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rosey-rosey ♡第10話 to the other side♡
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「松永さん、わたしは現在、レイプされたボロボロの体ですし、出歩いたばかりに再び同じ男達から輪姦されたのです! どうか……自宅に話を聴きに来ていただけませんでしょうか? お願いいたします。お願いいたします。わたしには、弁護士費用も無いのです」
「分かりました。では、社内で話し合ってから今日中に御返事を差し上げます。良いでしょうか?」
「はい、分かりました。どうか、どうかわたしを助けて下さい!」
「神無月さん、と仰いましたね」
「はい」
「とにかく、どうかお体をお大事になさって。それと……性暴力の被害に遭った女性の力になる団体がありますよ。そういったところへはご連絡されましたか?」
「いいえ……まったく存じ上げないもので」
「では、電話番号を申し上げます。今すぐあなたはここにも電話すべきだ。いいですか?」
「はい」すぐにメモ帳を準備し梨々はメモをした。
「『わかば』……はい……はい。メモしました」
「それと神無月さん、役所の女性相談員の所へも連絡なさってください。今すぐ使える社会資源は大いにお使いになったほうが良い」
「松永さん、ありがとうございます! さっそくわかばと役所へ電話をします」
まず『わかば』へ電話を掛けた。全てを話した。
「よく分かりました。梨々さん、お辛いですね。あなたの身の安全が一番大事です。シェルターでの共同生活を勧めます」
それは躊躇してしまった。水面のそばに居たい。確かに空白の時間が生じ、自分は二度目の痛い目を見た。でも、水面のそばに居たい。
「……梨々さん、何も無理強いは致しません。彼氏さんと一緒に居られたいのですね?」
「はい」
「そうですか……。私達はいつでもあなたを受け入れます。役所へは電話されましたか?」
「いえ、まだです」
「すぐにご連絡なさってください。場合によってはヘルパーさんの派遣も可能かもしれません」
「はい。本当にありがとうございます」
なんだか、あたしと水面は四面楚歌なんかじゃない…そんな気持ちがしてきた。
役所に電話をした。保健師の人が今日の午後、早々に訪問に来ることとなった。
丁度お昼の時間に玄関チャイムが鳴った。
(もう来られたのかしら? 保健師さん)痛いながらも、急いで玄関へ移動する梨々。覗き窓をそっと覗く。
すると、HAMAMIの女性従業員である武田さんが立っていた。
すぐに扉を開けた。なんだか緊張の糸が切れ、涙が出てくる。
「武田さん!」
「梨々ちゃん、梨々ちゃん……聞いているよ、水面さんから。大丈夫なの」
梨々はヒックヒックと泣き止まない。
武田さんは職場で梨々にとってお姉さん的存在。
「中に、入って下さい……」
「うん、そうするね!」
「武田さん、今日はお休みですか?」
「うん、そうだよ。水面さんを見ていられなくてさ……心を痛めているのが分かるの。もちろん仕事はいつも通りばっちりしてくれるんだけど……」
「そうですか……」
「あ、これ」
武田さんは大きな満杯のレジ袋を持っていた。中身は野菜やフルーツ、すぐに食べられるレトルト食品や缶詰にお菓子もあった。
「……もっと早く、あたし達を頼ってほしかったわ」
「ごめんなさい」
「梨々ちゃん、謝る事じゃないよ……! それにしても、真希さん……あんまりだね。警察の対応についても、水面さんから聞いてる。弁護士さんを付けたほうが良いわ、梨々ちゃん」
「お金がないんです。分割するにしても、たぶん無理です。水面も貯金がありません」
「そうなのね……」
武田さんは、洗えていなかった流しの食器類を洗ってくれた。
「あ、すみません……。いつも水面が帰ってきてからやってくれているんです」
「いいのよ。掃除機もかけるよ、これから」
「武田さん、悪いです」
「悪くないよ! 悪いのは梨々ちゃんをこんな目に遭わせた奴らだよ! ネ! だいじょうぶよ」
