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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
12.助っ人メイドと皇女の言葉
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ラビーニャの連れられライム、ミケーネと共に案内されたのは空き部屋の一室であった。
必要な事とはいえ少々力業が過ぎたかもしれない…
捕まる覚悟はこの城に潜入しようと決めた時から出来ている。
あの連中にあのまま捕らえられているよりかは、城の牢の方がよほど安全でもある。
せめてケヴィンに手紙の一つでも書かせてもらえれば上々と言えるだろう。
そう考えていたので連れて行かれること自体は不思議ではない。
ただ、扉を開ければ兵が控えているくらいの事は覚悟をしていたので拍子抜けではある。
運動と言えばダンスか庭園の散歩くらいしかしないお姫様育ちのエメル一人ならメイド三人がかりで捕らえる事は簡単ではあるのだが。
部屋に入ると背後にまわったライム、ミケーネの二人に出口を塞がれる。
この状況から逃げる事など出来ないしその意味すらない。
大人しく沙汰を待つことにしたエメル。
すると、ラビーニャはこちらを振り向く事もなく話を始めた。
「先ほど指示通りにアクセサリー類の所持を禁止するようにするためメイド長に許可を求めに行きました。
(後、不審人物が一人いる事も報告しましたが…)」
(わざわざ呼ばれたという事は要求は通らなかったか、さて…)
そう思っていたエメルであったが、次にラビーニャから飛び出した言葉はエメルの想像を超えた物であった。
「なので、その通知はコーデリア皇女殿下直々の命令としてメイド長が対応する事となりましたのでご報告します」
「………皇女殿下がですか?」
「はい」
これにエメルとしては驚きしかなかった。
自分で言うのもなんだが、今のエメルは決して信用できるような立場ではないはず。
そんな人間の言葉を信じて行動してくれる…
「勿論、パーティー客に対しては今から何かする事は出来ないのですが」
「ですが何故?」
「その行為自体が不都合を生じるとは考えられず、それで安全性がもたらされるのであればやってみよう…という事らしいです」
「人ではなく行動を見て判断したと…」
(コーデリア様らしい…)
少しの呆れと嬉しさで自然と笑みがこぼれて来る。
人を見た目ではなく行いで判断する、コレがいかに難しい事か。
多くの人間と会わなければならない立場の人間にとって見た目や素行で話を聞くべきかという判断をする振るいというのは必要だ。
全ての相手に門戸を開くなど出来ようはずもない。
エメルもそうやって会う人、話を聞くべき人を選んできたのだ。
だからこそ、コーデリア本人に話が届けられるという事は最初から期待はしていなかった。
今のエメルは正直言って目の届く範囲で泳がされている不審人物以外の何物でもない。
そんな人間の言葉を聞き、そして行動に移す…
エルシャには持ち合わせてはいない柔軟な思考。
夫が常に纏っている物と同じ、許し受け入れるという抱擁の姿勢を思い出す。
それは夫と同じく彼女にとっての隙とも言えるだろう。
そしてそんな彼女だからこそ守りたいとも思えるのだ。
「そして、三人をここにお呼びしたのは他でもありません…」
そして、今まで窓の外を見るようにしていたラビーニャはバッとエメルの方へと向き直り腕を掲げた。
「エルシャルフィール様が侍女エメル、そしてライム、ミケーネ、そしてわたくしラビーニャ…
これよりハーケーン皇国第三皇女コーデリア・ティルセルン・ル・ハーケーン殿下よりの御言葉を授けます!」
ラビーニャの背中とうさ耳の隙間から後光が差すかのような堂々とした口上。
皇女の言葉…その言葉にエメルは敬意をもって頭を下げ、ライム、ミケーネの二人は忠誠を示すため跪いた。
「わが友エルシャルフィールの侍女エメル、汝のその忠言と働きに感謝する。
侍女エメルには今より第三皇女コーデリア・ティルセルン・ル・ハーケーンの客人待遇を与える。
引き続き、本日のパーティーの支援を継続されたし。
ライム、ミケーネ、ラビーニャの三名は侍女エメルの下、その助けとなれ。
ハーケーン皇国とシュナール王国に幸あれ!」
