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rosey-rosey ♡第2話 チャンス♡
しおりを挟むこんなゆったりペースのHAMAMIにも必ずやってくる常連客。
そう、真希だ。
今日は午後4時前にやって来た。いつもの席に座る。離れていても高級そうな香水の香りがプンプンしてくる。
(まったく、こんな女のどこがいいのかしら……?)正直梨々はそう思う。
(水面さんは本当にこの人を好きなのかしら?)
などと考えていると、メニューを見たあと真希は手を上げ梨々を呼んだ。
「お決まりですか?」
「ええ。ところであなた、息子さんがいらっしゃるんですってね?」
(え? 何でそんなこと知ってるんだろう?)
「は……はい」
「水面から聞いたわ。あたしの水面からね。あたしが尋ねたのよ? ベッドの上でね」
梨々はワナワナしてきた。
([あたしのあたしの]って、この人うるさい! あたしだって好きなのよ、水面さんが!)
「ど~せ、あなたに似て間抜けな子なんでしょうね! アッハハハ~!」
梨々の中で何かがプツリと切れた。
「ちょっとぉー! あんたっ、言わせときゃいい気になって! 客だからって、言って良いことと悪いことがあんのよ!? 分かんないの?」
驚いた顔をしている真希。しかしすぐに反撃が始まった。
「何よ! あたしの水面に色目使ってるの知ってるのよ?! あんたみたいなバカが相手にしてもらえるとでも持ってんの? いい? あんたがレストランなんかで客にペコペコしなきゃなんないのはあんたの頭が悪いからよ! バーカ!」
ツカツカツカ! 水面さんが厨房から速歩きでやってきた。
静かな声で「真希、おまえ梨々さんに謝れ」と凄んだ。
たじろぐ真希。
しかし真希は言う。
「な、なによ! あんたっ、水面! やっぱりこの女とデキてんの?! ざけんじゃないわよっ!」
「そういう問題じゃないだろ! お前は俺達のことを見下す言葉も吐いたよな?!」
「ハ? そんなつもりはないわ! この女がいたらないだけじゃないっ、店長!」
他のお客の接客に必死だった店長が走ってきた。暇だが数名居る客たちは無論梨々達を見てヒソヒソバナシをしている。
「真希さん、申し訳ございません。ほら、梨々ちゃん、謝って!」
水面が言った。
「店長、なんで梨々ちゃんが謝る必要がありますか? こいつの言ったことは滅茶苦茶です」
しかし、店内で怒鳴ったのは悪かったと反省している梨々。
「真希さん、わたしが悪かったです。申し訳ございませんでした」
歯ぎしりをしそうになりながらも梨々は頭を下げた。
「フン! もうお料理も要らないわ!」席を立ち上がり、真希はさっさと店を去って行った。
疲れる……。あまりにも疲れる、くたびれる、一日だった。
よそに女でも出来たのか、夫は家を空けるようになった。ホッとする。夫が居ないと生きた心地がする。
しかし、もうすぐ夫との二人暮らしが始まる。竜郁は大学がすでに決まっている。
来月、3月から寮生活を始めるのだ。夫と二人きりだなんて虫唾が走る。
だが、やっと竜郁をこのDV家庭から解放させてやれる。その喜びのほうが大きい。自分がふがいないばかりに、息子を傷つけてきてしまった。やっと、やっと、息子・竜郁は当たり前な空気の中で生活ができるのだ。
それから……真希はレストランHAMAMIに来なくなった。
(あれっきりだな? 別れたのかな、水面さんと? 悪いけど、嬉しいわ。あんな女性と付き合うなんておかしいもの、水面さんみたいなイイ男が)
例の大騒ぎから5日経った出勤日のこと。
(今日は竜郁、友達のお家に招かれ泊まりに行くって言ってたなー。もう3年生は春休みに突入してるしね)
休みと言えば、今日はよし君が熱を出しお休み。しかし比較的お店は暇で救われた。
そして……なんと! 梨々は水面に声を掛けられた。
「梨々ちゃん……」それは、梨々が夕方からの従業員と入れ替わる1時間前のことで、バックヤード、つまり厨房のすぐ前にて、アイスコーヒーを戴いている時のことだった。
ちょっぴり緊張しながらアイスコーヒーとつばを飲み込み「ハイ。水面さん?」
すると水面はこう言った。
「この間は、御免なさい。……真希が君を傷つけてしまって」
「謝らないで下さい! 水面さんがしたことではないじゃないですか」
梨々は先日感じた嫉妬めいた感情が沸き起こった。「かっこ、俺の真希があんなことをして」。そんなの聞きたくない!