「ありがとうございます」梨々は武田さんに素直に甘えた。
部屋がスッキリとして気分が良い。
そうこうしていると玄関チャイムがまた鳴った。
「は~い」武田さんが玄関まで行き、覗き穴からチェックしてくれている。
そして彼女が「どちら様ですか?」と言う。
「あ、私、役所の保健師たちばなと申します。神無月梨々さんでいらっしゃいますか?」
武田さんがすぐにリビングへ戻って来た。
「梨々ちゃん、女性が保健師さんだと言ってるわよ。名札をこちらに見えるようにして『橘』さんですって。大丈夫?」
「ああ、大丈夫です。来ていただくようわたしが電話をしたんです」
「そか。じゃあ、私はそろそろお暇するわよね!」微笑む武田さん。温かい心地がする。なんだかパワーが湧いてきた。
「初めまして、私は橘と申します」名札を手に掲げる保健師さん。
「初めまして」
梨々は事細かに橘さんに事件の内容を話した。警察が相手にしてくれないこと、不審である点も。
「それは……言葉にならない程の、お辛さですね。私達に出来ることには限界がありますが、精一杯お力添えいたします。梨々さん、お元気にならなくちゃね!」
「はい。ありがとうございます」
役所は、すぐにヘルパーさんを手配してくれた。具体的には、外出時の付き添い・買い物・家事だ。
「本当に、感謝します、橘さん。宜しくお願いいたします」
こうやって、周りに打ち明ければ、助けてくれる人がいるんだ……と梨々は知った。
夕方になり水面が帰ってきた。
「おかえりなさい、水面!」
梨々がまだ足を引きずりながらも表情が明るいので、水面も少し嬉しくなった。
「梨々の可愛い笑顔、久しぶりに見る気がするよ! オレまで元気が出てくるな!」
そうして梨々は出版社このみのこと、性暴力被害者を助けるグループふたばのこと、役所にも連絡をした事を話した。
水面は、うんうんと共感しつつ聴いてくれた。そして……「梨々、もっと早く気付くべきだった。竜郁君は元気なのか? 無事なのか?」
一気に梨々の顔色が曇った。梨々はレイプに遭ったことは話さずとも、すぐに大学の寮に電話を掛けた。
「うん、ママ! 俺元気だよ! 寮生活すっごく楽しい。ママは元気?」
「うん、ママも元気だよ! お互い離れてるけど頑張ろうね」
「うん! ママ、体に気を付けてね!」
「ありがとう、竜郁もね」
「あ、俺の番だお風呂、ママ、また電話するよ!」
竜郁は明るく元気いっぱいだった。良かった。変な心配は水面と梨々の杞憂だったようだ。
水面は「マスコミに告発を仕向ける」件について、にちょっと驚いていたし、慎重にすべきだと言った。
でも梨々は引かなかった。それで水面は「これからは外出時にヘルパーさんがついてくれることだし、うん、頑張ろう。オレも精一杯梨々のことを守り抜くよ」と言ってくれた。
夜の8時頃だ。梨々の携帯が鳴った。画面を見ると予め登録しておいた出版社このみからだ。
「はい」すぐに電話に出た。
「遅くなり申し訳有りません。神無月さんですか? 私、朝お話した記者の松永です」
「ああ、お電話ありがとうございます。どうなりましたか?」
「会議の結果、あなたへの取材のOKが出ました。取材を記事にすることになると思います……大丈夫ですか?」
水面もハンズフリーになった電話の話を聴いていた。水面の目を見ると水面は黙って頷いた。
「大丈夫です、松永さん。宜しくお願いいたします」
さっそく明日、松永記者が取材に来る運びとなった。
明日は丁度、水面の休日だ。ふたりで話せば内容が抜け落ちることも防げるだろう。それに水面が後輩達と事件後に会話した内容や様子も記者に伝えられる。
翌朝、約束の午前10時に松永記者がやって来た。
名刺をふたりに渡す松永。
「では神無月さん、お辛いでしょうが……事件の内容をなるべく詳細にお聞かせ願えますか」松永が口火を切った。
「はい」
梨々は洗いざらいを話した。自分が恥じることではない。恥ずべきは加害者だ。
水面も問われたので、料亭での一件を詳しく、松永記者に話した。
ひと通りふたりが伝え終わるまでかなりの時間を要した。
