずなのだが何かあったのだろうか?
「どうかした?バーベラ」
「はい、コーデリア殿下の御耳に入れておきたいことがございます」
「そう…」
コ―デリアが侍女たちに目線を送ると周りで衣装の着付けをしていた侍女たちが一斉に下がっていく。
「それで?」
「今城内にエルシャルフィール様の侍女を名乗る女が入り込んでおりまして…」
「エルシャの侍女…?知らないわね」
とは言ってもあのエルシャはペラペラ自分の侍女の話などをする人間でもない為それの真偽は分からない。
そのエメルという侍女について一連の話をコーデリアが聞かされるのだが…
「<記憶術>…容姿は?」
「青目に栗毛です」
「栗毛?…なら違うか。まあ、変装して潜り込む必要なんてどこにもないし当たり前か」
しかしながら自身で<記憶術>を所持しているエルシャが侍女として手元にそのような人材を置くとも思えない。
「ただあの顔…どこかで見たような気もするのですが」
「バーベラが覚えていないの?」
「面目有りません、年でしょうか…」
「そんな事言わないでよ…バーベラが覚えていなんじゃ誰も分からないんじゃない。間者の線は?」
「容姿も整っておりましたので間者の可能性は高いと思ったのですが…
それにしては堂々としておりましたね。何のつもりでしょうか?」
そもそもエルシャの侍女を装う必要性が無い…
エルシャがハーケーンに来ているという情報はそれほど広まってはいないはず。
そして、もし城に潜り込みたいのであればもっと他に怪しまれない方法があったはずだ。
ジェジルの紹介状の件に関してもやり方がいささかゴリ押しが過ぎる。
パーティーで何かを企てているのであればこれでは逆に警戒心が強くなってしまう。
まるで今日この日に間に合わせれば後はどうにでもなると言わんばかり。
「館の方は?」
「エルシャルフィール様と共に既に館を出発されたとの事、引き続き調べさせております」
「出発が早いわね…」
時間に厳しいエルシャが、遅れるべきパーティーに時間より早く着くというのは考えられないのだが…
何か早く出なければならない問題が起きたか…もしくは脅されている?
いや、エルシャという貴族に限って脅されたからと言ってハーケーンに害が及ぶような事に手を貸すとは思えない。
脅された原因を切り捨てるか、自決するくらいの覚悟を持った人間に脅しは通用しない。
これは王国の重要人物を個別に分析した際に導き出した結論だ。
誠実には誠実を、害意には制裁を、そして王国には絶対の忠誠を…
そんなエルシャだからこそ、コーデリアは誠実を以て友人となる事を選んだのだ。
「エメルが言うには『薔薇』なる物を用意しているのだとか…」
「『薔薇』ね…」
薔薇は皇室を象徴する花。
目の前のコーデリアが使っている扇子にすら薔薇があしらわれている。
それだけでは該当する物が多すぎる。
「そのエメルという侍女に会ってみましょうか」
「コーデリア殿下、ご冗談は…」
「はいはい、わかってるわよ」
「あの者には手練れを傍で監視させ泳がせております、おかしな真似をすればすぐに捕らえるでしょう」
なので尻尾があるなら出させるために好きにやらせる事にしたのだが…
ただ、泳がせるにしても生息水位が若干高すぎる気がしないでもない。
「それで、パーティーの方はいかがなさいますか?」
「たかだか反国家勢力の企み一つで右往左往していたら何にも出来ないでしょう?
当然開催します…とは言っても、これが本当にエルシャからのメッセージという可能性もあります。
御父様と大兄様には欠席してもらった方が良いでしょうね。
お婆様に風邪でもひいてもらって来て」
「仰せのままに…」
そして、一礼して下がろうとするバーベルであったが、途中で立ち止まってしまう。
「―――ジェジルが…」
「ジェジル?」
「ジェジルが胸に黒いブローチを着けていたと…」
「………彼の趣味ではないわね」
ふぅ…とコーデリアの口からため息が漏れる…
「もしかしたら腕輪はブラフだったのかも…」
「………警戒させます」
………
バーベラが部屋から出て行くと再び侍女たちが入ってきて着付けを再開する。
コーデリアの誕生日におめでとうを言って欲しかった人の一人…
物心ついた時から傍にいてくれた人の悲報…
皇女という立場は下々の者達の想いを一身に受ける義務がある。
だが、人々の幸せを考えた所で手の平で水をすくうように救いきれない人々がこぼれていく。
そしてそんな彼らは救えなかった権力者の不幸を願うようになる…
彼等は決して自分達の不幸を押し付けられる者の事など考えてはくれないのだ。
コーデリアが待ちに待った誕生日すら憎らしいのだろう。
まるで『なぜお前は神ではないのだ?』と言われているかのよう…
「折角結婚できる歳になるっていうのに…もうっ!!」
突然怒鳴るコーデリアに慌てる侍女たち。
しまったと思いつつ怒鳴り散らしてしまった事を侍女たちに謝り、着付けが終わるとしばらく一人にしてくれと頼んだ。
「ヒイロ様…」
不安な心が愛しい人を求める。
彼がいればコーデリアは無敵の皇女になれる…
そして彼がいなければコーデリアは優秀な兄弟姉妹に埋もれるただの無力な小娘。
そんなコーデリアだから、どんな逆境に置かれても鋼の信念を貫く彼女に憧れたのだろう…
この時間だとパーティーの設営をしているはずなのだが何かあったのだろうか?
