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第五章 フィアンセ交代?!

もう疲れたわ…

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「なになに、〈ブランドン公爵家の子息・オリヴァー氏が王立騎士団の公式試合後、記者団に対し電撃婚約発表を行った。お相手はいとこのダナ・オブ・ブランドンさん。二人は幼なじみで、初恋の相手同士。挙式は来春の予定。〉ですって~!」
「……」

 シャーロットはもう何も言えなかった。浮かれた様子のダナはまだ瓦版を読み上げる。紙面にはダナとオリヴァーが寄り添う写真がでかでかと掲載されていた。

「〈オリヴァー氏は今回の公式試合で七連覇を成し遂げた。その喜びを『愛する婚約者に伝えたい』と言う。それがダナさんなのだ。二人は終始見詰め合い、相思相愛のご様子である。我が国きってのビックカップルの誕生に、国民全員が祝福している。〉だって。照れちゃうなぁ~」
「ゴホゴホッ……。ダナさん、もう帰って下さい」

 かすれた声でシャーロットは言った。喉が痛くて、身体も重い。更にダナのキンキン声が頭に響いて辛いのだ。それに心の方も限界が来ていた。

「ふふふ。これであんたも終わりね」
「ダナさんが裏で手を回したの……?」
「まあね。金さえ渡せばこんな記事の捏造くらいちょろいもんよ」
「酷いわ……」
「アハハ、今頃気づいたの?」
「……」

(知っていたわよ……)

「さあて、次はどうやってあんたを苦しませようかな~。じゃあね、シャーロットちゃん。早く風邪治してよ。いじめる対象がいないとつまんないから」

 バタン、とドアが閉まり、ダナが出て行った。
 一人残されたシャーロットは、ベッドの覆いの裏をぼんやりと見た。天使の絵が描かれたお気に入りの眺めも、今は色あせて見える。

(もう疲れたわ……)

 深く蒼い瞳から涙が一筋流れ落ちた。
 あれ程、恋焦がれていたオリヴァーとの婚約に、こんな障害があるなんて思わなかったのだ。
 同棲を始めた当初、輝いて見えたたくさんの調度品や、サファイアの鏡台達が、現在は埃を被ってくすんでいる気がする。最高級の料理も、香り高い紅茶も、贅沢な砂糖をふんだんに使ったお菓子も、砂や泥を食べているようだ。
 大好きな季節の移ろいさえ、分からなくなってしまった。湿った風も、厚い雲の間から差す陽の強さも、雪の匂いも何も感じないのだ。

(私おかしくなってしまったみたい……)

 ――もう止めるわ。

(婚約を辞退するわ……)

 その時、ドアがノックされた。兄のジョージがお見舞いに来たのだ。オレンジの薔薇の花束を持っている。

「やあ、ロッティー。具合はどうだい――って、どうしたの? 泣いているじゃないか?」

 ジョージは妹に駆け寄った。

「おに、お兄様……!」

 シャーロットはぽろぽろと泣き出した。そのままダナにいじめられていることや、フィアンセ辞退を迫られていることなどを説明する。最後まで話を聞いたジョージは顔を真っ赤にして怒りだした。

「なんてことだ……! ダナって奴、許せないよ。今すぐオリヴァーに言いつけて、屋敷から追い出してもらおう」
「でも、お兄様、そんなことをしたらオリヴァー様が傷つくわ……。ダナさんの本性を知らないのだもの」
「関係ないよ。大事な妹が泣いているんだ」
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