「梨々ちゃん、お詫びさせてほしいです。よかったら……お茶に付き合ってもらえませんか?」
( ! わ! チャンス)
素直に梨々はそう感じてしまった。人の女でありながら。家庭がありながらも。
(デートだわ!)と胸躍らせたのだ。
「はい。でも、真希さんに悪いです」
水面は言った。
「真希とは……距離を置きたいと思っています。だから、素直に自分の気持ちに従い、誘っているんだ」
(ン? ンン?『自分の気持ちに素直に従い』? もしかしてあたし達って両想い? そんなの夢見過ぎかな。でも嬉しい気持ちに変わりはないわ)
「あ、喜んで」
梨々はおしとやかにそう答えた。
(このチャンス、逃したくないわ。あたし、水面さんを求める気持ちを抑えきれない。彼を……スキ)
「店を出たらさ、ここで待っててくれる? うちの店を出てすぐの角を右に曲がってちょっと行ったとこにあるお店だよ。特徴的なお店だからすぐわかると思う」とメモを渡された。
『純喫茶ロージー』お店の住所・電話番号と携帯番号が書かれている。
「あ、あの……この携帯番号もお店のものですか?」
「オレの番号だよ、梨々ちゃん」
照れてしまい梨々は目を斜めに伏せた。長いまつげが目立つ。
「オレ、食材のチェックが終わったらすぐ行くね」
「あ、はい」
残りの一時間は身体が火照る感じ。鼓動が早まり、余計に凡ミスしちゃいそう。気を引き締めなくっちゃ。時々水面と梨々は目が合い、その都度互いがはにかんだ。
仕事を終え、ロッカールームでサッと私服に着替える梨々。今日はおしゃれして来てよかった。体にフィットしたピンク色のミニスカワンピースだ。
ちょっぴり胸元があき気味。金の細いネックレスを光らせている。ペンダントトップは猫が首に赤いリボンを巻いたチャーミングなものだ。靴はクリーム色のパンプスだ。
なんとなく……梨々はわざと、自転車をHAMAMIの駐輪場に置き、歩いて喫茶店へ向かった。
喫茶ロージーはすぐにわかった。ゴシック調の可愛い扉を開けると甘いバラの香りが漂っている。芳醇なコーヒーの香りもする!
(ステキな処~)
レトロなオルゴールやアンティークドールが飾られている。
「いらっしゃいませ」初老の上品なマスターだ。
「あ、連れが来ますので」
「かしこまりました」
目に入った柱時計を見た。4時半を美しい針はさしている。
梨々が席に着いてほんの10分後、水面が姿を見せた。
水面はムッキムキではないが程よい筋肉のついたセクシーな体つきだ。グリーンのポロシャツにデニムパンツ。
(ビンテージかなぁ、すっごくカッコいい! 調理をする際は付けていないけど、アクセサリーを付けるんだー)
ピアスとネックレスが誘うかのように煌めいている。
「御免ね、待ってもらって!」
「いえ、さっき来たところです」笑顔が止まらない梨々。
「梨々ちゃんて……すごく綺麗な黒髪してるね」
「あ、ありがとう」
仕事中はもちろん束ねている、梨々の長い髪の毛は彼女のチャームポイントだ。
ちなみに……Gカップのバストも密やかな自慢。
「すごく素敵なお店ですね! 嬉しいわ、こんなお店に来れて」
「喜んでもらえたならオレも嬉しいな。どう? 梨々ちゃん、お店慣れてきた?」
「あ~」ちょっぴり悪戯な笑みを浮かべる梨々。
「あたしドジだから……パフェ持って転んじゃったり!」
「ああ、あの時は凄く心配したよ。あの後大丈夫だった? ほんと、頭とかぶつけてない?」
「はい。もちろんちょー痛かったけど、ケガは全くなかったです!」
「受け身が旨いのかな?」
「いいえ、あたし文系ですからスポーツなんて全然!」
ふたりは同じタイミングで朗らかに笑った。
「ここのケーキ美味しいんだよ? 梨々ちゃん、どれが良い?」
だなんて旨~くリードしてくれる水面さん……。
(真希さん、いつもこんな風にお姫様みたいにされているのかしら?)
