追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

13.助っ人メイドと伯爵

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 『宵闇の鐘』の企みを阻止するという使命はあるものの、だからと言ってパーティーの準備に手を抜いていいというわけではない。
再びパーティー会場へ戻ってきたエメルは、出来上がりつつある会場を見渡し細部を修正していく。

「この花の位置を少しずらして頂戴」
「…こうですか?」
「ええ、皇女殿下の挨拶の際、招待客から花を背負って見えるように配置して」
「なるほど~」

指示を出すとまた違う場所へ向かうエメル。
…おや?

「5番のテーブルのクロス、さっき直してもらいましたよね?」
「はい…あれ、またズレてる」
「どうしたのかしら…?」

テーブルに近づきクロスを再び直してもらうのだが…
ふと、何かの息遣いを感じた。

(テーブルの下?)

確認するため、クロスをめくりテーブルの下を覗いてみる。

………目が合った。

「………???」

そこにいたのは身なりの良い小さな男の子であった。

(なぜこんな所に子供が?)

そうは思いつつも、このままここで遊ばせておくわけにもいかない。
何とかここから引っ張り出したい所だが…
無理に引っ張り出そうとして逃げられたら、会場が滅茶苦茶にされる恐れもある。
なので、なるべく優しく声をかけてみる事にした。

「かくれんぼでしょうか?」
「………(コクリ)」
「そうでしたか…見ての通り皆さん今夜のパーティーの準備をしております。
駆けまわったり物をいじったりしない事…
そして見つかって怒られるのは貴方様ご自身の責任、約束していただけますか?」
「………(コクリ)」
「ありがとうございます。それでは存分に隠れてくださいませ」

 エメルの顔を驚いた表情でガン見する男の子にクスリと笑いながらクロスを下す。
男の子のイタズラにエメルも最近覚えてしまったイタズラ心がくすぐられてしまったのだ。
そんなエメルをライムがキョトンとした顔で首を傾げるが、苦笑いをしながら別の場所へと移動する事にした。

…が、その時一人の男が会場に訪れたのだった。

「ここの責任者は誰だ!?」

その声に会場の準備をしていたメイド達が顔を向けるのだが…
その顔は決していい物ではなかった。

「げっ…ロ―マック伯爵…」

ミケーネが思わず呟いた名前はロ―マック伯爵…
エメルが自分の記憶からその名前を探し出す。
たしかハーケーンの領主の一人で第四皇子派閥の中心人物でもある貴族であったはずだ。

 コーデリア皇女も所属するコルディーニ皇子率いる親王国の第二皇子派とは違い、王国との戦を望む声をを挙げている領土拡張主義の立場をとっている。
とは言ってもその規模は決して大きくはなく、行き場の無い声を集めるガス抜きの様な派閥というのがエメルの感想であった。
当然エメルとしては付き合いたいとは思えない相手ではある。
だが、伯爵でもある人間が責任者を求めているのに無視するわけにもいかない。

「現在メイド長が別の案件のため席を外しておらえます、なので私が代わりにこの場を任されております」

エメルが求めに応じロ―マック伯爵の話を聞きに行く。
代役であっても責任者である事は間違いないだろうと、ロ―マック伯爵が質問をしてくる。

「パーティーの間使用人達に装飾品を身に着けさせないようにしたのは誰だ?」
「コーデリア皇女殿下よりの御命令です」
「それは知っておる、誰が提案したのかと聞いている」
「…それを知ってどうなさるおつもりでしょうか?」

安全確保のための命令が今から覆るとは思えないのだが…
しかし、そのエメルの言葉に舌打ちをしつつも答えるロ―マック。

「その命令のせいで私が提案したこの皇帝陛下への忠誠を示す紀章までもが着ける者がいなくなったのだ」

そう言って指し示すのがロ―マックの胸元に着けているブローチ。
装飾品に神経質になっている今、むしろそれを外せと言いたくなのだが…
そのブローチは特になんの変哲もない、赤いルビーがはめ込まれたアクセサリーであった。

「そちらは皇室より正式に認可されている物でしょうか?」
「…いや、まだだ」
「でしたら、今回はお控えください」
「この私が皇室に危害を加えるようなものを作ると思っているのか!?」
「それを判断する時間的な余裕がございません。
緊急の案件でありますので忠義を示すためというのであればお控えください」

何故ここまで必死に…?

