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2章:新婚旅行は幻惑の都で…(後編)

31.女騎士と狂戦士

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 招待客達は一か所に集められ、その中心にはコーデリア皇女とエルシャやライム達もいた。
コーデリアの姿を確認したエルシャも混乱に乗じてコーデリアに声をかける。

「コーデリア殿下、このような身なりをしておりますがエルシャルフィールです」
「ええ、話は先ほど聞きました。それについては後ほどゆっくりと…
今はこの状況を何とかしなければなりません」

エルシャに声をかけらたコーデリアは隣にいたライムの方に視線を向け命じた。

「ライム、この場の指揮を…」
「かしこまりました」

ライムは一礼するとすぐに行動に移る。

「エルシャ様、回復魔法が使えるのであれば後方支援をお願いできますか?」
「はい、応急処置程度であれば可能です」

エルシャの能力を確認すると会場全体の騎士や貴族達へ呼びかけた。

「怪我人はこちらで治療を行います!
騎士達はゴーレムの対処を、貴族の男達はこの場を死守、コーデリア皇女殿下を御守りしなさい!
邪神の僕に貴族と騎士の誇りを見せつけてやりましょう!!」

ライムの激が飛ぶと先程までどうこの場から逃げるかを考えていた人々に覚悟が芽生えた。

「邪神の悪魔はいかがいたします…?」
「ヒイロ様の対処方法…?………ケヴィン様達だよりですねぇ」

エルシャの質問の答えは何とも情けない回答であり、それを咎める者は誰もいない。
うっかり近くで聞いてしまった者も慌てて目を背けるだけであった。

(うわぁ…うわぁ………)

皇国貴族達が満場一致の現実逃避をする姿に頬を引きつらせてしまうのであった。

――――――――――――――――――

―――そして始まった戦いは…一言で言ってジリ貧である。

騎士達は偽ヒイロが召喚したゴーレムを連携して対処していた。
流石は皇国が誇る皇族の護衛騎士、一体また一体と数を減らしてくのだが…
しかし、偽ヒイロのゴーレムは次から次へと地面から湧き出てくるのだ。
撃破が遅れれば遅れる程状況が悪くなる…
そんな焦りと共に騎士達はひたすらゴーレムを潰していった。
負傷した騎士は男達に引きずられ、エルシャが中心となって女たちがその負傷者の手当てを行い再び戦場へと送られる。

 そしてその召喚元であるヒイロの姿をした偽ヒイロ、その対処はケヴィンとカルディエが担っていた。
本来であれば騎士達もそちらに手を貸しゴーレムの召喚元から潰すべきなのだが、ソレには問題があった。

ゴーレムの召喚に加え剣と攻撃魔法を同時に扱う偽ヒイロ。
そしてそれら全てが超一流の域…
こんなものをまともに相手にできるわけがない。
そして、ケヴィン達がそんな偽ヒイロを足止めできている理由…それがカルディエであった。

投げナイフにトラップ、ワイヤーを使った拘束や移動、に幻術。
偽ヒイロ以上の技のバリエーションによって、まるで互角の戦いであるかの様に誤魔化していく。
そしてそのカルディエを援護するのがケヴィン。
カルディエへの攻撃を封じる守備に徹したコンビネーションは騎士達では手出しができるようには見えなかったのだ。

カルディエを守るように立ち回るケヴィンであったが、その身に何度も攻撃魔法を受けながらも戦い続けていた。
懐から取り出したポーションを咥えながら剣を振るっていると言ってもいい。
それでもケヴィンがその身に纏わせている<闘気>に必要な精神力は確実に減っていく…
そしてエルシャもケヴィンが攻撃魔法を受ける度に駆け寄りたいという想いをジッと耐える事となっていた。

騎士達が力尽きゴーレムの処理が追い付かなくなるか…
エルシャの魔力が切れるか…
カルディエの攻撃バリエーションが途絶えるか…
ケヴィンの手持ちのポーションが枯渇するか…
このどれかが欠けただけで戦線が崩壊する、そんな危うい状態のまま時間だけが過ぎて行った。

――――――――――――――――――

城門前に雄叫びが鳴り響く。
それはまるで獣の様な叫び…

恐らく<スキル>によって狂化した狂戦士…手を出せばメルキスとて簡単にはいかないであろう相手。
理性を感じられぬそれではあったが、メルキスにはその獣が目的をもって動いている様に見えた。
それ故にメルキスも必死に語り掛ける。

