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第五章 聖なる夜に(前編)

甘えん坊

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「もっとぉ」
「わっ。こら、止めろ」
「ヤダやだ。ぎゅってして」
「駄目だって」
「やだぁ。キライじゃないなら、ぎゅーってして!」
「……仕方ない奴だな」

 鷹城はまんざら嫌でもない溜息をついた。
 背に手を回されて、優しく包まれる。小柄なので、たくましい腕にすっぽり収まってしまった。

(せんせいの匂い……。あったかいなあ。このまま眠っちゃいそう)

 甘えるように鼻をこすりつけていると、だんだん目蓋(まぶた)が重くなってくる。
 そのうち酒と眠気で意識がとろりと溶け出して、真琴は現実と夢の境目が曖昧になった。

「……おい、寝たのか?」

 鷹城が訊いた。

「ん……服きてると、あついよぉ……。これじゃ寝れない……」

 完全に夢うつつの状態で、真琴は襟に手をやる。

「こら、この状態で脱ぐな」

 指が上手く動かない。なかなか外せないので、見かねた鷹城が第二ボタンまでくつろげた。

「まだ……あつい。もっとぉ……」
「これでどうだ」

 鷹城はもう一つボタンを外した。


「だめっ……。ぜんぶ外すの」

 と、そのまま全てのボタンどころかYシャツと肌着、さらにスラックスまで脱ぎ捨てた。トランクスと黒い靴下のみという、とんでもない格好である。

「待て待て待て、ほぼ全裸じゃねえかっ」

 直に触ってしまわないようにか、鷹城はベッドに後ろ手をついた。

「はーっ、すずしい。これでいい夢みれそう……」
「おいっ、その格好で引っつくな」

 むにゃむにゃ、と真琴は再び鷹城に抱きついた。
 バターに似たなめらかな背中があらわになった。
 桃色に染まったほっそりした首。形の良い肩甲骨と、見事な曲線を描く背骨。折れそうなほど細い腰。トランクスに隠された丸いお尻も愛らしい。すんなりした白い脚は、成人男子だというのに、体毛がほとんど生えていない。
 鷹城はそれらを見下ろして、一気に頬を赤くして、目をそらした。

「た、頼むからなんか着てくれ……。マジで」
「やだ。あっついんだもーん」
「お前、酔っ払うと人が変わるんだな……。なんでこんなになるまで飲んだんだよ」
「……」

 それまで笑っていた真琴が硬直した。

「……せんせいには、関係ないことだもん」

 理子に馬鹿にされて、一言も反論出来なかったとは言えなかった。

(情けないとこ、知られたくないよ……)

 そう思った途端、頭の隅に追いやっていた彼女の言葉がフラッシュバックした。

――釣り合うわけないじゃない。

「……う、うるさい! そんなこと分かってるっ」

 真琴は理子の声を振り払うように叫んだ。

「おい、どうした? 大丈夫か」

 突然大きな声を出した真琴に、鷹城は驚いている。

「だいじょうぶですっ」
「もう寝た方がいい」
「やだっ」

 今眠ったら夢に理子が出てきそうな気がした。
 真琴は顔を上げ、鷹城の首にすがりついた。

「おいっ……!」
「寝たくない。ねたくないよ……せんせい」
「なんだ? 一体どうしたんだ」
「こわい。寝るのがこわいよ……」
「おい」
「せんせい……抱いて……」

 真琴は鷹城を見上げて言った。黒い瞳がしっとりと濡れていて、耳たぶまで赤く染まっている。
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