レイプの様子・言葉を言うのは辛かった、水面の心情も心配した。
ずっと水面は梨々の手を優しく握っていてくれた。
「詳細にお話し下さり、本当にありがとうございます。……1つ、記事になった場合、これは大大的にテレビも取り上げることでしょう。……大学生の息子さん、大丈夫ですか?」
梨々は、悲しむ竜郁の顔が浮かび胸が苦しくなった。
しかし、暴力に屈しない生き様を息子に見せるんだ! と本気で考えた。
「松永さん……決して、息子は大丈夫では無いでしょう。でも、傷つけられたことを黙って見逃すような生き方を息子に学んで欲しくはありません。自分は尊いということを、忘れないでいて欲しいんです」深く頷く松永記者。
「では、本当に、雑誌になることを覚悟されているのですね、神無月さん」「ええ」
「神無月さん、武海さん、お話しされたいことが何か又ありましたら、いつでも私に電話を下さい。名刺に携帯番号も載せてあります」
「分かりました」
記事になり、竜郁が事件を知るのは酷だ。
せめて、自分の口から言うべきだ、とその日の夕方大学の寮に再び梨々は電話を掛けた。
管理人に息子を電話口まで呼んでもらった。
「竜郁……話したいことが2つあります」
「はい、ママ。なぁに?」
時間をかけ、ゆっくりと梨々はまず、愛する人がいて結婚をしたいということを話した。
そうして、事件に巻き込まれたことを出版社に話したので、すぐに記事になるであろうこと、もちろん、その前には事件の経緯をきちんと伝えた。
竜郁は……「ママ、強いね」とひと言言った。
「え……」
「さすが俺のママだ」と。
それと、「ママに幸せになって欲しいよ。ママのそばに優しい人がいてくれるのは俺にとってすごく安心だよ」と言った。
あんな辛い思いばかりさせて来たのに……。梨々は、「子ども」が「自分とは違う生き物」であることを思い知った。
子どもの人格に頭が下がった。成長に感動した。
「ありがとう、竜郁」
「ママ、応援してるよ! 俺も勉強頑張るからさ!」
「うん」
息子の声に微笑んでも、次から次へと溢れ出る涙。互いの健闘を祈り静かに電話を切った。
「水面、水面、あの子、うんと強いわ!」泣きながら水面に抱きついた。水面は優しく梨々を包んだ。
「そうか、良かった!」
翌日、さっそく週刊誌このみは店頭に並び、日本中がざわついた。
「あのマルネオのお嬢様が?」「なにこれ……」
雑誌には大きく『有名シューズ製造会社マルネオ社長、警察と癒着か』『マルネオ社長令嬢のダークサイド』『社長令嬢が手下の男三人を顎で使ったレイプ事件!』などと書かれている。
そして先日相談した性虐待被害者のグループふたばの人もとても協力してくれた。
ふたばの人は「検察庁が動かざるを得ないだろう。警察にメスを入れる筈だ」と言った。
記事が出た夜、誰かが玄関チャイムを鳴らした。
「誰だろう?」
水面が覗き穴を見た。水面は扉を開けずに声を荒げ言った。
「おい! 真希! お前ノコノコと何しに来やがった?」
「あ~ら、ドアを開けても下さらないのー? さみしいわ~」
「てっめぇ、ざけんじゃねえぞ!」
怒りに任せドアを開けかける水面を強く静止した梨々。
性虐待被害者グループふたばと、出版社このみの松永記者に即電話する梨々。
「開けなさいよー! 何やってんのよー! 警察に電話したって無駄だからね、あっはははは~。世の中金持ちが勝つのよ?! 思い知ったでしょー。アタシの思い通りに地球は回ってんの! クスッ……。ほらほら、なんならあたしが110番してあげてもいいわよー」
「お願い! 喧嘩に乗らないで、水面。真希さんの思うつぼよ!」
梨々にそう言われ必死で堪える水面。
ドンドンドンドンドン! ドンドンッ! ドアを足で蹴ったり、力任せに叩いたりをやめない真希。
するとマンション隣の住人である若い男性が「うっせぇなー!」と言うのが聞こえてきた。
慌てて覗き穴を見る水面。
「何よ?!」真希は引かない。
「あ! あんたテレビに出てた元ヤンのお嬢様じゃん!?」
「っるっさいわねー。それが何さ!」
