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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)
14.助っ人メイドと男の子
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伯爵が去るも、コルディーニ皇子はそこで立ち止まりエメルの顔をジッと見つめる。
感謝を言葉にしたいが言葉を発する事も許されてはいない以上何も言えず沈黙が続く。
そしてようやく口を開きエメルの名を訊ねて来た。
「其方、名は?」
「エメルです」
「エメルか…はて、このような使用人がいたかな?」
「本日のパーティーの手伝いに参りました。
現在はコーデリア皇女殿下より客人待遇を頂いております」
「ああ、其方が…ところでエメル、婚約者などはいるか?」
「夫がおります」
「そうか…それは残念だな」
コルディーニは心底ガッカリした顔をし、それを聞いていた使用人達は目が飛び出そうなほど仰天していた。
そして、エメルはと言うとホッとしていた、他国の皇子にまで説教をしたくはないのだ。
「そうだ、この辺りに男の子が迷い込んでこなかったか?」
「男の子ですか?」
「ああ、少々遊んでいてね…」
「ああ…」
知ってる…知ってはいるのだが、折角隠れている物を教えてしまっても良い物か。
ただ、この場でずっといられるのも困るというのもある。
それ故にエメルは「存じ上げません…」と言葉にしつつ視線をテーブルへと向けた。
それを見たコルディーニは「ふむ…」と理解するとおもむろにテーブルのクロスを開いた。
「どうやら私の勝ちのようだな…?」
「むぅ~」
どうやらコルディーニ皇子がかくれんぼの相手をしていたようで、見つかってしまった男の子は膨れっ面をしながらテーブルの下から出て来た。
その顔があまりにもおかしく、クスリと笑っていると男の子が突然…
「かあさま!」
そう言って小さな男の子がエメルの足にヒシッと抱き着いて来たのだった…
………
………
………
(なんでしょうか、このデジャビュは?)
当然だが、どこぞの軽薄男とは違ってエメルは確実に子供を産んだ事など無いと言い切れる。
ただ確証が無い事もある。
それが、この体が本当に自分の物なのか…?という事だ。
それ故に、こんな子供に違うと突っぱねる事もそうだと肯定する事も出来ず困ってしまうのだった。
助け舟を頼みたくなりコルディーニ皇子の方へ視線を向けるのだが…
「おや、子持ちであったのか…これは失礼した」
と訳のわからない事を言いだしクツクツと笑い出すではないか…
流石にこれにはムッとしてしまう。
しょうがないのでひざを折りその男の子へと言葉をかける事にしたエメル。
「母様ですか…?」
「はい、かあさまの絵と一緒です」
「絵?」
男の子のその言葉にコルディーニ皇子もそこでようやくと言ったように思い出した。
「ああ、そう言えばそうかもしれない…」
「あの…もしやそのお母さまが行方不明だったとか?」
「あー、いや…それはない。彼女は確かに亡くなっている…のだが…」
言った後気まずそうに目を背ける。
そして、それを聞きシュンとしてしまう男の子…
エメルは思わず頭を撫でそっと抱きしめてしまった。
(うーん、どうしたものか…)
しばらく、グズりそうになる男の子をあやしているとコルディーニもいつまでもこうしているわけにもいかないと思ったらしい。
「そろそろ行くぞ、お婆様もお待ちだ」
「…はい」
(お婆様…?という事はこの子はもしかして…)
エメルが男の子の正体に気が付くが、コルディーニは「それでは失礼する」と言って男の子を連れて去って行ってしまった。
「ライムさん、あの男の子はもしかして第四皇子殿下?」
「はい、そうですよ」
「私はそんなにあの子の母君に似ていたのかしら?」
「ああーええと、私はよく知らないんですよね~、お会いした事はあるんですが…」
「………???」
何ともよくわからないライムの返しに首を傾げてしまうエメル。
それに答えるかのように苦虫をかみ潰したよう理由を言葉にする。
「どうやら、殿下を産んでから態度と体が横に膨れ上がったようで…
私がここに勤め始めた頃にはもう…」
おっと…?
「亡くなった原因も不摂生が祟った事によるご病気で…」
「あ…はい…」
何とも言いづらい気持ちになってしまうエメル。
第四皇子の母君である皇帝の寵姫の話は何となく聞いた事がある。
確か、下級貴族の出身で皇帝に見初められ伯爵家に養子に出された後、寵姫となった女性…
それはともかくとライムが続けた。
「それより、良かったんですか?」
「何が?」
「何って、エメルさんコルディーニ皇子に誘われていましたでしょ?」
「言ったでしょう、夫がおります」
「え、あれって本当だったんですか?」
嘘をついてどうするつもりだと思ったのだろう…?
「勿体ない…コルディーニ殿下が結婚を仄めかすなんて初めて見ましたよ?」
「サレツィホール家の娘の侍女であれば政略結婚に使えると思ったのでしょうね…」
「え”?いやいや、アレわりと本気で口説こうとしてましたよ?」
「………???」
口説くも何も婚約者がいるかしか聞かれていないが…?