エメルはその言葉を確かに受け取り言葉を返す。
「御言葉確かに頂戴いたしました。引き続き我が使命を全うしてまいります」
そして、三人はエメルに向き直り敬礼をする。
「これよりライム、ミケーネ、ラビーニャ三名はコーデリア皇女殿下の御命令により、我が主の客人エメル様の指示の下行動いたします。
何なりとご命令くださいませ!」
突然、メイド達が自分に敬礼をしたのだ。
彼女たちが実は軍人であるなどとは知らないエメルはこれには驚いてしまう。
当然、軍人でもないエメルはこれに困惑し敬礼を返すべきか悩んでしまう…
そして、少し悩んだ末に夫の姿を思い出し咄嗟に出た行動。
ピッと二本の指を使っての敬礼であった…
「よろしくお願いいたしますね」
そんなエメルに対して三人はと言うと…
自分達をひたすら口説いて来ただらしない男の顔を思い浮かべ顔を見合わせ苦笑いになるのであった。
―――――――――――――――――――――――
コーデリアの下にラビーニャが再び面会を求めに来た…
先程のエメルという侍女の件であろうと許可を出し、ラビーニャの話を聞くコーデリア。
「エメル様より殿下へエルシャルフィール様からの御言葉を預かっております」
「エルシャからの…?」
コーデリアが続きを促すとラビーニャがその言葉を届けた。
『成人の御誕生日、お祝い申し上げます。
ハーケーン、シュナール、両国の永遠の友情に女神ロアリスの加護あれ』
コーデリアはその言葉を聞き、一瞬考えるがすぐにラビーニャに侍女を呼ぶよう指示を出し下がらせる。
………
「エルシャ…あなた、近くにいるのだから誕生日の挨拶くらい自分でしに来なさいよ」
そう独り言をつぶやくコーデリア。
部屋に入ってきた侍女に「ドレスを着替えます」と命令を出した。
そして、自分の友人に呆れてしまうのだ。
(一体どんな厄介事に巻き込まれたんだか…)
そして、そんな状況であろうとも自分のパーティーを乱そうとする輩に対する注意を促しに来てくれる。
それがどんなに心強いか…
政略的な友人関係、そのはずであった…
だがその相手はそんな政治的な関係であっても真摯に友人であろうとしてくれる。
どんなにソリが合わない人間であっても相手が誠実であれば耳を傾けてくれる相手。
その堅い頭はその堅さゆえに他者の為に自らを削っていく…
そんなエルシャだからこそ生まれた国は違えど守りたいと思えるのであった。
必要な事とはいえ少々力業が過ぎたかもしれない…
捕まる覚悟はこの城に潜入しようと決めた時から出来ている。
あの連中にあのまま捕らえられているよりかは、城の牢の方がよほど安全でもある。
せめてケヴィンに手紙の一つでも書かせてもらえれば上々と言えるだろう。
そう考えていたので連れて行かれること自体は不思議ではない。
ただ、扉を開ければ兵が控えているくらいの事は覚悟をしていたので拍子抜けではある。
運動と言えばダンスか庭園の散歩くらいしかしないお姫様育ちのエメル一人ならメイド三人がかりで捕らえる事は簡単ではあるのだが。
部屋に入ると背後にまわったライム、ミケーネの二人に出口を塞がれる。
この状況から逃げる事など出来ないしその意味すらない。
大人しく沙汰を待つことにしたエメル。
すると、ラビーニャはこちらを振り向く事もなく話を始めた。
「先ほど指示通りにアクセサリー類の所持を禁止するようにするためメイド長に許可を求めに行きました。
(後、不審人物が一人いる事も報告しましたが…)」
(わざわざ呼ばれたという事は要求は通らなかったか、さて…)
そう思っていたエメルであったが、次にラビーニャから飛び出した言葉はエメルの想像を超えた物であった。
「なので、その通知はコーデリア皇女殿下直々の命令としてメイド長が対応する事となりましたのでご報告します」
「………皇女殿下がですか?」
「はい」
これにエメルとしては驚きしかなかった。
自分で言うのもなんだが、今のエメルは決して信用できるような立場ではないはず。
そんな人間の言葉を信じて行動してくれる…
「勿論、パーティー客に対しては今から何かする事は出来ないのですが」
「ですが何故?」
「その行為自体が不都合を生じるとは考えられず、それで安全性がもたらされるのであればやってみよう…という事らしいです」
「人ではなく行動を見て判断したと…」
(コーデリア様らしい…)
少しの呆れと嬉しさで自然と笑みがこぼれて来る。