得も知れぬヤキモチが沸き起こる。
(あたし、水面さんがホシイ!)
それは梨々が立てた純愛の誓いだった。
楽しくてしょうがない。いろんな話をするふたり。
梨々は少し踏み込んだ話をしてみた。
「あ、そういえば……水面さんってお子さんが居らっしゃるんですよね?」
「うん、そうだよ。18でね、大工職人やってるよ!」
「わ~、カッコいい!」
「そぅお?」
「ええ、手に職を付けられてて素晴らしいわ! うちの息子も18才です。来年度から大学生で巣立って行きます」
「そっかー。同い年だなんてなんだか奇遇だね」
「はい」ニッコリ!
……にしても、あんまり遅くなっちゃ夫が怖いわ。何をされるか分かったもんじゃない。
「どうしたの?」
……梨々の顔色が曇ったのを見て取った水面が気遣う。
(あたし、水面さんになら相談できるかも……)
梨々は水面にDVの話をすると決めた。人に話すのは初めてだ。
「実は……あたし、夫から暴力を受けているんです」
「え!?」
「誰にも話したことがありません」
「梨々ちゃん、可哀相に……。だめだ。一緒に居ちゃいけない。息子さんを連れてシェルターへ行くべきだ」
「シェルター? ですか?」
「うん。DVに苦しむ人が逃げ込める、生活の場があるんだよ。役所の人にすぐに相談したほうが良い。息子君のことも守ってあげようよ!?」
水面は凄く親身に梨々の話を聴いた。そしてアドバイスをしたのだ。
「いいかい? 明日にでも役所へ行くんだ。HAMAMIの店長へは、オレが事情を話しても良いよ?」
「あ、そんな。ご迷惑ですから、自分で話します」
「梨々ちゃんを守ることはなんにも迷惑なんかじゃないよ!」
「え……」
「……あ、ごめんね興奮しちゃって。そういう酷い男、赦せないからさ」
「水面さん、親身になって下さりありがとうございます。あたし、明日お店を休んで役所へ行きます」
「うん。そうしようね!」
(水面さん、なんて情に厚くて優しいのかしら。あたし……ますます好きになってしまったわ)
ふたりは離れがたく、ほかにも梨々の趣味であるカメラの話や、水面が泳ぎが得意な話なんかで盛り上がった。
「あ、あたし、そろそろ帰らなきゃ」
「うん、わかったよ梨々ちゃん。あの、良かったらお家の近くまで送らせてもらったらだめかな? 真希のことで申し訳なくて。お詫びのしようがないよ、本当に。せめて、梨々ちゃんを今日は少しでも早く家に帰してあげたい」
チャ・ン・ス!
梨々は(あのいけ好かない女から絶対に水面さんを奪い取るわ! だってこんなに躰が熱い。求めちゃってるもん! チャンスを逃すもんか)と思った。
恥じらいつつも「はい、甘えても良いですか」と小首をかしげた。
「うん、遠慮しないで」
パーキングはすぐそこだった。助手席のドアを開けてくれる水面さん。
(うううー、真希さん、いつもこんな扱い受けてるの? 嫉妬の炎メラメラ。負けないわ! あたし)
優しく扉を閉めた水面。
さすがにマンション前はヤバいので、マンション手前の角で。
ここは街灯が少なく少し暗い場所。
「ありがとうございました、水面さん」
明るくお礼を言った……ら……端正は顔立ち、魅力的な水面がシートベルトをはずし梨々に近づいてきた。
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