「何さじゃねぇよっ! 夜にドンドンドンドンうるさくしやがって!」
「てっめぇ!」と真希が言い放った。男性ではなく真希がだ。そして男性に掴みかかった。
そこへ丁度、このみの松永記者が来た。続いてスーツ姿のいかめしい雰囲気の男性3名だ。
「分かりました。では、社内で話し合ってから今日中に御返事を差し上げます。良いでしょうか?」
「はい、分かりました。どうか、どうかわたしを助けて下さい!」
「神無月さん、と仰いましたね」
「はい」
「とにかく、どうかお体をお大事になさって。それと……性暴力の被害に遭った女性の力になる団体がありますよ。そういったところへはご連絡されましたか?」
「いいえ……まったく存じ上げないもので」
「では、電話番号を申し上げます。今すぐあなたはここにも電話すべきだ。いいですか?」
「はい」すぐにメモ帳を準備し梨々はメモをした。
「『わかば』……はい……はい。メモしました」
「それと神無月さん、役所の女性相談員の所へも連絡なさってください。今すぐ使える社会資源は大いにお使いになったほうが良い」
「松永さん、ありがとうございます! さっそくわかばと役所へ電話をします」
まず『わかば』へ電話を掛けた。全てを話した。
「よく分かりました。梨々さん、お辛いですね。あなたの身の安全が一番大事です。シェルターでの共同生活を勧めます」
それは躊躇してしまった。水面のそばに居たい。確かに空白の時間が生じ、自分は二度目の痛い目を見た。でも、水面のそばに居たい。
「……梨々さん、何も無理強いは致しません。彼氏さんと一緒に居られたいのですね?」
「はい」
「そうですか……。私達はいつでもあなたを受け入れます。役所へは電話されましたか?」
「いえ、まだです」
「すぐにご連絡なさってください。場合によってはヘルパーさんの派遣も可能かもしれません」
「はい。本当にありがとうございます」
なんだか、あたしと水面は四面楚歌なんかじゃない…そんな気持ちがしてきた。
役所に電話をした。保健師の人が今日の午後、早々に訪問に来ることとなった。
丁度お昼の時間に玄関チャイムが鳴った。
(もう来られたのかしら? 保健師さん)痛いながらも、急いで玄関へ移動する梨々。覗き窓をそっと覗く。
すると、HAMAMIの女性従業員である武田さんが立っていた。
すぐに扉を開けた。なんだか緊張の糸が切れ、涙が出てくる。
「武田さん!」
「梨々ちゃん、梨々ちゃん……聞いているよ、水面さんから。大丈夫なの」
梨々はヒックヒックと泣き止まない。
武田さんは職場で梨々にとってお姉さん的存在。
「中に、入って下さい……」
「うん、そうするね!」
「武田さん、今日はお休みですか?」
「うん、そうだよ。水面さんを見ていられなくてさ……心を痛めているのが分かるの。もちろん仕事はいつも通りばっちりしてくれるんだけど……」
「そうですか……」
「あ、これ」
武田さんは大きな満杯のレジ袋を持っていた。中身は野菜やフルーツ、すぐに食べられるレトルト食品や缶詰にお菓子もあった。
「……もっと早く、あたし達を頼ってほしかったわ」
「ごめんなさい」
「梨々ちゃん、謝る事じゃないよ……! それにしても、真希さん……あんまりだね。警察の対応についても、水面さんから聞いてる。弁護士さんを付けたほうが良いわ、梨々ちゃん」
「お金がないんです。分割するにしても、たぶん無理です。水面も貯金がありません」
「そうなのね……」
武田さんは、洗えていなかった流しの食器類を洗ってくれた。
「あ、すみません……。いつも水面が帰ってきてからやってくれているんです」
「いいのよ。掃除機もかけるよ、これから」
「武田さん、悪いです」
「悪くないよ! 悪いのは梨々ちゃんをこんな目に遭わせた奴らだよ! ネ! だいじょうぶよ」
「ありがとうございます」梨々は武田さんに素直に甘えた。
部屋がスッキリとして気分が良い。
そうこうしていると玄関チャイムがまた鳴った。
「は~い」武田さんが玄関まで行き、覗き穴からチェックしてくれている。
そして彼女が「どちら様ですか?」と言う。
