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4. 地獄の続き
しおりを挟む「相変わらず使いもんになんねえ体だな」
六年ぶりに聞いた男の最初の台詞が、それだった。まだ少年だった頃の男の声を思い出すことはできなかったが、あの頃よりずっと低く、大人の男の声に変わっていたことだけは間違いなかった。
男は部屋に行くことさえ我慢できなかったようだ。
靴を脱ぐが早いか玄関の硬い床の上に晃を組み伏せ、ズボンと下着を引きちぎるようにはぎ取った。そして、晃の尻の穴にいきなり性器を突き立てて来た。
当然、自分で濡れることもできなければ、本来男を受け入れるために作られているわけでもない穴に巨大な塊が易々と入れるわけがない。男の先端すら、晃の穴は呑み込めなかった。
それなのに、男は苛立ったように暴言を吐くと、より力を入れて無理矢理ねじ込もうとしてきた。
「いっ!! 痛い、ま、って……!!」
咄嗟に叫んでいたが、男が止まることはなかった。
「痛ぇのが嫌ならさっさとケツ緩めろ」
無茶苦茶な命令をしながら、男は片手で晃を押さえつけたまま、もう片方の手で自身の巨大な性器を扱いた。扱きながら、ぐいぐいとねじ込もうとしてくる。
「いあっ、ぐ……う!!」
痛い。
それしかない。
内側から破壊されるような痛みだ。
六年前のあのときも同じだった。
男は慣らすことや潤滑剤を使うこともなく、ひたすら力まかせに晃の体に性器をねじ込んだ。おかげで晃の中は酷く傷ついて血だらけになり、事件の後に診てくれた医者からは、一歩間違えれば後遺症が残ったかもしれないとさえ言われていた。
あの時と変わらず、男は力任せに晃を犯そうとしてくる。
男の性器は体格に見合って馬鹿みたいに大きいため、なおさら、そう簡単に繋がることはできなかった。
けれど、男が自分のものを扱くことで、少しずつ先端が先走りで濡れ始めてきた。
そしてその濡れたものが晃の穴の入り口付近を濡らし、少しずつ、少しずつ、男の性器が晃の中に入り始めて来た。
「あっ……がっ……! う、あっ……あっ……」
目の前がチカチカした。
ありえない場所が、ありえない大きさに広げられている。
あまりに広げられすぎていて、もう裂けてしまいそうだ。……いや、既に裂けてしまっているかもしれない。
犯されているとか、性的な行為をされているとか、そんなことさえ気が付かない。
とにかく暴力なのだ。
後ろの穴を硬い金属の棒で串刺しにされるような……拷問。暴力。それでしかない。
喉からは呻き声とひゅーひゅーという音しか出ない。
苦しい。
吐きそうだ。
痛い。
体がミシミシと音を立て、ゆっくりと壊れていく。
どんどん男が入ってくる。
恐怖のあまり吐き気がしてきた。
これは夢だろうか。
あの地獄のような夜の続きの、最低な夢。
だって――あり得ない。
この男も含め、あの事件に関与した少年は全員逮捕されて少年院に送られたはずだ。
未成年と言うことでたいした罪に問われなかったことは聞いているから、事件から六年経った今、普通に社会に出てきていることに疑問はない。
だがそれにしても、なぜここにいる?
男は加害者であり、晃は被害者。
事件後に母が自殺してから、晃と父は遠い親戚を頼ってこの家に引っ越してきた。前に住んでいたのとは新幹線で二時間かかる距離だ。
そんな遠くに引っ越した晃の所在を、加害者である男がなぜ知っているのか。
弁護士や警察に聞いて教えてもらえるとはとても思えない。
わざわざ調べたのか? なんのために?
