追放令嬢とフレポジ男:婚約破棄を告げられ追放された侯爵令嬢はあてがわれたド田舎の男と恋に落ちる。

唯乃芽レンゲ

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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

閑話.(過去・前編)妹令嬢と羊のおじさん

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ルフィアは不機嫌だった。

 それは姉であるエルシャの結婚がもうすぐ来てしまうから。
本来はおめでたいはずのソレであったがエルシャの結婚相手である王子がいけ好かない。
常に忙しくしているエルシャであったが、ルフィアが我がままを言うと必ず時間を作って遊んでくれる姉が幼い頃から大好きだった。

 もう何年も前の事、そんな姉に会いにルンルン気分で王都へ初めて訪れた。
その際に会ったそいつは、事もあろうに最愛の姉を無下に扱いやがったのだ。
ルフィアのスキル<直感>もこいつは敵だと告げてくる。

 そして、侯爵領にいるルフィアにすら聞こえてくる噂も腹が立つ。
侯爵令嬢であり婚約者でもあるエルシャというものがありながら男爵家の令嬢にうつつを抜かしているという。
噂を聞いてしまったときには怒りのあまり侯爵である父に問い詰めたほどだ。
外では口に出せないがいっそ破談になってしまえとすら思っている。

(お父様もだけどお母様やお兄様も何をやってるのかしら!そんな女さっさと斬ってしまえばいいんだ!!)

 堂々と斬れないにしてもその男爵家を潰すなり、やりようはあるはず…
それをしないのは怠慢としか思えないのである。
もっとも一番斬りたいのはクソ野郎クソ王子の方なのだが。

 アイツの父親が国王でなければルフィアが直接乗り込んで叩き斬っていたかもしれない。
気が晴れないルフィアは噂を聞いてからたまに侯爵家の騎士団に教えてもらいながら剣を振るようになった。
出来はいまいちだが殺気だけは合格点を貰っている。

「そもそもお姉様もお姉様よ!」

 周りがそんな状態にあっても自分の義務を全うしようとする姉にも呆れてしまう。
もしルフィアであったら、さっさと侯爵家に戻ってきて頭を擦り付けて謝罪に来るまで許さないだろう…
その謝罪というのは相手の男爵令嬢を修道院送りにするなども含まれる。
それも建前できっと破談にするためのあらゆる手を探るであろうが…

 自分のこれからの人生を共にする相手が自分を蔑ろにするような人間だったらそれは地獄だろう。
男が色んな女に目移りしてしまうのはしょうがない事だと思うし、誠実なだけの男は女の扱いがぞんざいでそれはそれでつまらないとも思う。
だが、父は既に亡くなった前妻を今でも愛しているし後妻であるルフィアの母も同様に愛している。
そんな姿を見ていると思う…
男だったら自分の妻にするのであれば全員を愛して見せる甲斐性を持てと。

 ムカムカする気持ちが消えないが、ハタと自分が今パーティー会場にいるのを思い出した。
気持ちを無理やり切り替え休憩スペースから移動しようとすると…
アッと思った頃には手遅れ…前を見ていなかったため、うっかり人にぶつかってしまった。

「申し訳ありません」

慌てて、しかし冷静を装いながら一人の紳士…いや、おじさん?に謝る。

「ああ、いやいや、こちらこそ申し訳ない。
すまないね~珍しい料理が並んでいたものでつい目移りしてしまって」

そういって頭をかくのは…やはり、どっからどう見ても普通のおじさん。

 ここは侯爵家のパーティーであり周りは皆、笑顔を張り付けてはいるがチャンスを手にしようと内心ピリピリしている場である。
狼たちが傷ついた者たちを見つけて食らいつく…そんな場所。
そんな狼の群れにひょっこり現れた無警戒の羊、本来ならばあっという間に食いつかれるはずなのだが。
そのあまりの無警戒っぷりに周りの狼たちが動揺するレベルである。
ヒョイと現れた羊に罠を疑ってしまうがルフィアの<直感>も危険を知らせる素振りがない。
いや、むしろ仲良くなっておけとさえ告げてくる。

「ごめんなさいね~この人ったら、ダンスパーティーなのに踊れないからって食べてばっかりで」
「おっと何を言うか…ダンスならワシも得意だぞ?」

ほれっ!という声と共に奇妙なステップを踏み始める。
なんというか…美しいというより、面白い?

