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第一章 出逢いは突然に
世界が違う
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真琴はついうっとりと溜息をついた。
二人の身長差はゆうに二十センチはあるだろうか。百六十センチちょっとしかない真琴が真っ直ぐに見上げると、まるで相手からの口づけを待つような体勢になる。しかし真琴はそんなことに気付かずに、男を見詰めていた。
そして数秒後あることに気が付いた。
(それにしても、どっかで見たことある顔だな)
身近にこんな高級マンションに住むようなお金持ちはいないはずなのだが、どこかで見覚えがある。一体どこだろう。それともただの勘違いだろうか。
男は何も喋らない真琴を不審に思ったのか、眉をピクリと動かした。
「あの・・・・・・」
内臓を振動させるような美しいバリトンだった。
「あっ、はい・・・・・・! すいません。みさき家事代行サービスから参りました、影内真琴です。今日はよろしくお願いします」
はっとして、真琴は慌ただしく礼をした。
「タカジョウです。よろしく。・・・・・・ふうん、みどりさんの代わりがこんなにちっちゃな女の子だったとはね。これは大変。寝室にあるアレとかコレとか隠さないとな」
と、じっと真琴を見詰めた後、形のいい唇でニヤリと笑った。
(タカジョウゴロー、おれの大好きな推理作家と同じ名前だ。……って、ん?!)
「今、ちっちゃな女の子って言いました?」
真琴は眉をひそめた。
「違うの? 君、女でしょ」
「違います。おれはれっきとした男です」
真琴はややむっとして言った。昔から何故か初対面で女に間違われることが多く、いちいち訂正するのが面倒で、嫌だった。
「嘘。てっきり女の子かと思った。華奢だし、小柄だし、なんだか清楚な雰囲気があるし。まあ、重たい眼鏡かけてるけど・・・・・・ほら、少女漫画みたいに眼鏡をとったら美少女、みたいな感じが出てるから」
と目をぱちくりさせる。
「出てません」
つっけんどんに真琴は言った。
「ええ・・・・・・そう? 周りにもそう言われない?」
「全く言われません」
「ふうん・・・・・・」
彼はつまらなそうに黙ってしまった。
まずい、こういう時は相手の冗談に乗って話を合わせっておくべきところなのに、と思ったときには既に手遅れだった。
初対面なのだから、ジョークの一つにでも笑って打ち解けておけば後の仕事が楽に進むのに・・・・・・。もしかしたらそれを見越して相手は自分を女みたいといったかもしれないではないか。
真琴は自分の鈍臭(どんくさ)さに嫌気が差した。
(ちくしょう、なんでおれってばこうなんだ)
誰かと話すといつも失敗してしまう。初めて会う相手には緊張している分、なおさら大抵余計な発言をしてしまうのだ。
真琴は俯いて唇を噛んだ。スニーカーの先がいつの間にか汚れているのが気になった。今度洗っておかなくては。
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