謝罪でないことだけは分かっていた。
以前、晃の父が酒に酔いながら言っていた。事件に関わった少年たちやその保護者からは、賠償金はおろか、謝罪の言葉さえもらってはいないと。
だから男が謝罪で訪れたわけでないのは間違いないし、そもそも、そんな気持ちが少しでもあるのなら、今こうして晃を犯しているはずがなかった。
わからない。
なぜ男がここにいるのか。
なんのために晃を見つけ出したのか。
いつの間にか滑りを良くした男の性器が、晃の奥までを力ずくでこじ開ける。
晃の体は咄嗟にのけ反った。その腰を押さえつけ、男は乱暴に腰を振って晃の中を掻きまわした。
「いっ……!!」
やはり裂けているのか、男が中を擦るたびに体が跳ね上がりそうなほどの痛みが走る。思わず叫びそうになったほどだ。
だけど叫ばないのは、六年前のあの夜の恐怖が、少しずつ鮮明なものとして蘇ってきたからだ。
あの夜、まだ男同士の行為の存在さえ知らなかった晃は、理解できない男の行為に怯えて何度もやめてくれと懇願した。
しかし男はやめなかった。それどころか、晃が「やめて」と言ったり抵抗しようとすると無言で晃の腹を殴りつけてきた。
それから抵抗をあきらめた晃が痛いと泣いたり叫び声をあげるたび、頬を平手ではたき、首を強く締め付けて来た。
何度も何度も繰り返し。男はひたすら暴力を繰り返すことで、当時八歳だった少年を大人しい性処理の道具に作り替えたのだ。
歯を食いしばり、晃は必死に声を押し殺した。
怖かったから。
もう痣ができるほど殴られたくなかったから。
首を絞められたくなかったから。
激しい動きのせいで、男のサングラスが少しずれる。それを左手で元の位置に戻すと、男は動きをより早くした。
興奮したように、男は鼻で荒く息をする。
男の硬い肉の塊が、狭い晃の中をみちみちと広げ、擦り、傷つけ、どんどん膨張していく。
男が息を止め、腰を限界まで押し付けて来た。
晃の中で、男の性器がビクッと動く。
中がまたビクビクと震え、じわっと熱いもので満たされていく。
(まだ、一回……)
あの夜、男は晃の中に繰り返し吐き出していた。
今はまだ一発目。あのときと同じなら、まだほんの始まりでしかないのに、どっと疲れた気がして、晃の体から力が抜けた。
何を思っているのか男はしばらく晃の下腹部をこねるように大きな手で触った後、ようやく性器を引き抜いた。
男の性器の先端からはまだ精液が垂れ、糸のように床に落ちた。
(キモい……)
思ったが、当然口には出さなかった。
晃の中もぐしょぐしょと濡れ、内側に何かがあるような感じがあった。六年前はまだ分かっていなかったが、今では男の精液だということが分かっている。気持ち悪くて仕方がなかった。
男の額には薄っすら汗が浮かんでいた。あの頃と変わらず、髪は短く、こめかみから下のあたりだけが薄くグラデーションをつけて刈りあげられていた。
「……分かるか?」
不意に聞かれ、戸惑った。
なんのことか分からず見上げていると、男がぼそっと「俺」と続けたから、ようやく意味が分かった。
晃は小さく頷き、少ししてから言った。
「……たつお」
そう、タツオだ。
頭の片隅にずっと残っていた名前。あの夜、仲間の少年たちが男のことを「たつお」と呼んでいたから分かった。
日本人離れした見た目に対してあまりに似合っていない名前だったから、印象に残っていたのだ。
男は驚いた様子を見せた。
「教えてたか?」
「……友達、が、呼んでた」
「ダチじゃねえ。あんなカス共」
男は床に落ちた精液を指ですくい、その指を晃の下腹部に置くと、「辰」と「雄」の漢字を雑に書いた。
「ダセェし嫌いだから呼ぶな。殺すぞ」
吐き捨てるように言って、晃の胸倉をつかんで顔を寄せてくる。
「脱げ」
命令。
晃が着ているのは制服のYシャツだったから、ボタンをすべて外すのが面倒だったのだろう。
言われるまま、晃はYシャツのボタンを外した。まだ床に転がったため、袖を抜くのに体を起こそうとすると、辰雄が急に手を出してきた。
引きちぎるようにYシャツを脱がされ、その下に着ていた肌着のシャツも剥ぎ取られる。靴下を履いている以外、すべて裸になった晃の体を、辰雄は黒いサングラス越しに冷たく見下ろし、鼻で笑った。
「鶏ガラかよ。気持ち悪ぃ」
「…………」
痩せすぎてあばらの浮いた体を見ての言葉だった。事実ではあるし、反論する気はなかった。
「萎えるからさっさと肉付けろ。それまでは俺の前で裸になるんじゃねえぞ。気持ち悪ぃから。お前の価値なんてケツ穴しかねえんだよ」
それはつまり、この一回だけではなく、これからも継続的に晃の体を求めるということになる。
さすがの晃も、思わず口にしてしまっていた。
「なん、で……」
聞きたいことがありすぎて、何についての「なんで」なのか自分でも分からなかった。
辰雄も何も答えてくれなかった。
笑うでもなく、楽しそうでもなく、つまらなそうに……それでいながら、どこから苛立ったように。
辰雄は晃の痩せた小さな体を押さえつけ、再び、肉の塊をねじ込んできた。
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