「どうかした?バーベラ」
「はい、コーデリア殿下の御耳に入れておきたいことがございます」
「そう…」
コ―デリアが侍女たちに目線を送ると周りで衣装の着付けをしていた侍女たちが一斉に下がっていく。
「それで?」
「今城内にエルシャルフィール様の侍女を名乗る女が入り込んでおりまして…」
「エルシャの侍女…?知らないわね」
とは言ってもあのエルシャはペラペラ自分の侍女の話などをする人間でもない為それの真偽は分からない。
そのエメルという侍女について一連の話をコーデリアが聞かされるのだが…
「<記憶術>…容姿は?」
「青目に栗毛です」
「栗毛?…なら違うか。まあ、変装して潜り込む必要なんてどこにもないし当たり前か」
しかしながら自身で<記憶術>を所持しているエルシャが侍女として手元にそのような人材を置くとも思えない。
「ただあの顔…どこかで見たような気もするのですが」
「バーベラが覚えていないの?」
「面目有りません、年でしょうか…」
「そんな事言わないでよ…バーベラが覚えていなんじゃ誰も分からないんじゃない。間者の線は?」
「容姿も整っておりましたので間者の可能性は高いと思ったのですが…
それにしては堂々としておりましたね。何のつもりでしょうか?」
そもそもエルシャの侍女を装う必要性が無い…
エルシャがハーケーンに来ているという情報はそれほど広まってはいないはず。
そして、もし城に潜り込みたいのであればもっと他に怪しまれない方法があったはずだ。
ジェジルの紹介状の件に関してもやり方がいささかゴリ押しが過ぎる。
パーティーで何かを企てているのであればこれでは逆に警戒心が強くなってしまう。
まるで今日この日に間に合わせれば後はどうにでもなると言わんばかり。
「館の方は?」
「エルシャルフィール様と共に既に館を出発されたとの事、引き続き調べさせております」
「出発が早いわね…」
時間に厳しいエルシャが、遅れるべきパーティーに時間より早く着くというのは考えられないのだが…
何か早く出なければならない問題が起きたか…もしくは脅されている?
いや、エルシャという貴族に限って脅されたからと言ってハーケーンに害が及ぶような事に手を貸すとは思えない。
脅された原因を切り捨てるか、自決するくらいの覚悟を持った人間に脅しは通用しない。
これは王国の重要人物を個別に分析した際に導き出した結論だ。
誠実には誠実を、害意には制裁を、そして王国には絶対の忠誠を…
そんなエルシャだからこそ、コーデリアは誠実を以て友人となる事を選んだのだ。
「エメルが言うには『薔薇』なる物を用意しているのだとか…」
「『薔薇』ね…」
薔薇は皇室を象徴する花。
目の前のコーデリアが使っている扇子にすら薔薇があしらわれている。
それだけでは該当する物が多すぎる。
「そのエメルという侍女に会ってみましょうか」
「コーデリア殿下、ご冗談は…」
「はいはい、わかってるわよ」
「あの者には手練れを傍で監視させ泳がせております、おかしな真似をすればすぐに捕らえるでしょう」
なので尻尾があるなら出させるために好きにやらせる事にしたのだが…
ただ、泳がせるにしても生息水位が若干高すぎる気がしないでもない。
「それで、パーティーの方はいかがなさいますか?」
「たかだか反国家勢力の企み一つで右往左往していたら何にも出来ないでしょう?
当然開催します…とは言っても、これが本当にエルシャからのメッセージという可能性もあります。
御父様と大兄様には欠席してもらった方が良いでしょうね。
お婆様に風邪でもひいてもらって来て」
「仰せのままに…」
そして、一礼して下がろうとするバーベルであったが、途中で立ち止まってしまう。
「―――ジェジルが…」
「ジェジル?」
「ジェジルが胸に黒いブローチを着けていたと…」
「………彼の趣味ではないわね」
ふぅ…とコーデリアの口からため息が漏れる…
「もしかしたら腕輪はブラフだったのかも…」
「………警戒させます」
………
バーベラが部屋から出て行くと再び侍女たちが入ってきて着付けを再開する。
コーデリアの誕生日におめでとうを言って欲しかった人の一人…
物心ついた時から傍にいてくれた人の悲報…
皇女という立場は下々の者達の想いを一身に受ける義務がある。
だが、人々の幸せを考えた所で手の平で水をすくうように救いきれない人々がこぼれていく。
そしてそんな彼らは救えなかった権力者の不幸を願うようになる…
彼等は決して自分達の不幸を押し付けられる者の事など考えてはくれないのだ。
コーデリアが待ちに待った誕生日すら憎らしいのだろう。
まるで『なぜお前は神ではないのだ?』と言われているかのよう…
「折角結婚できる歳になるっていうのに…もうっ!!」
突然怒鳴るコーデリアに慌てる侍女たち。
しまったと思いつつ怒鳴り散らしてしまった事を侍女たちに謝り、着付けが終わるとしばらく一人にしてくれと頼んだ。
「ヒイロ様…」
不安な心が愛しい人を求める。
彼がいればコーデリアは無敵の皇女になれる…
そして彼がいなければコーデリアは優秀な兄弟姉妹に埋もれるただの無力な小娘。
そんなコーデリアだから、どんな逆境に置かれても鋼の信念を貫く彼女に憧れたのだろう…
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