「そこの者、止まりなさい!!その先は皇帝陛下の居城です!」

しかしその声が届く気配はなく、ハンマーを振り回し盾を構えた兵ごとなぎ倒していく。
騒ぎに気が付いた門番が「暴漢だ、門を閉めろ!!」と即座に命令を下すと門の上部から緊急用の閉鎖門が落とされた。

ズドンッ!!と門が落ちる大きな音が鳴り響きモブールが挟まれ下敷きになった…
はずであったが…

「フゥッ、フゥッ、フゥッ…ガァッ!!!!」

有り得ない力で門を受け止めそして押し返してしたのだ。
そして、その光景に硬直してしまった門番達を無視してそのまま城内へと侵入してしまった。
後を追っていたメルキスもそのままのスピードで走り込み、スライディングで間一髪滑り込んだ。
どうやら、後ろについて来ていた自分の部隊の部下たちは間に合わなかったようだ。
すぐさま門番達がメルキスの下に駆け寄ってくる。

「メルキス殿、あいつは一体!?」
「不明ですがどうやら<スキル>が暴走しているようです。私が対処しますので援護を!」
「ハッ!!」

メルキスはそのままモブールを追うのだが…
その向かう先に迷いのない事に疑問を持った。

(どこに向かうのかわかって走っているの?この先は…パーティー会場!?)

コーデリア皇女の顔が頭によぎり焦るメルキス。
会場へ向かうのだが…何やら様子がおかしい。
暴漢が現れたというだけではない混乱があった。

「近衛騎士団第五部隊長のメルキスだ!あの暴漢を追ってきたのだが何が起こっている!?」
「メルキス殿!?突然、パーティー会場に結界が張られまして…あの男は一体?」
「結界…これは邪神の結界ではないですか!」
「やはりそうなのですか。増援は呼んでおりますが、我々の力ではどうにも…」

『邪神の聖域』と呼ばれる結界がパーティー会場を包んでいた。
この結界ばかりはメルキスでも簡単には侵入できない。

(聖職者と魔術師を要請しなければ…)

そんな事を考えている間にモブールがパーティー会場に侵入を試みていた。

バチッ!バチッ!バチッ!

何度も体当たりをかけるがその度に弾かれる。
そうこうしている内にメルキスもようやく追いついた。

「ここは皇帝陛下の居城です!すぐに武器を捨て投降しなさい!!」

ダメとはわかっていても一応警告だけはするメルキス。
当然相手は反応が無く、結界の中に侵入しようとしていた。
メルキスとしても結界を放置は出来ないが、かといってこの男を自由にさせるわけにもいかない。
剣を構え男を制圧しにかかろうとするのだが…
モーブルはそんなメルキスを無視し、ハンマーを構え結界に対して振り下ろし始めたのだ。

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

ハンマーが衝突するたびに結界が歪むのが見て取れる。

(まさか…この結界を突破できるの!?)

発動条件が成立した条件スキルの力に驚愕すると共に、この結界を突破できるなら様子をみるべきなのかと迷いが生じる。
<怒り>というスキルによって暴走状態にある狂戦士。
しかし、そのスキルも女神の加護である事には違いない。
邪神に対抗するために授けられた女神の加護の力が『邪神の聖域』を突破できたとしても何ら不思議ではない。
目の前の狂戦士と『邪神の聖域』どちらの方がより脅威かを考えた結果、メルキスは飛びかかろうとする兵たちを静止させた。
女神の意志に任せる事にしたのだ。


「中の状況を知る者は?」
「コーデリア皇女殿下が中に…あ、それとケヴィンさんも見知らぬ女性とダンスを踊っていたとか」
「ケヴィン殿も中に?…であれば中の人間は無事であると信じましょう、あの者が結界を破壊した瞬間を狙って突入します。中の状況が不明の為戦闘準備を!」
「「「ハッ!!」」」

モブールが結界を攻撃している間に情報収集と戦闘準備を行うメルキス。
メルキスが最も信頼する男が中にいるのだ、それならばメルキスも全力で中は無事であると信じるのみであった。

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

メルキス達が準備を進めている間に結界へのダメージは蓄積されていった。
そして…

ピキッ…ピキッ…ピキッ…パリンッ!

遂に結界に穴が開いたのだった。

「突入!!」

そのまま穴に飛び込むモブールに遅れまいとメルキス達も動いた。
そして、メルキス達が穴に飛び込むとその穴はすぐに塞がれていくのであった。
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