どうしてあれが口説いたうちに入るのかが分からないエメル。
それもそのはず、ついこの間まで恋愛のレの字も知らなかったエメル。
妹からはそんな姉の為にベタベタな古典恋愛小説を渡され「???」を浮かべていた女。
そして今は自身の夫が挨拶レベルで愛を囁いてくる。
極端な環境に身を置いていたエメルにとって男女間の恋愛事情について一般常識など皆無…
愛の言葉で過剰包装にしなければソレがプレゼントだとわからない程、エメルの恋愛偏差値は壊滅的であった。
ともあれ、今はそんな事を考えていても仕方がない。
「さあ、パーティーの時間は迫っています。仕事に戻りますよ」
「はーい」
感謝を言葉にしたいが言葉を発する事も許されてはいない以上何も言えず沈黙が続く。
そしてようやく口を開きエメルの名を訊ねて来た。
「其方、名は?」
「エメルです」
「エメルか…はて、このような使用人がいたかな?」
「本日のパーティーの手伝いに参りました。
現在はコーデリア皇女殿下より客人待遇を頂いております」
「ああ、其方が…ところでエメル、婚約者などはいるか?」
「夫がおります」
「そうか…それは残念だな」
コルディーニは心底ガッカリした顔をし、それを聞いていた使用人達は目が飛び出そうなほど仰天していた。
そして、エメルはと言うとホッとしていた、他国の皇子にまで説教をしたくはないのだ。
「そうだ、この辺りに男の子が迷い込んでこなかったか?」
「男の子ですか?」
「ああ、少々遊んでいてね…」
「ああ…」
知ってる…知ってはいるのだが、折角隠れている物を教えてしまっても良い物か。
ただ、この場でずっといられるのも困るというのもある。
それ故にエメルは「存じ上げません…」と言葉にしつつ視線をテーブルへと向けた。
それを見たコルディーニは「ふむ…」と理解するとおもむろにテーブルのクロスを開いた。
「どうやら私の勝ちのようだな…?」
「むぅ~」
どうやらコルディーニ皇子がかくれんぼの相手をしていたようで、見つかってしまった男の子は膨れっ面をしながらテーブルの下から出て来た。
その顔があまりにもおかしく、クスリと笑っていると男の子が突然…
「かあさま!」
そう言って小さな男の子がエメルの足にヒシッと抱き着いて来たのだった…
………
………
………
(なんでしょうか、このデジャビュは?)
当然だが、どこぞの軽薄男とは違ってエメルは確実に子供を産んだ事など無いと言い切れる。
ただ確証が無い事もある。
それが、この体が本当に自分の物なのか…?という事だ。
それ故に、こんな子供に違うと突っぱねる事もそうだと肯定する事も出来ず困ってしまうのだった。
助け舟を頼みたくなりコルディーニ皇子の方へ視線を向けるのだが…
「おや、子持ちであったのか…これは失礼した」
と訳のわからない事を言いだしクツクツと笑い出すではないか…
流石にこれにはムッとしてしまう。
しょうがないのでひざを折りその男の子へと言葉をかける事にしたエメル。
「母様ですか…?」
「はい、かあさまの絵と一緒です」
「絵?」
男の子のその言葉にコルディーニ皇子もそこでようやくと言ったように思い出した。
「ああ、そう言えばそうかもしれない…」
「あの…もしやそのお母さまが行方不明だったとか?」
「あー、いや…それはない。彼女は確かに亡くなっている…のだが…」
言った後気まずそうに目を背ける。
そして、それを聞きシュンとしてしまう男の子…
エメルは思わず頭を撫でそっと抱きしめてしまった。
(うーん、どうしたものか…)
しばらく、グズりそうになる男の子をあやしているとコルディーニもいつまでもこうしているわけにもいかないと思ったらしい。
「そろそろ行くぞ、お婆様もお待ちだ」
「…はい」
(お婆様…?という事はこの子はもしかして…)
エメルが男の子の正体に気が付くが、コルディーニは「それでは失礼する」と言って男の子を連れて去って行ってしまった。
「ライムさん、あの男の子はもしかして第四皇子殿下?」
「はい、そうですよ」
「私はそんなにあの子の母君に似ていたのかしら?」
「ああーええと、私はよく知らないんですよね~、お会いした事はあるんですが…」
「………???」
何ともよくわからないライムの返しに首を傾げてしまうエメル。
それに答えるかのように苦虫をかみ潰したよう理由を言葉にする。
「どうやら、殿下を産んでから態度と体が横に膨れ上がったようで…
私がここに勤め始めた頃にはもう…」
おっと…?
「亡くなった原因も不摂生が祟った事によるご病気で…」
「あ…はい…」
何とも言いづらい気持ちになってしまうエメル。
第四皇子の母君である皇帝の寵姫の話は何となく聞いた事がある。
確か、下級貴族の出身で皇帝に見初められ伯爵家に養子に出された後、寵姫となった女性…
それはともかくとライムが続けた。
「それより、良かったんですか?」
「何が?」
「何って、エメルさんコルディーニ皇子に誘われていましたでしょ?」
「言ったでしょう、夫がおります」
「え、あれって本当だったんですか?」
嘘をついてどうするつもりだと思ったのだろう…?
「勿体ない…コルディーニ殿下が結婚を仄めかすなんて初めて見ましたよ?」
「サレツィホール家の娘の侍女であれば政略結婚に使えると思ったのでしょうね…」
「え”?いやいや、アレわりと本気で口説こうとしてましたよ?」
「………???」
口説くも何も婚約者がいるかしか聞かれていないが…?
どうしてあれが口説いたうちに入るのかが分からないエメル。
それもそのはず、ついこの間まで恋愛のレの字も知らなかったエメル。
妹からはそんな姉の為にベタベタな古典恋愛小説を渡され「???」を浮かべていた女。
そして今は自身の夫が挨拶レベルで愛を囁いてくる。
極端な環境に身を置いていたエメルにとって男女間の恋愛事情について一般常識など皆無…
愛の言葉で過剰包装にしなければソレがプレゼントだとわからない程、エメルの恋愛偏差値は壊滅的であった。
ともあれ、今はそんな事を考えていても仕方がない。
「さあ、パーティーの時間は迫っています。仕事に戻りますよ」
「はーい」
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