「あなた…それは村祭りのダンスでしょう?」
「ムムム、パーティーのダンスもちゃんと踊れるぞ?どうだいお嬢さん、私と一曲。」
「まあ、それは楽しそう。ぜひお願いいたします!」
「せいぜい恥を掻いてらっしゃいな」

 笑いながら送り出す夫人。
本当に仲の睦まじい…そんな感じのする夫婦。
ルフィアのギスギスした心がホッとするような感覚に陥った。

ルフィアがおじさんの手を取ると会場からチラチラと注目を浴びる。
もちろんおじさんを見ているのではなくルフィアが見られているのだ。
それもそのはず、今日はずっと機嫌が悪いですという感情を顔に張り付けていたからダンスに誘うなどという勇気を持った男はいなかったのだから。

 以前、姉に関する出鱈目な噂を流そうとしていた令嬢を社交界から追放したこともあったのでなおさらだろう。
そして今回は王子の不貞の噂である…絶対関わりあいたくないというのが当たり前であろう。
そんなルフィアを誘う漢は…えーと、誰だっけ?という感じである。

…そういえば自分も名前聞いてなかった。

あまりに話しやすかったためにうっかり聞いた気になっていた。

 そして始まったのは…演劇の道化役の様なドタバタとしたダンス。
周りの様子もハラハラした視線やクスクスと笑い声まで聞こえて来る。
そして、まるでそうするのが正しいかのようにルフィアの足を踏んでしまうおじさん。
こうなればルフィアもとことん付き合う所存である。
ルフィアもわざとらしくほっぺを膨らませ怒ったふりをする。
するとおじさんは跪きながら大げさに懇願してくれた。

「おお麗しのレディ…愚かな私を許しておくれ」
「………ぷっ」

再び手を取りおじさんのリードでヘンテコな踊りを踊るルフィア…本心で楽しかった。
不思議と会場が笑いに包まれ終わったころには拍手喝采だ。

夫人にケラケラ笑われながら迎えられる。

「いやー難しいものですな~。来る前に息子に教えてもらったんだが」

をや?

「息子さんですか…?」
「ええ、都会で覚えてきたらしいんですがね。
ワシが言うのもなんですが、昔は手を付けられないやんちゃでしたが中々できた男に成長しましてね…
ただ結婚だけはどうしてだか出来ない奴でして…」
「いつも婚約したって可愛らしいお嬢さんを連れてくるのに結婚式当日になったら、本当は好きな人がいると言って逃げられちゃうのよね~」
「………???」

婚約者に逃げられるって、それは貴族としてとんでもなくメンツを潰されるような出来事なはずなのだが…
何故、この夫婦はポヤポヤしているのだろうか?
そう思いつつも、それとは別にルフィアはそれどころではない感情に覆われていた。
ルフィアの持つ<直感>がけたたましい反応を示しているのだ…
いままで感じた事のない反応にうろたえていると三人に声をかけてくる者が現れた。

「何やら久々にルフィアが機嫌が良いと思っていたら、中々に珍しい顔がいるようだな」
「おお、これはこれはサレツィホール侯爵。
挨拶が遅れて申し訳ありませんな、皆さん列をなしておりましたので田舎者はすいてからと思いまして」

ハハハと笑いながら挨拶をしていなかったことに謝罪をするおじさん。
侯爵家の当主の前でこれだけマイペースでいられるなど余程の大物だ…
その胆力はもはや王族並、そしてそのオーラはやっぱりその辺のおじさんである。

「お父様、お知り合いなのですか?…そういえばお名前もまだでした」
「うむ?知らずにダンスまで踊っていたのか…。この方はフレポジェルヌ子爵だ」

フレポジェルヌ子爵!!…って誰だっけ?
聞いたことがあるような…
ルフィアが記憶の片隅を手探りで探っていると、子爵がチッチッチと侯爵のミスを指摘した。

「侯爵殿、フレポジェルヌと言っても普通は知りませんぞ?
なにせ王国の最西端のド田舎ですからなぁ」
「ああ!王国豆知識で出てくるあのフレポジェルヌ…!」

 うっかり失礼なことを言ってしまったが、むしろ知っている事で聡明なお嬢さん扱いである。
最西端はうちの一番の売り…ってそれじゃダメでしょ。
そもそも、このおじさん立派な領地持ちの貴族じゃないか、なんでこんなにポヤポヤしてるんだ???

「して、貴公ほどのいな…コホン、貴公ほどの者がなぜここに?あんな遠くからわざわざ…
重要な話でもあるのか?」
「いえいえ、最近領の仕事を息子たちが取り仕切るようになったのですが、それでめっきりやることがなくなりまして。
暇をしていたらそれなら偶にはお世話になっている侯爵様の所へ顔を出してこいとケツを叩かれた次第ですよ」

(ふーん、既に領を取り仕切ってるくらいには優秀なんだ…)

二人の会話を聞いていたルフィアだったが。

………まただ。

<直感>が子爵の息子とやらにどうしても反応してしまう…これはどうやら間違いなさそうだ。

であれば…

「王国の最西端ってどんな所か気になるわ!」

そう言ってルフィアは詳しい話聞きたいと言って子爵夫婦を別室へ案内するのであった。

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