「あ、私、役所の保健師たちばなと申します。神無月梨々さんでいらっしゃいますか?」
武田さんがすぐにリビングへ戻って来た。
「梨々ちゃん、女性が保健師さんだと言ってるわよ。名札をこちらに見えるようにして『橘』さんですって。大丈夫?」
「ああ、大丈夫です。来ていただくようわたしが電話をしたんです」
「そか。じゃあ、私はそろそろお暇するわよね!」微笑む武田さん。温かい心地がする。なんだかパワーが湧いてきた。
「初めまして、私は橘と申します」名札を手に掲げる保健師さん。
「初めまして」
梨々は事細かに橘さんに事件の内容を話した。警察が相手にしてくれないこと、不審である点も。
「それは……言葉にならない程の、お辛さですね。私達に出来ることには限界がありますが、精一杯お力添えいたします。梨々さん、お元気にならなくちゃね!」
「はい。ありがとうございます」
役所は、すぐにヘルパーさんを手配してくれた。具体的には、外出時の付き添い・買い物・家事だ。
「本当に、感謝します、橘さん。宜しくお願いいたします」
こうやって、周りに打ち明ければ、助けてくれる人がいるんだ……と梨々は知った。
夕方になり水面が帰ってきた。
「おかえりなさい、水面!」
梨々がまだ足を引きずりながらも表情が明るいので、水面も少し嬉しくなった。
「梨々の可愛い笑顔、久しぶりに見る気がするよ! オレまで元気が出てくるな!」
そうして梨々は出版社このみのこと、性暴力被害者を助けるグループふたばのこと、役所にも連絡をした事を話した。
水面は、うんうんと共感しつつ聴いてくれた。そして……「梨々、もっと早く気付くべきだった。竜郁君は元気なのか? 無事なのか?」
一気に梨々の顔色が曇った。梨々はレイプに遭ったことは話さずとも、すぐに大学の寮に電話を掛けた。
「うん、ママ! 俺元気だよ! 寮生活すっごく楽しい。ママは元気?」
「うん、ママも元気だよ! お互い離れてるけど頑張ろうね」
「うん! ママ、体に気を付けてね!」
「ありがとう、竜郁もね」
「あ、俺の番だお風呂、ママ、また電話するよ!」
竜郁は明るく元気いっぱいだった。良かった。変な心配は水面と梨々の杞憂だったようだ。
水面は「マスコミに告発を仕向ける」件について、にちょっと驚いていたし、慎重にすべきだと言った。
でも梨々は引かなかった。それで水面は「これからは外出時にヘルパーさんがついてくれることだし、うん、頑張ろう。オレも精一杯梨々のことを守り抜くよ」と言ってくれた。
夜の8時頃だ。梨々の携帯が鳴った。画面を見ると予め登録しておいた出版社このみからだ。
「はい」すぐに電話に出た。
「遅くなり申し訳有りません。神無月さんですか? 私、朝お話した記者の松永です」
「ああ、お電話ありがとうございます。どうなりましたか?」
「会議の結果、あなたへの取材のOKが出ました。取材を記事にすることになると思います……大丈夫ですか?」
水面もハンズフリーになった電話の話を聴いていた。水面の目を見ると水面は黙って頷いた。
「大丈夫です、松永さん。宜しくお願いいたします」
さっそく明日、松永記者が取材に来る運びとなった。
明日は丁度、水面の休日だ。ふたりで話せば内容が抜け落ちることも防げるだろう。それに水面が後輩達と事件後に会話した内容や様子も記者に伝えられる。
翌朝、約束の午前10時に松永記者がやって来た。
名刺をふたりに渡す松永。
「では神無月さん、お辛いでしょうが……事件の内容をなるべく詳細にお聞かせ願えますか」松永が口火を切った。
「はい」
梨々は洗いざらいを話した。自分が恥じることではない。恥ずべきは加害者だ。
水面も問われたので、料亭での一件を詳しく、松永記者に話した。
ひと通りふたりが伝え終わるまでかなりの時間を要した。
レイプの様子・言葉を言うのは辛かった、水面の心情も心配した。
ずっと水面は梨々の手を優しく握っていてくれた。
「詳細にお話し下さり、本当にありがとうございます。……1つ、記事になった場合、これは大大的にテレビも取り上げることでしょう。……大学生の息子さん、大丈夫ですか?」
