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第五章 聖なる夜に(前編)
大変身
しおりを挟む真琴の格好は、他の派手な参加者と比べると、そこまで目立っているわけではない。
しかし、その控えめなたたずまいが、逆に魅力を引き立てている。まるでバラに添えられた真っ白なかすみ草のように、清楚で可憐だった。
(やっぱり似合わないよ)
真琴は慣れない姿から目を逸らし、体の向きを変えた。 特にレンズ無しでさらされた目が、スースーして落ち着かない。
実は、真琴は眼鏡を外すことをかなり渋った。しかしミヤビいわく、
――この世で一番大切なのは、ギャップよ。真琴ちゃんがコンタクトになったら、ゴロー驚くわよ。絶対にハートつかまれちゃうわよン!
……と説得され、ようやく承諾したのだった。
(ああ、どうしよう。変に思われるに決まってる)
ロビーの時計を見ると、約束の時刻になった。先程ラインで連絡した時に訊いてみたら、鷹城はすでにチェックインしているようだった。
真琴は受付の向こうのエレベーターをちらっと見た。降りてくるならあそこからだ。
真琴は緊張で自然と鼓動が早くなった。
それからしばらくして、何回かエレベーターが往復した後、外国人の一行のあとに続いて、ひときわ背の高い男が降りた。
遠目からでもすぐ分かった。鷹城だった。
普段の毛玉つきセーターに、履き古したジーンズというような格好ではない。パリッと隙なく固めたスーツ姿だ。
(か、格好いい……!)
真琴は目が離せなくなった。
ギャップが大事、というミヤビの言葉に激しく納得した。
鷹城は、いつも垂らしている前髪を軽くオールバックにしていた。きりっとした目鼻立ちを惜しみなく晒(さら)している。
黒にグレイのラインが入ったスーツを着て、クリスマスを意識したのか、ネクタイはワインレッド。左手首にはシンプルな銀の時計。
ただ歩いているだけなのに、大物のオーラが漂い、周りの客が一目置いている。
しかし本人はそのことに全く気がついておらず、あちこちに視線を走らせ、誰かを探しているみたいだ。
ざわめきをBGMに、人混みをよけながらゆっくりと近づいてくる姿は、まるで映画のワンシーン。
その瞳が一瞬真琴に止まった。
ドキッとする。真琴はあえて分からないようにうつむいた。
しかし、分からなかったのか、鷹城はフイッと視線を移した。そのまま前を通り過ぎようとする。
(気づいてくれないのかな)
鼓動が最高潮に大きくなった。
その時、ぴたりと彼の足が止まった。
「もしかして、真琴?」
鷹城が振り返った。目を見開いている。
「……はい」
真琴は顔を上げて、恥ずかしそうに笑った。
鷹城は頭の先から爪の先までじっくりと観察した後、また視線を真琴の顔に戻して、興奮気味に言う。
「嘘だろ?! 別人みてえ。全然分からなかった」
「おれもまだ信じられません」
「いやぁ、すごい。今年で一番驚いた」
「どうですか……、似合ってますか?」
真琴は上目遣いで訊いた。
「もちろんだ。すごく似合ってる。もともと素材はいいと思ってたんだけど、想像以上だな」
「良かった。変だって言われると思ってました」
真琴はほっと息を吐いた。
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