エメルが勘繰るがロ―マック伯爵家と聞いて思いだした事があった。
たしかハーケーン領のロ―マック伯爵領と言えば古くからルビーの産出地域だったはず。
昔は最高品質のルビーが取れていたが、ここ最近は良質なルビーが取れなくなってきている。
そして、更に追い打ちとしてシュージーン公爵領で新たに発見された鉱脈で良質な宝石が産出されるようになったとも聞く。

見れば伯爵の着けているブローチも良質とはいえ最高品質とは言えない。
なので、アクセサリーに意味を付けて売ろうという所か…
皇族への忠義を示すためというのであれば使用人が仕事中にアクセサリーを着けていても注意し辛い。

勿論それ自体が悪いわけではない。
自分の領の製品をパーティーの場で使っていて欲しいというのは当たり前の話である。
そして上級貴族や王族というのは自国の製品の宣伝役というのも仕事である。
だが、それはそれ…
いくら宣伝したいからと言って保安上必要とされた事を無視するわけにはいかないのだ。

「命令はパーティー客までには及んではおりませんのでお披露目としては十分でございましょう?」

エメルの頭を下げつつも引かない姿勢に思わず「むぅ…」と唸るロ―マック。
だが、顔を上げたエメルをジッと見て少し考えると、今度はエメルに対して興味を抱いてしまったようで…

「女、名を名乗れ」
「エメルと申します」
「ふん…聞かぬ名だな。
まあいいお前今夜私の部屋へ来い、相手をさせてやる」

一体何を言いだすんだと頭を抱えそうになってしまう。
勿論答えなど決まっている。

「夫がおりますのでお断りさせていただきます」
「平民の夫など放っておけ…私が相手をしてやると言っているのだ。
言う通りにすればいい思いをさせてやる…宝石は好きだろう?」

 この男は一体何を言っているんだ?
エメルの心が恐ろしいまでに冷え切るのが分かる。
自分は確かに夫がいると言った…それを無視して放っておけと?
女神の誓いを立てた女に向かってこの言葉は侮辱以外の何物でもない。
それが平民でも貴族でも変わらない…これは女神に対する冒とくに他ならないのだ。

「卿…ここの使用人たちは皆皇室の庇護下におります。
そしてこの私も皇女殿下から許しを得てここに居ります。
この意味がお分かりでない様でしたら、貴方様はここにいる資格はございません」

 エメルが軽蔑の目を向けつつロ―マック伯爵に厳しい言葉を投げつける。
何より気に食わないのはこの伯爵が使用人に対してまるで物を扱うような態度で接している事だ。
貴族と使用人…それは確かに上下関係があり、そこに線を引くのは必要な事である。
しかし、使用人を物として扱うのは話が違う、彼等は人なのだ。

だが、その言葉を投げつけたロ―マックの方はと言うとこの言葉に腹を立ててしまったようだ。

「貴様!この私に忠心を説くかっ!!」

会場に響く怒鳴り声。
思わず使用人達は皆手を止めてしまった。

伯爵という地位を振りかざす相手…
それに対して真っ向から立ち向かう事が出来るのはエメルだからこそであろう。

………

一触即発。
そんな雰囲気に包まれた空間で周りの人間達は胃がキリキリと痛むのを感じていた。

どうするべきかとキョロキョロと辺りを見まわたす使用人達。
男の使用人が背中をつつかれるもプルプル首を振る情けない姿を晒していると…

そこにようやく救いの手が差し伸べられた。
現れた存在にエメルはすかさず頭を下げる。
一体何だと振り返るロ―マック伯爵にその男、コルディーニ皇子が訊ねた。

「いったいこれは何の騒ぎだ?」
「コルディーニ皇子…このような場所にいかがした?」
「ちょっとした戯れだよ、それで…?」
「…いえ、この者に少しばかり礼儀を教えていただけでございます」
「それはもう終わったのか?」
「…はい」
「なら下がれ」
「はっ…」

ギロリとエメルを睨みつけるも、この場でこれ以上何も言えない為そそくさと去っていく伯爵。
ため息をつきそうになるエメルであったが、皇子殿下の前でそんな事も出来ない。
今度はコルディーニ皇子にマジマジと見つめられてしまうエメルであった…


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