梨々は、悲しむ竜郁の顔が浮かび胸が苦しくなった。
しかし、暴力に屈しない生き様を息子に見せるんだ! と本気で考えた。
「松永さん……決して、息子は大丈夫では無いでしょう。でも、傷つけられたことを黙って見逃すような生き方を息子に学んで欲しくはありません。自分は尊いということを、忘れないでいて欲しいんです」深く頷く松永記者。
「では、本当に、雑誌になることを覚悟されているのですね、神無月さん」「ええ」
「神無月さん、武海さん、お話しされたいことが何か又ありましたら、いつでも私に電話を下さい。名刺に携帯番号も載せてあります」
「分かりました」
記事になり、竜郁が事件を知るのは酷だ。
せめて、自分の口から言うべきだ、とその日の夕方大学の寮に再び梨々は電話を掛けた。
管理人に息子を電話口まで呼んでもらった。
「竜郁……話したいことが2つあります」
「はい、ママ。なぁに?」
時間をかけ、ゆっくりと梨々はまず、愛する人がいて結婚をしたいということを話した。
そうして、事件に巻き込まれたことを出版社に話したので、すぐに記事になるであろうこと、もちろん、その前には事件の経緯をきちんと伝えた。
竜郁は……「ママ、強いね」とひと言言った。
「え……」
「さすが俺のママだ」と。
それと、「ママに幸せになって欲しいよ。ママのそばに優しい人がいてくれるのは俺にとってすごく安心だよ」と言った。
あんな辛い思いばかりさせて来たのに……。梨々は、「子ども」が「自分とは違う生き物」であることを思い知った。
子どもの人格に頭が下がった。成長に感動した。
「ありがとう、竜郁」
「ママ、応援してるよ! 俺も勉強頑張るからさ!」
「うん」
息子の声に微笑んでも、次から次へと溢れ出る涙。互いの健闘を祈り静かに電話を切った。
「水面、水面、あの子、うんと強いわ!」泣きながら水面に抱きついた。水面は優しく梨々を包んだ。
「そうか、良かった!」
翌日、さっそく週刊誌このみは店頭に並び、日本中がざわついた。
「あのマルネオのお嬢様が?」「なにこれ……」
雑誌には大きく『有名シューズ製造会社マルネオ社長、警察と癒着か』『マルネオ社長令嬢のダークサイド』『社長令嬢が手下の男三人を顎で使ったレイプ事件!』などと書かれている。
そして先日相談した性虐待被害者のグループふたばの人もとても協力してくれた。
ふたばの人は「検察庁が動かざるを得ないだろう。警察にメスを入れる筈だ」と言った。
記事が出た夜、誰かが玄関チャイムを鳴らした。
「誰だろう?」
水面が覗き穴を見た。水面は扉を開けずに声を荒げ言った。
「おい! 真希! お前ノコノコと何しに来やがった?」
「あ~ら、ドアを開けても下さらないのー? さみしいわ~」
「てっめぇ、ざけんじゃねえぞ!」
怒りに任せドアを開けかける水面を強く静止した梨々。
性虐待被害者グループふたばと、出版社このみの松永記者に即電話する梨々。
「開けなさいよー! 何やってんのよー! 警察に電話したって無駄だからね、あっはははは~。世の中金持ちが勝つのよ?! 思い知ったでしょー。アタシの思い通りに地球は回ってんの! クスッ……。ほらほら、なんならあたしが110番してあげてもいいわよー」
「お願い! 喧嘩に乗らないで、水面。真希さんの思うつぼよ!」
梨々にそう言われ必死で堪える水面。
ドンドンドンドンドン! ドンドンッ! ドアを足で蹴ったり、力任せに叩いたりをやめない真希。
するとマンション隣の住人である若い男性が「うっせぇなー!」と言うのが聞こえてきた。
慌てて覗き穴を見る水面。
「何よ?!」真希は引かない。
「あ! あんたテレビに出てた元ヤンのお嬢様じゃん!?」
「っるっさいわねー。それが何さ!」
「何さじゃねぇよっ! 夜にドンドンドンドンうるさくしやがって!」
「てっめぇ!」と真希が言い放った。男性ではなく真希がだ。そして男性に掴みかかった。
そこへ丁度、このみの松永記者が来た。続いてスーツ姿のいかめしい雰囲気の男性3名だ。
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