人を見た目ではなく行いで判断する、コレがいかに難しい事か。
多くの人間と会わなければならない立場の人間にとって見た目や素行で話を聞くべきかという判断をする振るいというのは必要だ。
全ての相手に門戸を開くなど出来ようはずもない。
エメルもそうやって会う人、話を聞くべき人を選んできたのだ。
だからこそ、コーデリア本人に話が届けられるという事は最初から期待はしていなかった。
今のエメルは正直言って目の届く範囲で泳がされている不審人物以外の何物でもない。
そんな人間の言葉を聞き、そして行動に移す…
エルシャには持ち合わせてはいない柔軟な思考。
夫が常に纏っている物と同じ、許し受け入れるという抱擁の姿勢を思い出す。
それは夫と同じく彼女にとっての隙とも言えるだろう。
そしてそんな彼女だからこそ守りたいとも思えるのだ。
「そして、三人をここにお呼びしたのは他でもありません…」
そして、今まで窓の外を見るようにしていたラビーニャはバッとエメルの方へと向き直り腕を掲げた。
「エルシャルフィール様が侍女エメル、そしてライム、ミケーネ、そしてわたくしラビーニャ…
これよりハーケーン皇国第三皇女コーデリア・ティルセルン・ル・ハーケーン殿下よりの御言葉を授けます!」
ラビーニャの背中とうさ耳の隙間から後光が差すかのような堂々とした口上。
皇女の言葉…その言葉にエメルは敬意をもって頭を下げ、ライム、ミケーネの二人は忠誠を示すため跪いた。
「わが友エルシャルフィールの侍女エメル、汝のその忠言と働きに感謝する。
侍女エメルには今より第三皇女コーデリア・ティルセルン・ル・ハーケーンの客人待遇を与える。
引き続き、本日のパーティーの支援を継続されたし。
ライム、ミケーネ、ラビーニャの三名は侍女エメルの下、その助けとなれ。
ハーケーン皇国とシュナール王国に幸あれ!」
エメルはその言葉を確かに受け取り言葉を返す。
「御言葉確かに頂戴いたしました。引き続き我が使命を全うしてまいります」
そして、三人はエメルに向き直り敬礼をする。
「これよりライム、ミケーネ、ラビーニャ三名はコーデリア皇女殿下の御命令により、我が主の客人エメル様の指示の下行動いたします。
何なりとご命令くださいませ!」
突然、メイド達が自分に敬礼をしたのだ。
彼女たちが実は軍人であるなどとは知らないエメルはこれには驚いてしまう。
当然、軍人でもないエメルはこれに困惑し敬礼を返すべきか悩んでしまう…
そして、少し悩んだ末に夫の姿を思い出し咄嗟に出た行動。
ピッと二本の指を使っての敬礼であった…
「よろしくお願いいたしますね」
そんなエメルに対して三人はと言うと…
自分達をひたすら口説いて来ただらしない男の顔を思い浮かべ顔を見合わせ苦笑いになるのであった。
―――――――――――――――――――――――
コーデリアの下にラビーニャが再び面会を求めに来た…
先程のエメルという侍女の件であろうと許可を出し、ラビーニャの話を聞くコーデリア。
「エメル様より殿下へエルシャルフィール様からの御言葉を預かっております」
「エルシャからの…?」
コーデリアが続きを促すとラビーニャがその言葉を届けた。
『成人の御誕生日、お祝い申し上げます。
ハーケーン、シュナール、両国の永遠の友情に女神ロアリスの加護あれ』
コーデリアはその言葉を聞き、一瞬考えるがすぐにラビーニャに侍女を呼ぶよう指示を出し下がらせる。
………
「エルシャ…あなた、近くにいるのだから誕生日の挨拶くらい自分でしに来なさいよ」
そう独り言をつぶやくコーデリア。
部屋に入ってきた侍女に「ドレスを着替えます」と命令を出した。
そして、自分の友人に呆れてしまうのだ。
(一体どんな厄介事に巻き込まれたんだか…)
そして、そんな状況であろうとも自分のパーティーを乱そうとする輩に対する注意を促しに来てくれる。
それがどんなに心強いか…
政略的な友人関係、そのはずであった…
だがその相手はそんな政治的な関係であっても真摯に友人であろうとしてくれる。
どんなにソリが合わない人間であっても相手が誠実であれば耳を傾けてくれる相手。
その堅い頭はその堅さゆえに他者の為に自らを削っていく…
そんなエルシャだからこそ生まれた国は違えど守りたいと思えるのであった。
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